はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

人生の不思議

2010-02-17 12:39:37 | 女の気持ち/男の気持ち
 退職を翌年に控えた8年前のこと、中学で理科を教えていた私は生徒たちと学校近くを流れる川内川とその支流の生き物調べをした。ついでに川内川の歌があるか調べると、ないことが分かった。
 同僚の音楽の先生に冗談めかして「ぼくが作詞するから、作曲してもらえない?」と持ちかけると、「いいですよ」とあっさり言われた。それで引っ込みがつかなくなった。
 作詞など全くの門外漢。慌てて「荒城の月」や「浜辺の歌」の歌詞を研究した。分かったのはみな七五調であることぐらい。それでも自分なりの言葉を連ね、源流から河口まで6番の歌詞にまとめた。それに音楽の先生が曲をつけ、学校の文化祭でお披露目してくれた。
 「はるかにのぞむ白髪岳歴史を語る旅立ちの・・・・」
 自作の詞が美しい旋律にのって耳に飛び込んできた。うれしくて涙が出た。国交省の川内川河川事務所が毎年川祭りで流してくれるようになるなど、その歌は大きな反響を呼んだ。
 すっかり歌作りの魅力にとりつかれてしまった私は翌年、卒業生贈るつもりで「鹿児島讃歌」という歌を作詞し、さらに退職後に書いた詞が三つの歌になってそれぞれの地域で歌い継がれている。
 音楽会に行ってもただ聴くだけだった人間が、五つの歌の生みの親になるとは。人生ってつくづく不思議なものである。
  鹿児島県出水市 小村 忍 66歳 2010/2/16の気持ち欄掲載

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