はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

その花言葉は・…

2009-07-18 09:25:33 | 女の気持ち/男の気持ち
 別れの時が来た。夫の顔を私は心の中にしっかと焼きつける。組んだ両手に数珠とマーガレットの花を持って、夫は「麗子、先に行ってるよ」と扉の中に消えていった。
 それ以来、道や家々の庭先にマーガレットを見つけると、しばしたたずんで動けない。花が「麗子、守っているよ」と笑いかけてくるからだ。
 夫の命が終わった時、師長さんが「ちょっと」と外に出られ、戻ってこられた手にマーガレットの花が握られていた。「病院のマーガレットですよ」と手に握らせてくださった。夫はどんなにうれしかったろうと心に染みた。
 夫は常々「この病院が僕の終のすみかだよ。先生を心から尊敬しているんだ。師長さん、看護師さん、働く皆さんがきびきびとして、それでいて優しいんだ」と言っていた。死が近づいた時、「お世話になりました。ありがとうございました」とたどたどしくお礼を言う夫に、「助けてあげられなくて残念です」と涙ぐんでくださった先生に、私は一生感謝の心を持ち続ける。
 マーガレットはピンとしおれることもなく、夫の手に握られて旅立っていった。「この花は数珠と一緒に送りましょうね」との葬儀社の方の優しい言葉も忘れない。
 病院と患者の問題があれこれマスコミをにぎわせている昨今だが、私は病院の玄関で感謝の一礼をして入る。
 マーガレットの花言葉は、真実の愛である。
  福岡県飯塚市 高井 麗子・76歳 2009/7/17 毎日新聞の気持ち掲載
写真は にゃきぶさん

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