はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆12月度入選

2007-01-22 22:28:58 | 受賞作品
 はがき随筆12月度の入選作品が決まりました。

△ 出水市大野原町、小村忍さん(63)の「埴生の宿」(21日)
△ 志布志市志布志町、小村豊一郎さん(80)の「年の瀬に」(29日)
△ 志布志市有明町、西田光子さん(48)の「私は亀」(12日)

の3点です。

 小村忍さんは、瓦がずり落ちてきそうな親の廃屋があると言います。これは少年時代を過ごした家で、柱には妹や弟と背丈を測った跡があり、家族みんなで楽しく暮らした思い出があるのです。いいですね。小村豊一郎さんは80歳です。「年の瀬に」では、癌を手術し白内障の治療もしながら生涯現役を目指すと言います。しかし、この人のいい点は、窓が明るくなってきた。生きていることは素晴らしいから、それに答えて努力してゆきたい、と言うところ。心のゆとり、人間はこれが大切。そして文章の味は、ここから生まれると思うことでした。
 味と言えば、西田さんの「私は亀」の味もいいです。専業主婦の西田さん、家事に熱中してふと気づくと自分の姿を亀のようだと思い、くすりと笑うことがあるとか。このゆとりが面白い。亀の暮らしが心地よいので、そろりそろりと前に進んで行くつもり、というこの心のゆとりを大切にと申し上げますよ。
 さて、面白い文章をまとめて3作。川端清一郎さんの「皿ば! 皿ば!」。お父さんが釣ってきた魚を刺し身にして贈り物にし、皿はいつか取りに来ると言った数日後、通り掛かったら、そこの奥さんが皿を返そうとして「皿ば、皿ば」と叫んだとか。前の事を忘れていたお父さんは、ピンと来ないで「さようなら」と返したという面白さ。武田静瞭さんの「以心伝心」は、俳句を作りながら奥さんと来客とケーキを食べる話を、吉松幸夫さんの「律儀な居候」は、お兄さんの家に居る13匹の猫の話。暮らしの中の面白さ、愉快な場面を感じ取って語る力は大変に必要なものです。豊かな人生を作る、人生を変える力になりますよ。大いに書きましょう。
   (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

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