今年も桜の季節がやって来た。あの日のことは今でもありありと目に浮かぶ。
満開の桜もそろそろ終わりかという日、病室の窓から寂しげに眺めていた夫を「今日は体の具合も良さそうだから、2人で花見に行きましょう」と誘い出した。
片方に杖、片方は私としっかり腕を組み、少し離れた公園へゆっくりと足を運ぶ。強かった日差しもやや西に傾き、心地よいそよ風が肌をなでる。幸い公園は人影も少なく、ゆったりとベンチに腰を下ろす。見上げればどこまでも花の空。風に舞う花の精は、私たちの肩へハラハラと降ってくる。
「見事だねえ、出てこられて本当によかった。ありがとう」
「来年もきっと花見しましょう」
「そうしたいけど、生きていればなあ……」
「大丈夫。回復してるんだから」
花冷えのせいか、つないだ手も冷たくなったが、胸の暖かさだけが伝わってくる。この幸せが続きますようにと祈りながら、花吹雪に送られ、病室に戻った。
2人だけの花見。宴(うたげ)もなく、静かな静かな花見だった。2カ月後、夫は天国へ旅立った。
それから9回目の桜の季節。あなた、天国の花見いかがですか。
熊本市 原田初枝(77歳) 毎日新聞鹿児島版・女の気持ち 掲載
写真はkatakataさん
満開の桜もそろそろ終わりかという日、病室の窓から寂しげに眺めていた夫を「今日は体の具合も良さそうだから、2人で花見に行きましょう」と誘い出した。
片方に杖、片方は私としっかり腕を組み、少し離れた公園へゆっくりと足を運ぶ。強かった日差しもやや西に傾き、心地よいそよ風が肌をなでる。幸い公園は人影も少なく、ゆったりとベンチに腰を下ろす。見上げればどこまでも花の空。風に舞う花の精は、私たちの肩へハラハラと降ってくる。
「見事だねえ、出てこられて本当によかった。ありがとう」
「来年もきっと花見しましょう」
「そうしたいけど、生きていればなあ……」
「大丈夫。回復してるんだから」
花冷えのせいか、つないだ手も冷たくなったが、胸の暖かさだけが伝わってくる。この幸せが続きますようにと祈りながら、花吹雪に送られ、病室に戻った。
2人だけの花見。宴(うたげ)もなく、静かな静かな花見だった。2カ月後、夫は天国へ旅立った。
それから9回目の桜の季節。あなた、天国の花見いかがですか。
熊本市 原田初枝(77歳) 毎日新聞鹿児島版・女の気持ち 掲載
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