はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

レポート合格

2007-08-07 07:48:47 | はがき随筆
 もうだめだ。再レポートと覚悟していた。郵便物に望みもできぬ。不合格の通知かと恐る恐る封を切る。「学習の成果を認める」の評価である。何回も何回も読んで確かめる。
 再読してみるとまあまあの出来である。再レポートにならずほっとする。うれしさの余りビール、焼酎をぐーっと飲んでしまう。本当にうれしい。
 今春から始めた大学の通信教育。試験の結果を待つのみになる。王手までにはほど遠いが、徐々に合格への道を歩んでいこう。「はがき随筆」の掲載と同様に、ゆったりゆったりと。
   出水市 岩田昭治(67) 2007/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載

風の匂い

2007-08-07 07:29:09 | はがき随筆
 昨夜は休み前ということもあり少し夜更かしをしたので、今朝は布団から離れがたく、いつもよりゆったりとしていた。
 猛暑続きで朝の涼しいうちに歩くはずだったが、家を出たのは9時すぎだった。それでも風はまだ心地よく首筋をなでていく。道路脇の雑草が刈り取られ、私の好きな干し草の匂いがしてくる。田の横を歩くと稲の匂い。海の近くの橋を渡る時は潮の匂い。歩いていると風はさまざまな季節の匂いを乗せて私に届けてくれる。
 夏が終わればやがて秋。枯葉の匂い、モクセイの匂いが待ち遠しい。
   出水市 川頭和子(55) 2007/8/6 毎日新聞鹿児島版掲載

班長代行

2007-08-05 17:26:01 | はがき随筆
 母は老人クラブ「若葉会」の班長だが、ただのお飾りだ。
 65歳から入会できるので、私も会員になり、母の代行をすることにした。
 7月は阿久根市内のグループホームや史跡巡りだった。
 ねむの花のトンネルを過ぎると、満開のオニユリが瀬戸の渦潮になびき、絶景だ。
 「お母さん、阿久根ってすてきね」「そうね。『ぶえんかん』の食事もおいしかったね」
 参加したのは13人。事故もなく、班長代行の仕事は無事、終わった。
 班長殿は満足そうに笑っていた。
   阿久根市 別枝由井(65) 2007/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載

決意の仕事

2007-08-04 08:13:02 | はがき随筆
 望み通り魚市場の仕事に就いた。長さ200㍍、幅5㍍もあろう広大な競り市場内。この場内の清掃、整理整頓が仕事。切り落とした魚の頭や尾を処理し、床面に付着した魚油・肉片などをホースで洗い流していると、海男のロマンのにおいが漂い、夜明けの活気を帯びた競りの掛け声が聞こえてくる。
 年齢的にハードな仕事だが、自分が志望したこと。「食の信頼、安心」「食・活きいき! 南の発信拠点」を胸に、力が入る。魚の残さいをついばむトンビとも仲良しになった。前職38年の「あか、シミ」を、体に汗して流せる自分にそっとほくそ笑む。
   鹿児島市 鵜家育男(62) 2007/8/4 毎日新聞鹿児島版掲載

幸せ発見

2007-08-03 08:14:10 | はがき随筆
 散歩する私に付いてきた2頭の小犬。佐次郎は知人にお願いし、遼太郎は我が家の一員となった。
 おぼつかない足取りから大地をけって跳びはねるまでに成長し、引き綱を持つ家内の足元にじゃれつき、すそをかむ。そんな遼太郎がたまらなく可愛いらしい。加減を知らない小犬のことだから痛みを感じる時もあるだろう。しかし遼太郎は神さまがくれた私たちの子供なんだからと言って、なすがままである。目に入れても痛くないという優しい目が何ともほほ笑ましい。
 そんな時、家族の潤いを思い起こすと共に、幸せの原点を見るようだ。
   志布志市 若宮庸成(67) 2007/8/3 毎日新聞鹿児島版掲載

友達

2007-08-02 10:26:33 | はがき随筆
 今でも雨が降ると思い出す一瞬がある。高校から駅に向かう私は、しとしと降る雨にぬれながら歩いていた。
 ふいに後ろから声が。「よかったら一緒に」と傘をさしかける彼女の顔は何となく知っていた。同級生、でも名前も知らない彼女。それから言葉を交わすようになり、私たちは親友になった。偶然にも誕生日まで同じ。3年ではクラスも一緒になった。
 友達なんていらないと意固地になっていた。でも友は与えられるのだ。突然に。友達がいないと思っている人にも必ず出会いがある。自分が自分らしく生きてさえいれば。
   喜界町 福崎康代(44) 2007/8/2 毎日新聞鹿児島版掲載

投票しよう

2007-08-02 06:26:04 | かごんま便り
 中選挙区制最後の総選挙となった93年夏の第40回衆院選。山口1区(当時)で一人の新人議員が誕生した。
 次期首相の最有力候補と言われながら志半ばで病に倒れた父の弔い合戦を標ぼうした彼の名は安倍晋三。当時、下関支局員だった私は、父・晋太郎氏の死から、曲折を経て彼が後継候補に決まり、ぶっちぎりのトップ当選を果たすまでを取材を通じて目の当たりにした。
 あれから14年。戦後最年少の若さで父の悲願だった首相の座についた彼は今日、就任後初めて全国の有権者の審判を受ける。
 1票を投じて、世の中の行く末を託す代表者を選ぶ。選挙権は言うまでもなく、憲法で保障された国民の権利だ。「権利」と位置づけられる背景には、戦前は女性に参政権が認められておらず、性別や財産・信条などの制限を設けない真の普通選挙が実現したのが戦後になってからという歴史的経緯がある。
 だが民主主義を守り育てていくことの大切さを思う時、投票という行為は、ある意味で「義務」と言っていいのではないか。
 当たり前の話だが、政治は生活のありとあらゆる場面で顔をのぞかせる。日々の労働に買い物、医療や福祉、教育、治安……。いずれも政治が深く介在する。仮に無人島に単身移住し自給自足の生活を試みても、その地に国の主権が及ぶ以上、政治に無関係という訳にはゆくまい。
 だから「政治に無関心」というのは本来、よほど満ち足りた暮らしをしている人でない限りありえない話だ。私はまだ、そんな奇特な人を知らない。仮に世の中に何の不満もない人でも、その恵まれた環境が政治の恩恵であることを思えば、無関心ではなく無自覚と言う方が正しい。
 候補者や政党を選んで1票を投じる時、私たちは世の中のあり方についてさまざまな気持ちを込める。こうしてほしい、ああしてほしい、あるいはこうあっては困るという具合に。今日より明日へとより望ましい社会を求める国民の期待が大きいからこそ「1票は重い」と言われるのだ。
 地方選挙や衆院選に比べ投票率が低い傾向の参院選だが今回、県内では期日前投票が前回を上回っている。関心度の表れとすれば喜ばしいことだ。日々の暮らしを見据え、未来に向けてどんな社会を望むのか。熟慮して1票を投じたい。

 毎日新聞鹿児島支局長 平山千里 
 2007/7/29 毎日新聞鹿児島版掲載 

落ちた雛

2007-08-01 19:08:23 | アカショウビンのつぶやき
 隣の庭の隅に変な色の蛙がもぞもぞ動いている。
「あらっ変な蛙が居るよ」と姉に言うと、「蛙じゃないがね、よく見てごらん、スズメの雛だがね、また落ちたんだねぇ」。
拾い上げて見ると、まだ毛が生えてないつるつるの体はピンク色、時々黄色い嘴を大きく開けるけれど、声にならない。
「あんたの家の屋根のスズメの巣からよく落ちるんだよ、可哀相だけど育たないもんね」と。
 自然界は厳しい、巣に帰したとて、人間の匂いがついた雛を親鳥が育てることはないだろう。母鳥のように育てることは、私にはできそうもない。しばらく手のひらの上で温めてみたが、やがて全く動かなくなってしまった。
 小さな雛をテッシュに包み、クリスマスローズの根元にそっと戻した。

霧の朝

2007-08-01 18:46:28 | はがき随筆
 いつものように4時前に起きて外に出てみる。せっかく梅雨が明けたのに曇って何となく暗い。山並みも家々もかすんでいて灰いろの霧が立ちこめている。あるいは靄なのかもしれない。
 海岸に向かって歩きながら、ふと地震の起きた新潟地方のその後の生活を考えた。大変だろうと思うと同時に、水にも電気にも不自由しない生活をありがたいと思った。協力できることは協力して、避難された方々が一日も早く普通の生活に戻られることを祈りたい。
 海も霧に包まれて島影も見えず、波の音だけが静かに聞こえていた。
  志布志市 小村豊一郎(81) 2007/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載