はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

初夏の月影

2009-05-18 21:26:35 | はがき随筆
 春が老い夜明けが早くなるのは、早起きの身にとっては何よりも有り難い。いつものように4時前に起き新聞を読んで、5時10分に車で隣の海水浴場まで行く。
 東の空が少し明るくなり黒い山脈の上に明星が光ってる。砂浜に降り立つと西空にオレンジ色の満月が見え、なぎの海に月影が落ちている。何とも言えない美しい光景である。かすかに響く波の音を聞きながら渚を歩いてゆくうちに、あたりが次第に明るくなってくる。
 初夏となる夜明け。自然はやはり美しいとしみじみ思うひとときである。
  志布志市 小村豊一郎(83) 2009/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載



もったいない

2009-05-18 21:23:35 | はがき随筆
 愛用のトレーナーズボンとソックスがほころびたので繕いをした。ズボンのほころびは5㌢程で、ソックスはI㌢程の穴。これまでは破損したらすぐに廃棄していたが、もったいない精神をいかし再利用を考えた。
 長持ちする程に大切に扱う。I針I針を丁寧に丹精込めて縫えば愛着もわきます。何か得をした気分でゆとりもあるから大きな収穫にもつながった。消費が美徳の時代は過去。現に再利用の時代に逆戻り。物品も寿命の続く限り永久に使い果たす。
 祖母は96歳で天寿を全う。針を持つ姿勢が印象的だった。お手本にしたい祖母の存在。
  加治木町 堀美代子(64) 2009/5/15 毎日新聞鹿児島版掲載



孫から元気

2009-05-18 21:08:40 | はがき随筆
 「おじいちゃん、元気。あのね……」で始まるおしゃべり。7ヵ月で帝王切開で生まれた孫が今年、大学入学。
 親をとるか、子供をとるかの大手術。市立病院に6ヵ月、親子入院3ヵ月。奇跡的に母子健在。幼、小、中、高と順調に成長。誰に似たのか明るく、おしゃべり。みんなから愛されかわいがられている。
 電話の向こうで「おじいちゃん元気」。明るくはずむ声で定期的に電話してくる。その度に元気をもらう。
 将来は英語の先生になるとはりきっている。行く末、幸多かれと妻と祈っている。
  薩摩川内市 新開譲(83) 2009/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載

バラが咲いた

2009-05-18 21:04:44 | はがき随筆
 新緑が目に染みる季節。澄んだ空の青さに、庭先の真紅のバラが吸い込まれそう。
 「ばらのまち、かのや」では今が盛りとばかり霧島ケ丘公園が連日にぎわっている。市民のバラヘの関心も高く、市内のあちこちに咲き誇り、国道バイパス沿いでも色鮮やかに多種類のバラの群生が道行く人、車窓からの目を楽しませている。 
 私の住む町内会では春と秋の2回、日曜日の早朝、住民総出の枝のせん定、除草作業を続けて久しい。家族ぐるみでいい汗かいて、共に地域をはぐくみ守っていきたい心意気が、住民同士の連帯感を深めて意義深い。
  鹿屋市 神田橋弘子(72) 2009/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載


人と人との間

2009-05-18 20:15:28 | はがき随筆
 キスする直前から、なぜ人は目をつぶるのか? 愛する人の顔が最接近するというのに。
 人は、接近しすぎると不快感を覚えるようだ。だから、異常に近づく顔を拒む。目をつぶることにより、顔が近くにあることを無意識のうちに否定しているのだ。満員電車でも不愉快な顔をしているし、幼子でも、顔を近づけすぎると一方を向く。
 人付き合いでも、近づきすぎるのはやぼだ。「人間」が文字通り、間を置くことを教えている。ある程度の間をおくことで人間関係はうまくいくのだ。
 キスなどとは縁遠くなった者のへりくつだろうか。
  肝付町 吉井三男(67) 2009/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載

カエルの宿

2009-05-16 20:59:33 | はがき随筆
 壱岐に出かけた。印通寺港からバスで島内観光。田植えの済んだ水田と麦穂の波が続く美しい風景は意外だった。民宿の夜も素晴らしかった。豪勢な海の幸の盛りに満腹。家事を離れた友8人で語り放題。そのうち快い眠りがきた。
 枕に頭をつけると、ころころとカエルの声。そのうち大合唱。久しぶりに幼き日の故郷の夏の夜を思い出した。カエルの響きに慣れ、うとうと眠りに入った。どのくらいたったか、ふと目覚めた深夜。カエルも就寝かと思いきや、寝つけなかったI匹がころ、ころと時折鳴いた。これもまた子守歌。また眠ってしまった。
  出水市 年神貞子(73) 2009/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載







今晩泊めて

2009-05-16 20:56:54 | はがき随筆
 夜の10時だった。ささいな事から派手な親子げんかに発展。バッグに衣類を詰めて母は家出した。
 それから30分後に玄関をたたく音。ドア越しに「どちら様?」
 「泊まる宿がなく難渋しています。今夜一晩泊めていただけないでしょうか?」と女性の声。今人気の″今晩泊めて″の番組か。
 「どうぞ、どうぞ」と戸を開けてびっくり仰天。何と母上殿が立
っていた。
 「母が家出中で行き届きません」
 「母親の声を忘れる立派な息子さんだこと」
 「母に孝養が出来なくて、今夜はあなたに精いっぱい尽くしましょう」
   出水市 道田道範(59)2009/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載





蘭牟田池

2009-05-16 20:51:02 | はがき随筆
 梅、桜、ツツジ、花火と季節ごとに、また白鳥に会いにと、夫は何度も蘭牟田池に連れていってくれた。その思い出の場所へ、4月の歌会の吟行で行って来た。
 当日は晴天で、車から降りると風さえない。ラムサール条約登録の池は澄んで、周囲の外輪山の山々を逆さに映していた。
 歌友と池のほとりを歩きながらアザミの花に見とれる。手をたたいて白鳥を呼ぶと、池の中央にいたI羽が一直線に水の尾を引きながら泳いでくる。何ともいじらしい。温泉に入ると、窓から池が見えた。いつか泊まろうと、夫と言っていたのに……。
  霧島市 秋峯いくよ(68) 2009/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載


5月

2009-05-16 20:47:33 | はがき随筆
 中学1年の時、日記を提出することがあった。
 初夏のころだったのか、緑の美しさに魅せられて、木々を入れて絵の構図にしたい場所のことを書いた。緑の色が、木によって微妙に違うことも、発見だった。
 担任の先生は、意外に思われた様子だったが……。
 眠ったような木々が、いっせいに繁茂してびっくりさせられる5月。今でも、緑が輝く5月は好きだ。
 薫風に身も心も洗われるようなすがすがしさ。四季のある日本に生まれて、幸せをしみじみ感じるのも5月である。
  霧島市 □町円子(69) 2009/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載

2009-05-16 20:39:51 | はがき随筆
 いつの間にやら底にはえた本の柿の木。
 草むしりや庭掃除にも生き残り、スクスク伸びて見上げるほどに成長。
 今年は初めて、たくさんの花実をつけた。
 サルカニ合戦ではないけれど、こうなると気になって、毎日しかたがない。食べて、にっこり甘柿なのかが! 猿も食わない渋柿なのか!
 神のみぞ知る。
 還暦を迎えた今年の秋は、正体不明の柿の木から目がはなせ
ない。
  指宿市 有村好一(60) 2009/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載



今年の桜

2009-05-16 20:29:48 | はがき随筆
 富士には月見草が似合うと言ったのは太宰治だが、その富士山に桜を見にゆく。
 鹿児島では既に葉桜。例年になく早い開花に機を逸してはと思いながらの富士五湖巡り。しかし、富士の裾野は季節が遅く、春の陽がやっと届いた様子。
 河口湖の桜が三分から五分、本栖、山中湖に至ってはつぼみが固く、見ごろはGW。今はまだ冬枯れの並木。それでも青い空と白銀の富士を背に、五分咲きの桜が湖面を彩る光景に息をのむ。春の風を胸いっぱいに吸い、雄大な富士を見上げるとらんまんの桜に見えてくる。やはり富士には桜が似合うと思う。  
  志布志市 若宮東成(69) 2009/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


白いフリージア

2009-05-16 20:26:32 | はがき随筆
 雨の中、私は中山道を中種子に向かい車を走らせていた。
 種子島の茶所・古田の村落を過ぎてしばらく行くと突然、左側にまるで雪が積もったような、真っ白な世界が目に飛び込んできた。かなり広大なフリージア畑であった。
 これまでにも赤、黄、紫、ピンクなどの、色とりどりのフリージア畑は見たことがあるが、白一色も圧巻だ。富良野のラベンダーの紫はテレビなどでも紹介されているが、その紫を白に変えたような、見事な白い世界ではあった。
 ちなみに種子島はフリージアの球根生産量日本一だそうだ。
  西之表市 武田静瞭(72) 2009/5/8 毎日新聞鹿児島版掲載



桜に燃える

2009-05-16 20:23:48 | はがき随筆
 午前1時までも2時までも、桜の絵書きに心を一生懸命燃やす。玄人並みの技で桜が生き生きと描かれ本物と同等ぐらいである。妻の桜にかける生命力は旺盛である。つぼの雄姿も堂々としたものに出来上っていく。
 今、本焼きである。どういうふうに出来上るか、楽しみを生み出してくれる。妻にとって桜は我が子と同然で、可愛くて慈しみが生じる。桜にほれ、桜にあこがれた感がしてくる。  
 陶芸展への作品である。例年、入賞しているものの、今年度はどういう結果を生み出してくれるか。一心の心に報いると期待もし、信じてもいる。    
  出水市 岩田昭治(69) 2009/5/7 毎日新聞鹿児島版掲載



今、あの気持ち

2009-05-16 20:20:02 | はがき随筆
 昔、夫が2、3回電気を通した新しいクーラーを母に「使って下さい」と申し出た。すると
 「電気代がいるでしょう」と敬遠された。器具を送っても使用料は、ねと思った。今へ私は同じなのだ。「この夏暑くなるでしょう」と言われるとクーラーに気がとまる。昨年は周りの木立のおかけでク土フーを使わなかった。35度前後の気温続きに体も慣れたのだろう。35度を上回ると耐えられるかな。年取るとお金もかかる。母は我慢してたけど「もらう」と取り付けた。が自分ではほとんど使わず、子供や孫が来るお盆に使った。老いとはそんなものなのだ。
  鹿児島市 東郷久子(74) 2009/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載



大騒動

2009-05-05 21:47:42 | かごんま便り
 酔っぱらって公園で全裸になった人気タレントが逮捕(その後、処分保留で釈放)された。

 普通なら「バカな芸能人がいたものだ」で終わる話のはずなのに、メディアの取り上げ方は少々はしゃぎ過ぎていた。

 逮捕された23日、日ごろは冷静なはずのNHKを含め、テレビ各局のあの騒ぎよう。大阪市の女児不明事件の急展開など他の主要ニュースがかすんで見えるほどだった。薬物中毒や盗撮、売春……など過去の芸能人の不祥事でこんな過熱ぶりはちょっと記憶にない。

 私は彼のファンではないし不始末を擁護する気はない。だが他人に危害を加えた訳ではなく、釈放後の会見で本人の弁の通り「大人として恥ずかしい行為」をしただけである。ワイドショーや芸能誌ならともかく、ニュース番組がこの程度の話題を大々的に取り上げるのには違和感を覚えた。

 事件を受け、各局は番組の差し替えなど対応に大わらわだった。彼が地上デジタル放送の旗振り役だったこともあり、最も被害を被ったのはテレビ局だったはずで、不祥事自体よりむしろ、放送業界への影響、各局のドタバタぶりの方が「ニュース」だったのでは?

 その辺の事情を脇に置いたまま、彼の所業のみを執ように責め立てる報道ぶりは、はた迷惑の腹いせにたたきまくっているとしか見えなかった。業界の思惑から過度の攻撃調に走ったとすれば、それは「大人として恥ずかしい行為」ではないのか。調子に乗って「最低な人間」とコメント(その後訂正)した軽薄な大臣といい勝負である。

 翌24日。朝刊各紙(一般紙)の多くは社会面トップで報じた。記事のトーンは比較的冷静だったが、業界の混乱に一通り触れながらも重心はあくまで事件の詳述に置かれるなど、各局の過熱ぶりにやや引きずられた印象だ。なりふり構わぬバッシング報道に対し、批判的な視点も欲しかった。

鹿児島支局長 平山千里 2009/4/27毎日新聞掲載