はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

1月の大そうじ

2010-02-15 20:25:38 | はがき随筆
 長男、次男が家を離れて生活するようになってから、1月に大そうじをするようになった。
 年末の大そうじで背伸びをしての作業が続くと「2人が帰ってきた時やってもらおう」と長身の2人をあてにして、高い部分のそうじを残してしまうからだ。結局は、友人と外出するか家で寝てるかの二つに一つの彼らに多くを言い出すこともできないまま、短い冬休みを終えるということになるのだが。
 今年はそれが3回目。脚立に上って窓ふきしながら「元気かな」と2人のことを思う。
 帰りを待つ作業の始まりかもしれない。
  薩摩川内市 横山由美子(49) 2010/2/9 毎日新聞鹿児島版掲載

消えた猫たち

2010-02-08 16:32:48 | 女の気持ち/男の気持ち
 長いこと犬や猫との同居が続いた我が家も、18歳と16歳の猫を相次いで亡くした後、いまだに飼えずにいる。最近は野良猫さえ見かけなくなった。たまに道で出合っても、「おいで」と手を出すと逃げる。野良生活も厳しくなったようだ。
 越してきたころは野良猫数匹が周りに暮らしていた。我が家は庭が広く出入り自由。子猫も飼っていたので猫たちの格好の遊び場になっていた。夜になると消え、朝は顔をそろえているというパターンが続いた。やがて冬が来て、4匹が身を寄せ合って暖を取っている姿を見た。屋根のある場所に段ボールを置き、寝床を作らずにはいられなかった。子猫を探すと、野良たちに抱かれてお泊まりしていることもあり、新居は居心地が良かったようだ。
 ある日、屋根から下りられずに鳴いている猫を助けたら、居ついてしまった。ジと名付けた新米野良は先輩たちに追い出されはしないが、仲間に入れずに昼間は1人でひなたぼっこ。夜も隣の段ボールに1匹丸くなって寝ていた。しばらくたった寒い夜、懐中電灯で照らした光景は今でも目に焼き付いている。茶トラ、黒、三毛、白黒の塊の中にドジが交じっていた。
 5匹の寝姿は平和そのもので、心癒やされる日々だった。なのに突然全員が消えたのである。
 仲間として一緒に出ていったドジ。それを思い出すと慰められ、温かな風に包まれる。
 佐賀市 諌見 恵子・65歳 2010/1/30 毎日新聞の気持ち欄掲載
写真はmistyleさん

ツルの北帰行

2010-02-08 15:19:26 | はがき随筆
 ツルの北帰行が始まった。早い旅立ちである。春の訪れも早いだろう。お礼を言うかのように2、3回羽を上下にふり、大空に舞い上がり、方向を見定めると、一直線に飛んで行く。無事に目的地に着き、家族を増やし、来シーズンも元気に郷ってきてほしい。
 以前は各地に分散していたのを、出水市が餌付けなどを熱心にやった。その結果、今年も最高の1万1637羽を観測し、13季連続の「万羽ヅル」を記録した。
 渡来地の農家はツルがいない聞、田起こしから稲の取り入れまで忙しい日が続く。
  出水市 田頭行堂(78) 2010/2/7

お身体を大切に

2010-02-08 14:56:02 | はがき随筆
 賀状で「お身体を大切に」とありました。考えてみると、ご飯を食べて胃液で消化し、自分の気付かないうちに腸に運ばれ栄養となり、分別されて吸収されます。抽出された血液は、身体のすみずみまで回り、いろいろな働きをします。また指を針で刺すと痛さが伝わり、瞬時に身体が反応します。
 これらのちみつな働きはロボットでは出来ません。漫画やテレビに出てくるサイボーグなどは、とうてい作れませんね。パソコンや車とも違うのです。
 このように貴重なものが私たちの身体なのです。何であだおろそかに出来ましょうや。
  鹿児島市 高野幸祐(77) 2010/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

がんばった悟君

2010-02-08 14:36:35 | はがき随筆
 岩の間から、どっとわく水源を見て「すごい」と悟君は声をあげた。やっと球磨川源流にたどり着き、私もほっとした。
 昨年12月6日。希望した小学6年の悟君、彼の祖父ら、計3人を球磨川の源に案内した。
 目的地近くでは雪が舞い、ガイドの私は動揺。そのうえ落ち葉で消え、滑る山道を、悟君は「よいしょ」と、声を出したり立ち止まったりしながち、慎重に上る。約80分後、ついに高度I100㍍余の水源に到達。
 私は彼にひどく感心し「がんばったね」と、ねぎらった。悟君なら、困難な人生も克服して進むだろうと、私は思った。
  出水市 小村忍(66) 2010/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

お母さん

2010-02-08 14:02:15 | はがき随筆
 この世に連れてきたのは、男 の子ばかり2人。その子たちも長男が2男1女、次男が1男1女を連れてきた。つまり私の孫は5人。鹿屋に住む長男夫婦は共働き。年末の3日間ほど預かるのが恒例になった。小学生と保育園児で大して手はかからない。正月は嫁さんの実家に帰るのだった。いよいよ帰る日の前の夜、妻が5歳の孫娘に何やら小声で話しかけている。聞くともなしに聞いていると「お母さん」と孫娘。続いて「ありがとう」と妻。老いるごとに息子より娘がいいのか、少しだけ身につまされた。私は一日中「お母さん」と呼んでいるのだが。
  志布志市 武田佐俊(66) 2010/2/4 


苦手な人

2010-02-08 13:29:23 | はがき随筆
 人づきあいで、苦手な相手に対して嫌だなあと思ったら顔に出る。心と表情は連動しているらしい。当然相手にも伝わる。相性の良い悪いだけでなく、人間は感情の動物だから厄介である。私にも職場で苦手な先輩がいた。人前でもつらく当たられて涙すること度々。ついに私はその人の定年を指折り数えるようになった。ところが先輩が辞めてしばらくして、はたと思い当たった。私の態度が良くなかったのだと。苦手と思うからつい身構えてしまう。それが分かって不愉快にさせていたのかもと。それ以来意識して苦手な人を作らないように努めている。
  霧島市 口町円子(70) 2010/2/2/3 毎日新聞鹿児島版掲載

「仏の顔も」

2010-02-08 13:23:44 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会員   沖 義照 

 「早く起きてー、今日は資源ごみの日よー」。妻の叫ぶ声で目が覚めた。朝の散歩に出かけたところ、ある街角に資源ごみが出ているのを見て、あわてて戻ってきたという。急いで着替え束ねておいた重い新聞紙を両手に提げて持ち出した。

 集積所に行ってみると、いつもと違って何も出ていない。「今日は資源ごみの日ではないのでは?」と思いながらも置いて帰った。妻にそれを伝えると、ごみカレンダーをチェックした。やはり前の週がその日であった。捨てたものを引き取りに行く。

 しかし、こんなことで私は怒らない。まだ3度目の出来事だから。
  (2010.02.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載

夜景

2010-02-02 18:55:32 | はがき随筆
 夕闇のせまるころ、縁側の戸締まりをしながら、夜景を楽しんでいる。
 斜め西向かいの丘の、木立ちの合間から、ぽつりぽつりと明かりがともり、夜のはじまりの光景である。
 一人生活のお住まいにも、見えかくれして点灯すると、ほっとする。
 夕げのころかな……。
 自分とも重ね合わせて、思いめぐらす毎夜である。明日の無事を祈りながら……。
 真下の道路では、雨のライトが道沿いを照らし、左手には列車が静けさをかき消して、宵闇の一こまである。
  阿久根市 川畑マスミ(79) 2010/2/2 毎日新聞鹿児島版掲載

今日は今日

2010-02-02 18:53:06 | はがき随筆
 「明日では遅すぎる」ということわざがある。この寒さで、玄関の中に仕舞い込むべきクンシランを入り□に置いて、大霜で駄目にした。叔父から頂いた上品な花で、大事に育てただけに実に口惜しい。早起きして早朝に処置すればよいとたかをくくっての醜態。面倒で止めたのではなく、玄関に掛けて頼りにする温度計の故障に疎かったせいである。取るに足らない気配り不足によるアクシデントを後悔。金銭や将来にかかわる重大な事で「やり直し」のきかないこともあろうが、その日のうちに処理すべきことを先延ばしする危険を諭されたと学びたい。
  薩摩川内市 下市良幸(80) 2010/2/1 毎日新聞鹿児島版掲載

女心

2010-02-02 18:33:36 | はがき随筆
 「昨年2月の骨折で左手の可動範囲が挟くなり、自分一人ではブラジャーが着けられない。あきらめかけたが、ブラを上下逆さにしてホックをかけ、くるりと回して着ける技を身につけました。──エプロンも……」
 この文は、随友・Mさんが、私の随筆「儀式」の中で、私が身障者の妻のブラ留めを手伝うことを知り、女性の宝・胸への思いをつづられたお便りを、Mさんの了解を得て要約し、紹介させていただいたものだ。
 女心を知ることは夫婦円満の源と考え、夫は、妻の、″深層心理″を読み取る務めがあるのかもしれない。
  出水市 清田文雄(70) 2010/1/31 毎日新聞鹿児島版掲載


振り向いて

2010-02-02 18:30:59 | はがき随筆
 ベビーカーを押した女性は待合室に腰掛けると、すぐに携帯を使い始める。
 赤ちゃんは、手足を動かしてご機嫌な様子だ。しばらくすると、眠たいのか泣き出す。
 女性は声もかけず、振り向きもせず、片手で車を前後に動かす。赤ちゃんは目を閉じたり開けたりして落ち着かない。愛のひと声が、ぬくもりの感触が欲しいのではと、私はしばらく見入っていた。
 女性は依然として携帯に夢中である。見ていてあきれ返り、腹立たしい気にもなった。
 お願い。赤ちゃんに振り向いて、と叫びたい思いだった。
  鹿児島市 竹之内美知子(75) 2010/1/30 毎日新聞鹿児島版掲載

会長職の務め

2010-02-02 18:21:26 | はがき随筆
 はがき随筆会員になって、早や10年が過ぎようとしている。月間賞あり没あり修正ありとさまざまであった。今、会長職3年目である。名ばかりの職では終わりたくない。今年は何をやるべきか。やり遂げるには会員や投稿者の協力も必要だろう。
 作品は、読み応えのあるものばかりである。月間賞は逸したものの、随筆づくりに励む私にとって大いにプラスである。九州・山ロ一の鹿児島に近づいているのかもと思う。会員外の投稿者も一段と盛り上げている。
 今以上に、会員を1名でも増やしていくことも1番になろう。会長職の務めである。
  出水市 岩田昭治(70) 2010/1/29 毎日新聞鹿児島版掲載

枯れ木に花を

2010-02-02 18:17:48 | はがき随筆
 「保養さん。ほら、梅の花が咲いているよ」
 「めずらしい。雪だねえ。花がきれいねえ。梅?」
 外を見てみんなで笑う。
 92歳。枯れ木と言わないで、と市政へ反発している訳ではなかろうが、母がベッドから降りて座り込むようになった。
 さく付きにした方がいいだろうと緊急に、雪日和にもかかわらず、担当者会議が持たれた。
 「何でも相談して下さい」
 「いつでも駆けつけますから」
 シルバー・ショップのIさんも頼もしい。
 母はたくさんの優しい人に囲まれて、花のようだ。
  阿久根市 別枝由井(67) 2010/1/28 毎日新聞鹿児島版掲載