はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

聴くとは

2016-01-17 17:45:05 | 岩国エッセイサロンより
2016年1月15日 (金)
岩国市  会 員   安西 詩代

 
 91歳の女性のお話を聴く。戦後生まれの私には想像もつかない苦しい経験をされている。
 先日「私のお習字を見て」と言われた。壁には半紙に「強く明るく生きるのよ」と力強い宇で書いてあった。「生きるのよ」が心にひびく。きっと自分自身のための言葉なのだろう。
 人生、つらい時、悲しい時、この言葉を心の中で唱えながら自分を応援し生きてこられた。 
 「いい人生だった! 何も思い残すことはない」と穏やかに言われるが、彼女の隠れている心の疼き、心の震えに触れ、軽々な言葉では相づちがうてない。深くうなずくだけがやっとだ。
   (2016.01.15 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

招福の願いを込め

2016-01-17 17:41:59 | 岩国エッセイサロンより
2016年1月12日 (火)
岩国市  会 員   森重 和枝

 今年から、スマートフォンの待ち受けを変えた。開くと、燦燦と輝くダイヤモンド富士が出る。
 元日のテレビは富士山からの初日の出の中継をしていた。秒読みが始まり「出ました!」。画面いっぱいに見事な御来光。年に数回しか見られないというダイヤモンド富士だ。テレビの前で見ている人でも待ち受けにすると幸福に恵まれると聞き、急いでスマホを持つ。カシャ! うまく撮れた。 
 わざわざ初日の出を拝みに行ったことはI度もないが、映像だけでも、神々しくありがたい気持ちになるものだ。スマホを開ける度、ほっこりして幸せになる。
    (2016.01.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

初笑い

2016-01-17 17:39:51 | はがき随筆
 家庭菜園を初めて4年。種まき時期や連作を嫌う作物などが少しずつわかってきた。今年も季節の野菜がところ狭しと育っている。長雨と暖冬で青虫の成長もよく、お手上げ状態。
 以前と比べ熱も下がり気味である。白菜は悲壮感ただよう筋ばかりになり、抜こうかと思ってしたとき、近くの1人暮らしのお年寄りが「水菜も大きくなって」と言う。水菜は植えていない。「コヤ、白菜ジャラナ」と大笑いになった。1人暮らしだと声を出して笑うことはないから初笑い。抜かないで笑いの野菜にしておこう。また来て思い出し笑いにしてくださいネ。
  阿久根市 的場豊子 2016/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

山あいで…

2016-01-17 17:24:01 | はがき随筆
 ここは、熊本県五木村の五木源(ごきげん)パーク。ダム建設計画でダムに沈む予定地だったとか。
 山あいのイベント会場から駐車場へ歩いていると、かすかにラッパの音が。耳を疑いつつ遠くを見まわした。すると、自転車の後ろにのぼりをたて、こちらに向かって一生懸命にこいでいる姿が。自転車でリヤカーを引いた青年が、まもなく待っている私の目の前で止まった。のぼりには、とうふと書いてある。
 ドライブに、薬味、しょうゆなどマイ豆腐セットを持参する私。五木豆腐と五木あげをお買い上げ。おからのサービスあり……。 
  垂水市 竹之内政子 2016/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

ゲーム感覚で

2016-01-14 12:34:56 | 岩国エッセイサロンより
2016年1月14日 (木)
岩国市  会 員   林 治子


売り出しのチラシ片手にスーパーヘ。入り□近くのお菓子コーナーに人だかり。チョコレートの詰め放題。早速手をのばす。小さな袋にギュギュと押し込んでゆく。店内の騒音も耳に入らないほど夢中。あっー破れた。誰かがいう。ゲームするみたいに両手ですこしずつ押し込むのよと連れらしき人の声。なるほどとうなずく。見ると袋からはみでて大山盛りになっていた。そっと籠の隅にもたれさす。レジに置いた途端にくずれた。「欲張り婆さんね」とバツの悪さを笑いでごまかした。「まだまだうわ手がおられます」とニッコリ。この言葉にほっと救われる。
  (2016.01.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

寂れ行く山村 胸痛む

2016-01-14 12:33:05 | 岩国エッセイサロンより
2016年1月13日 (水)

    岩国市   会 員   横山恵子

 元日付の紙面から連載が始まった「中国山地」。過疎が進む状況を、暗たんたる思いで読んでいる。 私の故郷も中国山地沿いにある。訪れるたびに、空き家が目立つようになってきた。草が伸び放題の庭や荒れた田畑が、故郷の荒廃を物語っている。
 農業だけでは生活もままならず、高度成長に伴い、子どもたちは次々に都会へ出て行った。
 残された親は高齢化が進み、施設へ入ったり子どもの所へ行ったりして、地域はすっかり寂れている。
 昔は、自給自足が当たり前で、ゴマ、ソバ、大豆なども作っていた。「そばを打って食べた。今思うとぜいたくじやったね」と、叔母が懐かしそうに話してくれた。
 人の命の源は農業だと思う。行政がそれをないがしろにしてきたつけが今、集落の荒廃という形で表れているのではないだろうか。それに伴って自給率も下がった。
 寂れゆく故郷を見るのはつらい。   

    (2016.01.13 中国新聞「広場」掲載岩国エッセイサロンより転載

“びっくり”卵

2016-01-14 12:10:35 | はがき随筆






 「これが鶏の卵だなんて信じられる?」。カミさんが手にしている卵は、これまでに見たこともない大きさだ。種子島自然卵農場から取り寄せたのだが、一つだけ巨大だったという。
 ネットで検索。英紙「デイリー・メール」に主婦が購入した巨大卵は113㌘あり、黄身が四つ入っていたと報じられていたとあった。さらにユーチューブでは192㌘の卵を割ったら中にもう一つ卵が入っていた動画が紹介されていた。
 さてこの卵は……黄身が二つ、白身も二つと、丸々二個分で、カミさんも「ラッキー」。種子島産の巨大卵もギネス級!
  西之表市 武田静瞭 2016/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載
画像は武田さんのブログより

声が出ない

2016-01-14 12:09:54 | はがき随筆
 ひっきりなしに咳が出て、喉がちぎれそうに痛くなって声も出せなくなった。
 今までにも声が出なくなったことはある。失恋したとき、早春の浜辺で貝殻採集をしたとき……。今回は風をひき始めた段階で薬を飲まず、ひどくなったのにいっこうに病院にもいかなかったと反省しきり。マスクもかけず、うがいもしなかった。夫とは筆談+ジェスチャー。電話にも出られない。
 「よか年してわが身も守れんバカばあさん」。夫がズバリ。「うっ」。心がかすかに動いたが声も出せず、書くのは面倒。両手で頭上に○を作った。
  鹿児島市 馬渡浩子 2016/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

小さなつぶやき

2016-01-14 12:09:18 | はがき随筆
 年越しと正月の用意に、スーパーに出かけた。袋から出す食材の多いこと……。いつぞや「昔はおふくろの味といわれていましたが、今はふくろの味といわれています。皆さん、ご家庭の味をつくってください」という旨の話を聞き、苦笑いしたことをふっと思い出す。
 一日一日と時代は変わっている。古きよきものを大切にしながら、新しきよきものを取り入れていかなければならない。
 姉が竹筒に活けてくれた花々をながめながら、ホッと一息。日だまりの中でしみじみと思い願った。平和でありますまように、よき年でありますように。
  出水市 山岡淳子 2016/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載

オレ 

2016-01-14 12:08:46 | はがき随筆
 つくば市に住む6歳は、自称代名詞に「オレ」を連発する。「ウチの孫は自分のことをオレなんて言うんですよ」なんて他人に話そうものなら、揶揄されていると思うのか彼は露骨に嫌な顔をする。とんでもない。じいじは男の子としてちょっ誇らしいのです。かえりみて、私はどうであったか。60年も前、静岡の片田舎で、そうそう使っていました「オレ」を。いつも上級生にまじってあそんでいたからね。その上、人一倍自己顕示欲が強かったから。そんな「オレ」も、知らないうちに「私」に……。だから春杜がまぶしいんだ、きっと。
  霧島市 久野茂樹 2016/1/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ニシン

2016-01-11 11:15:55 | はがき随筆
 1月下旬ごろから産卵のために石狩湾の小樽の海にニシンの大群が現れる。昆布に産卵し、別名春告魚と呼ばれている。小樽の海がオスの放精で白濁するぐらい大群である。
 しかし、ニシンの世界にも気の早い者はいる。12月に入って粉雪が舞い飛ぶ中で釣れ始めた。こんな日は「釣れる」と地元のヤン衆が語ってくれた。はるか南の友人に送るぐらいたくさん釣れた。「刺身で食べて焼いて食べて、近所や親戚にも配った。ニシンを初めて食べた南の者は驚いた」と手紙を添えて故郷のミカンが届き、出水の風景が懐かしく思い出された。
  札幌市 古井きみえ 2016/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

可愛い餅つき

2016-01-11 10:58:29 | はがき随筆
 保育園の餅つきだ。せいろで4段重ねて蒸した。蒸し上がって湯気が立ちこめる米を石臼に移してついた。ペッタン、ペッタン。ヨイショ、ヨイショ。小さく可愛い声援を受けてついた。子どもたちも小さい杵をふり上げて力いっぱいついた。
 つき上がった熱く柔らかい餅を先生方が丸め、ノリを巻いて可愛い餅になった。青空の下に机と椅子を並べて、子どもたちが座った。子どもたちはほっぺたを膨らませて、「おいしい、おいしい」と食べた。これで子どもたちにも正月が来る。楽しいね。
  出水市 畠中大喜 2016/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

百円硬貨

2016-01-11 10:44:24 | はがき随筆
 ラジオの「今日は何の日」で1957年7月12日に百円硬貨が発行されたと聞き、驚いた。私が幼稚園児の頃は、もう百円玉が存在していたとは。
 小学生のとき、父が東京出張のおみやげに百円玉をくれた。珍しくて宝箱にしまいこんだ。高校の頃もまだ百円札を使っていた記憶がある。東京から来たいとこが「コインロッカーはどうするの?」と不思議がったが、コインロッカーを見たことがなかった。
 当時の鹿児島って日本最果ての生活をしていたのだと、今さらながら妙な感慨を覚えた12月11日だった。
  鹿児島市 種子田真理 2016/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

永遠の美女

2016-01-07 13:12:14 | はがき随筆
 戦後まもない昭和23~24年は中学生だった。そして何故か映画を学校から町の公民館や映画館へ見に行った。
 その中でみた「青い山脈」の原節子の綺麗さはたびたび脳裏によみがえる。あんな美しい人を見たのは初めて。中学生の私にも美女像をつくった。
 人はそれぞれ好みがあるが、この映画を見た友人たちも美しさにひかれたよう。
 恋愛のことより原節子の美しさのみが、語った人にも語らなかった人にも印象として残ったのではないだろうか。
  鹿児島市 東郷久子 2016/1/7 毎日新聞鹿児島版掲載

負けないで

2016-01-06 13:22:00 | はがき随筆
 新千歳空港に降り立った時、心が震えた。見渡す限り憧れの雪景色だったからだ。
 一行はバスに乗り、これから函館へ向かうという。「北海道は広いです。九州の倍ありますから」という言葉通り、朝6時半に家を出て、真っ暗な夕方6時半にやっとホテルに着いた。
 ホテルに着く前、バスの中でこんな注意事項を伝えられた。
 「今北海道は韓国や中国などからの旅行客が大変多いです。これから行くホテルもアジアの方たちと一緒です。北海道の経済にとってはありがたいことですが、皆さまにはいろいろご不快なこともあるかもしれません。悪口ではないのですが、文化や習慣の違いで、列に割り込んだり、大声で話したり、席を乗っ取ったりされます。皆さま、決して負けないでください。席を押さえたら誰か1人は残り、ここは自分たちの席だとアピールしていてくださいね。物を置いていたぐらいではどけられてしまいます」
 みんな笑って聞いていたが、やはり身構えてしまった。
 「アジアの方たちに負けないで」。私たちはアジア人ではないのかなと思いながら、旅行中何度聞いたことだろう。
 それにしてもアジアの方たちはパワフルだ。地図でも日本は大陸から押し出されたかっこうだけど、列も踏ん張って並んでいないといつの間にか押し出されている。
 1歩前に出て踏ん張らなくてもいい。でも1歩か2歩下がったら、そこで踏ん張っていこう、負けないで。
  出水市 清水昌子 2016/1/6 毎日新聞女の気持ち欄掲載