はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

北帰行

2016-04-15 09:59:09 | はがき随筆
 ツルが帰っていく。今年も万羽だった。知り合いの写真家がすばらしい写真を下さった。多くは水辺にたたずんでいる。3羽は連なって大空をめざす。まだエサをついぱむもの、今まさに飛び立とうと見上げる6羽。遠くの山々と、水面に映るそのシルエットが、細身をくっきりと際立たせている。数多くの立ち姿やさまざまなしぐさが見事に調和した、セピア色の風景。それを小さな額に入れて頂戴した。その撮影ポイントには16回も通われたそうだ。「翌日には、もう一羽も残っていなかったのですよ」と写真家は言われた。ともに旅路の無事を祈った。
  出水市 山下秀雄 2016/4/2 毎日新聞鹿児島版掲載

古 希

2016-04-10 22:20:13 | 岩国エッセイサロンより
2016年4月 9日 (土)
   岩国市   会 員   安西詩代

 69歳の誕生日を迎えた。めいが届けてくれたお祝いの包みを開けると、高野山でもらってくれたお札だ。「開運厄除 古希 安西詩代」と書いてある。
 「あら、私はまだ69歳よ」
 「高野山では数え年でいくので、69歳でなく70歳。古希です」
 「古希」という字が、今まで自分の年齢をあまり意識してこなかった私の胸に、ぐさっと突き刺さった。それと同時に、古希を祝ってくれる人がいることに喜びを覚えた。
 嫁からは「老人らしくない元気なお母さん、おめでとう」という意味のメールが届いた。おばあちゃんを6回も連呼している。「おばあちゃんを連呼して、私に老人を自覚させようとしているのでしょうけど、その手にはのらない (笑)」と返信した。
 近年、髪染めが面倒になった。白髪にしようと、4カ月間、髪染めをしていない。まだらの髪は、会う人それぞれが話題にする。「まだ早いわよ」 「5歳は年をとって見える」・・・。
 しかし、私の頑固な性格を知っていて、何回も会う友だちは「案外、いいよ」と言ってくれるようになった。見慣れたためか、言っても無駄と思うためかは分からない。
 「古くまれ」な年齢から、喜寿、傘寿、米寿と続くが、さて私はどの辺りで、おいとまとなるだろうか。

     (2016.04.09 中国新聞「こだま」掲載)岩国エッセイサロンより転載

連日の花見 幸せ実感

2016-04-10 22:17:19 | 岩国エッセイサロンより
2016年4月 9日 (土)
   岩国市   会 員   山本 一

 5日連続で花見をした。最初は3月30日、岩国市内の公園で趣味の会のメンバー十数人と。まだ三分咲きだった。翌31日は次女と2人の孫、わが夫婦の5人で錦帯橋へ。
 3日目の4月1日は別の会のメンバーと、やはり錦帯橋。次の日は、在職中の仲間約10人で昼すぎから午後9時まで。
 桜はほぼ満開となり、錦帯橋の屋外桟敷で人と酒と桜に酔う。
 5日目は最初と同じ市内の公園、近所のご夫婦と。満開だった。
 五体のあちこちにきしみがあるが、5日間を振り返って小さな幸せを感じる。酒が何とか飲める。友がいる。桜をめでる心が残っている。
 話はおおむね健康のこと。そうでなければ思い出話だ。将来の夢の話はまずない。「逝くときはピンピンころり」と、一気に夢の先へと話が飛ぶ。
 2日目の5歳と1歳の孫相手の日は違った。先も過去もなく、眼前の無邪気さに心を洗われた。来年もまた、つかの間の桜に幸せをもらいたい。

   (2016.04.09 中国新聞「広場」掲載)

通学路で見守る成長

2016-04-10 22:15:06 | 岩国エッセイサロンより
2016年4月 7日 (木)
   岩国市   会 員   片山清勝

 家の前は通学路だ。毎日、元気に登下校する児童の姿を見ることが、日常生活の一部になっている。
 「おはよう」と声を掛けても、返事がままならなかった1年生が、しばらくすると、はっきりと返せるようになっている。
 ランドセルの黄色のカバーが少し色薄くなった分だけ、成長したことを感じさせる。
 児童に関わる事件や事故の報道が後を絶たない。学校から、メールで注意情報の連絡があると、めいから聞いている。
 そのようなことが、快活に登下校する子らに起きないことを願っている。
 インタビューで、「春休みは、どのように過ごしますか」と問われ、「交通事故と病気に気をつけます」としっかり答えた女子児童に感心した。
 春休みが終わると、それぞれ進級する。「また一つ成長への階段を上かってほしい」。そんなことを思いながら、新学期の登校を待っている。 

    (2016.04.07 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

目からウロコ

2016-04-05 22:49:52 | 岩国エッセイサロンより
2016年4月 1日 (金)
 岩国市  会 員   角 智之
好みのCDやMDが手に入ると車でも聴くため複製を作る。
 昨年、機器を新品に替えると、これができなくなった。家電店から説明を受けたが、やはりだめ。先日、オーディオ仲間から、自分で使うMDからCDへの複製について問い合わせてきた。
 思い余ってメーカーヘ電話した。電話機を片手に機器を操作する。やはりエラーが発生。すると、「これはコピー元が海賊版ですか……」と。このひと言で全てが解決した。著作権保護のため、最近の機器はコピーの信号を受けると、自動的にロックがかかるという。目からウロコの落ちる出来事だった。
 (2016.04.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

今年の桜

2016-04-01 17:40:55 | はがき随筆


 今年の桜を書き始めて10年が過ぎた。吉野から年ごとの風景がよみがえる。春を待ちわびるぼくにとって、桜の開花は春を実感する時である。
 どこの桜で春を味わうかを妻と語り合うのも楽しみの一つであった。しかし今年は、早い春が我が家の庭にあった。早咲きの河津桜5本が妍を競うように咲き誇っている。これを書かないわけにはいかない。
 朝5時に散歩に出るぼくたちを花明りで送りだし、健康を祝福してくれる。満開の花に見入りながら、思い出や行く末を妻と語るのは至福の時だ。桜餅に渋茶、また思い出を重ねた。
  志布志市 若宮庸成 2016/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載