はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花散歩

2019-11-16 17:36:52 | はがき随筆
 長生きは誰しもしたい。そして健康で歩行に支障がなければこの上ない。
 だが、日本人男性の健康寿命は72歳。ほぼ10年は足の不自由を余儀なくされる。
 筋肉は使わなければ衰える。歩いて鍛えるほかない。
 現役時代は「仕事を楽しむ」がモットーだった。今は専ら「老いを楽しむ」がテーマ。
 毎日、「花散歩」と銘打って四季折々の花々を愛でながら歩く。幸い当地は「木花台」の地名のとおり花と緑に包まれている。
 毎年、新年に作成する「花暦」を手に今日も出掛ける。
 宮崎市 高岡善徳(85) 2019/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

バスの系統表示

2019-11-16 17:28:18 | はがき随筆
 熊本県内のバス系統表示が変わって2カ月。漢字と数字の組み合わせが、アルファベットと数字になった。熊本駅前から第一環状線上熊本方面行に乗ったら「01-0」。ほう、環状線はゼロイチゼロか、と一瞬思ったが、正解はオーイチゼロ。
 市内中心部から県庁を通る「県」、新町経由は「新」など、従来の漢字と数字の組み合わせは、外国人が理解しにくいと新方式になったのだろうが、CやLと言われてもイメージは今ひとつ。肝心の一般市民、なかんずく高齢者のバス離れを加速させそうな愚策と思えて仕方がないのは私だけ?
 熊本市東区 中村弘之(83) 2019/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

走れメロス

2019-11-16 17:19:20 | はがき随筆
 新聞に1分間音読でどれだけ読めるか? そのドリルに「走れメロス」があった。この作品は多分中学生の時に学んだ。それさえも忘れて、あらすじは完全に消去されていた。何故か読みたい気分になり、図書館に行き子供たちと一緒に一気に読んだ。走っているメロスの印象だけは頭のすみにあったが、何故走っているのか? なるほど、記憶がよみがえった。
 昨今国語教育の中で文学作品がなくなる記事をみたが、ここは教育関係者は一度考えなおしてほしい。不朽の文学作品を通じて人生観、世界観を築き、未来に役立つ人になるのでは。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2019/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

私の古里

2019-11-16 17:10:25 | はがき随筆
 私の古里には昭和の「大嘗祭主基斎田碑」がある。ドーム型レーダー基地を乗せた背振山1055㍍を望む盆地に、緩やかな棚田が広がる。その棚田の頂上部近く、茶畑に囲まれて石碑はひっそり立っていた。
 約50年前高校生の私は、隣家に引っ越してきた奥さんが田舎の景色を興奮気味にほめるのを、冷めた目で見ていた。「へー、珍しいのは今だけだわ」と。
 小川のせせらぎ、れんげの絨毯。山清水が田を潤し、稲穂は黄金色の波となる。生涯をこの地で終えた、明治生まれの祖母の誇りだった古里。今輝きを増して、私の胸に迫る。
 宮崎県日南市 矢野博子(69) 2019/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

2019-11-16 17:04:19 | はがき随筆
 秋の空は青く澄み切って心のキャンバスです。次々とファンタジーが生まれてきます。
 朝、新聞を取り空を見上げてアアッと声が出て息をのみました。青空にびっくりするようなおおきな虹の橋がゆるやかに円を描いて、ハッキリと七色が輝いて見えます。ピンク、黄、緑……なんと素晴らしい。神様が大きな筆で一気に描かれたのだとしみじみ思いました。
 羽があるなら飛んで行きたい。一瞬の朝の時間に素晴らしい虹を見せていただいたことに感謝し、うれしい一日のスタートになりました。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

ピアノの森

2019-11-16 16:55:27 | はがき随筆
 ピアノコンクールに出場する若者たちが腕を競うテレビアニメ「ピアノの森」というのがあると、テレビ番組で知った。番組では、アニメの中で実際にピアノを弾いている若手ピアニストたちが曲を披露していた。
 それがあまりに良かったので、それから最終回まで4.5回「ピアノの森」を観た。ピアノを通しての友情、師弟愛が描かれていた。
 その後、偶然、主人公一ノ瀬海が弾くピアノのCDを見つけた。早速購入して聴いた。誰が弾いているのかは明かされていない。秋の夜長をロマンチックに演出してくれる。
 立石史子(66) 2019/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

東京2020!

2019-11-16 16:47:48 | はがき随筆
 「おもてなし」の感動から、来年夏にはオリンピックが! 熱しやすく冷めやすい国民性としてはたまらない。年が明けたら、老いも若きも心弾む年になることでしょう。また、女子ゴルフ界を中心に話題は次々、元気の源だ。グラウンドゴルフ熱もあつい。
 しかし、政治問題に始まり、自然災害など備えあっても? 昔と違い、被害が大きい。そんな中でこそ前を向き、夢は見るもの、かなうものです。小学6年のころ、秋は収穫の最中、素足のアベベが金メダル。半世紀がたち、ドラマは再び! カウントダウンの始まりです。
 鹿児島県伊佐市 坂元佐津夫(67) 2019/11/6 毎日新聞鹿児島版掲載

思い出ひとり旅

2019-11-09 12:01:02 | はがき随筆
 秋ともなれば十数年前の北海道旅行を思い出し、アルバムを開いてみた。みんな若く、はつらつとしている。ラベンダーの広がる富良野の風景が浮かんでくる。薄むらさきの花の香りに深呼吸をしたことを思い出す、そばに立つ亡夫はお気に入りのジャケットにリュックを背負い、思いきりの笑顔だ。何がそんなにおかしかったのだろう、聞いてみたい。
 そのころ写真はフィルムで現像に出し、でき上がるまでが楽しみだった。時にはフイルムが空回りしたこともあったと、思い出が浮かんでくるひとり旅。
 鹿児島市 竹之内美知子(85) 2019/11/7

他人事にあらず

2019-11-05 17:29:44 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 3日 (日)
他人事にあらず
    岩国市  会 員   森重 和枝

 連日、台風19号の被害状況が放映される度、平成17年の水害を思い出してしまう。今回もバックウオーターやダムの放流の仕方が原因の一つとされるが、あの時もダムの放流で増水し、逆流したと後で知った。
 夜8時、突然玄関に水が入る。大騒動で2階に避難。水が階段の3段目で止まった時は、本当に安堵した。床上70㌢でも、泥だらけの1階の片付けに3週間は無我夢中だった。限られた地区だったので、すぐ身内も駆けつけてくれて復旧できた。
 今回のように広範囲では助け合いもままならず、さぞご苦労だと同情する。
   (2019.11.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




つり橋

2019-11-05 17:28:19 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 1日 (金)
  岩国市  会 員   角 智之

 「山のつり橋や どなたが通る」で始まる懐かしいヒット曲「山の吊橋」は、深まる秋の情景を巧みに描写している。
 我が家近くのつり橋は、晩秋にはワイヤに覆いかぶさった木々の紅葉が素晴らしかった。眼下に清流を眺めながら、「しょいこ」を背負った人の渡る光景は、この曲を絵にしたようだった。
 先般、久しぶりに思い出の地を訪ねると、橋はコンクリートに変わり、木々は伐採されていた。錦川流域には多くのつり橋があったが、老朽化などで数が減った。安全確保は大切だが、趣のある風景が失われるのは残念だ。
  (2019.11.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)  




捨てられない

2019-11-05 17:26:22 | 岩国エッセイサロンより
2019年10月29日 (火)
   岩国市  会 員   山本 一

 オーディオが故障した。次女が置いていったもので、30年ものだ。妻と電気店で下見。CDプレーヤーを更新すればまだ使えるが、約10万円で丸ごと更新すると決断した。捨てる前に持ち主の了解が必要だ。
 次女が独り言のようにつぶやく。「私が高校の時にお父さんの反対を押し切ってアルバイトをして、そのお金で買った。確か当時20万円近かったと思う」 
 あれから1カ月。5000円のCDプレーヤーをネットで購入。「まだ良い音が出るね」と、流行遅れのスピーカーでフジコ・ヘミングの「ため息」を聴いている、気弱な老い二人。
   (2019.10.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




知らなかった父のこと

2019-11-05 17:24:36 | 岩国エッセイサロンより
2019年10月28日 (月)
   岩国市   会 員   片山清勝
 テレビ番組で、父と同じ明治生まれの人が明るく語り、「110歳」と出た。父はこの半分しか生きれなかったのか。あらためて早世を思った。
 父は明治42年10月28日生まれ。私も同じ誕生日だ。公務員だった父は勇退を翌年春に控え、夏の繁忙期を頑張っていた。そのさなか、突然の発病による入院からひと月。新築2年の自宅に帰ることはかなわなかった。
 葬儀は、病身の母を長男の私と3人の弟妹で支え、近所のご協力で済ませた。初秋の猛暑日だったことをなぜか強く記憶している。
 父のいない生活にようやく慣れたころ、死亡叙勲として勲記や勲章が届いた。突拍子もないことで戸惑った。もともと、秋の叙勲を受けることになっていたようだった。
 叙勲を知った人たちから、祝意やその意味を教えられた。ごく普通の父親と思っていたが、家族の知らないところで真摯な働きをしていたのだと理解した。その陰に母や家族、同僚の支えがあったはずだ。
 勲記や勲章を収める額縁を特注して飾った。今は両親の遺影と向き合う、かもいに掛けている。父はどう思って見ているだろうか。
     (2019.10.28 中国新聞「明窓」掲載)




一手

2019-11-05 17:16:09 | はがき随筆
 中央にできた相手の大きな陣地に、もう打つ手がない。あの一手がよくなかったと悔やむ。囲碁ゲームをさかのぼり、再びゲーム再会。
 以前と異なるゲーム展開に、人生もこういう風にいかないものかとふと思う。受験や恋愛や仕事に子育て。あの時ああしていればと後悔しても戻れない。
 後悔する事以上にいい事もたくさんあった。行き詰ったように見えるゲームも投げずに頑張っていると勝敗抜きに味のある模様になる。後悔と満足とが背中合わせに連なる。人生に残された数手、大切に打たねば。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(67) 2019/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載

2019-11-05 17:10:09 | はがき随筆
 池に大きな鯉が1匹泳いでいる。子供の頃、「その鯉は池の主だから取ったらいかん」と言われたものだ。それだけでなにやらそこの場所が神聖なものに感じるから不思議だ。
 人間の世界にも主がいる。こちらは少々厄介である。職場で中途入社の人たちが早い時期に辞めてしまう。その人たちに辞めた理由を聞くと多くは主との関係が原因らしい。
 人間社会の主は仕事に厳しい人も多いが自分や仲間には甘く、新参者には厳しくする人も少なくないようだ。人様の世はなかなか住みづらい。池の主も新参魚をいじめるのだろうか。
 熊本県嘉島町 宮本登(68) 2019/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載

幼稚園から落第

2019-11-05 17:03:21 | はがき随筆
 次女はメキシコで3歳の娘を子育て中。孫は音楽が流れだすと全身で踊りだすおしゃまさん。時差15時間の地球の裏側でスペイン語と日本語を話す姿が、毎日タブレットの無料テレビ電話で見られる。
 幼稚園に通いだしてから、机の前にいる姿がよく映し出される。娘に尋ねると「幼稚園の宿題」だという。メキシコは2013年に幼稚園から高校までが義務教育になった。小学校入学には幼稚園卒業証明書がいる。日本人のママ友の間では「日本への里帰りに連れて帰ると、長期欠席で留年になる」と、まことしやかな噂が広がっている。
 鹿児島市 高橋誠(68) 2019/11/3 毎日新聞鹿児島版掲載