はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

大器晩成?

2019-11-05 16:55:58 | はがき随筆
 どうにか職に有り付いた20代の頃。夢も希望すらなく、しょぼくれた青春時代を送った。仕事帰りは居酒屋通い。仲間と安酒を囲んではおだをあげた。路地裏で、易者に出会ったのが運の尽き。「大器晩成の相が」と言うではないか。急に世の中が明るくなった。人生、捨てたもんじゃないなあ。めらめらと生きる勇気が湧いてきた。
 もがき苦しんだどん底生活から60年が過ぎた。あの易者の言葉は今もはっきりと覚えている。妻は「あなたの人生はこれから」と慰める。たとえ晩成はならずとも、晩節は汚したくないなあ、俺の人生だもの。
 宮崎市 原田靖(79) 2019/11/2 毎日新聞鹿児島版掲載

糸手毬

2019-11-05 15:53:07 | はがき随筆
 天草から引っ越してきたおばあさんが、挨拶回りの際に小さな糸手毬を手渡した。「これはどうしたのですか」と家内が聞くと「私が作りました」と答えた。「教えてもらえませんか」と頼むと、快く応じてくれた。
 発泡スチロールを砕き布切れに包んで球体に整えてから、黒糸で地割りをした。赤、白、緑などのリリアンを通した布団針を手際よく使って、菊模様の手毬ができあがった。
 傍らで見ていた私の方が病みつきになって興味を抱き、桜、ばら、サッカーボールの模様などを考案し、今では10種類ばかりの模様が作れる。  
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2019/11/1 毎日新聞鹿児島版掲載

樹木希林さん

2019-11-05 15:43:07 | はがき随筆
 個人の樹木さんが残された言葉に感動した。「驕らず、人と比べず、おもしろがって平気に生きればいい」とあった。ひょうひょうとした中にも自分の生き方を決して曲げず、質素で、人からの贈答さえかたくなに拒否され、病床にふす傍ら、9月1日は学生の自死率が最も高いからと危惧され「死なないで」と、ご自身の体調より世の中の苦しむ若者の身を案じ、思いとどまることを願う聖母のような方だった。凡人には足元にも及ばない。樹木さんの残された言葉を座右の銘とし、その生きざまを見習いたい。また一つ、心のよりどころを失った。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(69) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しみなこと

2019-11-05 15:33:58 | はがき随筆
 「ばあば、アスパラガスのベーコン巻きが作れるよ。12月に行った時作るね」「あらー、楽しみ‼」と応えながら、去年はキュウリのからし漬けを作ってくれたことを思い出した。
 この孫は次女の双子の一人。未熟児で産まれたが、今は元気な5年生。母を手伝いながら色々と覚えているようだ。その光景を思い描きながら、食に興味を持ち始めた孫が頼もしかった。山菜採りや釣りの収穫は調理していただく家族でもある。
 孫の好物や覚えた料理の話。子供の頃食べた料理の味付けを聴いてくる娘。食に関する電話はとりわけうれしく、楽しい。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(70) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

さりげなく

2019-11-05 15:26:45 | はがき随筆
 月に1度の病院通いは受験生が受験に行くような思いです。前日から診察がすぐできるよう前開きの服を用意し、財布の中、診察券、手帳を確かめ戸締りをしてタクシーを呼びます。
 病院はいつも満員です。靴がいっぱいで置き場がありません。杖にもたれて困っていたら、待合室から若い奥さんがさっときて、自分の靴を高い下駄箱に入れ「ここにどうぞ」。場所をあけてくださって、スリッパまで私の足元に。お礼を言うとニッコリ笑顔で診察室へ。優しさに心の中で手を合わせました。
 私もこんなさりげない動作のできる人になりたい。
 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

精華女子吹奏楽部

2019-11-05 15:14:58 | はがき随筆
 9月の九州文化塾の日、アクロス福岡のホールに入るとステージに譜面台が並んでいて、講演前のミニコンサートだと思い出した。
 以前、各地の中高吹奏楽部の密着取材番組があり、演奏やマーチングの練習風景を見た。
 精華女子校といえば福岡の名門であり、吹奏楽コンクールで毎年金賞を獲る常連校でもある。ステージで、座奏だけでなく、マーチングにカラーガード、バトントワリングまで所狭しと動き回り、聴衆の目も耳も引き付けた。歌謡曲やオールデイズなど中高年向きの選曲で、生の大迫力に圧倒された。
 鹿児島市 本山るみ子(66) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

にわかファン

2019-11-05 14:56:00 | はがき随筆

 ころんと卵が産まれるように楕円形のボールが足もとから出てくる。スクラムを組めば、まるで牛の押しくらまんじゅうのようで圧倒される。
 サッカーは息子が中学、高校とやっていたので、時々日本代表の試合を見る。でも、ラグビーとなると、寒い中試合をやっているのは知っているが見たことはなかった。
 ワールドカップが日本で開催され日本が勝ち進んでいくたびに、テレビの前に釘付け。「走れー、潰せー、トライ、決めろ」と叫んでいる。にわかファンにも優しいラグビー関係者の方々、ノーサイド。ありがとう。
 宮崎市 高木真弓(65)  2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

孫、ひ孫世代に

2019-11-05 12:19:40 | はがき随筆
 二人の孫は30歳すぎたが一向に結婚する気がないらしい。私の元気なうちにひ孫の顔を見る事はとっくに諦めている。
 時には「ひ孫が大人になった頃には日本も地球もどうなっているか分からない。いっそ居ない方が安心」とヤケッパチ。半ば本心を言ったりもする。
 16歳の少女グレタさんの国連での痛烈な演説に心を打たれた。この頃の異常気候はまさしく地球温暖化の表れとしか思えないし、その責任は便利な生活のみを追い求めてきた私たち世代に有ると思う。そのツケを次々世代に負わせるのは絶対有ってはならないとつくづく思う。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

深謀遠慮

2019-11-05 12:10:26 | はがき随筆
 計画は昨年持ち上がった。大谷のホームランを見に行こうというもの。手術後、打者としての復帰は5月中との情報を聞き、計画を練ったのは3月末。地区優勝でライバルとなるのは、アストロズとアスレチックス。両チームとの対戦はシーズン最後。押し詰まった優勝争いの試合で、大谷のホームランが目に浮かぶ。よい席は早めにと計画後、手に入れた。出発日は9月24日、渡航費用も支払う。
 幸先よく、12日には48号ホームランを放ち、心はロスに飛んだ。なんとその翌日、左ヒザの手術で今季の出場は絶望と発表された。どうすりゃいいの。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(80) 2019/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

助かってます

2019-11-05 12:02:29 | はがき随筆
 姉と私の使っているパソコンのケアは、いつも友人の旦那さまにお願いしている。困った時にSOS発信すると即返信があり、ナナハンバイクで駆けつけてくれる頼もしい彼だ。
 先日、来てもらったとき「クーラーの効きが悪いんだけど」と専門外の相談をしてみた。みてもらったところ、びっしりと埃がへばりついたフィルターを見つけ、洗い流すとすっかり調子良くなった。ついでにと洗濯機の不具合を話すと首をかしげながら何かいじってこれまた直ってしまった。
 一家におひとりこんな方がいると本当に心強く思う。
 宮崎市 藤田悦子(71) 2019/10/30 毎日新聞鹿児島版掲載

「、」は1秒 「。」は2秒

2019-11-05 11:53:38 | はがき随筆
 ある研究大会で実行委員長の役をすることになった。当日は700名の参加者とご来賓の市長様方の前で挨拶をしなければならない。まず文章の文字を拡大。朱線を入れ毎日練習をする。
 孫たちに聞いてもらった。小2の孫が「ばあちゃん『、』読点は1秒、『。』句点は2秒の間をあけて、ゆっくり読みなさい」。小4の孫は「ロボット読みはダメですよ」と言った。
 学校での指導なのだろう。ご注意ありがとう。さて、いよいよ本番。ゆっくり、ゆっくりと孫たちの顔を思い浮かべながら、挨拶した。
 熊本県宇土市 岩本俊子(70) 2019/10/29 毎日新聞鹿児島版掲載

銀杏文庫

2019-11-05 11:35:31 | はがき随筆

 もう幾昔も前のこと、田舎の小さな小学校に勤めていた。校庭に一抱えもある大きな銀杏の木があり、季節になると大量の実が落ち、あたりがべとべとになっていた。地元の人たちはさほど関心はなさそうだった。もったいないと思い換金することにした。6年生男子に棒を持たせ登らせた。彼らは雀躍、猿のごとく登り、大量の実(銀杏)を落とした。思いのほか多額の収入になり、彼らと諮りそれを資金に「銀杏文庫」と名づけ図書室を設けた。おかげで文庫は年々充実し子供たちを育んだ。廃校になったそうだが、あの銀杏の木は健在だろうか。
 鹿児島市 野崎正昭(87) 2019/10/28 毎日新聞鹿児島版掲載

それでよし

2019-11-05 11:25:04 | はがき随筆
 奥上高地の山小屋には悪天候で登山を断念した人、人、人のため息が満ちていた。夫と私も河童橋から梓川沿いを上流へと3時間ほど歩いては来たものの3日分の荷物は肩に食い込み、これから先の予測は容易についた。ここで一泊しよう。
 夕食後、6人掛けのテーブルで私は空模様に思いをとらわれて残念さを抱え込んでいた。と同席の若者が「ご飯、僕がよそいます」と言って6人分を手際よく盛り始めた。はっとして私も立ち上がり、味噌汁を受け持った。漂う香り。雨の足止めだが心根のいい若者に出会えた。それでよし。さ、いただこう。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(74)2019/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載

待ち時間

2019-11-05 11:17:50 | はがき随筆
 病院の待ち時間の長さには、慣れているつもりでも相当辛いものがある。今時のシステム、名前の呼び出しはないが、ひたすらテレビ画面とにらめっこだ。
 全然番号が変わらない時は、難しい患者さんかなと一人で納得しようとひそかに努力。それでも長く待たされると、やはりいらつく。2時間待ち、診察3分だ。やっと相方の番号が出た。さっと診察、処置が終わり一安心して笑顔に。その後の書類待ちがまた40分以上。いかに閑な私でも待つ限界がある。
 とうとうしびれをきらして、受付に3回確かめた。もう。 
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2019/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載