ゆるゆるらいふ

とりあえず、今日も一日機嫌よく・・・

【観劇メモ】火のようにさみしい姉がいて

2014年09月17日 | 演劇

 

観終った後、なんとも重く苦しい、ちょっとつらくなるような舞台だった。

誰が普通で正しいことを言っているのか、だれが狂気をはらんでいるのか、
どの記憶が事実で、どれがおかしいのか、
観ているうちにだんだんわからなくなってきて、自分がおかしいような気にさえなってくる。

仕事に行き詰って苦悩している俳優に段田安則さん。

その妻で元女優が宮沢りえさん。

段田さんの故郷で床屋を営んでいる姉に大竹しのぶさん。

子供が流産したことを受け入れられず、「22か月もおなかにいる」とお互いに言っている夫婦。
妻がおかしくて夫が合わせてるのかと思えば、妻は夫に合わせているという。

夫の転地療養のために彼の故郷を訪れるけれど、どうも様子がおかしい。

夫は実の姉を目の前にしてなかなか思い出せず、思い出しても現実を受け入れず・・・。

やがて姉と妻は対抗意識を燃やし、お互いの「女」の部分がむき出しに。

故郷の近所の人たちが大量に現れては急にいなくなり、なんだか話が噛み合わなかったり・・・。

かつて住んでいたところへ向かうバスの停留所がどうしても見つからない、と言うあたりから、
これは現実の世界なのか、この夫婦は違う世界に足を踏み入れてしまったのか、
故郷の人たちは実在する人たちなのか、といろいろな疑問がうずまいて、観ている方がなんとも不安になってくる。

その上、段田さん演じる「男」自身もどんどん記憶があいまいになり、傍らにいる「妻」もどんどん不安になり・・・。

舞台上にあるのは床屋さんの室内。
鏡が何面かと床屋さんの椅子。

時折、強いライトが当たると、鏡のある壁が透けて、違う世界が映し出される。

壁が透けた上に白い雪が降りしきる景色がパッと現れたときには、鳥肌がたった

徐々に狂気をおび、自分を見失い、自分の記憶から消していたつらい事実を突き付けられ、
ついには精神が破たんしていく様を演じる段田さんは本当に怖い

夫以外、アウェイの中、必死でその場にとどまり平静を保とうとする宮沢りえさんと、
勝ち誇ったように、見下すようにせせら笑う大竹さんのバトルは、すごい迫力。

失礼ながら、決して女性的なボディとは言えないスレンダーな宮沢さんから、
ものすごい女の情念みたいなものがほとばしって、お顔が美しい分恐ろしさが倍増する。

あの可愛らしかったりえちゃんがこんなすごい人になるなんて。
こんなこと言っちゃいけないけれど、あのとき貴乃花と結婚しておかみさんになったりしなくてホントによかった

脚本の清水邦夫氏は故郷を舞台にした作品が多いという。

「故郷」と言う響きが持つのは必ずしも温かさや懐かしさばかりではない。

人によっては忘れてしまいたいことがあったり、
あるいは故郷を離れてしまったことへの後ろめたさがあったり・・・。

ふと気が付くと、故郷で過ごした日々よりも、今の土地での生活の方がはるかに長くなっている。

などとちょっと故郷へ思いをはせてみたりもして。

観終ったあとなんとも言えないどんよりとした重さと、後味の悪さが残るけれど、
なんだかすごいものを観せていただきました。










コメント
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