「レインマン」
上演台本・演出 松井 周
新国立劇場
ダスティン・ホフマンとトム・クルーズの映画であまりにも有名なこの作品。
椎名桔平さんと藤原竜也さんのお二人がすでに出来上がっている映画のイメージをどんな風にお二人のものにするのか、観る前からとても楽しみだった。
端正な顔立ちで、ちょっとうさん臭くて、でも悪人にはなり切れないチャーリーが藤原さんにぴったりとはまる。
あまり背が高くなかったダスティン・ホフマンのレイモンドとは違って、すっと長身の椎名桔平さんのレイモンドに最初はちょっと違和感を感じたけれど、あまりにも自然な演技にそんなことはどこかに行ってしまう。
存在を知らなかった兄の出現に戸惑い、兄に譲られた遺産を何とか自分のものにして、自分の会社の窮地を救いたい、と必死のチャーリー。
病院から連れ出した兄に対して乱暴なふるまいをしてしまうチャーリーに疑問を抱く恋人は去ってしまい、飛行機に乗れないレイモンドと二人きりの長距離ドライブが始まる。
とはいえ、映画のような車の中のシーンはないし、カジノで驚異的な記憶力を見せつける印象的なシーンもない。
けれど、前後の様子から二人のしていることが目に浮かんでくる。
映画の先入観があるからかもしれないが・・・。
何があってもリズムを変えず、目を見ることなく抑揚無く話し、時にはパニックを起こし、ときに笑いを誘うレイモンドを見ていると、ほっこりとした気持ちになる。
藤原さんがほんとに笑ってるっぽいシーンはきっとアドリブなのだろう。
イラつくチャーリーが滑稽に見えてきて、これまた笑ってしまう。
自分の思い出の中にある「レインマン」がレイモンドだったと気が付いてからのチャーリーの慈愛に満ちた表情がなんとも切ない。
遺産のためだけに連れまわしていたのが、「兄」と一緒にいる時間を慈しむように変わっていく。
チャーリーのレイモンドに対する気持ちが誠実なものに変わっても、周囲には理解してもらえない。
じゃあレイモンドがチャーリーに対してあからさまに愛情を感じてそれを表現するかと言えば、相変わらず淡々と毎日の日課をこなしていく。
このあたりがリアルで残酷だ。
物語だったら「チャーリー行かないで」なんてレイモンドが叫んだりしそうなところだが、現実にはそんなことは簡単にはありえない。
だって彼はサヴァン症候群なのだから。
最後にはレイモンドの幸せを心から願って身を引く決心をするチャーリー。
舞台から去っていく藤原さんの背中がほんとに切なくて・・・。
この舞台はこの日が千秋楽。
最初のカーテンコールの時の椎名さんはレイモンドのまま。
ちょっと猫背で首を傾けて・・・。
2回目の時は、胸を張って「椎名桔平」で現れる。
服も前髪パッツンの髪型も同じなのに、完全に別の人だ。
そしてカッコいい。
俳優さんてほんとにすごい。
会場はスタンディングオベーション。
ああ、本当におもしろかった
お付き合いしてくれた大学時代の友人とは来月もここで舞台を観る予定。
今から楽しみだ。
また来月一緒に楽しみましょう