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「チルドレン」
脚本 ルーシー・カークウッド 翻訳 小田島恒志 演出 栗山民也
世田谷パブリックシアター
舞台はイギリスだが、内容は3.11の東日本大震災の時に福島原発におこったことそのもの。
海辺の家に住む60代の元物理学者夫婦、ロビン(鶴見辰吾さん)とヘイゼル(高畑淳子さん)。
原発の近くにあった彼らの家は津波で住めなくなり、立ち入り禁止区域ギリギリの海辺の仮住まいで暮らしている。
極力電力を使わず、放射能に気を遣いながら。
そこに昔の仲間ローズ(若村麻由美さん)が突然訪ねてくる。
3人はかつて原発で働いていたらしい。
若いころ、3人の男女の関係が複雑であっただろうってことがそれぞれのちょっとした仕草や言動の端々にあらわれる。
こちらが「あれ?」ッと思うと、舞台上の誰かの顔が険しくなったり、おろおろしたり。
例えば、ローズがコップが入っている場所に何の迷いもなく向かったり、椅子の下にあるオットマンを慣れた様子で足で引っ掛けて出したり・・・。
この家にずいぶん慣れてるな・・・なんて思うとヘイゼルがめっちゃ怖い顔をしてローズをみている。
ロビンとなにかあったんだな・・・ということがわかる。
ローズが何気なく胸を隠したり、腕が上がらなかったり・・・。
「乳がん?」って思う。
ドアを開けたときに差し込む日の光の色で何となく過ぎた時間の長さがわかる。
ロビンとヘイゼルの子供が何か問題を抱えているらしいことが何となく伝わる。
とにかくいろんなことをはっきり言わないのだけれど、何となく伝わってくるのがすごい。
脚本・演出はもちろん、ベテラン3人の演技が半端じゃない。
ローズは何をしに来たのか。
原発事故の処理をしている未来ある若者たちを解放し、そもそもそれを作り上げてきた老いた自分たちがそれを担おう、と覚悟を決めて誘いに来たのだ。
時に冷静に几帳面に規則正しく、かと思えば突然ヒステリックになる神経質で情緒不安定なヘイゼル。
けだるく、ちょっとだらしなく、自由奔放なローズ。
二人の間で板挟みとなり、ちょっと情けないけど憎めないロビン。
はたして3人はそろって原発に行くのか・・・という含みを残して幕が下りる。
重い・・・
少し離れたところで見て見ぬふりをしている私たちに、なにかがバシッと突き付けられたようだ。
3.11が記憶に新しい上に、北海道で大きな地震があり、全道がブラックアウト、という信じられない出来事がおこった直後だ。
地震だけではなく、今年は各地で台風や大雨の甚大な被害を受けている。
劇中のセリフの一つ一つがリアルで背中と心がざわざわする。
終演後、アフタートークがあり、出演した3人と翻訳者の小田島氏が登壇。
原題の「THE CHILDREN」は「THE」が付くことで、特定の誰かの子供ではなく、不特定多数の子供たちになるのだとか。
英語の苦手な私はそこからほほ~っと思ったりする。
情けない・・・。
栗山氏の演出の緻密さが語られ、小田島氏のニュアンスを伝えるための翻訳の苦労が語られ、さりげなく伏線を張る演技の難しさが語られ、それを聞いてあらためてそうだったのか、とこの舞台の深さをかみしめる。
実はこの舞台は行こうかどうしようか迷っていた。
友人が、ご主人の職場の優待で安くチケットをゲットして誘ってくれたおかげで観ることができた。
本当に面白かった
友人に感謝感謝
この日は敬老の日。
ホントは今観た舞台のことをお茶でもしながら話したいところだが、夫の実家の敬老の日イベントの集合時間が迫っている。
敬老ももちろん大切だけれども、子供たちの未来も大切だ。
そして私は余韻に浸る間もなく、帰りの電車に飛び乗り、パンフレットを熟読して、いろいろなことに不安を感じながら家に帰るのでした。
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