左足薬指の切傷は、傷口がふさがったが、歩くとまだ鈍痛を感じる。昨日は、大丈夫だろうと3キロばかリ先にある図書館に借りた本の返却に歩いたが、次第に痛みを感じるようになり、帰りは図書館の前にあるバス停からバスに乗って帰る。
その図書館から、二冊の写真集を借りてきた。いずれも山岳写真家のもので、一冊は誠光堂新光社版・藤田弘基「カラコルムヒマラヤ大星夜」(2012.5.30発行)、もう1冊は山と渓谷社版・菊池哲男「アルプス星夜」(2016.8.1発行)。ヒマラヤと北アルプスの違いはあるが、いずれも星景写真。
おもしろいことに、藤田さんのカラコルムは、すべて中・大型のフィルムカメラで撮影した作品であるのに、菊池さんのアルプスは、デジタル一眼レフで撮影した作品集。
やはり、中型・大型カメラで撮影されたフィルムでの作品の解像度は素晴らしく山岳写真としては、いまだデジタル一眼に負けていないと分かるのだが、肝心の星の撮影となるとデジタルの方が圧倒的に臨場感があり、星の粒々や天の川銀河の姿が鮮明に映し出されている。
これは、フィルムの感度が最大でもISO400程度であるのに、デジタルはISO3200程度でもノイズの発生がすくなく10数秒の露出でも星の粒々がありありと映し出される。
ISO400程度であれば3分程度の露出で星が映し出されているが、数は少なくしかも地球の自転によって星が点として記録されず線として流れてしまっている。フィルムカメラは、この問題点をむしろ利点として、長時間露出による星の軌跡を山岳の背景としている。星の軌跡は、とくに北極星を中心にした円を描くと素晴らしい。
以上のことからフィルムカメラによる星夜は、ほとんどが星の軌跡写真になるののだが、今のデジタルカメラは、軌跡写真はもちろん、我々が目にするような星空がリアルに、あるいはそれ以上に描くことが出来る。解像度は、フィルムに軍配が上がるが、デジタルはいまや自由自在に星夜に接することができる。
この二冊は、たまたま図書館で目に付いたので、何気なく借りてきたのだが、パキスタンヒマラヤのカラコルムと日本の北アルプスと違いはあるものの、二冊とも素晴らしい作品に仕上がっており、冬山や高所の夜間という非常に厳しい撮影条件をのりこえて、このような作品を仕上げた二人の写真家に拍手を送りたい。
冬山の星夜は、とても真似をできないが、オイラももう一度デジタル一眼の撮影技術を学んで、山の星景写真にチャレンジしたい。ふたりの写真家と出会って、山の星夜へと魂が動いた。ありがとう。
日本百名山 MY SONG 31 雨飾山(あまかざりやま・1963米)
【深田久弥・日本百名山から抜粋】
「雨飾山という山を知ったのは、いつ頃だったかしら。信濃の大町から糸魚川街道を辿って、佐野坂を越えたあたりで、遥か北のかたに、特別高くないが品のいい形をしたピラミッドが見えた。しかしそれは、街道のすぐ左手に立ち並んだ後立山連峰の威圧的な壮観に目を奪われる旅行者にはほどんど気付かれぬ、つつましやかな、むしろ可愛いらしいと言いたいような山であった。私は、その山に心ひかれた。雨飾山という名前も気に入った。」
(二度、登頂断念していて)
「ついに私は久恋の頂に立った。しかも天は隈なく晴れて、秋の午後三時の太陽は、見渡す山々の上に静かな光をおいていた。すべての頂には憩いがある。梢にはそよとの風もなく、小鳥は森に黙した。風化し摩滅した石の祠と数体の小さな石仏の傍らに、私たちは身を横たえて、ただ静寂な時の過ぎるのに任せた。古い石仏は越後の方を向いていた。その行く手には、日本海を越えて、能登半島の長い腕が見えた。」
*雨飾山への三度目のチャレンジに成功した経緯は「わが愛する山々」に詳しい。秋の午後午後三時に山頂にいて、苦労して登って来た荒菅沢~大海川を辿り小谷温泉に戻るには、今の整備された登山道だって3時間を要するのであるから、さぞや暗くなったことだろうと推察したが、案の定、到着が午後8時を過ぎていたとのことで、真っ暗な下山道を山川画伯のペンライト1本で歩き、伴侶のしげ子さんは溝に落ちて擦り傷をこしらえたとのことである。深田さんの紀行には何度かそんなリスキーな場面が出てきて、彼が、いかに鷹揚なヒトであったかうかがい知れる。
愛(は)しきやき 女(ひと)と憩へる秋の午後 雨飾そよとの風もなく
【深田日本百名山登頂の思い出から抜粋】
深田さんが百名山に長野と新潟の県境にある雨飾山を推挙しなかったら、世間にはあまり知られないままでいたのかもしれない。深田さんにとっては、戦前から二回登頂を試みたがかなわず、戦後1957年秋にやっとピーク立つことができた久恋の山。二度目の登山は、太平洋戦争の開戦の年、生涯の伴侶となった志げ子さんとの熱い恋を実らせた求愛の山。
深田さんは、「わが愛する山々」の「雨飾山」で、双耳峰の山頂を志げ子さんと眺めながら、
左の耳は
僕の耳
右は はしけやき(愛らしい)
君の耳
と、思わず赤面しそうな歌を即興で詠んでいる。
オイラが、この山に登ったのは1900年代の後半だと思うが、職場の後輩Ⅿ君と仙台から車で出かけ、蓮華温泉から白馬岳を登ってから、その足で小谷温泉に向かって日帰りで登ってきた。山頂の石仏のある所から眺めた日本海と下山後の無料の露天風呂がいい思い出だ。
雨飾山の山頂から登路を振り返ると草原に乙女の横顔がみられるという
山上に愛しけき乙女待っており雨飾またゆく由あらん
NHKBS グレートトラバース3から