「たまたま、その法人が企業活動の一環として、その中に含まれていたのだと受け取っている」と、長崎県の幹部職員が答える場面がテレビのニュースで流れていた。
諫早湾干拓地で営農を許可された法人の中に、金子長崎県知事の娘さんと谷川国会議員の息子さんが役員をしている企業が含まれていたそうだ。
その2名は、3月20日付で、その法人の役員を退いているという事だが、誰が考えても「たまたまそうだった」という話には疑念を持たざるを得ない。
諫早湾干拓地での営農希望者数は、60数件だったというが、実際に営農が許可されたのは42件だったと思う。
総数60数件の営農希望者のうちの2件は、健康上の理由と従業員の確保ができないという理由で、営農開始の直前に営農を辞退されたそうだ。
ということは、営農希望を出したけれども、営農が許可されなかった件数も20件近くあった事になる。
そのような状況で、知事の身内が役員をしていた法人に対して、営農許可を与えているとなれば、その営農許可の審査過程をきちんと情報公開すべきは当然であろう。
「たまたまそうだった」などと不誠実な対応で済まされるような事柄ではないはずだ。
一般常識で考えても、長崎県が推進し、莫大な公金を支出して完成した干拓地に、推進の先頭に立っていた長崎県知事の身内が関わっている法人が、営農の許可申請をする事そのものがおかしいと私は思う。
確かに法律には違反していないかもしれないが、それならばなぜその法人の役員を辞める必要があるのだろうか。
これも諸般の事情により「たまたまそうなった」と言うのだろうが、おかしい。
干拓堤防の造成により、私の住んでいる地域では、洪水被害に遭う危険性が相当軽減された。
また、干拓堤防道路の開通により、便利になった。
しかし、諫早湾干拓事業が残した「負」の面もいろいろある。
有明海の子宮とも呼ばれ、泉水海という別名でも呼ばれていた、有明海の重要な干潟のある海域をつぶしてしまった。
その結果、周辺魚場に好ましくない影響が出ていることも周知の事実だ。
それだけがその原因ではないという人達の主張も少しは理解できるが、主たる原因であろうという事は否めない。
さらに、干拓堤防で締め切られた内部の調整池の水質は一向に改善しない。
そうなる事は最初から分かっているのに、そうではないと言い張る。
以前にも書いたが、生きている干潟は、干潟の地下1メートル程度までで、潮汐運動による海水の流入と、干潮時に干潟面が空気にさらされる事によって存在している。
そしてそのような干潟には、水質の浄化作用もある。
干潟の地下1メートルよりも深い層は、硫化水素が発生しているような、生物にとってはあまり好ましくない環境だという。
そのような潮水の満ち引きにより生きていた干潟を、その潮水の満ち引きを遮断して、常時、真水の下に沈めておれば、生きていた干潟の上層部が死滅し、水質が悪化する事は小学生レベルの思考能力で考えても理解できる事だ。
今後、調整池の水質が改善される事は永久に無いであろうということは、容易に推測できる。
もし、農水省が言うように水質が改善されるのであるならば、とっくの昔に改善しているはずだ。
調整池の水を汲み上げて、畑作物の灌漑用水に当てるという事だそうだが、水質の良くない水を利用して生産される農作物に対する消費者の反応はいかがなものになるのだろうか。
国家の食糧自給率が39パーセントだということからすれば、その自給率の向上のために広大な農地を創出する事には意義があるとは思うが、農業後継者不足による耕作放棄農地も年々増加しているのが現状だ。
多くの兼業農家の存在により維持されてきた日本の農業政策を、国家は転換させようとしている。
大規模な営農形態でしか営農できなくするような仕組みを構築しようとしている。
自由主義の中に、社会主義的な要素を導入するような農業形態を農家に押し付けようとしている。
農業に対する保護政策は放棄され、今度は小規模な農業形態は否定されようとしている。
なぜ日本の農家の方々は黙っているのだろうか。
そのうちに、農地改革と反対の事が国家によって成されるかもしれないのに。
以前の諫早干拓がそうであったように、いずれ諫早湾干拓の農地も、将来的には耕作者に格安の価格で払い下げられる事になるのかもしれない。
今回の「たまたま」が、その時に備えての画策であるとすれば、とんでもない事だ。
権力を持った人は、疑念を持たれるような事は慎むべきだ。
豊田かずき