kenroのミニコミ

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次の大国はこの国か 『ルポ貧困大国アメリカ』

2008-05-03 | 書籍
 アメリカが「貧困大国」であることを日本や世界の多くの人は実は知っていた。イラク戦争にあれだけ多くの兵士を次々と供給できるのも、職も未来もない若者が、大学に行かせてくれるという甘言の末駆り出されているというカラクリの結果であるということも。
筆者はアムネスティ・インターナショナルという言わば世界で最も有名な人権の監視役のニューヨーク支局員をつとめた後、米国野村證券というこれまた虚業の権化のようなところで働いていたとき遭遇したのが9.11。アムネスティと證券というグローバリズムを捉える視点は正反対に見える組織で培った筆者の取材力、洞察力、分析力が本書で遺憾なく発揮されいてる。そして、日本国憲法の持つ普遍的な世界観への共感も。
 アメリカが貧困大国である理由はいくつかある。映画「スーパー・サイズ・ミー」や「ファストフード・ネイション」で描かれたというか、シュロッサーの『ファストフードが世界を食い尽くす』で白日の下にさらされたファストフード、特にハンバーガー業界の実態。添加物の固まり、BSEなど危ない牛肉を加工するのも貧困層なら、そればかりを食べているのも貧困層。脂肪の凝縮物を摂取していたら肥満になり、医療費がかかる。と、国民皆保険制度のない国の彼らは医療費が払えず破産するしかない。米経済、世界中のドル不安の原因となったサブプライムローン問題でも事情は同じである。「不動産は値上がりするから大丈夫」と家を持てない層に高利で貸し付け、焦げ付くのは必定。この人たちも家を失い、職も失い破産。日本の2倍強の人口で破産は10倍。貧困層の子どもは貧困のまま、そこから逃れるためには兵士となって帰還後大学進学を目指す。が、心身を病んだ帰還兵は大学進学も、職に就くことも出来ず生活保護などで生き延びるしかない。と、見事な貧困スパイラルには理由がある。
 「民営化」。医療、災害対策、学校、そして軍隊(戦争)。生活、社会の基盤となるべき軍隊以外のこれらが民営化されたあげくに生み出された、作られた貧困。効率至上主義の民営化ではそもそも一人ひとりにあった政策、対策が講じられるわけがない。そして、なんら規制のないリバタリアニズムは貧困層をねらい打ちして兵士を作り出す。例えば学校。生徒の個人情報=親の収入、学業、スポーツ歴、携帯番号まで!のを提出しない学校に対しては補助金をカット。カットされた学校は脂肪過多のジャンクフードの給食に。肥満の生徒が増え、学業やスポーツにも影響が出る。貧困層の生徒の携帯に突然軍隊のリクルーターから電話が架かってくる。「軍隊に入れば、大学に行ける。もちろん初年兵はイラクなど危険な任務はない」と。嘘である。大学に行くためには3年間の軍隊勤務を十全にこなさなければならないし、その間イラクなど危険な地域に派兵されないことなどあり得ない。そして、イラクで無辜の民を殺した経験が、帰還後大学生活を送ることのできる正常な心身を阻む。
 カトリーナも減らない銃器犯罪も、病院から重傷者を放り出すのもすべて貧困のせい。さらには軍隊まで民営化し、軍事作戦での負傷者には国軍兵士ではない、民間会社員だという理由で(アメリカ人でなく、他国の貧困層を雇っている)国の保障もない。すべてが軍事中心にまわりながら軍隊をも民営化する国。そもそもは国家予算の多くを国防(といいつつ侵略ばかり)費に割くいびつな国家体制が(北朝鮮と同じだ)貧困の元凶である。
 「民間でできることは民間に」と叫んだ首相がいたが、民営化、規制緩和の嵐が現在の格差社会を生み出しているのは明らかだ。しかし、大田経済相のように規制緩和と格差社会は関係ないと放言する輩も跋扈するこの国は、早くアメリカになりたいのだろう。
 「スーパー・サイズ・ミー」やマイケル・ムーアの作品のような半ば扇情的な描き方もなく、当事者に対する取材とデータのみの記述には好感が持てる。しかし筆者が訴える問題は喫緊でありかつ深い。蛇足であるが筆者は最近HIV訴訟原告であり、衆議院議員である川田龍平氏と結婚したそうであるが、できればアメリカにとどまって同国の病理をこれからも発信してほしいと思う。日本のアメリカ化へのブレーキの一助として。

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