kenroのミニコミ

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シッコ  これはアメリカの現実で日本の未来かも

2007-09-02 | 映画
 奈良県で救急車で運ばれ、搬送先が見つからず妊婦が亡くなったのが昨年、そしてつい最近も搬送先が見つからず救急車が途中で事故、結果的に流産となった事件があった。
 奈良県の救急行政の連絡態勢の不備はあろう。しかし根本的には産科医が足りないこと、そして報道でははっきりと示されてはいないが、国・公立病院の統廃合がすすみ、かつ医師がない根本的原因である。なぜ病院の統廃合か、それは儲からないからである。地域医療に根ざしてなんてやっていたら病院は立ちゆかない。民間はもちろん公営の病院にまで市場原理を取り入れることを日本に圧力をかけたのは他ならないアメリカである。
 そのアメリカの医療、先進国で唯一国民皆保険制度がない実情を描くのがマイケル・ムーアの本作である。「ボウリング・フォー・コロンバイン」、「華氏911」とアメリカの病巣を突撃取材したムーアだが、本作では病巣の元凶、ボウリングでは銃器販売店、華氏ではブッシュ大統領 といった本丸を取材してはいない。そのあたりが、カンヌで華氏がパルムドール賞を獲ったにもかかわらずそのあざとい手法に批判もあったムーアの新境地であり、またやり方なのかもしれない。
 保険に入っていないのではない、保険に入っているにもかかわらず医療費が出ない現実。保険会社の指定病院でないから治療お断り、指定疾患外(といってもほとんど考えられる疾患はすべて)しか治療対象とか。極めつけは英雄であるはずの911従事者=救命士や救護士が医療を受けられないということ。911救出作業による肺疾患などであることが明らかであるのにまともな医療も受けられず、薬代はべらぼう。「テロリスト」を収容しているキューバはグアンタナモ基地の医療の方が水準高くタダ、仮想敵国キューバでは911の病める英雄を篤く診療、治療。
 イギリスでもフランスでも医療費はタダか廉価。移民であるからとかで差別しない。ただ、ムーアが取材したフランスのアメリカ人はある程度地位のある人たち。職がないからと車に火をつけた若者ではない。にしてもフランスで常庸とパートを労働時間、休暇などで大きな差別しないことは当たり前。ワンコール派遣でネットカフェ暮らし、体を壊さないほうが不思議なくらいの日本の非正規雇用(ワーキングプア)の実態からは夢のよう、であるのは事実である。
 極端な市場主義者のサルコジもバカンスを優雅に過ごしているフランスからは遠く、アメリカの市場開放圧力に屈した日本。まず簡易保険を民営、要するにアメリカの投機対象、さらに医療の現場に医師を偏在させ、病院を閉じる愚かしさ。
 人間社会における当たり前の優しさを求めるムーア監督にはぜひ日本の医療や社会福祉の現場も取材して欲しいと思う。
 
コメント (2)
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