Solidarity Forever, Solidarity Forever…
イギリス伝統の労働者が闘う物語と一言で言ってしまうのが惜しいほど面白い。古くは「フルモンティ」や「ブラス!」「リトル・ダンサー」など強面の労働者とは相いれないように思えるヌードダンス、ブラスバンドそしてバレエと、奇想天外な組み合わせで寂れ、弾圧される炭鉱の街を救う物語たち。そして今回はゲイ(とレズビアン LGSM)が炭鉱労働者を支援する!?
サッチャー政権下、炭鉱閉山・縮小と闘う労働者らを支援しようとマークがロンドンでLGSMの仲間と募金活動を始めた理由は、「サッチャー(の政策)から虐げられているマイノリティだから」。労働組合を敵視したサッチャーは、国鉄や炭鉱などを片っ端から縮小や民営化していく。首切りである。極端な市場主義者で、「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家を嫌ったサッチャーは、労働組合潰しを徹底した。国鉄を例にとってみれば、人減らしでメンテナンスもままならず、現場の労働者を死に追いやってしまうあり方は、ケン・ローチの「ナビゲイター」で描かれていたとおりである。
ケン・ローチでは救いがない話が多いが、「フルモンティ」や本作は、笑いをさそう明るい闘い方だ。でないとやってられないことも多いし、実際の闘いは笑いを内包した余裕も必要であろう。しかし結局炭鉱労働組合は負けてしまう。炭鉱が斜陽産業であったこと、イギリスも原子力発電への依存を高めていた現実がある上に、いくらLGSMのグループらの支援があっても、英国国民の大きな支持がなかったからと言えるだろう。そして、保守的、マッチョ、ホモフォビアの炭鉱労働者らが次第にLGSMの人たちを受け入れていく心境の変化こそ大きな宝物だ。炭鉱ストの敗北後、LGSMのグループらがロンドンでセクシャル・マイノリティの大きな集会とパレードを催したとき、今度は「ゲイを支援する炭鉱労働者の会」がバスを何台も連ねて応援に駆け付けたシーンには熱くなった。
欧米では同性婚を認める国や地域が増えている。カソリックの国アイルランドでさえ先ごろ同性婚を認める住民投票が勝利したばかりだ。ゲイをカミングアウトするルクセンブルク首相など、ヘテロカップルしか認めない価値観こそ頑迷に見える。翻って、トランス・セクシャルやトランス・ベスタイトの芸能人が一定人気を博しているが、「キワモノ」扱いでまだまだセクシャル・マイノリティの権利までは遠い日本。それでも、毎年開催されているLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)のパレードは参加者が倍々で増えているそうだ。
一方労働組合の力は弱まるばかりだ。非正規労働者が増える中で、ユニオンの活躍もあるが多くの労働者を救いきれていない現実。最大労組の連合体「連合」は政治発言さえしないし、民主党が譲る以上に政権に「譲り」まくっている。佐高信が「連合は民主党の下駄の雪」と喝破したのはもう大分前だ。
本作の感動的なシーンに炭鉱労働者がゲイグループの支援を受け入れ、ともに闘うことを確認しながら歌う「ブレッド・アンド・ローズ」。そう、労働者にはパンとともに(政治的)自由や理想も必要なのだ。本作の現題はPRIDE。「誇り」と訳すか「矜持」と訳すか。遠くから聞こえてくるSolidarity Forever, Solidarity Forever を忘れずに、圧倒的な権力に対して手をつなぐこと。個でできることは多くはない。