開場時の集まり具合を見ていると客の入りはあまり良くないか、と思っていたのだが、
結局80人程度は入っていたかな。
「寿限無」(眞):△+
「女性っぽく見えない」ことから子どもの話をしてネタに入る。
自分の容貌をネタにするのは安易であまり好きではないのだが、
客と共通認識は持ちやすいだろう。
ネタは九雀ラインのもの。
出世魚、チャーリー田中や、
途中での「呼びに来る」「試験」「緑のペン」など、そのまま。
もう少し遊びも入れて欲しいところ。
前座だから仕方ないかも知れないが。
「言い立て」ではなく、「長い名前を巡ってワアワア言うネタ」であり、
それはそれで良いと思う。
和尚さんが色々名前を紹介していくところ、
「五劫の擦り切れ」や「海砂利水魚」の説明は入れていなかったのだが、
「説明する→くさす」の繰り返しと
その後の「全部付ける」転換を利かせるためにも、
入れておいた方が良いと思う。
全体に表情が豊かと言えば豊かなのだが、
表情の付け方や変化の激しさなど、
若干不自然と感じるところもあった。
声が大きいのは良い。
「寄合酒」(生喬):○-
ラクゴリラのメンバーが「2人2人で別れることが多い」という話。
タカラヅカの話を出さなかったのは、個人的には良かった。
酒を飲む人と飲まない人、といった話からネタへ。
松喬ライン(ドモリが出てくる)をきっちり演っている印象。
最近時折気になる「待つ間」もあまりなく、
個々のギャグだけでなく、リズムと繰り返しでウケをとっていた。
ドモリに対して、松喬に比べて少しキツいツッコミが入っている、
とも感じた。
「喰らわす」ところは個人的にはけっこう不自然に感じることもあるのだが、
普通はあまり気にならないものなのかな。
よくウケていた。
「すりこ木」までやらず、
「鰹節」まで。
「池田の猪買い」(文三):○
マクラで師匠文枝に色々叱られた話。
文枝のボキャブラリーの面白さを上手く伝えている。
全体に声が小さく、
仕草や表情付けも後ろの方までは伝わっていなかったのでは、とも思うが、
細かい部分に色々工夫をして面白くしていた。
ただ、最初の「体がのぼせる→灸では治らない(そりゃそうだ)→猪が冷えに効く」
あたりがよく分からない。
結局アホは体がのぼせているの?冷えているの?
灸はどちらに効くの?猪はどちらに効くの?
というところがあまり整理されていないように思う。
アホというよりイチビリ、「要らん事言い」が自然に出ているのは良い。
「七回転んだ」で「七転び八起き」と言っている、とか、
「池田行く道分かっているか?」に対する「大体分かっている」の言い方や
後の「友達が行った」と混ぜ返す団子理屈、
本当に急いでいる「産婆はんを呼びに行く」男に対する喋り掛け方。
牛を連れた百姓との会話も引っ張る。
或いは山に上がって「ははあ」と言う六太夫さんの手を掴んで
「ほほう」と返したり、
狙いを定めている六太夫さんに対して喋り掛けてしまうところ。
ずれている感じがよく出ていた。
そこがしっかり描けているので、
それに対するツッコミを少し冷たくしても「仕方ないな」と思える。
「鮨屋で食うと思うか食わんと思うか」を入れていなかったが、
あくまでも「甚兵衛さんに教えてもらったことを確認する」スタンスだから、
入れなくて済むのであれば入れない方が良いと思う。
この日の運び方、アホのズレが滲み出て伝わっている高座ならば、
特に入れる必要もないだろう。
「喧嘩長屋」(花丸):△+
マクラで「長屋ネタ」とお願いしたらこのネタを付けて貰った経緯。
ネタは、喧嘩が激しくなり、広がっていく感じが弱かったように思う。
夫婦の喧嘩が盛り上がる
→家主が入って少し収まるが、話す内に先程よりさらに盛り上がる
→他の店子が入って少し収まるが、また先程よりさらに盛り上がる、
と徐々に波が高くなる必要があると思うのだが、
それぞれの喧嘩での盛り上がりが不足していること、
他の人が入って収まった時に収まり過ぎてしまっていることから、
喧嘩を繰り返すに連れて盛り上がりが大きくなる、
という感じにならなかった。
それぞれの喧嘩の中で「もう一遍言ってみい」のような
怒りを表から内側へ引っ込める科白があるのだが、
そこで引き過ぎたり、抜けてしまったりしているのが
充分に盛り上がっていかなかった原因の一つではないか、と思う。
あくまでも怒りの感情は強く持ったまま、
内側へ引き込む時に密度を高める必要があるだろう。
また、表に出して盛り上げていく際も
徐々にスピードを上げたり間を詰めたりする、
といったテクニカルなものが必要なのでは、と感じた。
あまり演り慣れておらず、感情の押し引きや如何に見せるか、というところに
気を回せていないのかも知れない。
細かい科白には面白いところもあったのだが。
「愛宕山」(南天):○
軽くネタ下ろしの会などに触れて、ネタへ。
最初に春の情景をさらっと描いて見せるのだが、
これが非常に楽しげなこと、絵画的であること、がこの人の良いところ。
暖かい空気がふわっと浮かぶ。
これは枝雀を写しているところなのだろう。
ネタは一生懸命演っているのだが、山登りで体力を切らしてしまい、
後半に押さえが効かなかったり、単調になってしまったりした、という印象。
気持ちで進めるから仕方ないところはあるし、
無論、あまりしんどくなさそうに登り切ってしまうより遥かにマシではあるが。
山登りでは、疲れ始めるまでがけっこう長い気がする。
もう少し早く疲れ始めた方が良いのでは、と思う。
大坂の幇間と京の旦那、という対比だが、
個人的には、
京の旦那はさして大坂の人間を気にしていないが
大坂の幇間が勝手に意固地になって喧嘩を売る、という空気が
もう少し濃い方が好み。
若干京の旦那も大人気なく応対していたように思う。
「大坂には山がない」とか、
もう少しフラットに言っても良いかな、と感じた。
かわらけ投げで旦那がけっこう大人気なく楽しんでいたが、
もう少し軽く余裕を見せてやる方が良いかな。
その方が大人げのない幇間との差が出るだろう。
飛ぶ際の逡巡や実際に飛ぶところ、
拾って上がってくるところは少し単調だったかなあ。
これは体力配分の問題かも知れない。
全体には、やはり絵が見えるのが良かったと思う。
遥かに見える京の町、
緑の中に立つ的、
その後では小判が緑の中で光っている様子など。
熱演、だった。