「心身一如」という言葉があります。
「身心一如」と書かれることもあります。
どちらの漢字が先にきたとしても、心と身体は分けることのできない一つもであり、一つのものの両面であるという考え方です。
仏教の考えですが、東洋思想の一つとして鍼灸治療においても重要視している考え方です。
心が疲れていると身体も疲れ、身体が疲れていると心も疲れます。
どちらか一方だけが元気、ということはありません。心と身体、どちらが先に疲れを感じ始めるかはその時々によりますが、一方の調子がおかしくなると、もう一方もつられていきます。
不調に気付いたら、休息やバランスの良い食事を摂ることで本調子に戻ります。
しかし、気付くのが遅れたり、気付いていても無理をしてしまったりすると、自分の力では元に戻れなくなることがあります。
そんな時に力になれるのが、鍼灸治療です。
鍼灸治療ではまず身体の方を調えます。みなさん「ツボ」という言葉をご存知と思いますが、この「ツボ」は身体が元気な時は現れません。不調の時に「ツボ」は出現し、元気になってくると「ツボ」は消えます。
私たち鍼灸師は、患者さんの身体に現れた「ツボ」を出来る限り正確に把握し、必要な刺激を与えるのが仕事です。
鍼を用いる場合は、どの程度刺すか、あるいは刺さないか、等を適宜判断しながら施術します。
灸を用いる場合は、どの程度温めるか、もぐさの種類を含めて判断しながら施術します。
元気のない「ツボ」には気を補充して元気な状態になるように、逆に元気が過剰になったり滞っている「ツボ」からは取り去るようにします。
そうして「ツボ」の状態が調って現れていた反応が小さくなったら消えたりしたら、治療は終了です。
こうして身体は少しずつでも回復に向かっていく力を取り戻していきます。身体が安定するに従って、心の疲れも次第に回復に向かいます。
あとは、適切な食事と運動を習慣とすることで、さらに順調に回復することが可能となります。
どのくらい食べれば良いのか、どのくらい運動すれば良いのか、頭で考えても分かるものではありませんが、じっくり自分の心身に向き合っていると次第に分かるようになります。
その向き合う力も鍼灸治療によって着実についていきます。
もちろん休息をとることも大切。どのタイミングで休息を取れば良いかも次第に分かるようになっていきます。
ただし、鍼灸治療ができるのはここまで。
実際に食事を摂るのも、運動をするのも、患者さんご自身にしかできないことです。
初めはうまくいかないこともありますし、うまくいく時といかない時の波があるかもしれません。
それでも諦めずに自分の心身に耳を傾けて、なんとなくこうかな?という感じで構わないので向き合い続けていると、その時々の最善の方法が分かるようになるはずです。
「今日は脂っこいものを食べない方がいいかも」「少し外を歩いた方がいいかな?」等、なんとなくでも気づいたことがあれば、まずそれをやってみてください。一気に全てを調整していくのは難しくても、一つずつなら案外簡単に実践できます。
小さなことの積み重ねで、心身ともに本来あるべきバランスの良い状態に持っていけるようになると思います。
コロナ禍になって一年以上となり、来院される患者さんの疲労も少しずつ蓄積されているように感じます。また、長引く閉塞感の影響が顕著になっている方もみられるようになりました。
この状況下で新しいことに挑戦するのはこれまで以上に勇気がいることだと思いますが、新たに当院に来られ始めた方もいます。
大きな不安や身体的苦痛を抱えた患者さんが増えたことで、これまで以上に私自身の心身を調え続けることが重要だと感じています。
常にベストを尽くせるように、適切な食事・運動・休息を心がけていきたいと思います。