壊死組織再生にも効果 安全性の課題少なく
脳梗塞の発症から時間がたたないうちに、「tPA」という薬を投与すると、社会復帰できる可能性が高まる。tPAの投与によって体内にできる「プラスミン」という酵素が、脳の血管に詰まった血栓(血の塊)を溶かし、血液の流れを回復するためだ。このtPAを使って壊死した組織を再生させることができると、東京大医科学研究所の服部浩一特任准教授らがマウスの実験で明らかにした。プラスミンが組織の再生にも重要な役割を果たすことを見つけたことがポイントだった。実験は、足の血管を閉塞させて、筋肉を壊死させたマウスにtPAを投与した。すると約3週間で血流がほぼ戻り、筋肉の再生と歩行などの機能回復が促進された。実験では脳梗塞に使うのとほぼ同じ量を投与したが、出血などの副作用は認められなかった。なぜこうしたことが起きるのか。プラスミンは別の酵素を活発化し、骨髄由来のさまざまな細胞が、壊死した組織の周囲に集まる。これらの細胞の中には血管の新生や組織の再生を誘導する。「血管新生因子」をつくり出すものがあり、壊死した組織の再生が促進される-という仕組みだ。血流の途絶による壊死以外でも、抗がん剤や放射線によって損傷した組織の再生も促進することが判明している。再生医療は、胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞などの万能細胞を使った方法が有力視されているが、細胞ががん化しないようにするなど、さまざまな課題がある。服部潤教授は「生体が持つ従来の組織修復機構を利用したもので、tPAは既に臨床に普及しており、安全性の課題は少なく実現性が高い。心筋細胞や神経細胞の再生にも応用可能だと思う」と話している。
tPA 組織 プラスミノゲン活性化因子。もともと血液中にある控訴で、プラスミノゲンというタンパク質をプラスミンに変える。心筋梗塞の治療薬として広く使われてきたが、2005年から脳梗塞への適応も承認された。