希望を求めて-再生へこう考える
明確な「目標」設定を -今の教育改革の主眼は「学力低下」への対応 ですが、肝心の議論がかみ合っていません。 「学力低下論は、2003年の国際学習到達度調 査(PISA)で読解力が八位から十四位に下がっ たことが発端でした。ただ、同じ調査で日本の科学的応用力は二位、 問題解決能力は四位。学力は低下したのか。そもそも学力とは何な のか。現状分析も根拠も定義もあいまいなまま、議論はム-ドで進ん でいます。だから、小、中学校の授業時間数の10%増という、原因 に対応していない学力向上策が出てくるのです」
まずは現状把握 「25年以上勤めた文部、文部科学省時代もずっと感じてきましたが、 日本の教育論議は空回りやすれ違いが多く、建設的な議論になりま せん。それは多くの日本人に、マネジメントという発想が決定的に欠 けているからです」 -マネジメントとは何ですか。 「『現状』を正しく把握し、その『原因』を究明する。その上で、現状を改 善する具体的な『目標』を設定し、適切な『手段』を講じる。これらを集 団の同意を得て政策化・ル-ル化し、目標と結果を検証する。そして、 その検証した結果を次の段階に結びつけていく。このプロセスがマネジ メントです」 「一連の過程で最も重要なのが『目標』の設定です。しかし、教育界で は特に、この点がおろそかにされています」 -具体的には。 「学校の目標が典型例でしょう。どの学校も『生きる力』『豊かな心』 『確かな学力』などの文言を掲げていますが、これは単なるスロ-ガン でしかありません。生きる力とは、どんな学力や体力、精神力を指すの でしょう。スロ-ガンはあってもいいでしょうが、『○○か゛全員できるよ うになる』など、結果との関係を明確に比較できる具体的なものでない と、目標とは言えません」 「学力低下論で言えば、PISAの調査結果が発表された当時、文科省 の担当課長に『それでは読解力が何位になれば、目標を達成したこと になるのか』と問いただしましたが、答えは返ってきませんでした。目 標がないのに、学力が上がった、下がったという判断がなぜできるの でしょうか」 -なぜ、そのような事態になってしまうのですか。 「文科省の役人や自治体教委の職員、学校長など、決定権がある人間 が明確な判断を示さないからです。明確な目標を掲げて、その通りの結 果が出なかったら、決定者は責任を取らなければならないのは、当然の ことでしょう。目標をあいまいにしておくという発想では、有効な対応を取 れるわけがありません」
具体性に欠ける 「日本の教育はこれまで、具体的な目標も設定しないまま、政索を 次々に追加して解決を図ろうとする『追加教育症候群』に陥り、学校 教育を圧迫してきました。その歴史的事実に目を向けるぺきでしょう」 -改善策は。「学力という点で言えば、『読み』『書き』『計算』など、 日本の子供に必要な力は何なのか。全員に必要なミニマムな目標と、 それ以外の目標を分けて設定する必要があります。詰め込みもゆと りも今の学力再重視の動きにも、その視点がありません。このまま では、間違いを繰り返す羽目になります」「『手段の目的化』という言 葉もある通り、『目標』と『手段』の関係は重層的なため、教育に関す る目標は『日本をより良くする』という上位の目標にとっては手段とな ります。教育論議を進めるには、国の将来象についても真剣に議論 し直すことが必要不可欠です」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます