「夕べにすべてを見届けること」
実はこの言葉は、ベートヴェンの日記の中にあるそうだ。
【テーマ】は家の中の物たちである。
きっかけは、引っ越しと私が勝手に仮定する。
家の中の物々を一度運び出し、すべてを見渡す。
旧居より搬出し
新居に搬入する。
今までとは同じ物々であるはずなのだが、
部屋の大きさも、窓の位置もかわり、物々の配置は変って来る。
テーマである物々が分解され、紆余曲折…(こっちにしよう、あっちにしよう、と)
新たな空間にはめ込まれていく。
すると不思議な感覚に襲われる。
そこで部屋に収まった【テーマ】を
「夕べにすべてを見届けること」となる。
すると【テーマ】であった物々がうまくはめ込まれて新居が出来上がっているのである。
同じ物々であるはずだが、同じではない。
そこには、新たな小さな命のような輝き、エネルギーも生まれている。
以下の言葉はベートーヴェンの手記からである。
現在のような日常生活をもうこれ以上つづけないことだ! 芸術もまたこの犠牲を要求しているのだ。気ばらしによって休息するのはいっそう力づよく芸術の仕事に努めるためでなければならない。(一八一四年)
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この「すべてを見届ける」という行為も「いっそう力づよく芸術の仕事に努めるため」に向かっているのだと思う。