万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカ大統領選挙ー有権者に対する政治家情報の提供は誰がするのか?

2016年11月07日 15時38分13秒 | 国際政治
「クリントン氏の訴追求めず」、米FBIがメール再捜査で結論
 大統領選挙の投票日を明日に控え、アメリカでは、クリントン候補の私用メール問題をめぐり、情勢が読みにくい状況に至っています。FBIのアクションと両候補に対する支持率との連動は、一体、何を意味しているのでしょうか。

 クリントン候補の支持率急落がFBIの再調査開始公表にあるとしますと、それは、有権者をしてクリントン候補にはマイナス情報があると確信させたからに他なりません。この現象から、選挙と情報との関係をめぐる以下の2点を読み取ることができます。

 第1点は、有権者は、選挙に際して、候補者に関する可能な限り正確、かつ、十分な情報を求めていることです。FBIのアクションに対する有権者の敏感な反応は、有権者が自らが知り得ない情報の入手をFBIに期待している現れであり、その情報次第では、投票先を変えることに躊躇しないアメリカ市民のオープンな態度を示しています。

 第2点は、圧勝の予想がFBI長官の調査再開の一言で逆転まで引き起こすとしますと、実際の情報の内容に拘わらず、有権者が、マイナス情報の存在そのものを認識した時点で、支持率を低下させる効果が認められることです。コミ―FBI長官は、結局、新たな調査の対象となった情報について詳細を明らかにしないまま不起訴と判断していますが、政治家のマイナス情報の存在は、候補者に致命的なダメージを与えかねないのです。

 上述した二つの点からしますと、FBI長官の不起訴表明は、どの程度選挙に影響を与えるのかは不透明となります。何故ならば、コミー長官のみならず、クリントン候補の過去の行為を売国的と批判している共和党議員でさえ、具体的な事実の提示、並びに、法的な説明を十分になしえていないからです。したがいまして、有権者は、事実や違法性について不確かな情報の下での選挙を強いられますので、自らで判断せざるを得ないのです。

 アメリカ大統領選挙における混乱は、”有権者に対する政治家情報の提供は誰が責任を以って行うのか”という問題を提起しています。そして、この問題は、アメリカのみならず、民主的選挙制度を有する全ての諸国に共通しています。古代共和制ローマではケンソルという役職があり、独立的な職権で政治家に対する監査をも職務としていましたが、現代の民主制にあっても、良き政治家を選出するためには、こうした制度的な工夫が必要なのではないかと思うのです。

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コメント (1)
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