今般の米価高騰については、様々な要因が指摘されながらも、同時期に大阪堂島商品取引所で再開された米先物取引の存在は無視できないように思えます。既に、米価は2倍にも跳ね上がっていますので、仮に、再開時に先行きの米価高騰を予測して「買いヘッジ」に資金を投入した‘投機家達’は、今月で6ヶ月の限月を迎える場合、投資額が2倍に増えたことになります。‘笑いが止まらない’という状況なのでしょうが、その他の大多数の一般国民は、上昇し続ける主食の価格に悲鳴を上げています。
先物取引が米価に影響を与える仕組みについては、限月までの間に需給バランスを自らの利益となる方向に操作できる時間的な猶予から説明も説明されます(その他については、本ブログの12月18日付けの記事で説明・・・)。将来的な価格上昇に賭ける「買いヘッジ」の場合には、供給量を減らす動機となる一方で、将来的な価格下落に賭ける「売りヘッジ」の場合には、供給量を増やす動機が働くからです。今般、「買い占め」の実行者として異業種企業や外国人バイヤーの暗躍が指摘されている背景にも、供給不足を意図した需給操作が疑われるのです。
また、先物市場における契約の成立自体が、「買い占め」効果をもたらしかねません。何故ならば、限月が到来するまでの期間は、先物市場にあって‘先買い’されたお米は、売約済みの‘塩漬け’状態となるからです。言い換えますと、先物市場において投機資金が集まれば集まるほどにお米の出荷が滞り、供給量を減少させてしまうのです。同供給不足は、さらなる‘米不足’を引き起こし、なお一層米価が高騰するという悪循環に陥ることでしょう(もっとも、「買いヘッジ」に賭けて投機家達からみれば‘好循環’・・・)。
この懸念に対しては、先渡契約等を締結すれば、限月に至らない時点で現物を引き渡すことが出来るとする反論もありましょう。しかしながら、上述したように、お米の価格が上昇し続けている局面にあって、それを良心的に市中に放出する買い手はそれ程には多くないことでしょう。米価が上昇する程に利益も上がるのですから、たとえ現物で受渡されたとしても、直ぐには手放さず、倉庫に眠らせようとするはずです。お米の放出は、自己利益に反するからです。結局、お米の保管場所の移転に過ぎず、大多数の消費者の食卓にはお米は届かないか、不当に釣り上げられて高値のお米を買わされることになるのです。
以上に、先物取引と「買い占め」について問題点を述べてきましたが、この懸念については、重大な情報が欠けていることは、認めざるを得ないところです。それは、先物取引に参加した生産者である農家が誰にお米を引き渡しているのか、これが謎なのです。証券会社を経由して先物取引に資金を投入している投機家達は、現物の受渡しには全く関与しません。先物市場が開設されている大阪堂島商品取引所も、決済所に過ぎないとされています。商品先物取引事業者のリストの殆どは証券会社なのですが、証券会社についても、法律によって異業の事業は規制を受けているはずです(もっとも、SBIホールディングスのような企業グループであれば、子会社や関連会社等を利用できるかも知れない・・・)。それでは、先物で買い取られて農家のお米は、一体、どこに行くのでしょうか。
おそらく、仲介業を営むブローカー的な存在が想定されるのですが、この点が、どこか不明瞭なのです。先物取引が出現したことで、お米の流通過程がさらに複雑になるようでは、米価安定どころか、混乱要因でしかなくなります。少なくとも今般の米価高騰を見る限り、先物市場が農産物の価格安定に寄与するとする説は説得力を失いつつあります。
先物取引がお米の価格形成に影響を与える以上、生産者から消費者までのお米の流れの全プロセスを含む先物取引の仕組みは、国民が知るべき情報と言えましょう(消えた21万トンのお米とも関連するかも知れない・・・)。日本国民の主食が投機の対象となるような決定を、政府の一存に任せるのは望ましいことではなく、国民も農家も共に考えるべき重大問題であり、米先物市場の開設を方針とする政党は、国政選挙にあって自らの公約に掲載すべきであったのではないかと思うのです(つづく)。