万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第三次世界大戦は再びポーランドから始まる?-「レオパルト2」供与は控えるべき

2023年01月24日 10時44分30秒 | 国際政治
 ドイツが製造する「レオパルト2」のウクライナへの供与の如何が、目下、全世界の注目を集めています。何故ならば、仮に同国への戦車供与が実現しますと、第三次世界大戦へと戦禍が拡大するリスクが格段に高まるからです。報道によりますと、ロシア側のウォロジン下院議長が「グローバルな破滅を引き起こす」と述べたとも伝わり、キューバ危機に匹敵するほどの危うい状況が続いています。

 「レオパルト2」とは、製造国はドイツですが、ポーランドをはじめ他のNATO諸国にも輸出されています。同戦車を輸入した諸国は、それを他の国に再輸出したり、供与する場合には製造国であるドイツの許可を要するそうなのですが、今般の危機に際して驚かされるのが、ポーランドの態度です。同国のモラウィエツキ首相は、ドイツに対して供与許可を正式に申請するのみならず、仮に許可が下りなくとも、他国と連携して同戦車をウクライナに供与する意向を明らかにしているからです。また、供与が未決定な段階にありながら、ポーランドでは、ウクライナ兵による「レオパルト2」の訓練が開始されるとする報道もあります。

 ドイツ側も、先だってポーランドからの供与申請の可能性について問われた際に、同国のベーアボック外相が‘邪魔はしない’とする旨の返答をしており、ドイツ側も、ポーランドによる供与を暗に黙認する姿勢を見せています。ドイツ政府としての正式決定ではないにせよ、ドイツ側も供与の方向に傾いていると理解されましょう。

 それでは、仮に、ドイツの許可なくポーランドがウクライナに「レオパルト2」を供与した場合、どのような事態が発生するのでしょうか。仮に上述したロシア側の発言が脅しではなくて本気であれば、ロシアの最初の攻撃対象国はポーランドと言うことになりましょう。‘最初’と表現したのは、仮にポーランドが攻撃された場合、NATOにおける集団的自衛権が発動され、同国のみならず、全てのNATO加盟国がロシアとの戦争状態に至るからです。

 もっとも、ドイツ側が拒絶したにも拘わらず、ポーランドが輸入契約に違反してウクライナへの単独供与に踏み切るならば、事態はより複雑となるかもしれません。そもそも、ポーランドによるウクライナに対する攻撃性の高い兵器の供与が、集団的自衛権の発動要件となり、かつ、国際法において合法性を主張し得る自衛のための行為なのか、不明確になるからです。しかも、ドイツの反対を押し切っての供与となりますと、NATO全体の合意というわけでもありません。このため、速やかに集団的自衛権が発動されず、戦場は、ポーランドにとどまる可能性も否定はできなくなるのです。

 そして、ここで注目されるのは、モラウィエツキ首相は、‘他国と連携して’と述べている点です。おそらくこの‘他国’とは、ウクライナの最大支援国にして軍事大国であるアメリカであるものと推測されます。ポーランドとアメリカとの間では、ウクライナに対する「レオパルト2」の提供が既定路線となっているのでしょう。アメリカにしてみますと、自国の主力戦車「エイブラムズ」を供与するよりも、ロシアと国境を接するポーランドの主力戦車を利用した方が兵士の訓練を含めて簡便ですし、ロシアとの直接対決を避けることもできます。「レオパルト2」の供与の見返りとして、ポーランドにはアメリカからの相当の支援が約束されているのでしょう。

 一方のポーランドにとりましても、輸入戦車であれ同国の軍事力をロシアに見せつけることができますし(牽制効果への期待・・・)、アメリカが後ろ盾ともなれば‘怖いものはない’のかもしれませんが、果たして、ポーランドの思惑通りにウクライナ紛争は、ロシア敗退で終結するのでしょうか。仮に、ロシアが対ポーランド攻撃に踏み出した場合、どのように対処するのでしょうか。とりわけ、ドイツの許可なく「レオパルト2」を供与した場合、上述したようにポーランドのみが戦場となり、最悪の場合には、ウクライナの二の舞となり、米ロとの間で事実上の‘第6次ポーランド分割’ともなりかねない事態に陥ることでしょう。これでは、ポーランドは、自ら悲劇を招き寄せているようなものです。

ダボス会議からも察せられるように、世界権力は、自らの利益と目的を達成するために戦争の拡大を望んでいる節が見られます。ポーランドはユダヤ系住民の多い国であり、自らをメシアと称し、異教徒を内部崩壊させるために‘隠れユダヤ教徒’となるよう勧めたヤコブ・フランクも、現ウクライナ領のコロリヴカで生誕したポーランド系ユダヤ人とされています。第三次世界大戦に至るにせよ、ポーランドに限定されるにせよ、結局、「レオパルト2」の供与は、戦争拡大シナリオの作成者の‘思う壺’となりましょう。何れの政府も世界権力の描く‘戦争拡大シナリオ’から降りる勇気を持つべきであり、最低限、「レオパルト2」の供与は思いとどまるべきではないかと思うのです。

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