GXの推進には、代替技術不在という重大かつ制度の根底に拘わる問題があります。そして、同問題は、カーボンプライシング制度を永続化するのみならず、GXバブルを発生させるリスクもあります。
1990年に崩壊した日本国のバブルは、国際合意に基づく政府の政策が引き金となったバブル事件として記憶されています。1985年9月22日、先進5カ国の財務大臣・中央銀行総裁による国際会議がニューヨークのプラザホテルで開かれ、ドル安容認並びに貿易黒字国の内需拡大政策への転換等が合意されています。プラザ合意と呼ばれる同合意は、アメリカの財政赤字の改善を目的としていたため、日本製品の輸出の勢いは抑えられることとなったのです。長期的な視点からしますと、プラザ合意は日本経済が衰退への向かう重大な転換点となのですが、同合意後の凡そ5年の間、日本国は、自らの基盤が揺らいでいるにも拘わらず、バブル景気に浮かれることとなったのです。
プラザ合意の合意事項においてバブルを引き起こした主たる原因は、貿易黒字国に求められた内需拡大政策にあります。同合意を受けて、日本国政府が公共投資の拡大方針を表明したため、政府の買い取りによる土地価格の値上がりを見込んだ投資資金が不動産市場に集中し、不動産バブルが発生したのです。同バブルは不動産市場にとどまらず、内需関連の株価を押し上げ、証券市場においてもバブルが波及します。かくして、実体経済と乖離した資産価格上昇が遂にバブルを崩壊させ、日本経済は、大きな痛手を受けることとなったのです。
政府がバブルを引き起こす危険性は、今日なおも消えたわけではありません。今般のGX投資についても、バブルの呼び水となるリスクもあります。過去のバブル時と同様に、政府が公共投資を含めてGX分野への巨額予算の投入をアナウンスしているからです(明確に巨額の投資額を示しているところが怪しい・・・)。このため、再生エネ関連の建設予定地の土地価格も上がることでしょうし、GX関連の株価も上昇することでしょう。とは申しましても、プラザ合意との相違点は、GXバブルは日本国のみに限定されない可能性を挙げることができます。そもそも、GX推進は欧米諸国で先行していますし、再生エネも、太陽光発電であれ、風力発電であれ、中国製品が世界市場を席巻しています。このため、GX推進は、一部の不動産市場や証券市場においてバブルを起こす一方で、日本国の製造業をさらなる窮地に追い込むかもしれません。
加えて、GXにつきましては、代替技術の不在問題が事態をさらに悪化させる怖れがあります。先日の記事でも指摘したように、現時点では、目標を達成するために必要な技術も、具体的なステップも示されていないからです。唯一の説明は、投資額を増やせば自然に技術開発が促進され、目標を達成できるとする漠然とした‘期待’です。あくまでも‘期待’ですので、人々の‘期待’どおりに開発が進むとは限らないのです。しかも、投資における‘期待’は、キャピタルゲインを狙った投機マネーをも引きつけます。GX分野に投資資金や投機マネーが集中する事態は、GX技術が未熟な状況下にあっては現実と期待値との間の乖離幅を広げ、実体経済と離れたバブルに拍車をかけるものと予測されるのです。そして、おそらく、世界権力は、バブルが崩壊する前に売り抜けて、巨万の利益を上げることでしょう。
果たして、150兆円規模の投資を打ち出したGXの推進は、人々に豊かな未来を約束するのでしょうか。同政策を裏から推進しているグローバル勢力にしか恩恵や利益が及ばず、しかもGXバブルの崩壊リスクを抱えるのであれば、ここにも日本国がGXの推進を立ち止まってみる必要性が見出せるのではないかと思うのです。