今般の米価高騰につきましては、誰もが真相に行き着くことができないような迷路めいた状況にあります。煙に巻かれているかのようですが、米価高騰との直接的な関連性については曖昧であるものの、一つだけ、はっきりしていることがあります。それは、昨年8月に大阪堂島商品取引所にて本格的に始動した米の先物取引が、日本国民にとりましては、特に食の安全保障上極めて危険な存在であると言うことです。
大阪堂島商品取引所は、2021年に株式会社化するに際してSBIホールディングスが株式の凡そ3分の1を占めるSBI系取引所として発足しています。いわば、民間の株式会社なのですが、政府との関係が皆無なわけではありません。何故ならば、同取引所は、2020年に管内閣が内外に向けて公表した「国際金融都市構想」に組み込まれているからです。香港が中国に飲み込まれた現状に鑑みて、日本国の東京、大阪、福岡をアジアの金融センターに育てようとする構想です。この流れにあって、大阪府並びに大阪市も「大阪国際金融都市構想」を策定し、2021年8月には、大阪府と大阪市は、SBIホールディングとの間に事業提携協定も締結されるのです。
こうした大阪堂島商品取引所をめぐる一連の動きからは、金融グローバリスト、日本国政府、大阪維新の会、SBIホールディングスを繋ぐラインがうっすらと浮かび上がってくるように思えます。SIBホールディングス側の構想は、同取引所を、大阪と神戸に誘致する「クロスボーダー型」の金融センターの中核に据えるというものであり(‘アジアにおけるクロスボーダーハブ型市場’)、将来的には、排出権や暗号資産などの取引も目指しています。実際に、同取引所の設立に際しては、アムステルダムを本拠地とするオランダの証券会社、オプティバーも出資しているのです(アジアでは、2005年以降に台湾、香港、シンガポールでも事業展開・・・)。
江戸時代にあって世界に先駆けて堂島では米の先物取引が行なわれたため、堂島商品取引所の名称の響きからから受ける印象は日本的です。ところが、その実態を見ますと、極めて‘グローバル色’が強いのです。この文脈からしますと、同取引所における米先物取引の開設も、日本国の米作農家のリスクヘッジ、即ち、収入の安定を目的としているとは思えないのです。
このように推測される理由は、同取引所で新たに発足した米先物取引の仕組みが海外向けであるからです。例えば、試験上場の期間には現物の受渡しが要件とされていましたが、昨年8月から始まる新制度では、同要件は削除されています。この変更には、重要な意味があります。何故ならば、受渡し条件がなくなったことで、同取引市場は、海外の投資家や金融機関等が容易に参加できるようになるからです。受渡しが条件ともなれば、輸送コストや保管コストもかかりますので、海外勢にとりましては高い障壁でした。そして、ここに、この受渡し義務のない取引とは、一体、どのような権利であるのか、という疑問を湧いてくるのです。
同先物市場は、農家のリスクヘッジを表向きの設立根拠(存在意義)として強調してきましたので、当然に、農家の側は、自らが生産したお米を将来の限月において契約相手に売却し、引き渡すものと考えられがちです(本ブログの記事でも・・・)。SBI証券をはじめ、お米の先物を扱う証券会社のみに受渡しが免除されていると推測していたのです。ところが、仮に、農家も証券会社を窓口にして先物取引に参加するのであれば、受渡し義務を負わないこととなります。つまり、所有権の移転が伴わない、売買の権利だけが取引されていることになり、全くもって農家にとりましてはリスクヘッジにはならないのです。
しかも、受渡し義務が解除されたためか、前もって証拠金を納めれば、驚くべきことに同額の50倍のお米を取引(買う)ことができます。シカゴ商品取引所でも、凡そ20倍程度にも拘わらず・・・。仮に1万円の証拠金を預託すれば、50万円分の売買が可能となり、利益も50倍となります。価格が2倍にでもなれば、取引手数料等が差し引かれるものの、レバレッジ(梃子)の効果が働いて1万円が凡そ50万円近くにも膨れ上がるのです。つまり、倍率が高いほどギャンブル性が高く、かつ、一刻千金を夢見る世界中の投機家達を呼び寄せることになりましょう。
これまで、農協は、先物取引に伴う集荷量の減少に加え、先物取引のギャンブル性を根拠として同市場の開設に反対してきたのですが、ここで再び驚かされるのは、2024年6月に堂島商品取引所の社長に就任したのが、農林中央金庫出身の有我渉氏であったことです。同氏が堂島商品取引所に入社したのは2024年2月のことであり、農林中央金庫は巨額損失の発生で揺れていた時期とも考えられます。同人事は、米先物取引市場開設に対する最大の抵抗勢力となってきた農協の反対を抑えるための露骨なまでの布石なのでしょうが、巨大機関投資家でもある農林中金との癒着も見受けられるのです。
大阪堂島商品取引所における米先物取引市場の開設の経緯は、日本国の食料の安定性が、巨大なマネー・パワーをもって、日本国のお米を含む全世界の産物の価格形成に対して主導権を握りたいグローバリストによって蝕まれている現状を表しているように思えます。米価高騰の底流で何が起きているのか、日本国民は、これを鋭く見抜くべきではないかと思うのです。