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迷い道くねくね(第3話)

2015-12-10 17:45:00 | インポート

テーマ曲  https://www.youtube.com/watch?v=qsb41XEYpFY

 

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「くっそ~!全く出んやないの。

もうかれこれ15,000円くらい突っ込んだんやないやろか。

それにしてもえらいことしてもたなあ・・・。

前田慶次くんよ、もうそろそろ勘弁してやってぇな。」

 

金ばかりを吸い込むパチンコ台を前にして八木は悔やんでみたところで後の祭り。

大体がパチンコなんて勝てる確率は非常に低いし、

時間に余裕のある時の暇つぶしだと判っていたはずなのに。

暫くしたこともなかったのに何故こんなことになってしまったのだろう。

 

サミット会場を探しに三宮まで来たまでは良かった。

 

2時間ほど前の道中の阪急電車でも作戦は万全だったはず。

利便性の良い三宮界隈を選択した以上は駅から徒歩圏、

まあ5分程度までで行ける範囲と考えたのだ。

最高幹部の大寒や小畑を長々と歩かせる訳にはいかないのは当然だ。

 

方角も一番賑わっている阪急沿線の北側としよう。

となれば駅を真っ直ぐ北に上がった加納町3丁目を東端として

そのまま西へは中山手通3丁目までとし、ぐるりと南に下る範囲、

丁度陣内と紀香が結婚式を挙げた生田神社を中心として囲う辺りで選べば良かろう。

また追加条件として大通りに面する1階にあるような目立つ店は避け、

ひっそりと落ち着けるような雰囲気なら尚良しである。

ここならあらゆるジャンルのお店、場所があるはず・・・だった。

 

頭で考えるのと実際はかなり、いや全然違うのよなあ。

絞り込んだはずのこの範囲でもあらゆるジャンルがあり過ぎて行けども行けども雑居ビルの群れまた群れ。

物理的にも数えられないくらいにある色々なお店に順番に入って行くなんて出来るはずがないのだ。

 

もう探索というより徘徊に近い状態でとぼとぼと疲れ果てている時にふと目に着いたのが「癒しマッサージ」。

看板を見ると料金は5,000円~となっている。

風俗系の店じゃなく単に足や肩を揉む普通のマッサージ店だ。

 

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素直にリフレッシュして気を取り直して探せば良いものを生来のセコイ性格が邪魔をして

躊躇している瞬間、数十メートル先にあるパチンコ屋の看板がその目に入っただけ。

まずここでアンマ代を稼いでから疲れを癒してもらおうじゃないのと軽く考えたのが悪かった。

 

イライラして煙草を喫おうとしてメビウスワンの箱を覗けば残りは今の八木と同じシケタ数本だけ。

悪いことにライターを持って出るのを忘れたようでもう今日は三隣亡なのか。

 

ふと横を見れば左隣の女が細めのメンソール煙草とライターを

台の前に重ねて置いて悠然と打ってるではないか。

パチンコするさまも何だかすごく手慣れた感じ。

 

一瞥したところ30代前半位だろうか。

スラリとしたスタイルでさらさらした長髪、革ジャンにジーンズ、足元はブーツと

バイクに乗ってきたような容姿は好みのタイプじゃないが世間一般にはまず美人の部類である。

 

すぐに声を掛けるような真似をしないのはシャイ、

いやその隣の彼氏とかがいて不要なトラブルを避けたい気もあったのさ。

慎重に周囲を見渡してもどうやら独りで遊んでいるように見える。

「草」として騒ぎを起こすような軽率な行動は厳に慎まねばなるまい。

 

吸いたい気持ちを暫く抑えながらじっと彼女が煙草を咥えて火をつける瞬間を絶妙なタイミングを

見逃さず片手で軽く会釈し火を借りるのも隠密としては当然だろう。

 

満悦している場合じゃなかったぜ、一服してほっとしたのはその時だけ。

懐の寒さ具合が段々と気になりだして、そろそろもう止めようと思った時だった。

同じように目の前で喫っていた慶次がいきなりキセルを振りかざしてきたのだ。

 

 

30分後、既に費やした以上に十分潤っているのはもう間違いなかった。

連荘に次ぐ連荘で確変が止まらない。

合間に一旦手を止め缶コーヒーを2本買い彼女に1本渡したのは書くまでもない。

それからは火を借りるのもいちいち声掛けすることなくフリーパスでハッハッハ~。

 

昔と違って最新のシステムは出玉を箱に積み上げるような事をしないのを

知っている者は現役のパチンカーだな。

自動的に受け皿から球が台に収納されてカードにカウントされるようになっているので

省スペース性も考えられている訳だが慣れない大当たりでそれを探す余裕がない。

 

クールビューティみたいなのが苦手な八木でも受け皿に球が溜まって戸惑っていると

黙ってスッと横からレバーを引いてくれた彼女に好感を持つのは成人男性としてはごく当然だろう。

 

俺が来る前から打ち続けていて一度も出ていないのは相当負けが込んでるはずだが、

何て優しい女だろうか。

おっと、こちらもそろそろ今日本来の目的に戻らねばならない。

 

こうなると小心者の贅沢な悩み、早く終わってくれないかなんてね。

換金して諭吉君一人くらいは彼女に渡して去っていくなんて妄想をしていた。

「情けは人の為ならず」なんて大袈裟な話じゃなく結構ゲンを担ぐタイプの男なのである。

他人に良いことをすりゃ後からきっと俺にも良いことがあるだろう程度の話さ。

 

が、八木が思うよりも先に彼女は立ち上がり、

「使い捨てですけど良かったらこれどうぞ。」と

黒いBICライターを置いて静かに去って行ってしまったのだ。

「ヤラレタ~ァ!」

 

行動は迅速を旨としなければならない。

カッコ良く決めるタイミングを逸した後に精算した八木は理想と現実、

思考と行動のちょっとしたギャップを反省しつつ再び夜の三宮へと繰り出して行ったのであった。

無事に任務を達成できるのかこの時点では全く目処は立っていない。

 

さあどうするよ八木。

 

 

(ああまた終れなかった、本来の使命に戻れるのはいつになるやら。)