報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスターⅡ” 「季節外れのマッチ売りの少女」 2

2019-05-09 19:15:24 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月4日11:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 台原森林公園]

 ※当作品で仙台市は青葉区しか登場していませんが、これは青葉区がはっきり言って広過ぎるだけです。さいたま市で1番広い岩槻区よりも更に広い。

 笠売りの爺さん(鏡音レン):「これからどうしたらいいんじゃ?」
 マッチ売りの少女(鏡音リン):「魔女っ娘の使命は末法濁悪の世の中を正すこと。私に任せて」
 ナレーター(初音ミク):「そう言うと、少女は徐に地面落ちていた魔法のステッキを拾い上げました。そして、それを振り回しながら呪文を唱えたのです」
 少女:「謗法罪障どーこだ?」
 ナレーター:「何ということでしょう。少女の放った光の矢が近くの御屋敷に痛烈ヒットしたではありませんか」
 少女:「あそこ!行ってみよう!」
 爺さん:「よ、よし!」
 ナレーター:「少女は軽い足取りで、お爺さんは老体に鞭打って、光の矢が直撃した御屋敷に向かいました。いかにも風格漂う武家屋敷に光の矢が当たり、そこから発火したせいで、御屋敷は燃え上がっていました。そこへ現れたのは……」
 大石内蔵助(エミリー):「もしや、この屋敷に火を放ったのはお前達か?」
 爺さん:「だ、誰がこんなことを!?」

 敷島孝夫&敷島峰雄:「キミ達だよ」

 少女:「ごめんなさい。こんなことになるとは思わなかったの」
 大石内蔵助:「いや。おかげでこの火事に乗じ、吉良邸に討ち入ることができた。御協力、感謝する」
 少女:「何をしているの?」
 大石内蔵助:「我が主君の仇、吉良上野介の首を討ち取りに来たのだ!」

 孝夫:「今度は忠臣蔵?MEIKO辺りの入れ知恵か?」
 峰雄:「む!日本でクリスマスといったら、やはり忠臣蔵だな」
 孝夫:「吉良邸討ち入りはまだ旧暦だから、今の暦と合ってませんよ」

 吉良上野介(シンディ):「はーっはっはっはっはーっ!」
 大石内蔵助:「む!出たな、吉良!!」
 吉良上野介:「主君の仇討ちとは面白い!返り討ちにしてくれるわ!」

 ジャキッ!ガチャガチャ!(シンディの右手がマシンガンに変形する)

 吉良上野介:「食らえっ!」

 タタタタタタタタタタ!(機銃掃射の音)

 大石内蔵助:「危ない!」

 大石内蔵助役のエミリー、ボカロ姉弟を守るように弾幕を受け止める。

 峰雄:「まさかこの為に野外ステージを選択したのかね?!」
 孝夫:「屋内ステージだと、建物に銃弾が当たっちゃうんで……」
 峰雄:「実弾か!」

 少女:「あれが末法濁悪の根源、第六天魔王の手先にして魔女っ娘の敵!」
 爺さん:「ひ、ひええ!」
 大石内蔵助:「飛び道具とは卑怯なり!されば我も飛び道具を使わん!」
 吉良上野介:「何ぃ!?」

 大石内蔵助役のエミリー、右手をショットガンに変形させる。

 峰雄:「ちょっとやり過ぎじゃないかね!?流れ弾が観客にでも当たったりしたら……」

 だが、観客席は大盛り上がり。
 スタンディングオベーションが起こるほどだ。

 孝夫:「いや!バカ受けです!」
 峰雄:「何っ?!」
 孝夫:「世の中、何がウケるか分かりませんね!」

 最後には吉良上野介が倒されて、ストーリーは大団円。
 尚、鋼鉄姉妹の銃火器装備はイベント時においてのみ再装備可能という取り決めをちゃっかり決めていた。
 但し、実弾まで良かったかどうかは【お察しください】。
 カーテンコールまで行って、舞台は無事に終了した。

 平賀:「皆、お疲れ様。今日は敷島峰雄会長が御覧下さったらしい。会長がこちらにお見えなんで、皆はご挨拶を……」

 控え室に敷島家の2人が入って来た。

 孝夫:「よお、皆。お疲れさま」
 リン:「社長!あのねあのね!リン、頑張ったYo!観ててくれた!?」
 孝夫:「もちろんだとも。よく頑張ったな」
 リン:「えへへ……」(∀`*ゞ)
 シンディ:「会長がお見えになってるんだから、騒がないの」
 リン:「はーい」
 孝夫:「会長、何か一言」
 峰雄:「あー、うむ……。えー、キミ達の演劇については、前回のシンデレラに続いて第2段目なわけだが……。正直、途中まではとても心配で、いつ孝夫に中止命令を出させるか冷や冷やさせられた。だが、終盤で大いに巻き返した。これは評価に値するものだと思う。公演は今日一日だけであるが、午後の部もこの調子で頑張ってもらいたい。以上」

[同日16:00.天候:晴 同場所]

 初音ミク:「大胆不敵に♪ハイカラ革命♪磊々落々♪反戦国家♪」

 午後の部の公演で時間が余り、せっかくボカロ全員集まっている為、サービスで“千本桜”を披露するボカロ達。
 本来、初音ミクの持ち歌であるが、現在は全ボカロがカバーしている為、全員合唱も可能。

 敷島:「よーし、皆、車に乗ってくれ」
 平賀:「うちの研究室まで来てください。ボカロ達の整備やりますんで」
 敷島:「すいませんね」
 平賀:「いえいえ。ついでにうちの学生達の見学もさせてもらいますから」
 敷島:「なるほど。そういうことですか」

 明日はいよいよ最終日。
 アリーナでのライブが控えている。
 レンタカーで借りたワンボックスを大学に向けて走らせている時、平賀が言った。

 平賀:「もうゴールデンウィークも終盤に差し掛かっているのに、何のテロも起きませんね」
 敷島:「もちろんその方がいいんですけどね。でも、確かに何も起こらなさすぎるのも、それはそれで気味悪いなぁ……」
 平賀:「やはり敷島さんではなくて、吉塚博士の関係者を狙っただけなんでしょうか?」
 敷島:「ここまで来ると、そんな気がしてきますなぁ……。しかしそうなると、仙台駅でのテロは、あの近くに吉塚博士の関係者がいたということになります」
 リン:「社長、そのことなんだけど……」
 敷島:「ん?」

 助手席の後ろに座っているリンが、運転席にいる敷島の横に顔を出した。

 リン:「あのメイドロイドが新幹線から降りて来た時、一緒に降りて来た人間がいたの」
 敷島:「だけどその人間は無関係だったって、鷲田警視が言ってたぞ」
 シンディ:「社長。私達と違って、メイドロイドは基本的に与えられた命令でしか動きません」
 敷島:「知ってるよ、それくらい」

 先に気づいたのは平賀だった。

 平賀:「敷島さん、シンディが言いたいのはこういうことですよ。メイドロイドというのは、基本的に留守番です。外に出る場合は、家事の一環として買い物などに限られます。それ以外は、基本的にユーザーの目の届かない所に勝手には行けません」
 敷島:「と、いうことは……?」
 平賀:「あの場には、メイドロイドに爆弾を仕掛けて敷島さんの所へ向かわせた犯人がいたってことですよ。メイドロイドの特性を知った人間がね」

 たまたま一緒に降りた乗客を偽ユーザーに仕立て上げるということは、メイドロイドは勝手に単独行動ができないプログラムであることを知っているということだ。

 リン:「赤い新幹線から降りて来たYO」
 敷島:「俺達の乗った車両の前方に連結されていた“こまち”の車両か……。やっぱり私が狙われたんじゃないですか?」
 平賀:「エミリーやシンディがいる中で、上手く行くとは思えませんけどね。後でエミリーやシンディのメモリーを解析させてもらえませんか?彼女達の視界の中に、本当のテロ対象者がいたのかもしれない」
 敷島:「いいですよ」
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“アンドロイドマスターⅡ” 「季節外れのマッチ売りの少女」 1

2019-05-09 10:14:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月4日10:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 台原森林公園イベント特設会場]

 敷島峰雄:「よお。遊びに来たぞー」
 敷島孝夫:「何ゴルフ行くような恰好で来てんスか」
 峰雄:「ゴルフ行くついでなんだからしょうがない」
 孝夫:「本社の役員さんは羨ましいですなぁ」
 峰雄:「何言ってる。お前も本社の役員に名前があるだろうが」
 孝夫:「名ばかりですよ。それより、今回は観ない方がよろしいかと」
 峰雄:「“初音ミクのシンデレラ”は大好評だった。期待を持つのは当然じゃないか」
 孝夫:「前回はちゃんとした脚本家さんに脚本をお願いして、準備も万端だったから良かったようなものの、今度はボカロ達の自演乙ですよ?」
 峰雄:「刷り上がったパンフレットを見る限り、面白い流れになるように感じたがね?」
 孝夫:「まあ、それは『パッケージ詐欺』と言いますかぁ……」
 峰雄:「は?……コホン。因みに午後の部には、俊介も来るからよろしく」
 孝夫:「マジっスか!」
 峰雄:「この演劇が期待通りのものだったら、四季劇場での公演を前向きに考えよう」
 孝夫:「じゃあ、期待しない方がいいな」
 峰雄:「孝夫は随分と今回は自信が無いようだが、リハーサルを観たのかね?」
 孝夫:「いや、今回はぶっつけ本番です。何かメチャクチャになるような感じだったんで、途中で公演中止命令を出すかもしれません」

 客席最後列に座る敷島家の2人。
 孝夫の手元にはロイド達の動きを制御する端末(子機。親機は敷島エージェンシーの社長室内にある)がしっかり握られていた。
 と、そこへ最古参ボーカロイドのMEIKOがステージに現れた。

 MEIKO:「会場の皆さん、おはようございます。本日は敷島エージェンシー特別公演、“季節外れのマッチ売りの少女”にお越し頂き、真にありがとうございます。私、本イベントの進行を務めさせて頂きますMEIKOと申します。どうかよろしくお願い致します」

 峰雄:「遠くから見る限り、人間と変わらんな」
 孝夫:「それがロイドの最大の特徴です」

 暗い所で見れば体のあちこちで電源ランプなどの小さな光が漏れているので、それで人間と見分けがつく。

 峰雄:「それにしても“マッチ売りの少女”は、夜だろう?こんな明るい所の、それも野外会場で行うというのは如何なものかね?」
 孝夫:「その理由、終盤になれば分かりますよ」
 峰雄:「ええっ?」

 こうして、物語が始まった。

 ナレーター(初音ミク):「それはそれはとても寒い夜のこと、1人の少女が街角でマッチを売っていました」

 峰雄:「おい、トップアイドルにナレーターさせてるのか?」
 孝夫:「配役上、ミクに適役のキャラが無かったんですよー」

 マッチ売りの少女(鏡音リン):「マッチ。マッチ。マッチは要りませんかー?」
 ナレーター:「しかし、家路を急ぐ人達は誰もマッチを買ってくれません」
 少女:「ダメ……。誰も買ってくれない……。どうしよう……」
 ナレーター:「と、そこへ笠売りのお爺さんが現れました」
 笠売りの爺さん(鏡音レン):「お嬢ちゃん、笠は要らんかえ?」

 孝夫:「えっ!?」
 峰雄:「おい、何か『まんが日本昔話』みたいなのが混ざって来たぞ?どうなってる?」
 孝夫:「え、ええと……」

 爺さん:「これは病気の婆さんが夜なべして作った丈夫な笠じゃ。要らんかえ?」
 少女:「お金が無いの……」
 爺さん:「大丈夫かい?」
 少女:「寒い……」
 爺さん:「あい分かった。それでは、これを燃やして温まろう」

 峰雄:「燃やすんだ!?」
 孝夫:「お婆さんがせっかく作ったのに!?」

 人間の苦労、ロイド知らず。
 で、少女(リン)はバスケットに入ったマッチを取り出し、本当に着火した。

 孝夫:「本当に火ィ着けてるし!?」
 峰雄:「防火は大丈夫なのかね!?」
 孝夫:「ぼ、ボーカ(防火)ロイドですから」
 峰雄:「こらっ!」

 ナレーター:「何ということでしょう。笠が小爆発を起こすと、煙の中から怪しい男が現れたではありませんか。それはまるで、悪魔のような姿でした」
 悪魔(KAITO):「この私を呼んだのは貴様らか?」
 少女:「だ、誰!?」
 悪魔:「お前達は選ばれた。末法の世に蔓延る濁悪を祓いし魔女っ娘に!」

 孝夫:「な、何だこの流れ?」
 峰雄:( ゚д゚)ポカーン

 悪魔:「受け入れよ!我が悪しき力を!」
 少女:「うん、分かったっ!」

 孝夫:「即答かよ!?」

 悪魔:「良い覚悟だ。それでは……」
 爺さん:「お、お待ちくだせぇ!ワシも一緒に、魔女っ娘にしてくだせぇ!」
 悪魔:「ほお?何ゆえ貴様も魔女っ娘に?」
 爺さん:「魔法の力を手に入れ、悪どいことをしてお金を稼ぐんじゃ!」

 孝夫&峰雄:「魔法で治そうとは思わないんだ!?」

 ロイドと人間の感覚はまだズレているようだ。

 悪魔:「自らの三毒ぶりを臆面も無く曝け出すとは……。いいだろう、それこそ人間だ。それでは……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
 ナレーター:「何ということでしょう。悪魔の前に大きな光の玉が現れ、それが見る見る魔法のステッキに変わったではありませんか」
 悪魔:「しかし残念だ。魔力を行使する杖は一本しか無い。戦って勝った方が杖を手にしろ。さあ、戦え!流血の惨を見る事、必至であれ!!」
 ???:「ちょおおおおおっと待ったぁぁぁぁぁっ!!」
 悪魔:「ぬ!?」

 舞台袖から突如として現れたのは、妖精の恰好をした巡音ルカ。

 妖精(巡音ルカ):「私は魔法の妖精!皆!こんな怪しい男の言う事に従ってはダメだよ!」

 着地した際、ルカの巨乳(90cm)がボインと揺れる。
 観客の男性衆、うんうんと頷く。

 悪魔:「貴様は何者だ!?」
 妖精:「人々の心を弄ぶなんて許せない!たぁーっ!!」

 妖精、手持ちの杖を悪魔に振り上げる。
 それを迎え打つ悪魔。
 杖が交差して、激しい火花を散らせる。

 妖精:「ここは私に任せて、キミ達は先に行って!」
 少女:「あなたを置いてなんて行けない」
 爺さん:「んだんだ!」
 妖精:「ありがとう……。キミ達と一緒にいた時間……忘れないよ……」

 孝夫:「1分も経ってねーぞ、おい!」

 悪魔と妖精の下からボンッと煙幕が上がる。
 その煙幕に乗じて、悪魔と妖精は舞台袖に急いで引き上げる。

 爺さん:「い、一体、何だったと言うんじゃ……?」
 少女:「2人とも消えちゃった……」

 途方に暮れる少女と爺さん。
 足元には悪魔が遺して行った魔女っ娘用のステッキだけが落ちている。

 ナレーター:「この2人は一体どうしたら良いのでしょうか。次回に続きます!」

 峰雄:「前後半分けかね!?」
 孝夫:「字数の都合らしいですね」
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“アンドロイドマスターⅡ” 「初日の夕食会」

2019-05-08 19:16:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月27日18:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 市街地の飲食店]

 アリス:「日本の牛肉は脂身が多過ぎるわね」
 村上:「日本人はサシの入りで価値を決めるからのぅ……」
 敷島:「すいません、ビールもう一杯!」
 アリス:「飲み過ぎよ!」
 敷島:「飲み放題にしてるんだからいいだろうが」
 ロイ:「博士、お肉の方、もう少し小さくお切りになりませんと、喉に詰まってしまいます」
 村上:「ぬ?では、あとどのくらい切れば良いのだ?」
 ロイ:「0.01ミリは……」
 村上:「人間にとってその誤差は些事!のう?敷島社長よ」
 敷島:「そうですね!(嫌味か!このクソジジィ!)」

 ※敷島とアリスの結婚の経緯については設定が錯綜してしまっている。ネタによっては、デキ婚というのがある。敷島があまりにも薄いコンドームを使用してしまった為に破れてしまい、アリスを妊娠させることとなる。村上はこのことを言っている。アリスは敷島に責任を取らせる為に、シンディを使って追い回したとか。

 村上:「いいからオマエはオマエで楽しんで来い」
 ロイ:「シンディさんから『半径50メートル以内に近づくと狙撃する』と警告されまして……」
 エミリー:「シンディ、照れ屋さん」
 シンディ:「うるっさいわね!」
 村上:「アリスや。この2人の関係、良い研究対象になるとは思わんかね?」
 アリス:「接待はエミリーに任せて、シンディとロイは外に出てなさい!」
 シンディ:「ええっ、そんなぁ!」
 ロイ:「アリス博士!ありがとうございます!」
 敷島:「シンディ。人間の言葉に、『因果応報』という四字熟語がある。お前がキールのことでエミリーをイジッた罰が出たってことだよ」
 シンディ:「……分かりました」
 ロイ:「それでは改めまして、花束の方を……」
 シンディ:「いらねーよ!」

 執事ロイドとマルチタイプが店外に出る。

 村上:「ほれほれ、トニーや。今回はお爺ちゃんの奢りじゃ。どんどん食べて大きくなるのじゃぞ?」
 トニー:「んー!これはいけるぅ!」
 アリス:「野菜も食べなきゃダメよ」
 敷島:「なにさり気なく祖父役やってんスか。いくら天涯孤独とはいえ……」
 アリス:「いいじゃない。たまには孤独な爺さんを食事に呼ぶくらい」
 敷島:「その孤独な老人に飯代出させて何言ってんだよ」
 アリス:「うちのじー様も孤独だったんだからね」
 敷島:「ウィリーの場合は自業自得だろうが」
 村上:「ワシは若い頃から仲間に囲まれて楽しくやれていたからいいようなものの、ウィリーと組みたがる者はいなかったと聞く。その孤独さが彼を狂わせる遠因にもなったのじゃろう」

 と、そこへ敷島のスマホが鳴る。

 敷島:「おっと。ちょっと失礼。井辺君からだ」

 敷島は電話に出た。

 敷島:「はい、もしもし?」
 井辺:「社長、お疲れ様です」
 敷島:「おー、井辺君。お疲れさん」
 井辺:「先ほどメールを送らせて頂いたのですが……」
 敷島:「メール?あ、パソコン、ホテルに置きっ放しだ。後で見るよ。今、飯食ってる最中だし……」
 井辺:「お食事中、失礼しました」
 敷島:「いや、いいんだよ」
 井辺:「実は社長にご報告があるのですが、仙台でのイベントの中にボーカロイド達の演劇がありましたよね?」
 敷島:「ああ。“初音ミクのシンデレラ”が思いのほか評判だったんで、第2段をやろうって話だろ?でも結局、本社から承認下りなかったじゃないか。せっかく会場は借りられたのに残念……」
 井辺:「それが、会長が多大な関心を御寄せになられたようで、会長権限で承認されました」
 敷島:「マジ!?だってあれ、『ネタがフザけ過ぎてるからダメ』って伯父さんから却下されたヤツだぞ?」
 井辺:「それが、会長は『何でもやってみるのが敷島家の家訓』とか仰いまして……」
 敷島:「その家訓のせいでバブル崩壊後、四季グループの経営が一時傾いたとか聞いてるんだがなぁ?景気を持ち直したらまたこれだよ。ネタはどうすんの?」
 井辺:「ボーカロイド達が決めた、アレでやるしかないですよ」
 敷島:「えー?あれやんの?」
 井辺:「もう時間がありませんから。脚本から衣装から作り直すことは難しいです」
 敷島:「“初音ミクのシンデレラ”は下準備ができていたから、まあ何とか上手く行ったようなものだ」

 ボーカロイドだけでなく、マルチタイプ達も参加したのが評判だったようだ。
 『美しすぎるガイノイド』と評判のマルチタイプ達にも、仕事のオファーが来るほど。

 敷島:「あれねぇ……」
 井辺:「どうします?社長の権限で却下しますか?」
 敷島:「……いや、分かったよ。会長がやれって言うんならやるよ。本当はトークショーとかミニライブとかで繋ごうと思ったんだがなぁ……」
 井辺:「それでは演劇をやるという方向でこちらでも話を進めます」
 敷島:「うん、よろしく。仙台の方は俺に任せてくれ。井辺君は東京の方を頼む」
 井辺:「分かりました」
 敷島:「静岡の方でキナ臭い事件があったからな、油断はするなよ?」
 井辺:「社長ご自身も、仙台駅で狙われたそうじゃありませんか。社長こそお気をつけください」
 敷島:「分かってるよ。こっちには人型兵器が2機も配備されてるからな。いざとなったら、爆装させて出撃させるさ」
 井辺:「頼もしいお言葉です」
 敷島:「井辺君だってKR団に狙われたんだからな。井辺君にも護衛を付けないとダメだろう」
 井辺:「あ、それなら今……」
 敷島:「ん?」
 萌:「しゃちょーさーん!井辺さんはボクが護りますから安心してくださーい!」
 敷島:「萌か!科学館の仕事はどうしたぁ!?……って、科学館はもう閉館時間か」
 井辺:「西山館長が『閉館時間の間だけならいい』ということにしてくれまして……」

 恐らく今、妖精型ロイドの萌は井辺の肩に乗っていることだろう。
 妖精を肩に乗せて歩くボーカロイド専門芸能プロデューサーの姿を想像して、敷島は笑いがこぼれてしまった。

 敷島:「体の小さい萌がどのくらい役に立つのかは知らんが、一応、防犯にはなるだろう。何かあったらすぐ連絡してくれよ。……それじゃあ」

 敷島は電話を切った。

 トニー:「パパー?」
 村上:「フォフォ。パパは仕事が忙しいのじゃよ。お小遣いあげようの」
 トニー:「わぁい♪」

 血の繋がった祖父のいないトニー(敷島峰雄会長などの大叔父はいる)。
 血の繋がった孫のいない村上(兄弟の子供はいるらしい)。
 双方、利害が一致した瞬間であった。
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“アンドロイドマスターⅡ” 「東北工科大学」

2019-05-05 19:00:43 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月27日16:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・大講堂]

 平賀:「敷島さん自らお見えになるとは、相変わらずですね」

 第一の会場となる東北工科大学に行くと、設営会場に平賀がいた。

 敷島:「先生だって自らいらっしゃるじゃないですか。しかし、この大講堂をお借りできるとは恐縮ですね」
 平賀:「今まで借りることができなかったことが不思議なくらいです」
 敷島:「ここでは明日、リンとレンが使わせて頂きます」
 平賀:「では早速マイクテストを……」

〔「もうやってるYoー!」〕

 キーンと響くリンの声。

 敷島:「こら!勝手にマイクいじるんじゃない!」
 平賀:「ははは、相変わらずだ」
 敷島:「全く……」
 平賀:「彼らの動きは予定通りでいいですか?」
 敷島:「よろしくお願いします。サプライズでミクも出演させますから」
 平賀:「ミクだけ全会場出ずっぱりですか。さすがはトップアイドルですなぁ」
 敷島:「整備状態が良いからですよ。ただ、やっぱりミクが1番ボディの消耗が激しいようです」
 平賀:「機械というのは使えば使うほど消耗するものです。大丈夫ですよ。代わりのボディは用意しますから」
 敷島:「よろしくお願いします」

〔「オーッホッホッホッホ!さあ、跪きなさい!」〕

 エミリー:「おい

 たまたま屈んでいたエミリーに向かって、“悪ノ娘”の決め台詞をかましたリンに対し、マジレスするエミリー。

 敷島:「ここでは歌うだけですからね。ここでは」
 平賀:「さすがにもう、“悪ノ娘”のミュージカルはキツいですねぇ……」

 歌って踊れるアンドロイドという触れ込みのボーカロイドが、初めてミュージカルにチャレンジしたものだ。
 だが、そこでもウィリアム・フォレスト博士の妨害が入り、暴走させられたレンに敷島が刺されるなどの事件も起きている。

 敷島:「先生、御夕食はどうなさいますか?」
 平賀:「今夜はアリスやトニー君と水入らずでしょう?自分は遠慮しておきますよ」

 アリスはウィリアムの養孫である為、今では和解しつつも、距離を取る平賀だった。

 敷島:「最終日の打ち上げは?」
 平賀:「それは前向きに考えます」
 敷島:「了解しました。場所は国分町で?」
 平賀:「いいですねぇ」

 と、そこへ……。

 村上:「よお!商売ご苦労さん!」
 敷島:「村上博士。明日からよろしくお願いしますよ?」
 村上:「任せとけ。老体に鞭打ってケアしたるわい」
 ロイ:「えっと……シンディさんは?」
 エミリー:「妹はアリス博士に付いて市街地におられる。残念だったな?」

 明らかにシンディに渡しに来たであろう花束を手にしたロイに対し、エミリーは馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
 ロボットだった頃は絶対に浮かべることのない表情であった。
 それがまた微笑に変わる。

 エミリー:「私のことを『尻軽女』と呼んだ愚妹だ。お前がシンディを『尻軽』にしてやれ」
 ロイ:「えっ?それってお姉さま公認で!?」
 エミリー:(ウザ……
 村上:「まあ、ワシも夕食の予定は無かったし、もし良かったらワシが夕食の面倒を看るぞ?」
 敷島:「えっ、本当ですか?」
 村上:「おーう。何がいい?」
 敷島:「アリスのヤツが、デッカいステーキ食いたいとか抜かしてまして……」
 村上:「アメリカ人は特別な時にステーキを食べる傾向があるからの」
 敷島:「そうなんですか?何か、毎日食ってるイメージですけどね」
 村上:「日本人が毎日魚食べてるわけじゃなかろう。そういうことじゃよ」
 敷島:「それもそうか。キースとクエント(※)もハンバーガーばっかり食ってたし」

 ※アメリカ編に登場したDCIの社員のこと。

 村上:「明日からボーカロイド達のお祭りじゃ。アリスにとっても、特別な期間の前夜ということじゃろう」
 敷島:「なるほど……。でも、トニーも一緒なんです。できれば、お子様メニューもある所で……」
 村上:「ロイ。直ちに市街地限定で検索し、すぐに予約せい」
 ロイ:「かしこまりました」

 村上大二郎製作の執事ロイド、ロイは恭しく御辞儀した。
 イケメン執事というよりは武闘派のように体が大きく、プロレスラーのような体型。
 執事というよりSPに近い。
 それがシンディの前ではデレるのだから、姉のエミリーにもウザがられているわけである。
 で、当のシンディからも避けられている。

 敷島:「酒が入るから車はダメですね。エミリーはタクシー2台呼んでくれ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーも恭しく御辞儀をした。
 そして、店を検索中のロイに対し、含み笑いを浮かべてその場を去った。

 敷島:「ロイド同士でも色々あるようですよ?」
 村上:「それが私の今の研究テーマじゃ。我々、人類がしっかりせねばならん」
 敷島:「エミリーからは『アンドロイドマスター』と呼ばれ、人間型兵器のエミリーが唯一何でも命令を受ける人間が私だけということですが……。私1人だけというのも荷が重いですなぁ」
 村上:「『不死身の敷島』が、何を弱気になっておる?歳でも取ったかね?」
 敷島:「……かもしれません」
 平賀:「すいません。自分が不甲斐無いばっかりに……」
 村上:「全く。南里博士もウィリー博士も、とんでもない化け物を造ってしまったの。お陰様で、使いこなせる人間が1人しかおらん」
 敷島:「何とかトニーを教育するしか……」
 村上:「あいつらのことじゃから、『息子じゃありがたみがない』とか言いそうじゃぞ?」
 敷島:「う……」
 平賀:「井辺プロデューサーはどうですか?少なくとも萌のマスターにはなれてるわけでしょ?ボカロ達からの信頼も勝ち取ったようですし……」
 敷島:「妖精型ロイドやボーカロイドのマスターにはなれても、マルチタイプからは下に見られているようです」
 村上:「難しいところじゃの。日本の人口1億2千万人、これだけおればもう1人くらいいても良さそうなものじゃが……」
 敷島:「そうですね」
 ロイ:「博士。レストランの予約が完了しました。博士のお名前で予約しております」
 村上:「うむ。御苦労」
 エミリー:「社長。タクシーの予約が完了しました。10分後に参ります」
 敷島:「了解。ありがとう」

 メイドと執事としての性能は同等ではないかと敷島は思った。

 敷島:「アリスに電話しておこう」

 敷島はスマホを取り出し、アリスに電話した。
 村上が参加することに当初は難色を示したものの、完全に村上の奢りだと聞いたら喜んでいた。

 敷島:「すいません。タダ飯とタダ酒には目が無いアリスでして……」
 村上:「知っておる。子供が生まれる前までは、『朝までコース』必至じゃったんじゃろ?とにかく、タクシーが到着次第、出発しよう」
 敷島:「おーい!リン、レン!そろそろ行くぞ!」
 リン&レン:「はーい!」
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“アンドロイドマスターⅡ” 「仙台入り」

2019-05-03 17:41:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月27日14:07.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線、仙石東北ライン、仙台空港アクセス線、仙台市営地下鉄南北線と東西線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。仙台の次は、古川に止まります〕

 列車が仙台市内に入ると速度を落とし始めた。

 敷島:「ボーカロイド営業、発祥の地に到着だ」
 アリス:「マルチタイプの日本国内における活動開始の発祥でもあるわけね」
 敷島:「そういうことだな」

〔「到着ホーム11番線、お出口は右側です。仙台からのお乗り換えをご案内致します。……」〕

 敷島エージェンシー所属のボーカロイドとしては(設定年齢)最年少の鏡音リンとレンが、充電コンセントを抜いた。

 鏡音リン:「エネルギー充電100%」
 鏡音レン:「同じく」
 敷島:「ルンバが自分で充電しに行くというだけでも凄いのに、こっちはとっくにやってるからな」

 列車は下り副線ホームに入線した。
 終着というわけでもないし、速達列車に接続するというわけでもないのに、何故か本線ではなく副線に入る列車が多い。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物、落し物の無いようご注意ください。11番線の電車は全車両指定席の“はやて”337号、盛岡行きです。……」〕

 ここで降りる面々。

 敷島:「先にホテルに荷物を置いて行こう。もうチェックインできるはずだから」
 エミリー:「かしこまりました。それでは、こちらへ」
 リン:「ちょっと待って。トニー君、発車する所見たいんだって」
 敷島:「そうか」

 “はやて”337号は2分停車である。
 敷島達の乗ったE5系10両編成の前にはE6系6両編成が連結されている。
 これで16両編成という新幹線ならではの編成車両数を誇ってはいるが、フル規格の編成ではない。
 リンとレンがトニーをE6系の前まで連れて行った時だった。

 リン:「!」

 11号車はE6系のグリーン車である。
 そこからメイドロイドが降りて来るのが分かった。
 どうやら量産型のようである。
 誰かと一緒のようだから、付き人としての任務だろう。
 そうしているうちに、発車メロディが鳴り響く。
 “青葉城恋唄”の生演奏を録音したものである。

〔11番線から、“はやて”337号、盛岡行きが発車致します。次は、古川に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 鏡音レン:「もうすぐ発車するよ」
 トニー:「おー!」

〔「11番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ピー!という客終合図と共に、リンは背後で大きな音を聞いた。

 鏡音リン:「!!!」

 振り向くと険しい顔をしたマルチタイプ姉妹、エミリーは件のメイドロイドを抱え上げて飛び、シンディは敷島夫妻を庇うような恰好になっていた。
 エミリーのブーツに仕掛けられた超小型ジェットエンジンは大きく噴いて、駅の外へと飛び出す。
 更にエミリーは駅の上空まで高く上がると、メイドロイドを放り投げた。
 と、同時に爆発する。
 駅の上空で大きな爆発音が響いた。

[同日16:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル法華クラブ仙台]

 敷島:「あれは俺達を狙ったテロだったのか?」
 アリス:「分からないわね」

 あの後、警察から事情を聞かれた敷島達だった。
 エミリー達、マルチタイプはメイドロイドの体内に爆弾が仕掛けられていたことを見抜いた。
 そして、それが起動中であったことも。
 爆発の規模からして、もしホーム上で爆発していたら、敷島達はもちろん、ホーム上や列車にまで被害が及んでいたことだろう。

 敷島:「鷲田警視に頼んで、そろそろエミリーにも表彰状出してもらうように言っておくよ」

 どうしても表彰されるのは、持ち主の敷島になってしまうのだが。

 エミリー:「私は別に結構です。社長方が御無事であれば」
 敷島:「いやいや。犬に感謝状が出るくらいだぞ?ロイドに出してやったっていいだろうが」
 アリス:「それにしても、何だか中途半端ね」
 敷島:「何が?」
 アリス:「静岡の時でもタカオが行く先で爆発したでしょ?」
 敷島:「富士宮な。新幹線が遅れて助かったよ」
 アリス:「で、今回は仙台駅のホームと」
 敷島:「そうだな」
 アリス:「やろうと思えば走行中の新幹線を爆弾テロできるのに、どうしてわざわざ新幹線を降りてから狙うようなことをするのかしら?」
 敷島:「無差別テロをする気はなく、ただ俺を狙いたいんだろう」
 アリス:「それでも静岡の時はドクター吉塚の親族が殺されたわけでしょ?」
 敷島:「もしかしたら富士宮のは、俺じゃなくてその親族殺しが目的だったのかもな。俺はついでで」
 アリス:「えっ?」
 敷島:「あの列車やホームにも、もしかしたら吉塚家の親族がいたのかもしれないぞ?」
 アリス:「そうなの?」
 敷島:「分からんが、そのついでに俺達も殺れれば万々歳的な?」
 アリス:「変なの」
 敷島:「テロリズムなんて、往々にして変なものさ」

 敷島がロビーのソファに座りながら肩を竦めると、シンディが戻って来た。

 シンディ:「お待たせしました。チェックインの手続きが終わりましたので、参りましょう」
 敷島:「おっ、ご苦労さん」

 一行はエレベーターで客室フロアへと上がる。

 シンディ:「こちらですね」

 ツインルームが2つ取られていた。
 ツインといっても、エキストラベッドを使ってトリプルにできるタイプである。

 敷島:「リンとレンはそっちの部屋を使ってくれ。俺達はこっちを使う」
 リン:「はーい」
 レン:「分かりました」

 敷島の部屋はシンディが、鏡音姉弟の部屋はエミリーが護衛に入る。

 敷島:「俺、エミリーにいてもらいたいんだけど?」
 アリス:「変な気起こしたら、シンディに電気流してもらいまいすからね」
 シンディ:「お任せを」

 シンディ、左手からバチッと火花を一瞬飛ばした。

 敷島:「マジかよ……」
 アリス:「トニーはママと寝ましょうね」
 トニー:「オラ、シンディと一緒がいい」(野原しんのすけ風に)
 敷島:「なにっ?トニーはエミリー派じゃなく、シンディ派だと?」
 シンディ:「御指名ありがとうございます。シンディです」
 敷島:「キャバ嬢みたいなこと言うな!とにかく、荷物を置いたら会場の下見に行くぞ。今、設営やってるはずだから」
 アリス:「私はトニーと街中でも歩いてるわ。ディナーの時間まで戻って来てね」
 敷島:「分かった分かった。取りあえず、リン達と合流だ」

 敷島は部屋の内線電話を取ると、すぐ隣の部屋に出発の合図を入れた。
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