[1月21日17:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は栃木から上京してくる、上野凛さんを迎えに来た。
彼女は明日、東京中央学園上野高校の推薦入試を受けることになっている。
今夜はうちに泊まることになっていた。
車で東京駅に向かい、八重洲地下駐車場に駐車する。
そこから徒歩で、駅を目指した。
愛原:「いいか、リサ?凛さんは謝ったんだし、そもそも責任は無い。俺も凛さんに責任をどうこうするつもりはない。分かってるな?」
リサ:「分かってるよ」
今月上旬、那須塩原のホテルで女将に襲われた私。
女将は凛さんの母親だ。
当然リサは烈火の如く怒り狂ったが、凛さんが母親の味方をした為に、怒りの矛先が凛さんにも向けられた。
私は何度もリサに言い聞かせたのだが、今でも心の中は煮え切らないらしい。
愛原:「ほら、入場券。これでホームまで迎えに行くぞ」
リサ:「分かった」
高橋:「VIP待遇っスね?」
愛原:「ンなわけない。『監視』業務の委託だぞ?もはや上野凛さんも、政府関係から監視の対象とされている。リサは今のところ正真正銘の『鬼』だが、凛さんは半分人間なのに、リサと同じ扱いにされそうになっている。そっちの方がむしろ可愛そうってもんだよ」
高橋:「それもそうっスね」
実際、住まいから那須塩原駅までは、地元警察が護送するという徹底ぶりだ。
もちろん、普通のパトカーではなく、覆面パトカーだろうがな。
国家機関の命令とあらば、地元警察などすぐに動くというわけだ。
まずは在来線の改札口を通過し、そこから今度は新幹線の改札口を通過する。
愛原:「えーと……凛さんが乗って来るのは“なすの”278号か」
学校が終わってから来る形になるので、この時間となった。
愛原:「21番線だな」
夕方ラッシュで、乗客がごった返すコンコースを通ってエスカレーターに乗った。
在来線コンコースほどではないが、新幹線通勤客が目立っている。
ましてや、今日は金曜日だ。
愛原:「そうか……」
高橋:「どうしたんスか?」
愛原:「いや、東京中央学園は土曜日に入試をやるんだなって……」
高橋:「あっ、そういや、入試って平日にやるイメージっスね」
私立だから、その辺の日程は自由に設定できるのだろう。
それとも、一般入試が平日で、推薦入試が土曜日とか?
リサ:「うちは基本、中高一貫校だから、そもそも高校から入る人って少ないから」
愛原:「あっ、なるほどな」
完全中高一貫校ではない。
中等部卒業後、別の高校に入る生徒もいるし、凛さんみたいに高校から入る生徒もいる。
もちろん、大部分がリサみたいに中等部から高等部へエスカレーターの生徒であるが。
〔「今度の21番線の電車は、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きです。上り電車折り返しの為、電車到着後、車内整備・清掃を行います。電車が到着しても、すぐにはご乗車できませんので、予めご了承ください。準備が終了しましたら、放送にてご案内致します」〕
凛さんは、先頭車に乗っているという。
これもまた、既に監視対象となっていることが分かる。
同行者がいない時点で、まだ完全な監視対象ではないのだろうが、高校からそうなるのだろう。
〔21番線に、当駅止まりの電車が到着致します。……〕
愛原:「おっ、来たな」
接近放送がホームに鳴り響く。
愛原:「さすが日本の鉄道は定時性世界一だ」
高橋:「お言葉ですが先生、宇都宮線が人身事故で止まってます」
ズコッ!
愛原:「し、新幹線の話をしてるんだよ!私は!」
リサ:「先生、東海道新幹線は雪の影響で、名古屋~新大阪間、徐行運転で遅れてるって」
ズコーッ!
愛原:「冬は除く!冬は!」
〔「21番線、ご注意ください。“なすの”278号が到着致します。折り返し、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きとなります」〕
真っ白のヘッドライトを灯しながら、列車がゆっくりと近づいて来た。
そして、所定の停止位置にピタリと止まる。
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。車内にお忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。21番線に到着の電車は、折り返し、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きとなります。……」〕
ここまでの乗客が、ぞろぞろと降りて来る。
そして、その中に……。
愛原:「凛さん!」
上野凛:「あっ、愛原先生……」
上野凛さんがいた。
制服のセーラー服の上から、ライトブラウンのダッフルコートを着ている。
やはりリサと同じく、暑さ・寒さに強いのか、マフラーなどは着けていなかった。
因みにリサも、今は私服だ。
学校から帰って来て、それから私服に着替えている。
愛原:「お疲れさん」
凛:「今日は、よろしくお願いします」
愛原:「ああ。肩の力を抜いて」
リサ:「…………」
リサは無表情だったが、やはり何らかのオーラは放っていた。
凛:「先輩、今日はよろしくお願いします」
リサ:「……分かった」
私があれだけ言い聞かせたのだ。
この場で、リサが手を挙げられるはずがなかった。
愛原:「よし。すぐ、家に向かおう。……おっと!その前に、夕食だったな。ファミレスでいいかな?」
凛:「私は何でも……」
愛原:「じゃあ、車の方まで行こうか。俺達についてきて」
凛:「はい。よろしくお願いします」
私達は急いで新幹線ホームをあとにした。
[同日17:30.天候:晴 東京都中央区八重洲 東京駅八重洲パーキング西駐車場]
東京駅の地下駐車場に移動する。
八重洲地下街に付随している大規模な地下駐車場だ。
たまに地上からの徒歩連絡に迷い、日本橋口まで来てしまう者がいるが、【お察しください】。
地下駐車場なのだから、地下に下りるという発想が無くなってしまったら終わりだと思う(実際いるんですよ、こういう人達)。
凛:「……何か出そうで怖いですね」
リサ:「なー?そこからリッカーが出て来そうで怖いよなー(棒)」
愛原:「お前らが言うな」
高橋:「上に同じ!」
止めていた車に到着する。
愛原:「荷物、後ろ乗せるか?」
凛:「あ、はい。すいません」
凛さんは普通の通学鞄の他、ボストンバッグを持っていた。
多分、部活動で使っているヤツだろう。
着替えとかは、その中に入れているのだと思われる。
車はレンタカーでリース契約している、商用車。
たまにタクシーでも使われている、5ナンバータイプのワゴンである。
商用車タイプの方が、隠密行動の時に目立たなくて良いのだ。
商用車なら、どこにいたって不自然ではないからである。
いざという時には、出入りの業者のフリをすることだってできるし。
愛原:「じゃあ、後ろに乗って」
BOW2人(1人は半分人間)をリアシートに乗せ、運転は高橋に任せ、私は助手席に乗った。
愛原:「菊川で飯にしよう」
高橋:「分かりました」
高橋は車を出した。
後ろの2人、打ち解けてほしいものだが……。
女将さんの件が無ければ、そうなっていたことを思うと、そこは悔やまれる。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は栃木から上京してくる、上野凛さんを迎えに来た。
彼女は明日、東京中央学園上野高校の推薦入試を受けることになっている。
今夜はうちに泊まることになっていた。
車で東京駅に向かい、八重洲地下駐車場に駐車する。
そこから徒歩で、駅を目指した。
愛原:「いいか、リサ?凛さんは謝ったんだし、そもそも責任は無い。俺も凛さんに責任をどうこうするつもりはない。分かってるな?」
リサ:「分かってるよ」
今月上旬、那須塩原のホテルで女将に襲われた私。
女将は凛さんの母親だ。
当然リサは烈火の如く怒り狂ったが、凛さんが母親の味方をした為に、怒りの矛先が凛さんにも向けられた。
私は何度もリサに言い聞かせたのだが、今でも心の中は煮え切らないらしい。
愛原:「ほら、入場券。これでホームまで迎えに行くぞ」
リサ:「分かった」
高橋:「VIP待遇っスね?」
愛原:「ンなわけない。『監視』業務の委託だぞ?もはや上野凛さんも、政府関係から監視の対象とされている。リサは今のところ正真正銘の『鬼』だが、凛さんは半分人間なのに、リサと同じ扱いにされそうになっている。そっちの方がむしろ可愛そうってもんだよ」
高橋:「それもそうっスね」
実際、住まいから那須塩原駅までは、地元警察が護送するという徹底ぶりだ。
もちろん、普通のパトカーではなく、覆面パトカーだろうがな。
国家機関の命令とあらば、地元警察などすぐに動くというわけだ。
まずは在来線の改札口を通過し、そこから今度は新幹線の改札口を通過する。
愛原:「えーと……凛さんが乗って来るのは“なすの”278号か」
学校が終わってから来る形になるので、この時間となった。
愛原:「21番線だな」
夕方ラッシュで、乗客がごった返すコンコースを通ってエスカレーターに乗った。
在来線コンコースほどではないが、新幹線通勤客が目立っている。
ましてや、今日は金曜日だ。
愛原:「そうか……」
高橋:「どうしたんスか?」
愛原:「いや、東京中央学園は土曜日に入試をやるんだなって……」
高橋:「あっ、そういや、入試って平日にやるイメージっスね」
私立だから、その辺の日程は自由に設定できるのだろう。
それとも、一般入試が平日で、推薦入試が土曜日とか?
リサ:「うちは基本、中高一貫校だから、そもそも高校から入る人って少ないから」
愛原:「あっ、なるほどな」
完全中高一貫校ではない。
中等部卒業後、別の高校に入る生徒もいるし、凛さんみたいに高校から入る生徒もいる。
もちろん、大部分がリサみたいに中等部から高等部へエスカレーターの生徒であるが。
〔「今度の21番線の電車は、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きです。上り電車折り返しの為、電車到着後、車内整備・清掃を行います。電車が到着しても、すぐにはご乗車できませんので、予めご了承ください。準備が終了しましたら、放送にてご案内致します」〕
凛さんは、先頭車に乗っているという。
これもまた、既に監視対象となっていることが分かる。
同行者がいない時点で、まだ完全な監視対象ではないのだろうが、高校からそうなるのだろう。
〔21番線に、当駅止まりの電車が到着致します。……〕
愛原:「おっ、来たな」
接近放送がホームに鳴り響く。
愛原:「さすが日本の鉄道は定時性世界一だ」
高橋:「お言葉ですが先生、宇都宮線が人身事故で止まってます」
ズコッ!
愛原:「し、新幹線の話をしてるんだよ!私は!」
リサ:「先生、東海道新幹線は雪の影響で、名古屋~新大阪間、徐行運転で遅れてるって」
ズコーッ!
愛原:「冬は除く!冬は!」
〔「21番線、ご注意ください。“なすの”278号が到着致します。折り返し、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きとなります」〕
真っ白のヘッドライトを灯しながら、列車がゆっくりと近づいて来た。
そして、所定の停止位置にピタリと止まる。
〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。車内にお忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。21番線に到着の電車は、折り返し、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きとなります。……」〕
ここまでの乗客が、ぞろぞろと降りて来る。
そして、その中に……。
愛原:「凛さん!」
上野凛:「あっ、愛原先生……」
上野凛さんがいた。
制服のセーラー服の上から、ライトブラウンのダッフルコートを着ている。
やはりリサと同じく、暑さ・寒さに強いのか、マフラーなどは着けていなかった。
因みにリサも、今は私服だ。
学校から帰って来て、それから私服に着替えている。
愛原:「お疲れさん」
凛:「今日は、よろしくお願いします」
愛原:「ああ。肩の力を抜いて」
リサ:「…………」
リサは無表情だったが、やはり何らかのオーラは放っていた。
凛:「先輩、今日はよろしくお願いします」
リサ:「……分かった」
私があれだけ言い聞かせたのだ。
この場で、リサが手を挙げられるはずがなかった。
愛原:「よし。すぐ、家に向かおう。……おっと!その前に、夕食だったな。ファミレスでいいかな?」
凛:「私は何でも……」
愛原:「じゃあ、車の方まで行こうか。俺達についてきて」
凛:「はい。よろしくお願いします」
私達は急いで新幹線ホームをあとにした。
[同日17:30.天候:晴 東京都中央区八重洲 東京駅八重洲パーキング西駐車場]
東京駅の地下駐車場に移動する。
八重洲地下街に付随している大規模な地下駐車場だ。
たまに地上からの徒歩連絡に迷い、日本橋口まで来てしまう者がいるが、【お察しください】。
地下駐車場なのだから、地下に下りるという発想が無くなってしまったら終わりだと思う(実際いるんですよ、こういう人達)。
凛:「……何か出そうで怖いですね」
リサ:「なー?そこからリッカーが出て来そうで怖いよなー(棒)」
愛原:「お前らが言うな」
高橋:「上に同じ!」
止めていた車に到着する。
愛原:「荷物、後ろ乗せるか?」
凛:「あ、はい。すいません」
凛さんは普通の通学鞄の他、ボストンバッグを持っていた。
多分、部活動で使っているヤツだろう。
着替えとかは、その中に入れているのだと思われる。
車はレンタカーでリース契約している、商用車。
たまにタクシーでも使われている、5ナンバータイプのワゴンである。
商用車タイプの方が、隠密行動の時に目立たなくて良いのだ。
商用車なら、どこにいたって不自然ではないからである。
いざという時には、出入りの業者のフリをすることだってできるし。
愛原:「じゃあ、後ろに乗って」
BOW2人(1人は半分人間)をリアシートに乗せ、運転は高橋に任せ、私は助手席に乗った。
愛原:「菊川で飯にしよう」
高橋:「分かりました」
高橋は車を出した。
後ろの2人、打ち解けてほしいものだが……。
女将さんの件が無ければ、そうなっていたことを思うと、そこは悔やまれる。