“ボカロマスター”より、前回の続き。何故か三人称にまた戻る体たらく。
敷島はしばし呆然とした。今まで自分が殺人未遂の被害者になることはあって、自分の血で血まみれになったことはあった。
しかし、今回は違う。目の前で人が惨殺された。その返り血が掛かるほどの近さだ。死んだのは、あれだけ敷島達を苦しめてきたマッド・サイエンティストのウィリアム・フォレスト、通称ドクター・ウィリーだ。そしてそれを殺したのは、あろうことか、エミリーと同型機のターミネーチャン、シンディであった。
彼女は仮にも親であるはずのウィリーを、狂ったように笑いながら何度も刺していた。ウィリー自身、何が起こったのか分からない顔をしたまま死んだ。南里の死も壮絶だったが、こちらは呆気無さ過ぎる死であった。
何故だろう?何故、シンディは狂ってしまったのか?もしかしたら、どこかに欠陥があったのか?エミリーも、いずれはこうなってしまうのだろうか?
こんな惨劇を目の当たりにしたら、普通は冷静でいられない……はずだ。しかし、何故か敷島は映画でも観ているような感覚で、他人事のように考えてしまった。それだけ、突拍子もない出来事なのだ。
すると、それまで狂ったように笑っていたシンディが、急に笑い声を止めた。
そして、惨殺死体と化したかつての“親”の死体を見ると、たった今ここに駆けつけて、この死体を発見したかのような、驚いた表情になった。
「……ドクター!?あぁあドクター!ひどいわ!なんでこんなことに!?誰が、誰がこんなことを……!?」
そして、フッと敷島の方を振り向く。全身に、ドクター・ウィリーの返り血がこびりついていた。
「お前か!お前がドクターを!ゆユゆ許さなイ!ゼッタイニ許さナい!殺しテやる!殺して殺シてコロし……」
両目をハイビームに光らせ、敷島を見つめながら拳を握って敷島に近づいてきた。
(ああ、そうか。分かった……)
我に戻った敷島は後ずさりしながら、ある真相に気づいた。憶測にしか過ぎないが、多分間違いないだろう。
同じ設計図から作られたエミリーとシンディ。姉妹同然の彼女らの根本的な違いは、その用途。
ウィリーは新型のコンピューター・ウィルスをよく開発していた。実験はどこでしたのだろうと敷島は疑問に思っていたのだが、恐らくシンディを被験者にしていたのかもしれない。無論その後はウィルス除去をしていたのだろう。だが……。
(バカらしい。素人の俺が考えることなんざ、ウィリーだってとっくに……。ってか、考えている場合じゃないな)
ここから逃げ出さなくては。シンディの人工知能は、かなり精度が落ちていると見た。自らに搭載されているはずの兵器はもちろん、今しがた使用していたナイフさえも拾って使おうとしない。もっとも、元々血で染まったナイフ。それを更にウィリー惨殺に使用したのだから、血でベトベトである。切れ味は【お察しください】といったところだろう。
「逃がさないよ!」
「うっ!?」
ドアにロックが掛けられてしまった。
「悪い奴は殺ス!!」
「悪い奴か……。この時点での最悪役はウィリーだが、主人公の俺も悪役だったもんな。心臓の弱い南里所長を激昂させて、心臓発作で殺してしまったのは俺だ。表向きにはただの事故になっているが……」
結局、皆が悪役だった。素直に七海の量産化に応じていれば結果的に南里を死なせることはなかったはずの平賀の責任は?無関心を決め込んでいた赤月に責任は無かったか?管理権を押し付けて、ろくに査察もしなかった財団幹部に責任は無かったか?自分で考えて行動する知能を持ちながら、あえて“命令だけで動くロボット”であり続けた為に“親”を失う結果を招いたエミリーの責任は?
「とはいえ、お前に殺されることが唯一の責任を取る方法じゃないからな」
敷島はそう言った。
「うっ!?」
敷島は飛び掛ってきたシンディに張り倒され、馬乗りにされた。
(こいつ……!?)
「死ね死ね死ね死ね!」
確かに殴られて痛かった。だが、ターミネーチャンの力はこんなものではないはず。これではまるで、普通に人間の女性に殴られている感じだ。
(そうか!もうすぐバッテリーが切れ掛かっていて、セーブ・モードが働いてるのか!)
時間切れに持ち込んでうやむやにするのが敷島の得意技だ。
とはいえ、さすがにこれは……痛過ぎる。だが、
「ロケット・アーム!」
ドアを破って、エミリーが助けにきてくれた。エミリーは有線ロケットパンチで、シンディに攻撃した。
「哀れな……」
狂ってしまった妹を見て、哀しそうな顔をした。
「敷島さん・お怪我は・ありませんか?」
「殴られて軽傷だ。もっとも、刺された平賀先生よりずっとマシだろうがな。シンディは?」
「バッテリーが・切れたようです」
「とにかくだ。ここで人が1人死んだのは事実だから、警察呼んでくれ」
「まもなく・到着します」
「そうか。じゃあ、ここで待っていよう」
「シンディ……かわいそう……」
エミリーは動かなくなった“妹”を抱えた。
「ウィリーは10人が10人とも認めるマッド・サイエンティストだ。まあ、本人は認めないだろうがな。だから、気づけなかったんだろうさ。手駒的にしか考えていなかったはずの“娘”が、自分以上に狂っていたことをな。最初会った時は、随分面白い姉ちゃんだなって思ってたけど、段々変だなとは思ったからな。多分それが普通だろうさ。南里所長だって、その時点で検査するだろう。だけど狂っていたこの爺さんは、更に“娘”を狂わせても異常だとは思わなかったんだろうさ」
平賀は病院に搬送されたが、意識不明の重体。赤月は無傷。シンディと直接やりあった七海の損傷も激しく、ボディまるまる交換になるだろうとエミリーは言った。メモリーやデータなど、心臓部分が破壊されなかったことが唯一の救いだったと……。
敷島はしばし呆然とした。今まで自分が殺人未遂の被害者になることはあって、自分の血で血まみれになったことはあった。
しかし、今回は違う。目の前で人が惨殺された。その返り血が掛かるほどの近さだ。死んだのは、あれだけ敷島達を苦しめてきたマッド・サイエンティストのウィリアム・フォレスト、通称ドクター・ウィリーだ。そしてそれを殺したのは、あろうことか、エミリーと同型機のターミネーチャン、シンディであった。
彼女は仮にも親であるはずのウィリーを、狂ったように笑いながら何度も刺していた。ウィリー自身、何が起こったのか分からない顔をしたまま死んだ。南里の死も壮絶だったが、こちらは呆気無さ過ぎる死であった。
何故だろう?何故、シンディは狂ってしまったのか?もしかしたら、どこかに欠陥があったのか?エミリーも、いずれはこうなってしまうのだろうか?
こんな惨劇を目の当たりにしたら、普通は冷静でいられない……はずだ。しかし、何故か敷島は映画でも観ているような感覚で、他人事のように考えてしまった。それだけ、突拍子もない出来事なのだ。
すると、それまで狂ったように笑っていたシンディが、急に笑い声を止めた。
そして、惨殺死体と化したかつての“親”の死体を見ると、たった今ここに駆けつけて、この死体を発見したかのような、驚いた表情になった。
「……ドクター!?あぁあドクター!ひどいわ!なんでこんなことに!?誰が、誰がこんなことを……!?」
そして、フッと敷島の方を振り向く。全身に、ドクター・ウィリーの返り血がこびりついていた。
「お前か!お前がドクターを!ゆユゆ許さなイ!ゼッタイニ許さナい!殺しテやる!殺して殺シてコロし……」
両目をハイビームに光らせ、敷島を見つめながら拳を握って敷島に近づいてきた。
(ああ、そうか。分かった……)
我に戻った敷島は後ずさりしながら、ある真相に気づいた。憶測にしか過ぎないが、多分間違いないだろう。
同じ設計図から作られたエミリーとシンディ。姉妹同然の彼女らの根本的な違いは、その用途。
ウィリーは新型のコンピューター・ウィルスをよく開発していた。実験はどこでしたのだろうと敷島は疑問に思っていたのだが、恐らくシンディを被験者にしていたのかもしれない。無論その後はウィルス除去をしていたのだろう。だが……。
(バカらしい。素人の俺が考えることなんざ、ウィリーだってとっくに……。ってか、考えている場合じゃないな)
ここから逃げ出さなくては。シンディの人工知能は、かなり精度が落ちていると見た。自らに搭載されているはずの兵器はもちろん、今しがた使用していたナイフさえも拾って使おうとしない。もっとも、元々血で染まったナイフ。それを更にウィリー惨殺に使用したのだから、血でベトベトである。切れ味は【お察しください】といったところだろう。
「逃がさないよ!」
「うっ!?」
ドアにロックが掛けられてしまった。
「悪い奴は殺ス!!」
「悪い奴か……。この時点での最悪役はウィリーだが、主人公の俺も悪役だったもんな。心臓の弱い南里所長を激昂させて、心臓発作で殺してしまったのは俺だ。表向きにはただの事故になっているが……」
結局、皆が悪役だった。素直に七海の量産化に応じていれば結果的に南里を死なせることはなかったはずの平賀の責任は?無関心を決め込んでいた赤月に責任は無かったか?管理権を押し付けて、ろくに査察もしなかった財団幹部に責任は無かったか?自分で考えて行動する知能を持ちながら、あえて“命令だけで動くロボット”であり続けた為に“親”を失う結果を招いたエミリーの責任は?
「とはいえ、お前に殺されることが唯一の責任を取る方法じゃないからな」
敷島はそう言った。
「うっ!?」
敷島は飛び掛ってきたシンディに張り倒され、馬乗りにされた。
(こいつ……!?)
「死ね死ね死ね死ね!」
確かに殴られて痛かった。だが、ターミネーチャンの力はこんなものではないはず。これではまるで、普通に人間の女性に殴られている感じだ。
(そうか!もうすぐバッテリーが切れ掛かっていて、セーブ・モードが働いてるのか!)
時間切れに持ち込んでうやむやにするのが敷島の得意技だ。
とはいえ、さすがにこれは……痛過ぎる。だが、
「ロケット・アーム!」
ドアを破って、エミリーが助けにきてくれた。エミリーは有線ロケットパンチで、シンディに攻撃した。
「哀れな……」
狂ってしまった妹を見て、哀しそうな顔をした。
「敷島さん・お怪我は・ありませんか?」
「殴られて軽傷だ。もっとも、刺された平賀先生よりずっとマシだろうがな。シンディは?」
「バッテリーが・切れたようです」
「とにかくだ。ここで人が1人死んだのは事実だから、警察呼んでくれ」
「まもなく・到着します」
「そうか。じゃあ、ここで待っていよう」
「シンディ……かわいそう……」
エミリーは動かなくなった“妹”を抱えた。
「ウィリーは10人が10人とも認めるマッド・サイエンティストだ。まあ、本人は認めないだろうがな。だから、気づけなかったんだろうさ。手駒的にしか考えていなかったはずの“娘”が、自分以上に狂っていたことをな。最初会った時は、随分面白い姉ちゃんだなって思ってたけど、段々変だなとは思ったからな。多分それが普通だろうさ。南里所長だって、その時点で検査するだろう。だけど狂っていたこの爺さんは、更に“娘”を狂わせても異常だとは思わなかったんだろうさ」
平賀は病院に搬送されたが、意識不明の重体。赤月は無傷。シンディと直接やりあった七海の損傷も激しく、ボディまるまる交換になるだろうとエミリーは言った。メモリーやデータなど、心臓部分が破壊されなかったことが唯一の救いだったと……。