[11月5日23:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
クロ:「真夜中に テトリス興じる スラブ人……ニャ」
エレーナ:「うるさいな」
ホテルのフロント夜勤をやっているエレーナ。
しかし、これが都心の巨大なホテルならまだしも、元はドヤ街だった場所にある小さなビジネスホテルでは、こんな真夜中に客の出入りがあるはずもない。
ヒマなウクライナ人がテトリスをやってても問題は無いわけだ。
勤勉な日本人的には、大いにアウトであるが。
クロ:「あっ、読者の皆様。わっちはエレーナの使い魔で、黒猫のクロでありんす」
エレーナ:「誰が自己紹介しろっつった。てか、読者は全員忘れてるよ」
花魁言葉になっていることについては突っ込まないのか。
因みにテトリスの発祥はロシアである為、テトリスはロシア語である。
エレーナ:「つーか、猫がカウンターの上に上がんな」
クロ:「招き猫のポーズで集客率アップ〜!」
エレーナ:「いや、黒猫が招き猫のポーズやっても不気味なだけだから」
と、そこへフロントの電話が鳴る。
外線である。
エレーナ:「おっと、電話だ」
エレーナ、テトリスを中断する。
コホンと咳払いして電話を取った。
エレーナ:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテル、フロント係のマーロンでございます」
エレーナのフルネームはエレーナ・M・マーロンである。
ウクライナでは珍しい名字である為、エレーナも実はマリアンナ同様、他国からの移民疑惑が持ち上がっている。
クロ:(電話応対の時には声のトーンが上がるタイプ……ニャ)
稲生:「すいません。僕、稲生と申しますが、エレーナさんをお願いできますか?」
エレーナ:「いや、アタシだよ」
稲生:「あれっ!?そうだったっけ!?」
エレーナ:「アタシの名字、マーロンって言うの。よく覚えといて。マリアンナの名字は忘れていいから」
稲生:「そ、そういうわけにはいかないよ……ハハハハ……。(やべっ!マリアさんの名字、ど忘れした!)」
エレーナ:「今、微かに『ヤベッ』とか聞こえたけど?」
稲生:「な、何でもないよ。それより、お願いがあるんだけど……」
エレーナ:「何?……えっ、風邪薬?」
稲生:「そうなんだ。さっき、市販の風邪薬は飲ませたんだけど、熱が高くなっちゃったんだ。エレーナの所の組は、魔法薬師のジャンルだろ?だったら、飲んだらたちどころに治る風邪薬って無いかな?」
エレーナ:「たちどころってわけにはいかないけど、確かにそういう薬ならある」
稲生:「そ、それを譲ってくれ!マリアさんの熱が39度に上がって大変なんだ!」
エレーナ:「それ、本当にただの風邪?……まあ、いいわ。確かに、魔女がのこのこと病院に行くのもどうかと思うしね」
稲生:「やっぱりマリアさん、人間としては『公式に死んだ』ことになっているから、保険も何も無いらしいんだ」
エレーナ:「うちの先生とかも同じだよ。ていうか、魔女に人間の保険も年金も意味が無いんだけどね。だからケガは魔法で治して、病気は薬で治すわけ」
稲生:「あとはポーリン組の薬に頼るしか……」
因みにポーリン組に限らず、他にも魔法薬の研究・開発をしている組はある。
だが稲生にとって、真っ先に泣きつける組がポーリン組だったようだ。
エレーナ:「分かった分かった。こっちにもマリアンナには借りがあるから、取りあえず返しには行く」
稲生:「ありがとう」
エレーナ:「ついでに、あいつの借金も取り立てに行くからよろしく」
稲生:「はあ!?」
エレーナ:「今、どこにいるの?」
稲生:「埼玉の僕の家だよ。今、地図をそっちにメールで送るから」
エレーナ:「地理情報をオンラインで送るってのも、昔は魔法だったんだよねぇ……。ま、とにかく薬は見繕っておくから」
稲生:「よろしくお願い。いつ来れる?」
エレーナ:「取りあえずホテルの夜勤が明日10時で終わるから、それから向かうよ」
稲生:「分かった。お願いするよ」
[同日同時刻 天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
稲生:「取りあえず、エレーナに連絡が取れました」
イリーナ:「ありがとう。これで少しは安心ね」
稲生:「そうですか」
イリーナ:「取りあえず夜の分と明日の朝の分は、市販の風邪薬で持たせましょう。あとはエレーナが持って来てくれる薬次第ね」
稲生:「それにしても、びっくりました。まさか、マリアさんが……あ、いや、前にも倒れたことがあったか……」
イリーナ:「あれは心労もあったんだろうけどね。今回はただの風邪でしょう」
稲生:「その割には熱が39度は高くないですか?」
イリーナ:「これ以上高くなったら、いいわ。アタシがポーリンの所に行ってくる」
稲生:「ポーリン先生の所へ?」
イリーナ:「ええ。ま、私の予知ではマリアの熱はこれ以上上がらないはずだけど……」
稲生:「魔女宅の主人公でさえ風邪でダウンしましたから、マリアさんがそれで倒れること自体は……ですけど、やっぱり心配です」
イリーナ:「しょうがないわ。実際に病気になっていない私達では、あのコの為に薬を用意してあげることしかできない。あとは、あのコ自身の戦いよ」
稲生:「はい……」
イリーナ:「なぁに、心配無いって。『病は気から』って言うでしょう?逆にマリア、安心して気が抜けているから風邪なんか引いたりするのよ」
稲生:「えっ?えっ?」
イリーナ:「迫害を受けていた人間時代は、風邪すら引けなかったでしょうよ……!」
稲生:「!!!」
[11月5日24:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
マモン:「はい、ご苦労さまです。交替します。ゆっくり仮眠を取って来てください」
エレーナも今やマスター(一人前)である。
階級はマリアと同じローマスターであるが、マリアの後で登用されたわけだから、本来はそこで先輩・後輩の差ができる。
組によっては同級であっても、なったタイミングで先輩・後輩の上下関係が発生する所もある。
で、エレーナは七つの大罪の悪魔、強欲の悪魔マモンと契約した。
マモンはマリアンナが契約している七つの大罪の悪魔、怠惰の悪魔ベルフェゴールと同じく、タキシードに蝶ネクタイの姿をしていた。
もちろんこれは、エレーナのホテルで一緒に働くという意味での恰好である。
ベルフェゴールがイギリス人のマリアンナに合わせ、英国紳士の恰好をしているのとは少し違う。
エレーナ:「ああ。あとはよろしく」
クロ:「よろしくですニャ」
エレーナ:「オマエ、さっきまで寝てたんだから一緒に店番してろ」
クロ:「ンニャッ!?」
マモン:「猫は自由気ままでいいですねぇ……」
エレーナ:「全く……」
エレーナはエレベーターキーを操作して、エレベーターを地下階に行けるようにした。
表向きは機械室や倉庫があるフロアということになっており、普段は不停止扱いになっている。
B1Fのボタンを押してもランプが点灯しないし、この1階から下のボタンを押しても点灯しない。
そこで切替スイッチの役割を果たす小さな鍵の出番である。
エレーナは最初、稼働していない客室を使っていたが、このホテルが盛況になってくるとそうもいかなくなり、地下の機械室に居室を作ってそこで寝泊まりするようにした。
表向きはスタッフの仮眠室・休憩室・シャワー室ということになっているが、実際はエレーナ専用居室である(スタッフ休憩室自体は元から別にある為)。
エレーナ:「フーム……」
エレベーターが地下1階に着くと、その先は真っ暗だった。
ま、誰もいない機械室や倉庫が普段から明るいわけがない。
エレベーターの横に照明スイッチがある。
そしてまたエレベーター操作盤に鍵を差し込んで、中からはB1階のボタンを押しても反応しないようにした。
こっちからは外側の上のボタンを押せば、エレベーターはやってくる。
エレーナ:(寝る前にざっと薬を見繕っておくか。後でバタバタするよりはいい)
エレーナはそう考えると、居室の横にある自分の物置のドアを開けた。
そこには大きな薬箱が入っていた。
クロ:「真夜中に テトリス興じる スラブ人……ニャ」
エレーナ:「うるさいな」
ホテルのフロント夜勤をやっているエレーナ。
しかし、これが都心の巨大なホテルならまだしも、元はドヤ街だった場所にある小さなビジネスホテルでは、こんな真夜中に客の出入りがあるはずもない。
ヒマなウクライナ人がテトリスをやってても問題は無いわけだ。
勤勉な日本人的には、大いにアウトであるが。
クロ:「あっ、読者の皆様。わっちはエレーナの使い魔で、黒猫のクロでありんす」
エレーナ:「誰が自己紹介しろっつった。てか、読者は全員忘れてるよ」
花魁言葉になっていることについては突っ込まないのか。
因みにテトリスの発祥はロシアである為、テトリスはロシア語である。
エレーナ:「つーか、猫がカウンターの上に上がんな」
クロ:「招き猫のポーズで集客率アップ〜!」
エレーナ:「いや、黒猫が招き猫のポーズやっても不気味なだけだから」
と、そこへフロントの電話が鳴る。
外線である。
エレーナ:「おっと、電話だ」
エレーナ、テトリスを中断する。
コホンと咳払いして電話を取った。
エレーナ:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテル、フロント係のマーロンでございます」
エレーナのフルネームはエレーナ・M・マーロンである。
ウクライナでは珍しい名字である為、エレーナも実はマリアンナ同様、他国からの移民疑惑が持ち上がっている。
クロ:(電話応対の時には声のトーンが上がるタイプ……ニャ)
稲生:「すいません。僕、稲生と申しますが、エレーナさんをお願いできますか?」
エレーナ:「いや、アタシだよ」
稲生:「あれっ!?そうだったっけ!?」
エレーナ:「アタシの名字、マーロンって言うの。よく覚えといて。マリアンナの名字は忘れていいから」
稲生:「そ、そういうわけにはいかないよ……ハハハハ……。(やべっ!マリアさんの名字、ど忘れした!)」
エレーナ:「今、微かに『ヤベッ』とか聞こえたけど?」
稲生:「な、何でもないよ。それより、お願いがあるんだけど……」
エレーナ:「何?……えっ、風邪薬?」
稲生:「そうなんだ。さっき、市販の風邪薬は飲ませたんだけど、熱が高くなっちゃったんだ。エレーナの所の組は、魔法薬師のジャンルだろ?だったら、飲んだらたちどころに治る風邪薬って無いかな?」
エレーナ:「たちどころってわけにはいかないけど、確かにそういう薬ならある」
稲生:「そ、それを譲ってくれ!マリアさんの熱が39度に上がって大変なんだ!」
エレーナ:「それ、本当にただの風邪?……まあ、いいわ。確かに、魔女がのこのこと病院に行くのもどうかと思うしね」
稲生:「やっぱりマリアさん、人間としては『公式に死んだ』ことになっているから、保険も何も無いらしいんだ」
エレーナ:「うちの先生とかも同じだよ。ていうか、魔女に人間の保険も年金も意味が無いんだけどね。だからケガは魔法で治して、病気は薬で治すわけ」
稲生:「あとはポーリン組の薬に頼るしか……」
因みにポーリン組に限らず、他にも魔法薬の研究・開発をしている組はある。
だが稲生にとって、真っ先に泣きつける組がポーリン組だったようだ。
エレーナ:「分かった分かった。こっちにもマリアンナには借りがあるから、取りあえず返しには行く」
稲生:「ありがとう」
エレーナ:「ついでに、あいつの借金も取り立てに行くからよろしく」
稲生:「はあ!?」
エレーナ:「今、どこにいるの?」
稲生:「埼玉の僕の家だよ。今、地図をそっちにメールで送るから」
エレーナ:「地理情報をオンラインで送るってのも、昔は魔法だったんだよねぇ……。ま、とにかく薬は見繕っておくから」
稲生:「よろしくお願い。いつ来れる?」
エレーナ:「取りあえずホテルの夜勤が明日10時で終わるから、それから向かうよ」
稲生:「分かった。お願いするよ」
[同日同時刻 天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
稲生:「取りあえず、エレーナに連絡が取れました」
イリーナ:「ありがとう。これで少しは安心ね」
稲生:「そうですか」
イリーナ:「取りあえず夜の分と明日の朝の分は、市販の風邪薬で持たせましょう。あとはエレーナが持って来てくれる薬次第ね」
稲生:「それにしても、びっくりました。まさか、マリアさんが……あ、いや、前にも倒れたことがあったか……」
イリーナ:「あれは心労もあったんだろうけどね。今回はただの風邪でしょう」
稲生:「その割には熱が39度は高くないですか?」
イリーナ:「これ以上高くなったら、いいわ。アタシがポーリンの所に行ってくる」
稲生:「ポーリン先生の所へ?」
イリーナ:「ええ。ま、私の予知ではマリアの熱はこれ以上上がらないはずだけど……」
稲生:「魔女宅の主人公でさえ風邪でダウンしましたから、マリアさんがそれで倒れること自体は……ですけど、やっぱり心配です」
イリーナ:「しょうがないわ。実際に病気になっていない私達では、あのコの為に薬を用意してあげることしかできない。あとは、あのコ自身の戦いよ」
稲生:「はい……」
イリーナ:「なぁに、心配無いって。『病は気から』って言うでしょう?逆にマリア、安心して気が抜けているから風邪なんか引いたりするのよ」
稲生:「えっ?えっ?」
イリーナ:「迫害を受けていた人間時代は、風邪すら引けなかったでしょうよ……!」
稲生:「!!!」
[11月5日24:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
マモン:「はい、ご苦労さまです。交替します。ゆっくり仮眠を取って来てください」
エレーナも今やマスター(一人前)である。
階級はマリアと同じローマスターであるが、マリアの後で登用されたわけだから、本来はそこで先輩・後輩の差ができる。
組によっては同級であっても、なったタイミングで先輩・後輩の上下関係が発生する所もある。
で、エレーナは七つの大罪の悪魔、強欲の悪魔マモンと契約した。
マモンはマリアンナが契約している七つの大罪の悪魔、怠惰の悪魔ベルフェゴールと同じく、タキシードに蝶ネクタイの姿をしていた。
もちろんこれは、エレーナのホテルで一緒に働くという意味での恰好である。
ベルフェゴールがイギリス人のマリアンナに合わせ、英国紳士の恰好をしているのとは少し違う。
エレーナ:「ああ。あとはよろしく」
クロ:「よろしくですニャ」
エレーナ:「オマエ、さっきまで寝てたんだから一緒に店番してろ」
クロ:「ンニャッ!?」
マモン:「猫は自由気ままでいいですねぇ……」
エレーナ:「全く……」
エレーナはエレベーターキーを操作して、エレベーターを地下階に行けるようにした。
表向きは機械室や倉庫があるフロアということになっており、普段は不停止扱いになっている。
B1Fのボタンを押してもランプが点灯しないし、この1階から下のボタンを押しても点灯しない。
そこで切替スイッチの役割を果たす小さな鍵の出番である。
エレーナは最初、稼働していない客室を使っていたが、このホテルが盛況になってくるとそうもいかなくなり、地下の機械室に居室を作ってそこで寝泊まりするようにした。
表向きはスタッフの仮眠室・休憩室・シャワー室ということになっているが、実際はエレーナ専用居室である(スタッフ休憩室自体は元から別にある為)。
エレーナ:「フーム……」
エレベーターが地下1階に着くと、その先は真っ暗だった。
ま、誰もいない機械室や倉庫が普段から明るいわけがない。
エレベーターの横に照明スイッチがある。
そしてまたエレベーター操作盤に鍵を差し込んで、中からはB1階のボタンを押しても反応しないようにした。
こっちからは外側の上のボタンを押せば、エレベーターはやってくる。
エレーナ:(寝る前にざっと薬を見繕っておくか。後でバタバタするよりはいい)
エレーナはそう考えると、居室の横にある自分の物置のドアを開けた。
そこには大きな薬箱が入っていた。