報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「一方の愛原達は……」

2023-11-30 21:53:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日22時33分 天候:晴 栃木県宇都宮市 JR東北新幹線223B列車5号車内→JR宇都宮駅]

 私達を乗せた東北新幹線“やまびこ”223号、仙台行きは無事に東北新幹線の下り線を走行していた。
 車窓からはきれいな月がよく見える。
 だが西の方、日光市の方角を見ると、全く星が見えない。
 どうやら、山の方は曇っているようだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、宇都宮です。日光線と、烏山線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。宇都宮の次は、新白河に止まります〕
〔「宇都宮でお降りのお客様、ご乗車ありがとうございました。お乗り換えの御案内です。日光線下り、普通列車の日光行きは、5番線から22時48分。烏山線下り、普通列車の烏山行きは、8番線から22時46分。宇都宮線下り、普通列車の黒磯行きは、9番線から22時51分。宇都宮線上り、普通列車の大宮行きは、9番線から22時42分の発車です。各線とも、本日の最終列車となっております。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください。まもなく宇都宮、宇都宮です。到着ホーム1番線、お出口は左側です。宇都宮の次は、新白河に止まります」〕

 仙台行きの最終列車である。
 通過駅はあるものの、ある程度は停車駅の多い列車なので、もちろん終点の仙台まで乗り通す乗客はいるだろう。
 しかし、今のアナウンスを合図に、ここで降りる乗客達もそれなりにいるようだ。

 愛原「俺達も終電に乗り換えるぞ」
 高橋「はい」

 列車はグングン速度を落とし、ガクンと大きく左右に揺れた。
 本線からホームのある副線へと転線したのである。
 窓の外に、宇都宮駅の新幹線ホームが見える。

〔ドアが開きます〕

 停車すると、ドアチャイムではなく、アナウンスが流れてドアが開く。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。宇都宮、宇都宮です。お忘れ物の無いよう、お降りください。1番線に到着の列車は、“やまびこ”223号、仙台行きです。本日、仙台行きの最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 私達は他の乗客と共に列車から降りた。
 最終列車ということもあり、車掌や駅員が乗客の乗り遅れが無いかをチェックしている。
 その為、駅によっては発車が遅れることもあるが、それもまた終電の風物詩である。
 尚、この場合はさすがに乗務員に責任が問われることは無いそうである(そもそも客扱い遅れは、乗務員は責任を問われない)。

 愛原「で、次は日光線だ」
 高橋「ういっス」

 乗り換え時間15分と、比較的余裕のある乗り換え時間である。
 エスカレーターで新幹線コンコースに下り、そこから在来線への乗換改札を通過する。
 そこで特急券は回収され、手元には乗車券だけが残る。
 在来線コンコースに移動すると、今度は日光線が発車する5番線へと向かう。

 

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。5番線に停車中の列車は、22時48分発、普通、日光行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 ホームに行くと3両編成の新型車両が発車を待っていた。
 3両編成、ワンマン列車である。
 驚くことに、宇都宮駅を発車する宇都宮線上り列車以外の全ての列車がワンマン運転である。

 愛原「ん?」
 高橋「どうしました?」

 電車に乗り込もうとすると、善場主任から電話が掛かって来た。

 愛原「ちょっと電話に出るから、先に乗っててくれ」
 高橋「はい」

 どうせ地方都市とはいえ、平日下りの終電だ。
 メチャ混みというわけではないが、全ての車両が満席で立ち席が出ている。
 日光駅までその状態ではないだろうが、逆を言えば慌てて乗って、席を確保する必要も無いということだ。
 高橋は最後尾の車両に乗り込んだ。

 愛原「もしもし?」
 善場「愛原所長、お疲れさまです。御移動の最中、申し訳ありません」
 愛原「いえ、大丈夫です。因みに今、宇都宮駅です。これから、日光線の最終列車に乗り込むところです」
 善場「かしこまりました。終点の日光駅で、高橋助手の知り合いの情報提供者と合流するわけですね?」
 愛原「その予定です」
 善場「かしこまりました。これまでに分かったことを、情報共有という形でお伝えしたいと思います。頭の片隅にでも、入れておいてください」
 愛原「承知しました」

 善場主任の情報によると、情報提供者が言っていたバスは、確かに廃車寸前の所を、タダ同然でそのバス会社が譲ったということだった。
 情報提供者がバスのナンバーを覚えていたのと、そのバスの塗装の特徴を覚えていたことから、デイライトの情報収集能力で割れたという。
 そこでそのバス会社に当たってみたところ、確かに廃車予定のバスを引き取りたいと突然申し出て来た人がいたとのこと。
 バス会社は都内に本社を置き、主に東北方面に高速バスを運行する所であった。
 また、高橋が追い掛けた怪しい人物についても、警察が任意で事情を聞いているという。
 廃車寸前のバスをタダ同然で引き取った所と、警察に事情を聞かれている男が所属している組織には、ある共通点があった。

 善場「それは、『栗原道場』です。全身火傷を負って療養中の栗原蓮華の家が経営する剣道場ですね」
 愛原「そこにリサが連れて行かれたんですか!?マズい!」
 善場「こちらとしても、重大な協定違反です。法的措置を持って、対処に当たる所存です」

 どういった法的措置になるのかは不明だが、仮とはいえ今のリサには戸籍がある、つまり人権があるから、それを侵害した罪で刑事告訴するのではないだろうか。
 要は未成年者略取・誘拐とか。
 また、彼らは鬼狩りの為に真剣を多数所持している。
 もちろんちゃんと許可が取れているものだが、剥奪するのではないだろうか。
 何百年にも渡って、日本国内の脅威(主に鬼などの魑魅魍魎の類)を裏で対処してきた家系ではあるが、ある意味でアウトローな彼らも現代では不要というのがデイライトの考えである。
 デイライトは日本政府の諜報機関によるカムフラージュ組織。
 つまり、日本政府の考えである。
 国家権力で持って、栗原家を潰そうと思えばできるのかもしれない。

 愛原「私達はこのまま現地に向かっても宜しいでしょうか?」
 善場「一応、そうしてください。こちらもBSAAに連絡します。愛原所長のGPSを頼りに向かうことになると思いますので、宜しくお願いします」
 愛原「分かりました」
 善場「それと、絶対に無理はなさらぬように。無理にでも捜査を行うのは、BSAAですので」
 愛原「もちろんですとも」

 私達はあくまで、デイライトから調査業務を委託された民間の探偵業者である。
 とはいうものの、いざとなったら責任押し付けて捨て駒にするつもりであるだろう。
 もちろん私も、それ覚悟で高い報酬を受け取っているわけだが。
 私は電話を切ると電車に乗り込み、誰も乗っていない後部乗務員室の前に立った。

 高橋「ねーちゃん、何ですって?」
 愛原「向こうも向こうで色々調査して分かったことがあるから、それを教えてくれたよ。まあ、ここでは話せないから、向こうに着いたら話すよ」
 高橋「分かりました」
 愛原「それより、彼らはちゃんと駅で待っていてくれてるのかな?」
 高橋「はい。さすがに駅の真ん前では怪しまれるので、少し離れた所で待機してるみたいっス。で、この電車が見える位置にいるそうなんで、日光駅に着き次第、すぐ向かえるようにするって言ってました」
 愛原「違法改造車で迎えに来られても困るなぁ……」
 高橋「いや、さすがに別の車にするみたいっスよ。改造クラウンで、雪道はさすがに厳しかったみたいっスから」
 愛原「当たり前だ!」
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“愛原リサの日常” 「囚われの鬼娘」

2023-11-30 14:42:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日21時00分 天候:晴 栃木県日光市某所]

 リサは1人で遅い夕食を食べていた。
 スマホは取り上げられて、外部と通信が無い。
 しかしテレビだけはあるので、それで番組を観ることはできた。
 手掛かりを求めて色々とチャンネルを回してみたが、テレビ東京は映り、TOKYO MXが映らないことから、東京都やその周辺の県ではなく、更にその外側にある関東地方の県だということは想像できた。
 もちろんテレビば地デジ対応で、番組表も今日の物である。

 リサ「あっ……!」

 その番組表に、『とちぎテレビ』とあった。
 文字通り、栃木県を放送対象区域とする県域テレビ局である。
 地上アナログ放送時代で、1番新しく開局したテレビ局だという。

 リサ「ここは栃木県なんだ!」

 外は雪が積もっていることから、栃木県の山奥に連れて来られたのだと理解したリサだった。

 リサ「先生に助けを呼ばないと!」

 夕食を終えたリサは、8畳間の外に出た。
 しかし、家の窓は閉め切られており、しかもその外側は雨戸が完全に閉められていた。
 室内には電話が無く、玄関に行っても電話は無い。
 当然ながら、玄関扉は堅く閉ざされていた。
 玄関扉は内鍵になっているはずだが、ここの玄関は違った。

 リサ「これ何!?クランクハンドルで開けるの!?」

 よく見ると玄関扉は引き戸ではあるものの、硬い重厚な鉄扉であった。
 それでもリサが本気を出せば、こじ開けられるかもしれないが……。

 リサ「ダメだ。大きな音がして、鬼狩り隊にバレる。どうせなら、タイラント君みたいな力持ちに壊して開けてもらう方がいい」

 当然ながら、都合良く手近に召喚できるタイラントなどいるわけがない。

 リサ「くそ……!」

 ならば窓から脱出しようと思ったが、ガラス扉の錠も鍵穴式になっていて、そこに鍵を通さないと開かない仕組みになっていた。
 また、雨戸も鉄扉である。

 リサ「ガラスを割って、鉄扉をこじ開けることはできるかもしれない……」
 老婆「残念ながら、それはオススメできません」
 リサ「ひゃあっ!?」

 さすがのリサもびっくりした。
 リサもまた気配を隠して、獲物の後ろから襲うのは得意であるが、されるのは慣れていなかった。
 振り向くと、そこにはここでリサの世話係を務めるという老婆がいた。

 リサ「い、いつの間に……!?」
 老婆「全てが終わるまでは、あなた様はここでごゆるりとお過ごし頂きたいのでございます」
 リサ「で、でもせめて、家には電話させてよ!」
 老婆「それはなりませぬ。邪魔が入ってはいけませんので……」
 リサ「邪魔って、わたしの首を刎ねる邪魔?」
 老婆「……お風呂の準備ができてございます。ご案内致しましょう」
 リサ「んー……!」

 リサは食事をした隣の部屋に行くと、そこから寝巻の浴衣を取った。

 リサ「奥日光……。もう隠す気無いでしょ」

 浴衣には『奥日光』の文字が書かれていた。
 どうやら、文字通り、奥日光にいることが分かる。

 リサ「ここは旅館か何か?」
 老婆「それは……ご想像にお任せ致します」
 リサ「違うかな。もしそうなら、わたしを茂みで野ションや野グソさせないもんね」

 リサはあえて下品に言った。
 それでも老婆は腰を低くし、目を閉じるほどに細くしたまま何も表情は変えない。

 老婆「こちらでございます」

 旅館の女将よろしい着物を着ている老婆に誘われ、リサは浴室へと向かった。
 建物自体は『離れ』と呼ばれているだけあって旅館にしては小さく、浴室も人が2人入れるくらいの壺湯があるだけだった。
 それでも温泉の匂いはしており、本物の温泉であるとリサは分かった。

 老婆「どうぞ、ごゆっくりとお過ごしください」
 リサ「う、うん……」

 老婆が出て行くと、リサは脱衣所で服を脱いだ。

 リサ「んん?」

 脱衣所内には白黒の古い写真と、その謂れが説明された看板が立っていた。
 写真には詰襟の学ランのような服を着た若い男達と、着物姿の女性達が写っていた。
 撮影された年を見ると、今から100年くらい前の写真であるようだ。

 『鬼怒川の上流には文字通り、憤怒の如き表情で、近隣の村々を襲う鬼達が暮らしていました。当家では討伐隊を結成し、鬼退治に向かいました。この庵は当時、討伐隊の拠点になっていた場所で、鬼達との戦いに傷ついた隊士達の療養施設にもなっておりました。母屋の方は専用の診療所としても活用され、終戦後は一般の診療所に転用されました』

 という説明が隣にあった。
 写真の男女は、リサと大して年齢層が変わらないように見える。

 リサ「うーん……。写真を見た限りでは、わたし1人で倒せそうな気がするけど……。あっ、こっちの女の子のお肉美味しそう」

 反対側の壁を見ると、それまで鬼狩り隊が倒したという鬼の写真があった。

 リサ「うーん……何か、見た目人間っぽいのもいるけど……。こっちもこっちで、男女比同じくらいなんだねぇ……」

 リサは首を傾げた。

 リサ「うん。わたしの知ってそうなのはいないや」

 リサは一糸まとわぬ姿になると、まずは洗い場に向かった。

 リサ(あれだけ見ると、やっぱり首を刎ねられそうな気がしてならないんだけど……)

[同日22時00分 天候:晴 同庵]

 風呂から出たリサは浴衣に着替えて、寝る準備をした。
 ここで従順なフリをしておけば、向こうも油断して、逃げる隙ができるかもしれないと思った。
 浴衣の下はスポプラ、そして下は一応、黒いプーマのショーツだけにしておいた。
 今日は体育があったので、それで下着はそういうタイプを着けていたのである。
 敷かれていた布団は、フカフカのものだった。
 リネンもクリーニングしたばかりのパリッとアイロンが効いているものである。

 老婆「失礼致します」

 そこへ老婆が入ってきた。

 リサ「なに?」
 老婆「お医者様でございます」
 医師「どうも~」
 リサ「は?何で?わたし、どこも悪くないよ?」
 老婆「ここに来られる際、うちの男達に手荒な真似をされたと伺い、一応お医者様をと」
 リサ「いや、わたしは大丈夫だよ?むしろわたしの爪や噛み付きでケガした人達がいると思うから、そっち看てあげたら?」
 老婆「それでは先生、宜しくお願い致します」
 医師「はい~」
 リサ「って、聞けよ!」
 医師「それでは、診察を始めさせて頂きます~。まずは胸の音から聞かせてください」

 50代くらいの男性医師は、聴診器を手に持った。

 リサ「マジか……」
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“愛原リサの日常” 「一方その頃のリサは……」

2023-11-28 20:27:53 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日20時00分 天候:晴 栃木県日光市某所]

 リサ「…………」

 栃木県の山奥の県道を走る中古の高速バス。
 廃車寸前のバスをタダ同然で引き取ったものだという。
 かつては夜行用で運用されていたのか、車内は独立3列シートで、スーパーハイデッカー。
 トイレや乗務員の仮眠室も設けられているという装備だった。
 窓もスモークシートが貼られているが、カーテンも全部閉められていて、外から中を見ることはできない。
 その乗務員の仮眠室だったスペースに、リサは押し込められていた。
 両手と両足は頑丈な手枷・足枷で固定され、目隠しもされている状態。
 そもそも浚われる際、首に麻酔薬のようなものを注射され、それで意識朦朧としているところを、さらに酒を無理やり飲まされて、更に意識混濁している状態だった。
 その時、外からけたまましいクラクションの音がして、リサは目が覚めた。

 暴走族A「おい、コラぁ!降りて来いや!!」

 他にも若い男の怒鳴り声や、明らかに車検など通らないであろう、違法改造クラクションが何度も聞こえて来る。

 男A「マズい。目撃者か?」
 男B「もうすぐ着くってのに、どうして目撃者が?」
 男C「消すか?」
 男D「消すべ消すべ」
 男A「待て待て。まずはお館様からの指示を待ってだ。鬼がいるというのに、置いて行くわけにもいくまい」
 男B「それもそうだ」
 リサ(わたしのことを鬼だと知っている……?)

 その後、プシューというエアーの音がした。
 どうやら、乗降口の扉が開いたらしい。
 バスが揺れるので、誰かが乗り降りしているだろう。
 その後、若い男達の慌てる声がしたかと思うと、車が走り去る音がした。

 リサ(あの人達は、お兄ちゃんの知り合い?助けに来てくれたの?)
 男A「どうややお館様と、他の人達が追い払ってくれたらしい」
 男B「追い払った?消したんじゃないのか?」
 男C「お館様がそうなさったのだからしょうがねーべ」
 男D「んだんだ」

 またエアーの音がして、バスの乗降扉が閉まる。
 代わりに重厚な鉄の音が響いて来たかと思うと、またバスがゆっくり走り出した。
 そしてまた止まると、再び重厚な鉄の音がして、最後にはガッシャーンという音がした。
 どうやら、何かが閉まる音らしい。
 そして、またバスの扉が開く音がした。

 男A「……え?ここで降りるの?……え?母屋じゃなくて、離れの方に行くって?分かった。……おい。鬼を降ろすぞ。慎重にな」
 男B「おう」

 ガチャという音がすると、寒風が吹き込んで来た。
 乗務員用の仮眠室は、床下のトランクルームを改造した場所にあるので、外側から開けることもできる。

 男A「おい、鬼!着いたぞ!降りるぞ!いいか?逃げても無駄だぞ」
 リサ「むー!むー!」

 リサはどこかのマンガの鬼娘よろしく、竹筒を猿轡代わりに咥えさせられているので、喋ることができない。

 男A「何だァ?何か言いたいことがあるのか?」
 男B「そりゃ、無理やり連れて来られたことに対する文句だべ」
 リサ(そりゃ文句も言いたいけど、そんなことよりも……!)

 リサはトイレに行きたくてしょうがなかった。
 何しろ夕方前に拉致されて以来、1度もトイレに行かせてもらえなかったからだ。
 しかも、意識を混濁させる為に酒まで飲まされたというのもある。
 リサがスカートの上から股間を押さえてモジモジする仕草をすると、そこでようやく男達は気づいた。

 男A「そうか。鬼も便所くらい行くか」
 老翁「何をしておる?」
 男A「お館様。どうやらこの鬼、トイレ行きたいそうです」

 リサはうんうんと大きく頷いた。

 老翁「連絡にはまだ少し時間がある。そこの茂みにでもさせておけ」
 男A「はい」
 リサ「んーっ!?」
 老翁「ちり紙の1つでも渡しといてやれ」
 男B「ほらよ」
 リサ「んー!んー!」

 リサは両手を見せた。
 手枷が邪魔で、下着を脱ぐことができないと。

 老翁「手枷を外してやれ」
 男A「いいんですか?」
 老翁「但し、腰縄と足枷は外してはならん」
 男A「はっ」

 リサは手枷を外された。
 目隠しも外される。
 外は雪が積もっていた。
 そして、目の前には羽織袴姿の老翁と、黒装束の男達がいた。
 黒装束の男達は、リサに日本刀の刃を向けている。

 老翁「そこの茂みの陰にでもしてくるが良い」
 リサ(覚えてろよ、このクソジジィ!)

 リサは雪の積もる茂みの影に隠れて、急いでスカートの中に穿いているブルマとショーツを下ろした。

 リサ(アンブレラの研究所でも、こんなお外でオシッコとかさせられなかったのに……!)

 小用を足していると、今度は大きいのもしたくなる。

 リサ(こうなったらもうここで……!)

 リサは更に踏ん張って、肛門からぶっとい黄金を3本もひり出した。

 リサ「ん~……」

 最後の3本目がプッと肛門から出切ると、リサはようやくスッキリした気持ちになった。
 手持ちのティッシュともらったティッシュ、全部使って前と後ろを拭く。
 そしてようやく下着やブルマを戻して、リサは元いた場所に戻った。

 老翁「戻って来たか。ちょうど受け入れの準備ができたところじゃ」
 男A「それでは再び手枷と目隠しを……」
 老翁「手枷だけで良い。どうせここから歩きじゃ。目隠しをしたままでは、歩き難かろう」
 男A「は、はあ……」

 手枷だけ付けられ、リサ達は石畳の上を進んだ。

 リサ「んー……?」

 途中、右手に大きな家屋敷が見えた。
 まるで、老舗の高級旅館のようである。
 しかしリサ達はそこには寄らず、石畳の小道を進んだ。

 老翁「ここじゃ」
 リサ「ん……」

 そこはまるで茶室のような庵であった。
 リサ達が近づくと、引き戸の玄関が開き、そこから老翁と同じくらいの歳の老婆が現れた。
 老翁と違って小柄で腰が低い。

 老翁「客人の到着じゃ。あとは任せた」
 老婆「かしこまりました」
 リサ(ここが、わたしの処刑場?)

 リサはここにいる老翁や、黒装束の集団が鬼狩り隊だと思っている。
 鬼狩り隊は鬼の首を刎ねるのが仕事だ。
 さっきからリサの首に突き付けられている日本刀は、本当に鬼の首を刎ねられるものだろう。
 そんなものに刎ねられたら、さすがのリサも死ぬ。
 玄関に入ると、何と、体に着けられていた拘束具が全て外された。

 老翁「この中では自由にして良い。但し、逃げる事、一切罷りならん」
 リサ「はあ?」

 竹筒も外され、リサはようやく喋ることができた。
 老翁達はぞろぞろと庵を出て、リサと老婆だけになってしまった。
 老婆は目が細く、まるでいつも閉じているかのようである。
 しかし、表情は穏やかなものだった。

 老婆「遠路遥々、御足労でございました。長旅でさぞお疲れのことと思います。どうぞ中へお上がりください」
 リサ「いや、わたし、帰りたいんだけど?」
 老婆「それは……全てが終わったら、帰れるのでございます」
 リサ「全てって何!?」
 老婆「それは……追々説明がございます。まずは、どうぞ中へ……」
 リサ「せめて、電話くらいさせて?ていうかスマホ帰して」
 老婆「それも……全てが終わったら、返されるのでございます」
 リサ「何だ、それ!」

 リサは靴を脱いで上がった。
 茶室のような庵だと思っていたが、中はそれよりは広いようだ。

 老婆「まず、こちらがお手洗いでございます」
 リサ「うわ、和式だし……。てか、ここ使わせてくれれば良かったのに……」

 その隣の部屋が……。

 老婆「こちらがお風呂でございます」
 リサ「えっ?入っていいってこと?何か、温泉の匂いするけど?」
 老婆「もちろんでございます」

 更に、近くの和室は……。

 老婆「お布団と寝巻でございます」
 リサ「泊まれってこと?いや、こんな時間……もう帰れないけど……」

 布団が敷かれている和室には時計があり、8時半くらいを指していた。
 そして、その隣の和室は……。

 老婆「お食事でございます」
 リサ「マジ!?」

 まるで旅館の夕食みたいに、膳の上に食事が乗っている。
 1番目を惹くのは、赤身が目立つ肉の塊である。
 1キロはあるだろう。
 先ほど、大量の糞尿を排出したこともあり、今度は大きな食欲がリサの中に湧き出て来たところであった。

 老婆「まずは、どうぞお食事を……」
 リサ「しょ、しょうがないな……。せっかく用意してくれたんだし、食べろというのなら、食べるけどぉ……」

 リサは膳の前のフカフカの座布団と腰かけると、すぐに箸を取った。

 老婆「それでは、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。何かございましたら、そちらのベルを鳴らしてください」

 リサ「この、チリンチリンってヤツ?小さいハンドベルみたいなヤツね。分かった」

 リサはまずは食事を片付けてから、今自分が置かれている状況について考えてみることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「手掛かりを頼りに東京出発」

2023-11-28 16:09:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日21時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階リビング]

 私は風呂から出た後も寝巻ではなく、私服姿のままであった。
 いつでもリサが帰ってきてもいいようにするのと、手掛かりがあったらすぐに出られるようにする為だった。
 そして、その備えは正しかったことを知る。

 高橋「……あ、何だって?」

 洗面台で歯磨きをして戻ると、高橋が眉を潜めて誰かと電話していた。

 高橋「……何だ、バスかよ。そんなもんどうだっていいんだよ。もっとこう、怪しいハイエースとかよ……」
 愛原「何の話?」
 パール「どうやらマサに、リサさんに関する情報が入ったみたいですよ」
 愛原「なにっ!?」
 高橋「そんな得体の知れねーバスの情報なんかどうでもいいからよォ、もっとこう……」
 愛原「ちょっと待て高橋!その話、もっと詳しく!」
 高橋「えっ!?あっ、はい!ちょっ、待て!今のナシ!先生が詳しく聞かせろだとよ!」

 私は手近にあったメモ帳に、高橋が聞いてほしい内容のことを書いた。
 『場所はどこ?』『いつ見かけた?』『そのバスの特徴は?』『乗客はいたのか?いたとしたら、どんな人達だった?』などである。
 高橋が聞いた内容を、私は別の手帳にメモする。
 すると、ある文言で私は手を止めた。

 高橋「あぁ?着物着た変な爺さんが日本刀持ってただ?」
 愛原「!」
 高橋「しかも、他には忍者みたいな黒い着物に日本刀持ってた奴らがいただと!?」
 愛原「!?」
 高橋「何だァ?時代劇の撮影でもしてたのか?……違う?そんな感じじゃなかったって?」
 愛原「……ああ。でっかい門があったのか?……ふーん……」

 私は興奮気味で、『後で場所の案内頼んでくれ!』と書いた。

 高橋「な、何か、先生が、後でそこの場所を案内してくれだとよ。……嫌だ?テメこら!俺にボコボコにされたん、もう忘れたんか、あぁ!?」
 愛原「案内料出すから何とか頼む」
 高橋「ええっ!?……な、何か先生は『金なら出すから案内してくれ』って……おい!……ったくよ!」

 どうやら電話が切れたみたいだ。
 よっぽど怖い目に遭ったのだろうか?

 愛原「ダメだって?」
 高橋「いや、『そんなら教えます!』ですって。何なんだ、あいつらよ~」
 愛原「とにかく、バスはともかく、乗ってた人達には心当たりがある」
 高橋「ええっ!?先生、時代劇のエキストラにコネでもあるんですか?」
 愛原「時代劇のエキストラ……か。そうかもしれないな。それもできる人達かもしれないな」
 高橋「えっ?」
 愛原「とにかく急ごう。場所は栃木だったな。今から新幹線で行けば、終電に間に合うだろう」
 高橋「は、はい」
 パール「私、車で東京駅までお送りしましょうか?」
 愛原「いや、もしかしたら、まだリサがひょっこり帰って来る可能性は捨て切れない。その時の為に、パールはここで留守番しててくれ」
 バール「かしこまりました」
 愛原「俺は善場主任に相談してくる。高橋はタクシー呼んどいてくれ」
 高橋「う、うっス!」

[同日21時30分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅→東北新幹線233B列車5号車内]

 私と高橋は、アプリで呼んだタクシーに飛び乗り、東京駅に向かった。
 その前に善場主任に連絡し、高橋の元『同業者』からもたらされた情報を伝えた。
 BSAAでも向かわせるのかなと一瞬思ったが、そうではなかった。
 そりゃそうだろう。
 地元の暴走族からの情報を、国家公務員が信じるとは思えなかったからだ。
 とはいうものの、怪しいことには変わりはない。
 バスに乗ってた乗客達の出で立ちを見て、善場主任はピンと来る物があったようだ。
 その内容、私がピンと来たものと同じだったのかは不明だが……。
 とにかく、善場主任からは栃木の調査を任された。
 デイライトからの許可が取れたので、私と高橋はタクシーで東京駅に向かった次第である。

 運転手「はい、着きましたー」
 愛原「どうもありがとう」

 タクシー料金は既にアプリ決済になっている。
 これなら車内で料金のやり取りをしなくていいからすぐに降りれらるし、領収証もこの場で受け取る必要は無い。
 八重洲側に着いたタクシーを降りると、私達は東京駅構内に入った。

 高橋「先生。このまま行くと、仙台行きの終電に乗れます」
 愛原「そうか。宇都宮で乗り換えだな?」
 高橋「はい。それで行けば、日光行きの終電に乗れます」
 愛原「分かった」

 私は指定席券売機で、新幹線特急券は宇都宮までの自由席、乗車券は日光駅まで購入した。
 特急券とは区間が違う為、1枚一緒ということはなく、2枚ずつバラバラで出て来た。

 愛原「キップは1人ずつ持とう」
 高橋「あざっス!」

 もちろん、領収証を発行するのは忘れない。

 愛原「悪いが、喫煙所で一服する時間は無いぞ?」
 高橋「大丈夫です。家で吸い溜めしてきましたし、向こうでも吸えますから」
 愛原「そうか」

 私達は、まずは乗車券で在来線のコンコースに入った。
 それから新幹線乗換改札口では、特急券を重ねて入れる。
 最終の“やまびこ”223号は“はやぶさ”“こまち”の折り返しなのか、そのフル編成での運転だった。
 但し、停車駅の多いタイプである為か、自由席が多めに設定されている。
 “こまち”車両の方など、グリーン車以外は全部自由席という状態だ。

〔21番線に停車中の電車は、21時44分発、“やまびこ”223号、仙台行きです。この電車は、上野、大宮、宇都宮、新白河、郡山、福島、白石蔵王、終点仙台の順に止まります。……〕

 愛原「ちょっと、コーヒー買って来る」
 高橋「ああ。俺、席取ってますんで」

 “はやぶさ”の車両に、高橋は乗って行った。
 外から見る限り、車内はそんなに混んでいない。
 上野や大宮からも乗って来て、満席に近い状態になるのだろう。
 私は自販機でホットのボトル缶コーヒーを2つ買った。
 それ以外にも、腹が減っては戦ができぬとばかりに、他の自販機で夜食のパンなども買ってみた。
 それから、高橋が乗った5号車に乗り込む。

〔「……電車は17両編成での運転です。1番前が17号車、1番後ろが1号車です。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車。自由席は1号車から5号車と、12号車から17号車です。尚、この電車には車内販売はございません。予め、ご了承ください。【中略】発車までご乗車になり、お待ちください。東北新幹線“やまびこ”223号、仙台行きです」〕

 愛原「お待たせ」
 高橋「どうぞ」

 高橋は2人席の通路側に座っていた。
 私は窓側に座る。

 愛原「オマエはブラック無糖派だったな」
 高橋「あっ、あざっス!……先生はアンパンも買ったんスね」
 愛原「ああ。別に、張り込むわけじゃないと思うから、牛乳じゃないよ」
 高橋「了解っス」
 愛原「オマエの知り合い、日光駅まで迎えに来てくれるんだって?」
 高橋「俺がもっと強く言えば、宇都宮駅まで迎えに来させましたよ?」
 愛原「この電車に間に合わなかったら、お願いしてたかもな」

 日光線の最終電車に接続しているのは、この列車までである。
 那須塩原止まりの“なすの”号だったら、この後にも3本くらいあるのだが、それだと日光線の終電に間に合わない。

 愛原「別にいいよ。実際この新幹線に乗れたから、向こうの終電にも間に合うし」
 高橋「分かりました」

 私はボトル缶コーヒーの蓋を開け、アンパンの袋も開けた。
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“私立探偵 愛原学” 「ドキュンが目撃」

2023-11-25 21:36:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月2日20時00分 天候:晴 栃木県日光市某所]

 除雪された県道をゆっくりながら、それでも爆音を鳴らして走行する1台の乗用車がいた。
 それは黒塗りのゼロクラウン。
 しかし、タクシーやハイヤーとはかけ離れた仕様になっている。
 車は意図的に車高が下げられ、しかしマフラーは極太いものとなっている。
 更に、トランクの上にはバカデカいウィングが取り付けられ……。
 ここまで述べれば、もうお分かりだろう。
 本人達は走り屋を名乗っているが、要は暴走族であった。
 実際に乗っているのも、明らかに真面目に生きているとは思えない出で立ちをした若い男が数名。

 暴走族A「さすが世界のトヨタだな。埼玉のクルド人ボコして分捕ったかいあったべよ」
 暴走族B「外人連中イザとなったら群れるから、また仕返し来るべ?」
 暴走族C「したら、またボコしゃあいいんだ、ボコしゃあ」
 暴走族D「そうそう。日本人の恐ろしさ、教えてやるっちゃよ!」

 そこで下品な大笑いを奏でる4人。
 走行している道路は、昼間は観光客、このシーズンだとスキー客が通ることもあるが、それ以外は滅多に車が通らないような道だった。
 だから夜間は走り屋達の恰好のレーススポットとなっているのだが、さすがにこんな真冬、積雪や凍結するような所では、飛ばすアホもいない。
 さすがのこの暴走族達も、他の季節の時よりはスピードを落として走行していた。
 もっとも、ブオンブオンと吹かす所は変わらなかったが。

 暴走族A「あ?」

 その時、ハンドルを握っていたAが何かを見つけた。

 暴走族B「どうした?」

 助手席に座っているBがAの方を見る。

 暴走族A「見ろよ。こんな時間に対向車だぜ?」
 暴走族B「マジか。今から山さ行くんか?」

 暴走族達は山から下りて、街の方へ向かう道を進んでいる。
 この時間、とっくにスキー場は閉まっている。
 地元民だろうか?

 暴走族C「まさか、サツじゃねーべな?」
 暴走族D「早くも栃木県警ボーナス商戦かぁ!?ヒャーッハハハハーッ!!」
 暴走族A「いや、違うぞ、あれ。あれは……」

 ようやく対向車を視認できた暴走族達。
 雪煙をもうもうと上げて突き進んで来るのは……。

 暴走族B「バスじゃん!?観光バス!」
 暴走族C「は?何で?スキーツアーのバス?」
 暴走族D「んなわけねーって!駐車場、閉まってたじゃん!」

 地元の暴走族達ですら、首を傾げるバスの存在。
 暴走族達も関わる気は無く、そのまますれ違って行こうと思っていた。
 が!

 暴走族A「って、おぉーい!!」

 何と、いきなりバスが右折してきた。
 まるで暴走族達の違法改造クラウンなど目に入っていないかのように、悠然と。
 運転していたAは、これまた電子音に改造したクラクションを鳴らしながら急ブレーキ。
 車はスリップし、横に360度回転し、路肩に寄せられていた雪の山に尻から突っ込んで止まった。
 バスにぶつかることはなかったが、衝撃でエンジンが止まった。

 暴走族A「ってぇ……」
 暴走族B「おい、大丈夫か、皆!?」
 暴走族C「あー、何とか……」
 暴走族D「てか、車は大丈夫なんか?」

 Aはもう1度エンジンを始動してみた。
 すると、ちゃんとエンジンは掛かった。

 暴走族A「よっし!さすがは世界のトヨタ!クルド人が無茶振りしてても壊れなかったくらいだ!」
 暴走族B「って、それよりよ!あのバス!」
 暴走族C「そうだそうだ!何なんだ、いきなりよォ!」
 暴走族D「壊れたテール、弁償してもらわないとなぁ!」
 暴走族A「行くぞ、オメェら!」

 暴走族Aはハンドルを切って、アクセルを吹かした。
 幸い、車はスリップすることなく、すぐに雪の山から出られた。
 そして、バスが曲がって行った方に向かった。
 それはすぐに見つかった。
 曲がってすぐの所にバス1台が止まれるスペースがあり、その先には古めかしい鉄の門があったからである。
 違法改造クラウンは、そのバスの斜め後ろに止まった。

 暴走族A「おい、コラぁ!降りて来いや!!」

 パッパッパーッ!と何度も、違法改造で車検など絶対に通ら無さそうなほどやかましく甲高い音のクラクションを鳴らして煽る。

 暴走族B「おう、コラ!ナメてんのか!!」
 暴走族C「どこ見て運転してんだ、コラぁ!!」
 暴走族D「壊れたテールランプ、弁償してもらおうか?」

 それぞれ角材や鉄パイプ、釘バットや金属バットを手に、車を降りる暴走族達。
 そのうち、暴走族Dが前扉をドンドンと叩いた。

 暴走族D「取りあえず、100万円で示談にしてやる」
 暴走族C「またキンちゃんは、カネばっかw」

 バスは年式の古いもので、都内で見たことのある観光バス会社の塗装をしていた。
 だが、塗装は所々剥げ落ちており、何より元のバス会社の社名が書かれていた部分が剝がされている。
 暴走族メンバーの中で、最も車に詳しいAは、すぐにこれが中古車だと分かった。

 暴走族A(廃車寸前のバスをタダ同然で引き取ったって感じか?)

 Aはナンバーを確認した。
 ナンバーは白で、足立ナンバーになっていた。
 と、そこへ、前扉がプシューというエアー音と共に開いた。
 前扉は折り戸式ではなく、外側に開くスライド式であった。

 暴走族D「運転手さーん!100万円で示談に……」

 スパッ!

 暴走族D「……え?」

 その時、Dが肩に担いでいた角材がスパッと半分に切れた。

 暴走族D「うわっ!?」

 そして、Dの鼻先に何かが付きつけられた。
 それは暗闇でも僅かな光に反射する、日本刀だった。

 老翁「立ち去れ。そして、このことを誰にも言うてはならん」
 暴走族D「えぇえ?」

 Dがビックリして尻餅を付くと……。

 暴走族C「キンちゃん、下がれ!……てめ!なに上から目線なんだよ!?あぁっ!?」
 暴走族B「ナめんな、クソジジィ!」

 Bが鉄パイプで殴り掛かる。
 だが!

 暴走族C「うっ!?」

 その鉄パイプをも、老翁の日本刀は輪切りにしてみせた。
 そして、バスの中からわらわらと現れる、まるで忍者の黒装束を着た集団が現れた。
 全員が日本刀を手にしている。

 暴走族A「な、な……!?」
 暴走族B「こ、こりゃ……!?」
 老翁「さあ、若者達よ!これだけの人数を相手にする度胸ありや!?このまま立ち去れば、それで良し!しかし、雪を赤く染める覚悟あらんとするならば、我々はそれに答えよう!」
 暴走族B「は、ハッタリだ!すぐにメッキ剥がしてやんぜ!」
 暴走族A「ば、バカ!やめろ!」
 暴走族D「ひぃぃっ!?」

 哀れなBは釘バットを輪切りにされたばかりでなく、自慢の金髪も日本刀の刃によって削ぎ落され、河童のようになってしまった。

 暴走族C「ば、バカな!?ありえねー!日本刀で、そこまで!?」
 暴走族D「ぷっw くくくく……www」
 暴走族B「わ、笑うんじゃねぇ!キム!」
 暴走族A「に、逃げるぞ!!」

 4人の暴走族達はテールの壊れた車に乗り込み、そして車のタイヤを滑らせながら県道に戻ると、再び目的地の方向へ向かった。

 暴走族B「な、何なんだよ、あいつら!?」
 暴走族C「わ、分かんねー!分かんねーけど、これだけは確かだぜ?……サツともヤーさんとも半グレとも違う、もっとヤバい連中だ……!」
 暴走族D「だけどさ、このまま泣き寝入りなんてのも悔しいよね?」
 暴走族A「い、一応、ヤベェってことで、他の連中にも知らせようぜ?」

 暴走族達はしばらく県道を走り、ようやく最初に見つけたコンビニの駐車場に滑り込んだ。
 そしてAは、自分のスマホを取り出した。

 暴走族A「あ?誰かからショートメール来てる。何じゃらほい?……マサだ!」
 暴走族B「マサ?」
 暴走族C「マサって、あの新潟のマサ?」
 暴走族A「ああ。『下越のヤンキー』だが、今は引退して、東京で探偵やってるって聞いたけどよ……」
 暴走族D「すっげーな!少刑(少年刑務所)でそういう仕事、紹介してるんだ!?」
 暴走族A「いや、それは知らんけど。……ああ?『怪しい車を見つけたら教えてくれ』?何だこりゃ?」
 暴走族D「怪しい車ならさっきいたもんね」
 暴走族C「あれでいいのか?」
 暴走族D「だってメッチャ怪しかったじゃん?」
 暴走族C「いや、そりゃそうだけどよ……」
 暴走族A「まあ、いいや。マサには新潟遠征の時に世話んなったし、このまま『知らん』って返すよりは、さっきのバスでもいいから教えてやった方が親切だろ」
 暴走族B「そりゃそうだな。もしかしたら、マサがリベンジしてくれるかもしれねーし」
 暴走族C「なるほどな」
 暴走族D「なに?そんなに凄い人なの?」
 暴走族A「新潟県の3分の1を纏めたチームのボスだよ」
 暴走族D「何それ!?すっげー!」
 暴走族A「……よし、送信っと。これで一応、親切にはなっただろ」

 だが、この暴走族Aは、しばらく高橋とメールのやり取りをすることになる。
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