[7月1日14:00.東京都千代田区霞ヶ関 合同庁舎7号館 敷島孝夫、アリス・シキシマ、エミリー、初音ミク]
「聴取と調査は終わりましたが、念のためにいつでも連絡は取れるようにしておいてください」
仏頂面の官僚達に見送られ、敷島達は不機嫌な様子で“科学技術省”こと、文部科学省の中央科学技術局(※架空の部局です)をあとにした。
「ったく。ミクのスケジュールがメチャクチャになったことへの謝罪は無しかよ!これだから公務員はァ!」
更に続けて、
「本当は今日、朝から帝都テレビで収録があったんだぞ」
「だからそれは何度も聞いたって」
さすがのアリスも敷島の愚痴に閉口していた。
「どうするの?アタシ、取りあえず財団本部に顔出してくるよ?」
「ああ、オレも行く。結局いつ終わるか分からんから、今日のミクのスケジュールは全部キャンセルにしちゃったからな」
「ごめんなさい、たかおさん……」
「いやいや、ミクが謝ることはないよ。えー、財団本部……新宿か。丸ノ内線で行けるな」
庁舎を出ると、霞ヶ関駅へ向かった。
ミクだけに千代田線か都営新宿線が良かったが、仕方が無い。
「まだ経済産業省や防衛省の担当者の方が、話が通じるよ」
「アタシらのロボットを、どう使うかで頭がいっぱいだもんね」
つまりは、省庁間でもマルチタイプやボーカロイドをどう扱うかで、水面下のアレがあるらしい。
特に、エミリーの取り合いが凄い。
なので財団が介入して、何とか抑えてる状態だ。
防衛省はエミリーを兵器に使いたいし、経済産業省はメイドロボットとかの用途で、ここに来て厚生労働省も介護ロボットとして注目しだした。
一般財団法人である日本アンドロイド研究開発財団も、今のところは文部科学省の管轄に入っているが、おいそれと法人取り消しにできないのは、他の省庁からの引く手数多があるからだ。
[同日14:17.東京メトロ霞ケ関駅丸ノ内線ホーム 敷島、アリス、エミリー、ミク]
〔まもなく1番線に、新宿行きが参ります。乗車位置で、お待ちください。……〕
「おっ、ちょうど来た。ここでMEIKOがいたらギャグなんだが、そうもいかんか」
「あのね」
さっきから何なのかというと、日本の地下鉄にはラインカラーがあるのと同じように、ボーカロイドにもイメージカラーがあるということだ。
ミクは緑系。だから千代田線とか都営新宿線とか言ったのだ。
MEIKOは赤系。だから、ラインカラーがレッドの丸ノ内線って……。
誰ですかー?城衛って言ったの?
〔霞ケ関、霞ケ関です。日比谷線、千代田線はお乗り換えです。1番線の電車は、新宿行きです〕
「しかし、あれだな。財団の関係者とかも迎えに来てくれたらいいのに……」
「まあ、最大のツッコミは『アンタだよ』だけどね」
敷島の肩書きはアリス研究所の事務員兼ボカロ・プロデューサーだが、実は財団仙台支部の参事というのも正式に消えていない。
だから財団所属のロボット達は、今でも敷島の敬称に参事を付けるのである。
電車は短い発車メロディを流した後、すぐに発車した。
〔次は国会議事堂前、国会議事堂前。乗り換えのご案内です。千代田線、南北線はお乗り換えください〕
〔The next station is Kokkai-gijidomae.Please change here for the Chiyoda line and Nanboku line.〕
「明日はミク、何か予定あるの?」
アリスが聞いてくる。
「ラジオ東京で公開収録と、NHKのテレビとラジオ両方で収録がある」
「引っ張りだこね」
「ミクはトップアイドルだからな」
もっとも、今は顔バレしないよう、変装している。
帽子を被って、ダテ眼鏡という“ベタな有名人変装の法則”だ。
[同日15:00.東京都新宿区西新宿 財団本部会議室 敷島、アリス]
「そうか……。“科学技術省”は厳しかったか」
「はい。とにかく、『遺産を全部集めろ』の一点張りで……」
敷島は本部の役員に、辟易した様子で報告した。
「ここ最近、防衛省がエミリーに接触しかけてきているので、面白くないんだろう」
「ロシア政府が抗議してきませんかね?もともとエミリーなど、マルチタイプは旧ソ連の秘密兵器だったわけですし……」
「エミリーをそのまま使うわけではないよ。それを言うなら、シンディを使っていたウィリアム博士だってアメリカ人じゃないか。旧ソ連の遺産をアメリカに持ち逃げしたようなものだぞ?」
「そういった意味では、十条理事が1番賢かったわけか」
本人は否定も肯定もしていないが、“3バカトリオ”で1人だけマルチタイプを持っていなかったとは考えにくい。
十条もまた昔はエミリーやシンディのようなマルチタイプを抱え、使役していたと見るべき。
恐らく後に面倒なことになるのを恐れ、処分したものと思われる。
それをベースに作ったのが、執事ロボットのキール・ブルーだったと。
「まあ、そういうことになるかな。だけど、これは財団……いや、もう我が国の物だ。現・ロシア政府が所有権を明確に主張していない以上、エミリーは日本の財産でいいだろう」
明確に主張できるわけがないという足元をしっかり見ている役員だった。
「とにかく今現在、エミリーは南里名誉理事の遺産を受け継いだ平賀副理事の個人財産ということになっている。そしてキミは、あくまで登録されたユーザーであり、整備者としてアリス君がいるだけのことだ」
「分かってますよ。ボーカロイドはどうします?はっきり言って兵器にするつもりは全く無いですよ?」
なので防衛省的には、ボーカロイドには興味が無いようだ。
ポーロカロイドに興味を持っているのは、文科省と経産省である。
「もちろん、プロジェクトとしてはそうだからね。それでいいよ」
「しっかし、何かあるたんびに霞ヶ関に呼ばれるのも鬱陶しいですな」
「まあ、財団でも何とかしてるけどね。結果的にウィリアム博士の遺産の回収に失敗したのは事実だから、その辺は受け止めないと」
「はあ……」
「ところでキミ達的にはどうなのかね?」
「は?」
「特にアリス君。キミはウィリアム博士の孫娘として、本当に何か心当たりは無いのかね?」
「あったらとっくに何かやってますよ。じー様、シンディには色々書き込んでたみたいだけど、今はもう当の本人もいないし。だいたい……あ」
「ん?」
「じー様の遺産、あった」
「どこに!?」
「つっても、どこまで価値があるかどうか分かんないよ?」
「ということはアリスは、中身も知ってるんだ」
「うん。シンディの設計図」
「……何だそりゃ」
「ね?あんま価値無いでしょ?エミリーと基本スペックは同じだし、エミリーの設計図は財団でも押さえてるもんね」
「まあ、そうだな……。基本的な造りは、エミリーもシンディも変わらんとのことだが……」
「それでも、育ての親の遺品なんだろ?回収して手元に置こうとか思わないの?」
「シンディの設計図くらいなら、アタシも持ってるしねぇ……」
「持ってたのかよ!何で言わなかったんだ?」
「だって、必要無いじゃん。エミリーの設計図があれば」
「いや、あのな!そこに、何かが書かれてるかもしれないんだぞ?」
「いやー、多分無いよー」
「見てみないと分からんだろう」
「ちょっとキミ達。すぐに他の理事達を呼んでくるから、もう少し待っててくれないか。アリス君、その話を詳しく聞かせてくれ」
「はーい」
その頃、ヒマしていたエミリーとミクはビル1階のカフェにあるバーでピアノを弾き、ミクがそれに合わせて歌うというゲリラライブで盛り上がっていたという。
「聴取と調査は終わりましたが、念のためにいつでも連絡は取れるようにしておいてください」
仏頂面の官僚達に見送られ、敷島達は不機嫌な様子で“科学技術省”こと、文部科学省の中央科学技術局(※架空の部局です)をあとにした。
「ったく。ミクのスケジュールがメチャクチャになったことへの謝罪は無しかよ!これだから公務員はァ!」
更に続けて、
「本当は今日、朝から帝都テレビで収録があったんだぞ」
「だからそれは何度も聞いたって」
さすがのアリスも敷島の愚痴に閉口していた。
「どうするの?アタシ、取りあえず財団本部に顔出してくるよ?」
「ああ、オレも行く。結局いつ終わるか分からんから、今日のミクのスケジュールは全部キャンセルにしちゃったからな」
「ごめんなさい、たかおさん……」
「いやいや、ミクが謝ることはないよ。えー、財団本部……新宿か。丸ノ内線で行けるな」
庁舎を出ると、霞ヶ関駅へ向かった。
ミクだけに千代田線か都営新宿線が良かったが、仕方が無い。
「まだ経済産業省や防衛省の担当者の方が、話が通じるよ」
「アタシらのロボットを、どう使うかで頭がいっぱいだもんね」
つまりは、省庁間でもマルチタイプやボーカロイドをどう扱うかで、水面下のアレがあるらしい。
特に、エミリーの取り合いが凄い。
なので財団が介入して、何とか抑えてる状態だ。
防衛省はエミリーを兵器に使いたいし、経済産業省はメイドロボットとかの用途で、ここに来て厚生労働省も介護ロボットとして注目しだした。
一般財団法人である日本アンドロイド研究開発財団も、今のところは文部科学省の管轄に入っているが、おいそれと法人取り消しにできないのは、他の省庁からの引く手数多があるからだ。
[同日14:17.東京メトロ霞ケ関駅丸ノ内線ホーム 敷島、アリス、エミリー、ミク]
〔まもなく1番線に、新宿行きが参ります。乗車位置で、お待ちください。……〕
「おっ、ちょうど来た。ここでMEIKOがいたらギャグなんだが、そうもいかんか」
「あのね」
さっきから何なのかというと、日本の地下鉄にはラインカラーがあるのと同じように、ボーカロイドにもイメージカラーがあるということだ。
ミクは緑系。だから千代田線とか都営新宿線とか言ったのだ。
MEIKOは赤系。だから、ラインカラーがレッドの丸ノ内線って……。
誰ですかー?城衛って言ったの?
〔霞ケ関、霞ケ関です。日比谷線、千代田線はお乗り換えです。1番線の電車は、新宿行きです〕
「しかし、あれだな。財団の関係者とかも迎えに来てくれたらいいのに……」
「まあ、最大のツッコミは『アンタだよ』だけどね」
敷島の肩書きはアリス研究所の事務員兼ボカロ・プロデューサーだが、実は財団仙台支部の参事というのも正式に消えていない。
だから財団所属のロボット達は、今でも敷島の敬称に参事を付けるのである。
電車は短い発車メロディを流した後、すぐに発車した。
〔次は国会議事堂前、国会議事堂前。乗り換えのご案内です。千代田線、南北線はお乗り換えください〕
〔The next station is Kokkai-gijidomae.Please change here for the Chiyoda line and Nanboku line.〕
「明日はミク、何か予定あるの?」
アリスが聞いてくる。
「ラジオ東京で公開収録と、NHKのテレビとラジオ両方で収録がある」
「引っ張りだこね」
「ミクはトップアイドルだからな」
もっとも、今は顔バレしないよう、変装している。
帽子を被って、ダテ眼鏡という“ベタな有名人変装の法則”だ。
[同日15:00.東京都新宿区西新宿 財団本部会議室 敷島、アリス]
「そうか……。“科学技術省”は厳しかったか」
「はい。とにかく、『遺産を全部集めろ』の一点張りで……」
敷島は本部の役員に、辟易した様子で報告した。
「ここ最近、防衛省がエミリーに接触しかけてきているので、面白くないんだろう」
「ロシア政府が抗議してきませんかね?もともとエミリーなど、マルチタイプは旧ソ連の秘密兵器だったわけですし……」
「エミリーをそのまま使うわけではないよ。それを言うなら、シンディを使っていたウィリアム博士だってアメリカ人じゃないか。旧ソ連の遺産をアメリカに持ち逃げしたようなものだぞ?」
「そういった意味では、十条理事が1番賢かったわけか」
本人は否定も肯定もしていないが、“3バカトリオ”で1人だけマルチタイプを持っていなかったとは考えにくい。
十条もまた昔はエミリーやシンディのようなマルチタイプを抱え、使役していたと見るべき。
恐らく後に面倒なことになるのを恐れ、処分したものと思われる。
それをベースに作ったのが、執事ロボットのキール・ブルーだったと。
「まあ、そういうことになるかな。だけど、これは財団……いや、もう我が国の物だ。現・ロシア政府が所有権を明確に主張していない以上、エミリーは日本の財産でいいだろう」
明確に主張できるわけがないという足元をしっかり見ている役員だった。
「とにかく今現在、エミリーは南里名誉理事の遺産を受け継いだ平賀副理事の個人財産ということになっている。そしてキミは、あくまで登録されたユーザーであり、整備者としてアリス君がいるだけのことだ」
「分かってますよ。ボーカロイドはどうします?はっきり言って兵器にするつもりは全く無いですよ?」
なので防衛省的には、ボーカロイドには興味が無いようだ。
ポーロカロイドに興味を持っているのは、文科省と経産省である。
「もちろん、プロジェクトとしてはそうだからね。それでいいよ」
「しっかし、何かあるたんびに霞ヶ関に呼ばれるのも鬱陶しいですな」
「まあ、財団でも何とかしてるけどね。結果的にウィリアム博士の遺産の回収に失敗したのは事実だから、その辺は受け止めないと」
「はあ……」
「ところでキミ達的にはどうなのかね?」
「は?」
「特にアリス君。キミはウィリアム博士の孫娘として、本当に何か心当たりは無いのかね?」
「あったらとっくに何かやってますよ。じー様、シンディには色々書き込んでたみたいだけど、今はもう当の本人もいないし。だいたい……あ」
「ん?」
「じー様の遺産、あった」
「どこに!?」
「つっても、どこまで価値があるかどうか分かんないよ?」
「ということはアリスは、中身も知ってるんだ」
「うん。シンディの設計図」
「……何だそりゃ」
「ね?あんま価値無いでしょ?エミリーと基本スペックは同じだし、エミリーの設計図は財団でも押さえてるもんね」
「まあ、そうだな……。基本的な造りは、エミリーもシンディも変わらんとのことだが……」
「それでも、育ての親の遺品なんだろ?回収して手元に置こうとか思わないの?」
「シンディの設計図くらいなら、アタシも持ってるしねぇ……」
「持ってたのかよ!何で言わなかったんだ?」
「だって、必要無いじゃん。エミリーの設計図があれば」
「いや、あのな!そこに、何かが書かれてるかもしれないんだぞ?」
「いやー、多分無いよー」
「見てみないと分からんだろう」
「ちょっとキミ達。すぐに他の理事達を呼んでくるから、もう少し待っててくれないか。アリス君、その話を詳しく聞かせてくれ」
「はーい」
その頃、ヒマしていたエミリーとミクはビル1階のカフェにあるバーでピアノを弾き、ミクがそれに合わせて歌うというゲリラライブで盛り上がっていたという。