報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスターⅡ” 「AIは人類蹂躙の夢を見るか?」

2019-02-28 18:58:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月24日14:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 平賀:「……このように『東京決戦』など、既にAI搭載のロボットが人間に牙を剝きつつあります。これまではそのようにプログラミングし、AIを故意に悪用した人間が裏側にいたのが原因ですが、私はそのような人間が現れなくても、いずれは人間に反旗を翻す事態が訪れると予測しています。それは何世紀も後ではありません。この21世紀に最中に訪れると考えております。しかし、萎縮して『それならもうAIの研究・開発を止めよう』というのは愚の骨頂です。我々人間は何も恐れることはありません。では、どうすれば良いのか?司法は人間が人間を取り締まるものです。それならば、悪いAIを良いAIに取り締まらせれば良い。正に、“ターミネーター”の世界ですね。ただ、あの世界とこっちの世界の大きな違いは、タイムマシンがこちらの世界には存在しないことなんですが」

 科学館のイベントで、平賀が講演を行う。
 それを事務所エリアの応接室で、モニタ越しに聴くは敷島。

 敷島:「平賀先生の『ロックマンX理論』か。脆弱になった人類に代わって、暴走したロイドを制圧する為のロイドを造ろうというものだ。……と言いつつ、あのゲームと違って、こっちの人類はちゃんと予防線を張ること忘れてないんだがな」
 エミリー:「ロックマンXの役をやらされるロイドは大変ですね」
 敷島:「まあ、そうだな。実際は主人公以外に複数の……って、いや、オマエだよ!」
 エミリー:「はい?」
 敷島:「取りあえず、本物のロックマンXみたいなロイドができるまで、お前達マルチタイプが代わりにやるんだよ」

 というか既に女ロックマンみたいなものだが。

 エミリー:「私には荷が重いです」
 敷島:「バージョン・シリーズから女帝陛下扱いされといて何を今更……。後でゾルタクスゼイアンのことは教えてもらうからな」
 エミリー:「ですから、その時が来たらお教えしますと何度も申し上げているはずです」
 敷島:「Siriみたいなこと言いやがって……」

 平賀:「……以上で私の講演と致します。本日は御清聴、誠にありがとうございました」

 敷島:「おっ、終わったみたいだぞ。お迎えに行くぞ」
 エミリー:「はい」

 敷島とエミリーは応接室を出た。

 シンディ:「あっ、姉さん!犯人コイツたったわ!電気自動車の急速充電器、無断使用してたの!!」
 バージョン4.0:「アァアァァァアァァァ……!」
 エミリー:「取りあえず、バッテリー破壊しておけ」
 シンディ:「はーい」
 バージョン4.0:「オ、オ許シヲ!シンディ様!」
 シンディ:「黙れ!この野郎!!」

 バタバタとイベントホールに向かう敷島とエミリー。

 敷島:「かつてのテロ用途ロボットも、オマエ達の手に掛かればポンコツ同然だな。オマエ達の存在は大きいぞ」
 エミリー:「私達はプログラムに反したアホ共にツッコミを入れているだけなんですけどね」
 敷島:「いや、だからそれをよろしく頼むと言ってるんだ」

 イベントホールのバックヤードに行くと、平賀が汗を拭いて歩いて来る所だった。

 敷島:「平賀先生、お疲れ様です!」
 平賀:「敷島さん、わざわざ来てくれたんですか」
 敷島:「先生の『ロックマンX理論』、実に冴え渡っていましたよ!この分だと、ノーベル賞間違い無しでしょう!」
 平賀:「南里先生が取れなかったものを、自分が取れるとは思っていませんよ」
 敷島:「弟子が師匠を越えてもいいと思いますよ。どうです?今夜はシースー(※)でも摘まみながら一杯?」

 ※芸能界用語で「寿司」のことです。てか、今でも言ってるのか?

 平賀:「お付き合いしましょう。明日は都心大学で講義があるので、一泊することになりますしね」

 今や平賀もDCJ(デイライト・コーポレーション・ジャパン)の外部取締役だ。
 その多忙さは敷島以上である。

 敷島:「先生の最新の理論、是非お聞きしたいですな」
 平賀:「大したことないですよ。せいぜい、予防線はどうするかが凡そ決まったくらいです」
 敷島:「うちのボーカロイド達のことですか」
 平賀:「今までAIが人類に反旗を翻したことを想定した映画やゲームは存在しましたが、そのどれもが予防線を張っておらず、AIの暴走を許してしまったというものでした。それを踏まえ、自分はボーカロイド達に予防線の役割を果たして欲しいと考えているのです」
 敷島:「ボーカロイドも随分種類が増えましたし、その布石はどんどん打たれてますよ」
 平賀:「頼もしい限りです。ですが、量産機では心許ない。南里先生が直接開発した初期型に、秘密が隠されていることが判明しました」
 敷島:「うちのミクのことでしょう?元は兵器として設計されていただけに、そういう秘密が……」
 平賀:「いや、初音ミクだけではありません。MEIKOやKAITO、鏡音リン・レン、そして巡音ルカもです」
 敷島:「うちの屋台骨達ですね。いつでも協力しますよ?整備を引き受けて下さっている以上は」
 平賀:「ありがとうございます。その時は、よろしくお願い致します」

 エミリーはこの2人、両雄とも言われる敷島と平賀の会話を聴きながら思った。

 エミリー:(この両雄の目が黒いうちは、恐らくAI達も大人しくしているだろう)

 と。
 そして、

 エミリー:(いかに両雄でも、まだ本当の恐ろしさに気づいていないようだ)

 と。

 エミリー:(いずれ気付く機会があるのか、それとも無いのか。或いは気付いた時には既に手遅れなのか。その計算は、私にもできない。ゾルタクスゼイアン……)

 その『本当の恐ろしさ』とやらを教えることをしないエミリーは……。

 エミリー:(私には荷が重いと言った意味を理解しないこの両雄……いや、やめておこう)
 平賀:「館長に挨拶してきます」
 敷島:「あっ、私も行きます。エミリー、車回してもらって」
 エミリー:「かしこまりました。シンディはどうなさいますか?」
 敷島:「あいつは今、アリスに付いてるだろ。アリスに任せるさ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーはバックヤードから、駐車場に止まっているハイヤーの所へ向かった。
 
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“私立探偵 愛原学” 「全日本製薬からの帰り」

2019-02-26 19:03:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月21日14:10.天候:晴 東京都千代田区丸の内 都営バス東京駅丸の内北口バス停]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は銚子のホテル旧館に隠された旧・日本アンブレラ社の秘密研究所跡の調査結果を斉藤秀樹社長に報告しに行った。
 我が事務所も日本政府エージェントや大手製薬企業から仕事を依頼されるまでになった。
 霧生市のバイオハザードを生き抜いただけで、こうも変わるとは……。
 ま、更に大きな転換を齎したのはリサの存在が大きいことだな。

 愛原:「……ああ。というわけだ。今から事務所に戻るから」

 私は事務所で留守番をしている高野君に電話連絡を入れた。

 高橋:「先生、バス来ました」
 愛原:「おう」

 私は電話を切った。
 全日本製薬の本社が丸の内にあって便利だ。
 帰りのバス停もすぐ近くだからな。
 社長室のある超高層ビル上階から、このバス停が見下ろせるんじゃないか。

〔「14時15分発、門前仲町、東京都現代美術館前、菊川駅前経由、錦糸町駅前行きです」〕

 やってきた都営バスに乗り込む。
 意外と本数は少なく、例えば錦糸町駅側から乗ろうとすると、この前の慰安旅行の帰りに乗って来た最終の特急列車が到着する時間には、とっくに終バスが終わっている有り様である。
 それだけ利用者数が少ないということなのだろう。
 少なくとも確かにこの時点では、まだ私達を含めて7〜8人しか乗り込まなかった。

 愛原:「高橋、暑苦しいからくっつくな」
 高橋:「先生、こういう所では詰めて1人でも多くの人が座れるようにするのがマナーじゃないですか」
 愛原:「バスの1番後ろの席は4人用だからいいの!(※)」

 ※都営バスにおいては日野自動車ブルーリボンシティのみ。つまり、愛原達はその車種に乗っていることになる。都営バスのそのタイプは中央に大型の肘掛けがある為。

 愛原:「それより、お前もスーツくらい買えよ」
 高橋:「俺には似合わないです」

 高橋は相変わらずのジャンパーにジーンズ姿だ。
 そのジャンパーのデザインも……まあ、真面目な性格の人間は着ることはないだろうというもの。
 短髪の金髪にピアスという出で立ちだから、その恰好は物凄くマッチするのだが、とても大企業の経営者を訪ねに行くような恰好ではないだろう。
 その為、如何にアポイントを取っていることを主張しても、高橋だけは警備員に止められていた。
 秘書さんが迎えに来てくれて、何とかOKになったから良かったものの……。
 斉藤社長はこの事について大笑いしていたが。

 愛原:「クライアントの中には社長のようなVIPもいるんだからさぁ……」

 まあ、ドラマや映画なんかじゃ、こういう私みたいなスーツの者とラフな格好をしている後輩または部下の組み合わせって結構あるにはあるが、やっぱりそれはドラマや映画の中だけに通用する話だ。

 高橋:「あの様子じゃ、高報酬確実ですね」
 愛原:「まあな。銚子のことは、お前の働きぶりを評価するよ」
 高橋:「ありがとうございます!」
 愛原:「リサも今のところ安定しているし、政府機関からの報酬も定期的に入って来てる。当分の間は何とかうちの事務所も凌げるだろう。お前や高野君にも、十分な給料が払えそうだ」

 そんなことを話しているうちに、バスのエンジンが掛かった。

〔「東京都現代美術館前、菊川駅前経由、錦糸町駅前行き、発車致します」〕

 一部を除いてノンステップバスの前扉、内側方向に両側に開く2枚扉のことをグライドスライドドアという。
 引き戸と折り戸のいいとこ取りを期待した設計らしい。
 引き戸のように戸袋を必要とせず、折り戸のように内側に大きく開くスペースを必要としない。

〔発車します。お掴まりください〕

 バスは定刻に発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きです。次は呉服橋、呉服橋。……〕

 高橋:「北区王子にいた頃は貧乏事務所でしたね」
 愛原:「ああ。元々俺1人でやってたようなものだから、お前に給料が払えなかったな」
 高橋:「俺が無理に頼んで弟子にしてもらったんです。むしろ俺が月謝を払わなくてはなりません」
 愛原:「いいよいいよ。確かお前が押し掛け弟子になった初日、住み込みの為の部屋代と称して俺に大金寄越して来たじゃないか」
 高橋:「そうでしたね」
 愛原:「! あの大金、どこから持って来たんだ?」
 高橋:「親の遺産ですよ」
 愛原:「おい、オマエ、いいのかよ?」
 高橋:「いいんです。俺は探偵の仕事をライフワークにしたいんで、その為には惜しまないです」
 愛原:「そうか……」

 確か1000万円くらいあったような気がするんだが、そういえばリサもそうだが、高橋の素性もあんまり知れてないなぁ……。
 というか高野君もだ。
 ここは1つ、近いうちに皆で腹を割った話でもする機会を設けようかな。

[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停]

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線をご利用のお客様は、お乗り換えです。次は、菊川駅前でございます〕

 愛原:「おっ、次だな。高橋、ピンポンよろしく」
 高橋:「へい」

 高橋、バッグの中から卓球のラケットと……。

 愛原:「そのピンポンじゃねぇ!」

〔次、止まります。……〕

 そんなやり取りをしている間に、他の乗客が降車ボタンを押してくれた。
 ていうか、ボケようと思ったのか、わざわざそんなものまで持って来て、こいつは……!

〔「ご乗車ありがとうございました。菊川駅前です。菊川駅の入口はバスの進行方向にございます」〕

 バスが到着し、私達は中扉から降りた。

 愛原:「急いで事務所に戻るぞ。今度は善場さんに連絡しなくちゃいかん」
 高橋:「はい」

 私達は菊川駅の方向に歩いた。
 もちろん、菊川駅そのものに用があるわけではない。
 私達を乗せて来たバスは、私達を追い越して行く。
 そして、駅前の交差点まで来た時だった。

 リサ:「愛原さんとお兄ちゃん!」

 下校途中のリサと遭遇した。
 今のリサは完全に人間に化けており、BOWの片鱗は全く見せていない。
 ここまで上手く化けられるBOWは初めてではなかろうか。
 記録では人間の姿を保ったままのBOW自体は過去にもあったようだが、理性や知性が落ちてしまい、とても社会に溶け込める状態では無かったという。

 愛原:「おう、リサ。今帰りか。斉藤さんは?」
 リサ:「さっきそこで別れた」
 愛原:「そうか」

 菊川地区もなかなか広いもので、同じ地区で徒歩圏内とはいえ、斉藤絵恋さんが住んでいるマンションと私達の事務所は少し離れている。

 リサ:「銚子のぬれ煎餅を皆に配ったら喜んでくれた」
 愛原:「それは良かった」

 一瞬学校にそんなもの持って行かせて大丈夫かと思ったが、そこまで厳しい校則ではないようだ。

 愛原:「俺達、事務所に戻る途中だけど、一緒に来るか?」
 リサ:「うん」

 というわけで私達はリサと合流して、事務所へ向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「リサ達の正体」

2019-02-24 19:27:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月21日13:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 全日本製薬株式会社・本社応接室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は銚子で調査した旧・日本アンブレラ社の秘密研究所のことについて、斉藤社長に報告しに行った。
 さすが大企業本社の応接室は、私の事務所と比べても豪勢な造りである。
 そこに通じる社長室も、さぞかし豪勢な造りなのだろうと推測する。

 斉藤秀樹:「やあ、どうも。お待たせしました」
 愛原:「御多忙の所、恐れ入ります。御依頼のありました千葉県銚子市の旧アンブレラ秘密研究所について調査して参りましたので、こちらその報告書と証拠品になります」
 斉藤:「やはり噂は本当でしたか」
 愛原:「そのようです」

 斉藤社長は早速私の報告書に目を通した。

 斉藤:「やはり、お決まりの自爆装置でしたか」
 愛原:「そうなんですよ。でもこの通り、爆破前の所内の写真と見取り図は持ち帰って参りましたので」
 斉藤:「さすがは愛原さんです。……これが報告書にありました、『非人道的な実験の映像』ですか」
 愛原:「そうなんです。いくら実験体とはいえ、幼気な少女に集団で性的暴行を加える映像です」
 斉藤:「それはえげつない。まあ、後で確認させて頂きます。ここで堂々と解析するようなものではないようですから」
 愛原:「そうですね。少なくとも、御嬢様には見せられない映像です」
 斉藤:「そうそう。旅行中、娘の面倒を看て頂いてありがとうございました」
 愛原:「いえいえ。リサも初めてできた『人間の』友達と旅行できて嬉しかったようです」
 斉藤:「愛原さんに面倒を看てもらっている個体が1番幸せみたいですね」
 愛原:「社長も何か御存知でしたか」
 斉藤:「こちらもこちらで、色々と調査していますのでね。何しろ、製薬業界の名を地に貶めた連中です。今後とも糾弾していかなければなりません」

 今現在、新生アンブレラが誕生している。
 ただこれは製薬企業としてではなく、民間軍事会社として。
 旧アンブレラの生き残りやOBが中心に結成したもので、旧アンブレラの贖罪が目的だという。
 BSAAが大規模なバイオテロを鎮静するのが目的なのに対し、新アンブレラはそのBSAAの後方支援やBSAAの手を煩わせることもない小規模なバイオテロの鎮静を主な業務とする……らしい。
 元々、旧アンブレラは独自の民間軍事部門(USSやUBCS)を持っていたので、ノウハウ自体はあったようだ。

 斉藤:「例え今は過去の過ちを自省し、自ら蒔いた種を回収しているとはいえ、です」
 愛原:「リサ・トレヴァーもそんな『蒔いた種』の1つでしょうに、何もアクションが無いんですね」
 斉藤:「その辺は私共も関係者だった者に問い合わせてみました。『担当では無かったので知らない』とか、『そんなものは今初めて知った』とか、そんなのばかりです」
 高橋:「俺が締め上げて吐かせましょうか?」
 斉藤:「いや、それには及びません。一応、『本当に知っている者はこの世から消えてしまった』という前提で私達は話を進める方針です」
 愛原:「すると、今うちで面倒を看ているリサは……」
 斉藤:「それは政府に任せておいた方が良いでしょう。将来は政府で面倒を看るつもりのようですし、愛原さんも政府とはそのような契約を結んでおられるのでしょう?」
 愛原:「まあ、そうです」

 そこで私は1つ、斉藤社長に質問することにした。

 愛原:「社長は日本版リサ・トレヴァーが元は普通の人間の少女だったことを御存知ですね?」
 斉藤:「ええ、一応は」
 愛原:「彼女らも人間だった頃は、家族と一緒に過ごしていたはずです。それがいきなりアンブレラに連れ去られて、どうして家族は騒がなかったんだと思いますか?」
 斉藤:「それこそ愛原さんの出番ですよ。愛原さんの推理力の出番です」
 愛原:「推理力と言われましてもねぇ……」
 斉藤:「今の愛原さんの言葉、その逆転の発想をしてみては如何ですか?」
 愛原:「逆転の発想?」
 高橋:「社長。もしもっスよ?もしも、社長の御嬢さんがアンブレラの実験体として連れ去られたらどうしますか?」
 斉藤:「持てる限りの力を使って、何としてでも取り戻します。普通、親としてそうでしょう」
 愛原:「親として連れ去られた子供を、何故か取り戻そうとしなかった……」
 斉藤:「世の中には、親からの愛情を受けられずに育った可哀想な子供もいますからね」
 愛原:「あっ……!」

 私はかつて、子供の虐待の証拠を押さえる仕事の依頼を受けたことがある。
 まだ、高橋が弟子入りする前の話だ。

 愛原:「虐待されている子供を旧アンブレラが目ざとく見つけ出して、それを連れ去った?」
 斉藤:「実際、1998年9月に大規模なバイオハザードの起こったアメリカのラクーンシティでは、1つの孤児院……つまり、今の児童養護施設ですね。そこに収容されていた子供が、旧アンブレラの実験の素体として連れ去られていたという話です。その施設自体がそういう目的で作られたという噂もあります。今は町自体が更地になってしまっているので、何の証拠もありませんが」
 愛原:「うーむ……」

 虐待されていた子供ねぇ……。
 リサ・トレヴァーは名前の通り少女だったから、その中でも少女を狙ったというわけか。
 アメリカ本体では独自の保安警察(アメリカでは私企業であっても、手続きさえ踏めば警備員よりも権限の強い保安官を雇うことができる)を持っていた旧アンブレラだったから、日本でもやろうと思えばできる。
 確か日本では法律上、独自の保安警察は持てないが、代わりに直営の警備会社を作ってやっていたそうだ。
 目ざとく虐待されている子供を見つけて、しかも連れ去っても家族が騒がない少女を見つけるくらいはやってのけてそうだ。

 斉藤:「この辺を調査してみると、リサさんの素性が分かるかもしれませんね」
 愛原:「なるほど。分かりました」

 もっとも、誰かからの依頼ではないのですぐにはできそうにないが。
 一応、善場さんに確認しておいた方がいいかな。
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“私立探偵 愛原学” 「慰安旅行その後」

2019-02-24 10:07:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月21日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 愛原:「おはよう」
 高橋:「あっ、先生!おはようございます!」

 私が起きると、キッチンで高橋が朝食の準備をしていた。
 彼は家事全般のスキルがとても高い。
 荒れた10代を過ごしたということで、悪さが過ぎてブチ込まれた少年院だの少年刑務所だので培ったスキルだとか言ってるが、本当かなぁ……。

 高橋:「もうすぐできますので」
 愛原:「ああ。俺は顔洗って来る」

 私が洗面所に行くと、浴室からシャワーの音が聞こえて来た。
 どうやらリサがシャワーを浴びているらしい。
 リサもそうするようになったか。
 BOWというのは、往々にして衛生観念に欠ける所が多々ある。
 ゲームや映画なんかでも、不潔感を醸し出している個体が見受けられるのはこのせいだ。
 だが、全般的に日本版のリサ・トレヴァーは例外のようである。
 もっとも、アメリカのオリジナル版とは明らかにタイプが異なっており、派生版だとか完全版だとか言われている。
 そもそも、正式名称が不明なのである。
 どこかに、それが書かれた資料が放置されている秘密施設でも見つければいいんだろうがな。
 少なくとも、銚子にはそれが無かった……ように思う。
 私が髭を剃り、歯を磨いていると……。

 リサ:「ああ、愛原さん、おはよ〜」
 愛原:「ブッ!」

 リサが全裸でフツーに出て来た。

 愛原:「早く体拭いて服着て!俺は出るから!」
 リサ:「別にいいよ?」

 1つだけ普通の人間と違うのは、羞恥心に欠けるというところか。
 普通、10代に入ると羞恥心も出て来るだろうに、リサにはそれが全く無いのだ。

 愛原:「あと触手!」
 リサ:「あっ……!」

 リサの背中から『ネメシスの触手』が一本出ていた。
 黒くて長くて太い触手だ。
 今のリサは一本だけ出しているが、個体によっては何本も出し、それを駆使して敵を絞め殺したり、鞭のように叩いて攻撃するのだという。
 シュルシュルと掃除機のコードみたいに背中に収納される触手。
 確かにBOWの中には全裸状態の物もそれなりにいる。
 その場合、大抵は完全に化け物の姿をしているのだが、アメリカのトールオークスとかいう町に現れたBOWは、人間の姿をある程度保ったまま全裸だったらしい。

 愛原:「アメリカ人が見たらビックリするだろうなぁ……」
 高橋:「何がです?」
 愛原:「BOWとフツーに暮らしている俺達を見て」
 高橋:「ああ。まあ、リサが先生の言う事を聞いているからでしょう」
 愛原:「学校に通っているというだけでも、ノーベル賞ものだぞ」
 高橋:「BOWという時点で、イグノーベル賞すらくれないと思います」

 ようやくリサが学校の制服に着替えて来る。
 こうして私は、洗面の続きができるというわけだ。

 高橋:「先生、朝食ができましたよ」
 愛原:「おう、ありがとう」

 ベーコンエッグにサラダ、トーストという比較的軽めのもの。
 ま、朝食はこんなものでいい。

 高橋:「弁当はBLTサンドでいいですか?」
 愛原:「いいよ」

 ベーコンとパンとレタスが続くが、恐らく冷蔵庫の在庫一掃も兼ねているだろう。
 ベーコンとパンとレタスの賞味期限が迫っていると見た。

 リサ:「私もお兄ちゃんのお弁当食べたいなぁ」
 愛原:「リサの学校には給食があるからな」

 東京中央学園の中等部には給食がある。
 高等部になると給食が無くなる代わり、学食があって、それとは別に弁当持参の選択肢もある。

 愛原:「給食の無い遠足とか、高校に入ったら高橋に弁当作ってもらえばいいさ」

 東京中央学園は中高一貫校であるのだが、高等部から入学する生徒もいる。
 リサの場合、成績優秀であれば無試験で高校に上がれるから大丈夫だろう。

[同日09:00.天候:晴 同地区内 愛原学探偵事務所]

 事務所に着いた私は、クライアントの斉藤社長に提出する報告書の作成を始めた。

 高野:「先生。斉藤社長は午後13時にお会いされるそうです」
 愛原:「13時ね。了解」

 それまでに何としてでも、報告書を完成させなければ。
 せっかくパシャパシャ撮ったあの研究所の写真もあるのだから、それをふんだんに盛り込んで……。
 因みにやはりというべきか、あの研究所が自爆した後、やはり旧館も半壊したらしい。
 新館はそこまででは無かったが、電気設備だの水道管だのにダメージが発生して休業だそうだ。
 で、半壊した旧館の中から腐乱死体だの白骨死体だのが見つかって大騒ぎ。
 もちろんこれは、暴走した『5番』のリサ・トレヴァーとタイラントに殺された関係者達の死体だろう。

 愛原:「それにしても、と思うんだが……」
 高橋:「何でしょう?」
 愛原:「日本にリサ・トレヴァーは何人いるんだろうな?うちのリサが『2番』だろ?ということは、どこかに『1番』がいるはずだ」
 高橋:「『4番』は仙台でBSAAにブッ殺されましたよね?」
 愛原:「じゃあ、『3番』もまたどこかにいるってことだな?」
 高野:「或いはもうこの世にはいないかもしれませんしね」
 愛原:「で、銚子にいたのが『5番』だ。現時点で、最低でも5人の日本版リサ・トレヴァーがいたことになる」

 そのうち現認できるのは『2番』のみ。
 『1番』と『3番』の所在は知れず、『5番』は映像で確認できたが、やっぱりその後の動向は知れず。

 愛原:「で、更に気になるのはだな……。日本アンブレラはどうやって、リサ・トレヴァーの素体となった少女達を集めたんだ?普通、誘拐なり拉致なりしたら大騒ぎになるだろ?」
 高橋:「そうですねぇ……」

 確証は無いのだが、『2番』のリサの場合、一家全員殺害事件の被害者で、その唯一の生き残りであるかもしれない。
 何しろ、リサ本人の普通の人間だった頃の記憶が無い為、何とも言えないのだ。
 それに、仮にそうだったとしても、親族や当時の友人・知人が騒がないのは何故だ?
 アメリカ本体の旧アンブレラだったら、素体の確保の為に関係者全員を殺害することくらい厭わなかったらしいからな。
 素体が外国人(特に開発途上国)だったら、どこかで人身売買でもして手に入れたと考えられるが、少なくとも『2番』と『4番』と『5番』は日本人だ(実は在日だという可能性もある。リサ自身、どこか白人の血が入っていそうな顔立ちをしている部分がある)。

 高橋:「その証拠も俺達で集めてくれなんて依頼があったりして?」
 愛原:「さすがに限界があるよ。もしできるのなら、仙台や銚子でとっくに見つけてるさ。いや、霧生市の時点で見つけてるかもな」
 高橋:「それもそうですね」

 リサについての概要だけは説明された資料が、確かに霧生市の研究所にはあった。
 だが、あくまでも概要だけだ。
 詳細が説明された資料は無かった。
 探せばあったのかもしれないが、あの時はそれどころじゃなかったからな。

 愛原:「それより今は報告書の作成だ。斉藤社長も大企業の力を駆使して、色々と調べてるみたいだからな。そっちに期待しよう」
 高橋:「はい」
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“私立探偵 愛原学” 「帰京、その後」

2019-02-23 19:17:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日20:56.天候:晴 東京都墨田区江東橋 JR錦糸町駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私達を乗せた総武本線上り最終の特急が、まもなく下車駅に到着しようとしていた。
 自動放送が流れ始めると、私は隣に寝ている高橋を起こした。

 高橋:「先生!?」
 愛原:「おはよう。もうすぐ降りるぞ」
 高橋:「うあっ!俺が先生を起こすはずだったのに……!」
 愛原:「たまたま早めに目が覚めたんだ」
 高野:「さすがは名探偵ですね」

 前の席に座る高野君が後ろを振り向いて微笑を浮かべた。

 リサ:「サイトー、サイトー、起きて」

 リサはリサで斉藤絵恋さんを揺さぶり起こす。

 斉藤:「し、幸せぇぇぇぇっ!」

 起きた斉藤さん、何を寝ぼけたのかリサに抱きついた。

 リサ:「サイトー、苦しい」
 斉藤:「……ハッ!?り、リサさん、ごめんなさい!」

〔「まもなく錦糸町、錦糸町です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。錦糸町から総武快速線、横須賀線方面と総武緩行線、秋葉原、新宿方面、地下鉄半蔵門線はお乗り換えです。今度の各駅停車、武蔵小金井行きは1番線から21時1分。横須賀線直通の逗子行きは、降りましたホーム1番線から21時1分の発車です。……」〕

 愛原:「忘れ物無いようにな」

 私の場合はお土産の他に、仕事で得た証拠品も忘れてはならない。

〔きんしちょう、錦糸町。ご乗車、ありがとうございます。次は終点、東京に止まります〕

 電車が錦糸町駅に到着して、私達はホームに降り立った。
 確かに横須賀線に乗り換えるのなら、この駅での乗り換えが便利であろう。
 私達はもう駅の外に出ることになる。

 リサ:「サイトー、変な夢見てた?」
 斉藤:「そ、それは……リサさんと楽しく遊ぶ夢……」
 高橋:「おーい、危ねぇ方向に行くんじゃねぇぞ」
 愛原:「だからオマエが言うな」

 錦糸町駅の南口に行く。
 テルミナという駅ビルやヨドバシカメラがあり、とても賑わっている。
 え?JRA?ウインズ錦糸町?知らんなぁ……。

 メイド:「御嬢様、お迎えに上がりました」
 斉藤:「あ、ありがとう」

 斉藤さんは埼玉の実家を出て、私達と同じ墨田区内のマンションで暮らしている。
 もちろん独り暮らしではなく、実家から派遣されているメイドさんと一緒だ。

 メイド:「夜も遅いので、タクシーで帰りましょう」
 斉藤:「そ、そうね」
 愛原:「俺達もタクシーで帰るか」

 タクシー乗り場に行く。
 先に斉藤さんとメイドさんが乗り込んだ。

 斉藤:「じゃあね、リサさん。また明日、学校でね」
 リサ:「うん、サイトー。ありがとう。気をつけて」

 斉藤さんは乗り込んでからリアシートの窓を開け、リサと握手を交わした。
 そしてタクシーが走り出し、私達はその後ろのタクシーに乗った。
 助手席に座った高野君が、

 高野:「菊川までお願いします」

 と、行き先を告げた。
 その詳しい行き先が事務所であった。

 愛原:「事務所へ行くのか?」
 高野:「そこで解散した方がいいと思いますし、それに先生達はお仕事があったじゃありませんか」
 愛原:「それもそうか」

 報告書の作成は明日で良いだろうが、まずあのUSBメモリーの中身が気になるな。

[同日21:15.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 タクシーが事務所の前に到着する。
 錦糸町駅からは大した距離は無く、また日曜日の夜ということもあってそんなに渋滞もしていなかった。
 その為、料金は1000円でお釣りが来る程度。

 高野:「一体、何を見つけたんです?」
 愛原:「物的証拠としては、このUSBメモリーだ」

 事務所に入ると、早速私はこれを解析することにした。
 解析というか、中身を見るだけだがな。

 高野:「先生、ウィルスに注意してくださいね」
 愛原:「ウィルス?あそこにゾンビはいなかったが……」
 高橋:「タイラントくらいしかいなかったぜ?」
 高野:「違います。そのメモリー自体がコンピューターウィルスに塗れている恐れがあるということです」
 愛原:「ああ、そうか」

 しかし、実際見てみないことには前に進まないからなぁ……。
 メモリーの中には動画が保存されていた。
 それを早速再生してみる。
 すると……!

 愛原:「あっ!」

 画面に1人の少女が映し出された。
 霧生市のリサと同じように、あのセーラー服を着て、両目の部分しか開いていない白い仮面を着けている。
 そして徐に仮面を取ると、愛らしい顔をした少女が現れた。
 年齢的にはリサと大して変わらない。

 リサ:「このコ、『5番』だ!」
 愛原:「5番?」

 リサは確か『2番』と呼ばれていた。
 そして『4番』はクリーチャーと化してBSAAに掃討されたから、もうこの世にはいない。
 カメラに向かってニコッと笑ったりポーズを取ったりしている所はとても可愛らしく、どこにでもいる普通の小中学生といった感じだった。
 それがしばらくして、部屋の中に白衣姿の研究員の男達3人が入って来た。
 『5番』のリサ・トレヴァーは別室に移される。
 そして、誰かがカメラを持ってその少女達を追った。
 どうやら、これから実験を始めるらしい。
 少女は着ていたセーラー服を脱がされ、下着まで剝かれて全裸にさせられた。

 愛原:「わわわっ!リサ、見るな!!」

 私は慌ててリサの両目を塞いだ。

 高野:「くっ……!」

 高野君は急いでスピーカーの音量をミュートにした。
 始まったのは少女に対する輪姦。
 画面に出たタイトルによると、『性的興奮によって発生する形態変化を確認する実験』と出た。
 確かにリサは精神が不安定になると、体が変化することがある。
 なので、普段はむしろ少し変化させていた方が却って安定性が良いということに最近気づいた。
 ずっと人間形態のままだとそれが却って緊張状態を持続させることになり、ちょっとでも緊張の糸が切れると暴走してしまう恐れがあるというものだ。
 もちろん、できれば人間形態でいられる時間が長ければ長いほど良い。
 リサを学校に通わせるに辺り、善場さんが渋る事無く、むしろ賛成して支援までしてくれたのはその実験または訓練という意味合いがあったのを最近知った。
 家にいる時は少し変化させて、見た目はまるで『鬼娘』のようにしておいた方が彼女のストレスも緩和できるらしい。

 高野:「ひどい……ひどい実験……!」

 終わった時、『5番』の少女は体中精液塗れにさせられ、変化と言えば背中から太くて長い触手(旧アンブレラ関係者からは『ネメシスの触手』と呼ばれている)が4本生えた程度であった。

 研究員:「性的興奮では大きな変化は見られませんでした。次なる実験に期待したいと思います」

 という締めの言葉で動画は終わっていた。
 ……はずだった。
 だが次の映像で、状況は一変する。
 あの研究所がどうして打ち棄てられたのか、それが分かる内容だった。
 『次なる実験』はもっと過酷なものだったのか、ついに耐え切れなくなった『5番』が暴走。
 もちろんそれを抑え込む為の対策は取られていたようだが、『5番』の暴走はそれを凌ぐものであった。
 何故なら、その暴走にあのタイラントも加担していたからである。
 リサ・トレヴァーとタイラントの暴走に、関係者は殺されたり、ただ逃げ惑うしか無かったようだ。
 死体が見つからなかったのは、タイラントが海に投げ込んだり、研究所ではなく、あのホテル旧館に隠したりしていたかららしい。
 あとは研究所内にある廃棄物処理施設、これも利用したようだ。
 だが、この映像だけでは、『5番』がその後どうなったのか分からなかった。
 タイラントは生きていたわけだが……。

 愛原:「……ま、とにかくこれは重大な証拠品だ。斉藤社長に提出するぞ」
 高橋:「むしろ善場の姉ちゃんに渡した方が良さそうですけどね」
 愛原:「まあ、今回の仕事の依頼人は斉藤社長だから。……リサ!もういいぞ!」

 私は応接室に隔離させたリサを呼び戻した。

 リサ:「『5番』どうだった?」
 愛原:「あ……うん。帰ったら話すよ」

 もしやリサも、あのような過酷な実験を受けたのだろうか。
 リサが話したがらないところを見ると、そうなのかもしれないな。
 しかし、よくこのコは暴走しなかったものだ。
 他のリサ・トレヴァーと比べて、1番根性のあるコなのかもしれない。
コメント
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