[10月30日18:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・中央線ホーム→中央線5201M電車12号車]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はこれから八王子に行こうとしている。
別に八王子の町に用事があるわけではなく、ただ単に前泊するだけである。
夕方ラッシュの慌ただしい中、1面2線しか無い中央線ホームに特急列車がやってくる。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の列車は、18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。この列車は、全車両指定席です。グリーン車は、9号車です。発車まで、しばらくお待ちください〕
何故だか先頭車が指定されていた。
最近の指定席の制度は変わっていて、座席未指定券とかあったりする。
もちろん私達のは指定席特急券なので、そのまま指定された席に座れば良い。
座席未指定券とは自由席特急券のことではなく、まあ、ウィキペディアでも参照して頂きたい。
全車両指定席の為、自由席特急券では乗れないが、要はそれに乗車する権利を持つ券のこと。
但し、着席権に関しては指定席券の方が上位の為、空いている席に座っていても、そこへ指定席券を持った客が来たら席を立たなければならないというもの。
〔♪♪♪♪。ご案内致します。この列車は18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。……〕
私は窓側に座り、高橋はその隣。
私の後ろのリサが座り、その隣に高野君といった感じだ。
リサ:「お腹空いたー」
高野:「食べ過ぎには注意するのよ」
愛原:「やれやれ……」
私は駅弁と一緒に缶ビールを出した。
プシュッとプルタブを開けると……。
高野:「あっ、先生!出張の最中にビールなんて……」
愛原:「い、いいじゃないか、350ml缶1個くらい……」
高橋:「そうだぜ、アネゴ。ケチケチすんじゃねーよ」
高野:「マサ!アンタまで!」
リサ:「いいなぁ。先生、私も飲みたーい」
愛原:「一口飲むか?」
高野:「飲ませるな!リサちゃんもあと5年ガマンしなさい!」
そうしているうちに列車が走り出した。
本当に回送として到着後、折り返すのが早い。
夕方ラッシュ真っ只中の為、どうしても余裕時分が無いのだろう。
如何に特急列車でも、“はちおうじ”号にあっては最高時速95キロに抑えられている。
どうしても同じ線路を入る快速や特快と合わせなければならないのだろう。
正に護送船団方式だ。
〔♪♪♪♪。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。停車駅は新宿、立川、終点八王子です。座席は全て指定席となっております。【中略】次は、新宿です〕
まだ空席が半分くらいあるのは、新宿からの乗車客用であろう。
車両は普段“あずさ”や“かいじ”に使用されるものと全く同じ。
最長、白馬や南小谷まで行くような列車が、今は東京都からも出ない列車に使用されている。
愛原:「どうだ、高橋?俺達は恵まれてるぞ?」
高橋:「先生ほどの御方なら、グリーン車に乗るべきでしょうに、普通車とはナメてますね」
愛原:「アホか。本当だったら、そっちのメチャ混み通勤電車でもいいくらいなんだぞ」
私は並走して走る中央緩行線の電車を指さした。
黄色い帯を巻いて走る電車のことである。
夕方ラッシュということもあってか、今は三鷹方面、千葉方面両方向の電車が混雑していた。
もちろん、オレンジ色の快速電車も似た状況である。
愛原:「俺達は半ば巻き込まれたようなものだからな。そこは善場主任も察してくれてるんだよ」
高橋:「はあ……。つーか、元はと言えば、こいつが見境無く『捕食』したのが悪いんスよ」
リサ:「……ごめんなさい」
愛原:「だから、それはもう言いっこ無し。決闘を申し込んだ栗原さんは、全部自腹なんだから」
高野:「彼女は前泊するんでしょうか?」
愛原:「さあね」
私は肩を竦めた。
資料にはそんなこと書いてなかったし、そこまで私が気を使うこともないだろう。
高橋の言ではないが、リサはまだ自業自得な所があるものの、私達にとっては単なる巻き添えに過ぎないのだから。
[同日18:54.天候:晴 東京都八王子市 JR八王子駅]
〔♪♪♪♪。まもなく終点、八王子、八王子。お出口は、左側です。中央線、高尾、大月方面。八高線、横浜線、相模線はお乗り換えです。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
電車が終点駅に近づく。
特急の割にはゆっくり走る電車なのと、サラリーマン客を乗せて走ることもあって車内も静か。
おかげで、眠気を誘う。
リサも最初は駅弁をガツガツ食べて、その後は景色でも見ていたのだが、いかんせん中央線は真っ直ぐな区間が長く、景色も単調ということもあり、そのうちウトウトするようになった。
〔「ご乗車ありがとうございました。八王子駅3番線到着、お出口は左側です。……」〕
愛原:「どれ、降りる準備するか」
高橋:「はい」
3番線は副本線のようだ。
ホームに進入する前、速度を落とし、それからポイントを通過する大きな揺れが来た。
ここが終点、または始発駅とする中央線電車のホームらしい。
立川駅で下車した乗客もいたが、大半の乗客が終点まで乗り通した。
停車してドアが開く。
〔はちおうじ~、八王子~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ホームの向かい側、2番線には大月行きの電車が停車していた。
更に遠くへ行く乗客が、その電車に向かってダッシュしている。
乗り換え時間は僅か1分だが、階段の昇り降りは無いし、ちゃんと乗り換え希望者が乗り終わるまで待っててくれるだろう。
藤野に行くのなら、あの電車に乗ればいいが、今夜はこの町に泊まることになっているので、今日は乗らない。
愛原:「八王子の方が少し寒いな」
高野:「ヒートアイランドの都心か離れてますからね。山もありますし」
愛原:「かもしれない。早くホテルに行こう」
私達は改札口へ向かった。
指定された列車に乗ったし、これから指定されたホテルに泊まろうとしている。
多分、善場主任はGPSで私達のことを追っているのだろうが、この辺りの費用を全て持ってくれている以上、文句は言えない。
私達を、というより、BOWたるリサの行動を監視する為なのかもしれない。
そう考えると合点が行く。
だとしたら、反発して別のホテルに泊まったりすると、余計面倒なことになるということだ。
うん、電車も別の電車に乗らなくて良かったかもしれない。
明日の早朝の電車も、早朝ならまだ本数も少ないので、何時何分の電車に乗れという指示も可能だということだ。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はこれから八王子に行こうとしている。
別に八王子の町に用事があるわけではなく、ただ単に前泊するだけである。
夕方ラッシュの慌ただしい中、1面2線しか無い中央線ホームに特急列車がやってくる。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の列車は、18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。この列車は、全車両指定席です。グリーン車は、9号車です。発車まで、しばらくお待ちください〕
何故だか先頭車が指定されていた。
最近の指定席の制度は変わっていて、座席未指定券とかあったりする。
もちろん私達のは指定席特急券なので、そのまま指定された席に座れば良い。
座席未指定券とは自由席特急券のことではなく、まあ、ウィキペディアでも参照して頂きたい。
全車両指定席の為、自由席特急券では乗れないが、要はそれに乗車する権利を持つ券のこと。
但し、着席権に関しては指定席券の方が上位の為、空いている席に座っていても、そこへ指定席券を持った客が来たら席を立たなければならないというもの。
〔♪♪♪♪。ご案内致します。この列車は18時ちょうど発、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。……〕
私は窓側に座り、高橋はその隣。
私の後ろのリサが座り、その隣に高野君といった感じだ。
リサ:「お腹空いたー」
高野:「食べ過ぎには注意するのよ」
愛原:「やれやれ……」
私は駅弁と一緒に缶ビールを出した。
プシュッとプルタブを開けると……。
高野:「あっ、先生!出張の最中にビールなんて……」
愛原:「い、いいじゃないか、350ml缶1個くらい……」
高橋:「そうだぜ、アネゴ。ケチケチすんじゃねーよ」
高野:「マサ!アンタまで!」
リサ:「いいなぁ。先生、私も飲みたーい」
愛原:「一口飲むか?」
高野:「飲ませるな!リサちゃんもあと5年ガマンしなさい!」
そうしているうちに列車が走り出した。
本当に回送として到着後、折り返すのが早い。
夕方ラッシュ真っ只中の為、どうしても余裕時分が無いのだろう。
如何に特急列車でも、“はちおうじ”号にあっては最高時速95キロに抑えられている。
どうしても同じ線路を入る快速や特快と合わせなければならないのだろう。
正に護送船団方式だ。
〔♪♪♪♪。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、特急“はちおうじ”1号、八王子行きです。停車駅は新宿、立川、終点八王子です。座席は全て指定席となっております。【中略】次は、新宿です〕
まだ空席が半分くらいあるのは、新宿からの乗車客用であろう。
車両は普段“あずさ”や“かいじ”に使用されるものと全く同じ。
最長、白馬や南小谷まで行くような列車が、今は東京都からも出ない列車に使用されている。
愛原:「どうだ、高橋?俺達は恵まれてるぞ?」
高橋:「先生ほどの御方なら、グリーン車に乗るべきでしょうに、普通車とはナメてますね」
愛原:「アホか。本当だったら、そっちのメチャ混み通勤電車でもいいくらいなんだぞ」
私は並走して走る中央緩行線の電車を指さした。
黄色い帯を巻いて走る電車のことである。
夕方ラッシュということもあってか、今は三鷹方面、千葉方面両方向の電車が混雑していた。
もちろん、オレンジ色の快速電車も似た状況である。
愛原:「俺達は半ば巻き込まれたようなものだからな。そこは善場主任も察してくれてるんだよ」
高橋:「はあ……。つーか、元はと言えば、こいつが見境無く『捕食』したのが悪いんスよ」
リサ:「……ごめんなさい」
愛原:「だから、それはもう言いっこ無し。決闘を申し込んだ栗原さんは、全部自腹なんだから」
高野:「彼女は前泊するんでしょうか?」
愛原:「さあね」
私は肩を竦めた。
資料にはそんなこと書いてなかったし、そこまで私が気を使うこともないだろう。
高橋の言ではないが、リサはまだ自業自得な所があるものの、私達にとっては単なる巻き添えに過ぎないのだから。
[同日18:54.天候:晴 東京都八王子市 JR八王子駅]
〔♪♪♪♪。まもなく終点、八王子、八王子。お出口は、左側です。中央線、高尾、大月方面。八高線、横浜線、相模線はお乗り換えです。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
電車が終点駅に近づく。
特急の割にはゆっくり走る電車なのと、サラリーマン客を乗せて走ることもあって車内も静か。
おかげで、眠気を誘う。
リサも最初は駅弁をガツガツ食べて、その後は景色でも見ていたのだが、いかんせん中央線は真っ直ぐな区間が長く、景色も単調ということもあり、そのうちウトウトするようになった。
〔「ご乗車ありがとうございました。八王子駅3番線到着、お出口は左側です。……」〕
愛原:「どれ、降りる準備するか」
高橋:「はい」
3番線は副本線のようだ。
ホームに進入する前、速度を落とし、それからポイントを通過する大きな揺れが来た。
ここが終点、または始発駅とする中央線電車のホームらしい。
立川駅で下車した乗客もいたが、大半の乗客が終点まで乗り通した。
停車してドアが開く。
〔はちおうじ~、八王子~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ホームの向かい側、2番線には大月行きの電車が停車していた。
更に遠くへ行く乗客が、その電車に向かってダッシュしている。
乗り換え時間は僅か1分だが、階段の昇り降りは無いし、ちゃんと乗り換え希望者が乗り終わるまで待っててくれるだろう。
藤野に行くのなら、あの電車に乗ればいいが、今夜はこの町に泊まることになっているので、今日は乗らない。
愛原:「八王子の方が少し寒いな」
高野:「ヒートアイランドの都心か離れてますからね。山もありますし」
愛原:「かもしれない。早くホテルに行こう」
私達は改札口へ向かった。
指定された列車に乗ったし、これから指定されたホテルに泊まろうとしている。
多分、善場主任はGPSで私達のことを追っているのだろうが、この辺りの費用を全て持ってくれている以上、文句は言えない。
私達を、というより、BOWたるリサの行動を監視する為なのかもしれない。
そう考えると合点が行く。
だとしたら、反発して別のホテルに泊まったりすると、余計面倒なことになるということだ。
うん、電車も別の電車に乗らなくて良かったかもしれない。
明日の早朝の電車も、早朝ならまだ本数も少ないので、何時何分の電車に乗れという指示も可能だということだ。