[16:30.東京都江東区菊川のマンション 敷島孝夫&十条伝助]
この2人は、ある話題で持ち切りになった。実は、十条も鉄道好きだったのである。但し、十条は模型派であった。
「手持ち無沙汰から始めた模型だが、なかなか面白いものだぞ」
実家では、既に一室が完全に鉄道模型のレイアウトと化していたそうである。
「敷島君は模型はやらんのかね?」
「はあ……。私は専ら“乗り鉄”でして……。でも、よく外国の鉄道の模型とか手に入りますね」
「中には自作したものもあるよ」
「ええっ!?」
「私は仕事柄、よく海外へ行く。この前も学会でアメリカに行ったからね。その時乗ったアムトラックの“カリフォルニア・ゼファ”がこれだ」
「あの大陸横断列車の!?」
「ここにあるのはほんの一部だ。実家には、フル編成で展示してある」
「いいですねぇ。おっ、これが“アセラ・エクスプレス”ですか」
「その通り。この車内販売で売っているサンドイッチが、また最高だったね」
「ん?ニューヨークの地下鉄まで?」
「これはR143だな。閑散とした時間帯に乗っていたら、いきなりギャングが撃ってきたのでびっくりしたよー。はっはっはっ」
「いや、笑い事じゃないっス」
「それと比べると、ほんと日本の地下鉄は平和だ。キールが体を張ってくれたおかげで、私は全くの無傷だったんだがね」
「そうでしょうとも」
キールも頑丈な体で、ギャングが持っているハンドガンなんかで壊れるタマじゃないことは知っていた。
何しろシンディの機銃掃射でさえ“軽傷”、バズーカでも“重傷”だったのだから。
「アジア方面だと、ほれ。最近話題の中国高速鉄道CRH2」
「……これ、(JR東日本)E2系の色、塗り替えただけじゃないっスか?」
[17:00.菊川一丁目バス停 敷島、エミリー、十条、キール]
「どうせ、最終の新幹線で帰るのじゃろ?ついでに錦糸町で晩餐を共にしよう」
「ありがとうございます」
出欠を聞きに行くのに、随分と大掛かりになってしまった。
数分遅れで、都営バスがやってきた。
「敷島さん。お約束は……」
エミリーが先に釘を刺してきた。
「分かってるって」
「? 約束?何の約束かね?」
十条が聞いてくる。
「いえ。“ベタなおのぼりさんの法則”です」
「?(最近の若い者は分からん)」
前扉からバスに乗り込んだ。
「理事はこちらに」
と、優先席に座らせる敷島。その前の吊り革を掴む。
〔「発車します。お掴まりください」〕
バスが走り出した。
〔「次は菊川駅前、菊川駅前。都営新宿線をご利用のお客様は、お乗り換えです」〕
「理事はどの路線で、金沢まで行かれるんですか?」
敷島が聞いた。
「いつも、東京駅から発車する便に乗っておるよ。あの路線、金沢の駅が終点ではないからな。その少し先まで行ってくれるのだが、ちょうど実家に近い場所なんだ」
「へえ……」
「マンションからタクシーで行けば、20分程度で東京駅に着けるしな」
「確かに」
今日の場合は、錦糸町駅から総武快速に乗ることになりそうだ。
「最終の新幹線は予約したかね?」
「ええ。今日が金曜日なので、最終も最終です」
敷島はスマホを取り出して頷いた。
「では、ゆっくりできるな」
「ええ」
[21:00.錦糸町駅ビル“テルミナ”飲食店内 敷島孝夫&十条伝助]
ほろ酔い加減の2人。
「なぁに。人間、若い頃には色々あるもんだ。それに、結婚が早けりゃいいってもんでもないぞ」
十条はクイッとウィスキーのグラスを煽って、敷島に言った。
「私なんざ、結婚して35年経つが、キールを作ってる時には既に粗大ゴミ扱いだよ。はっはっはっ!」
「そうですか」
「敷島君は今、いくつかね?」
「今年35です。作者より年上です」
「はっはっはっ。といっても、3つしか違わんだろう。ん?ということはキミが生まれた時に、私は結婚したことになるのか」
「そうっスね」
敷島は梅酒を口に運んだ。これだけで、もう顔が赤い。といっても、何杯か飲んだが。
「いやー、人生はあっという間だよ。1日1日を大事に生きるといい」
「そのつもりなんですけどね」
「今すぐの結婚相手はいないにせよ、気になる相手はいるのかね?」
「え?……あ、いやー、それが……」
敷島は一瞬、ある女性の顔を思い浮かべたが、すぐに打ち消した。
「私としては赤月君。まあ、平賀君と結婚して、平賀夫人になったがね。彼女がキミに相応しいと思っていたのだが……」
「うーん……」
「プロデューサー業務で、意気投合もしていたことだし……」
「その仕事も、リストラされちゃいましたからね」
「何を弱気になっている?少なくとも、キミが希望すればまたボーロカイド・プロデューサーの仕事が回ってきそうな気がするんだけどね」
その時、キールから十条に電話が入った。
「……ん?なに?もうそんな時間かね?……分かった。すぐ行く」
電話を切って、敷島を促す。
「せっかくの人生相談中に申し訳ないが、そろそろ出発の時間だ。飲食代は私が持つから、準備をしてくれ」
「ありがとうございます。ごちそうさまです……」
敷島は重い腰を上げた。
この2人は、ある話題で持ち切りになった。実は、十条も鉄道好きだったのである。但し、十条は模型派であった。
「手持ち無沙汰から始めた模型だが、なかなか面白いものだぞ」
実家では、既に一室が完全に鉄道模型のレイアウトと化していたそうである。
「敷島君は模型はやらんのかね?」
「はあ……。私は専ら“乗り鉄”でして……。でも、よく外国の鉄道の模型とか手に入りますね」
「中には自作したものもあるよ」
「ええっ!?」
「私は仕事柄、よく海外へ行く。この前も学会でアメリカに行ったからね。その時乗ったアムトラックの“カリフォルニア・ゼファ”がこれだ」
「あの大陸横断列車の!?」
「ここにあるのはほんの一部だ。実家には、フル編成で展示してある」
「いいですねぇ。おっ、これが“アセラ・エクスプレス”ですか」
「その通り。この車内販売で売っているサンドイッチが、また最高だったね」
「ん?ニューヨークの地下鉄まで?」
「これはR143だな。閑散とした時間帯に乗っていたら、いきなりギャングが撃ってきたのでびっくりしたよー。はっはっはっ」
「いや、笑い事じゃないっス」
「それと比べると、ほんと日本の地下鉄は平和だ。キールが体を張ってくれたおかげで、私は全くの無傷だったんだがね」
「そうでしょうとも」
キールも頑丈な体で、ギャングが持っているハンドガンなんかで壊れるタマじゃないことは知っていた。
何しろシンディの機銃掃射でさえ“軽傷”、バズーカでも“重傷”だったのだから。
「アジア方面だと、ほれ。最近話題の中国高速鉄道CRH2」
「……これ、(JR東日本)E2系の色、塗り替えただけじゃないっスか?」
[17:00.菊川一丁目バス停 敷島、エミリー、十条、キール]
「どうせ、最終の新幹線で帰るのじゃろ?ついでに錦糸町で晩餐を共にしよう」
「ありがとうございます」
出欠を聞きに行くのに、随分と大掛かりになってしまった。
数分遅れで、都営バスがやってきた。
「敷島さん。お約束は……」
エミリーが先に釘を刺してきた。
「分かってるって」
「? 約束?何の約束かね?」
十条が聞いてくる。
「いえ。“ベタなおのぼりさんの法則”です」
「?(最近の若い者は分からん)」
前扉からバスに乗り込んだ。
「理事はこちらに」
と、優先席に座らせる敷島。その前の吊り革を掴む。
〔「発車します。お掴まりください」〕
バスが走り出した。
〔「次は菊川駅前、菊川駅前。都営新宿線をご利用のお客様は、お乗り換えです」〕
「理事はどの路線で、金沢まで行かれるんですか?」
敷島が聞いた。
「いつも、東京駅から発車する便に乗っておるよ。あの路線、金沢の駅が終点ではないからな。その少し先まで行ってくれるのだが、ちょうど実家に近い場所なんだ」
「へえ……」
「マンションからタクシーで行けば、20分程度で東京駅に着けるしな」
「確かに」
今日の場合は、錦糸町駅から総武快速に乗ることになりそうだ。
「最終の新幹線は予約したかね?」
「ええ。今日が金曜日なので、最終も最終です」
敷島はスマホを取り出して頷いた。
「では、ゆっくりできるな」
「ええ」
[21:00.錦糸町駅ビル“テルミナ”飲食店内 敷島孝夫&十条伝助]
ほろ酔い加減の2人。
「なぁに。人間、若い頃には色々あるもんだ。それに、結婚が早けりゃいいってもんでもないぞ」
十条はクイッとウィスキーのグラスを煽って、敷島に言った。
「私なんざ、結婚して35年経つが、キールを作ってる時には既に粗大ゴミ扱いだよ。はっはっはっ!」
「そうですか」
「敷島君は今、いくつかね?」
「今年35です。作者より年上です」
「はっはっはっ。といっても、3つしか違わんだろう。ん?ということはキミが生まれた時に、私は結婚したことになるのか」
「そうっスね」
敷島は梅酒を口に運んだ。これだけで、もう顔が赤い。といっても、何杯か飲んだが。
「いやー、人生はあっという間だよ。1日1日を大事に生きるといい」
「そのつもりなんですけどね」
「今すぐの結婚相手はいないにせよ、気になる相手はいるのかね?」
「え?……あ、いやー、それが……」
敷島は一瞬、ある女性の顔を思い浮かべたが、すぐに打ち消した。
「私としては赤月君。まあ、平賀君と結婚して、平賀夫人になったがね。彼女がキミに相応しいと思っていたのだが……」
「うーん……」
「プロデューサー業務で、意気投合もしていたことだし……」
「その仕事も、リストラされちゃいましたからね」
「何を弱気になっている?少なくとも、キミが希望すればまたボーロカイド・プロデューサーの仕事が回ってきそうな気がするんだけどね」
その時、キールから十条に電話が入った。
「……ん?なに?もうそんな時間かね?……分かった。すぐ行く」
電話を切って、敷島を促す。
「せっかくの人生相談中に申し訳ないが、そろそろ出発の時間だ。飲食代は私が持つから、準備をしてくれ」
「ありがとうございます。ごちそうさまです……」
敷島は重い腰を上げた。