報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「漁港をあとにして」

2021-01-31 23:12:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日10:00.天候:晴 宮城県石巻市鮎川地区 ミヤコーバス鮎川港停留所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 民宿に一泊した後、その車で最寄りのバス停まで送ってもらった。
 民宿からバス停に向かおうとすると、徒歩15分くらいは掛かる。
 それを民宿のサービスで送ってもらったわけだ。

 愛原:「結局、あの船は何だったんだろうなぁ?」
 高橋:「大騒ぎになっていないところを見ると、やっぱりただの遊漁船だったんスかね?」
 愛原:「さあなぁ……。とにかく明日、善場主任の所に新年の挨拶も兼ねて持って行こう」
 高橋:「うっス」

 待合室もベンチも無い空き地のような場所に、バス停がポツンと立っている。
 そこでバスを待っていると、何だかパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。

 高橋:「相変わらずヤな音ですねー」
 愛原:「オマエはな」

 近くの住宅街のような所にパトカーが入って行き、そこでサイレンが止まった。
 何か事件でもあったのだろうか?
 震災からの復興も進んでいる、長閑な漁村といった感じの場所なのだが……。
 しばらくして、空き地で待機していたバスがエンジンを掛けて、バス停に近づいて来た。
 塗装は宮城交通(というか名鉄バスの傘下なので)の紅白のものだ。
 車種は都内でも見かけるジェイ・バス製ボディの中型車。
 意外なことに、こういうローカル線でもICカードが使えた。
 こういう時、ICカードは便利だ。
 地方の路線バスだと、運賃がいくら掛かるか分からないので、なかなか予め用意するということが難しい。
 ここみたいに起点停留所なら、運転手に降りる停留所までいくら掛かるか聞けるが、途中から乗って途中で降りるとなるとなかなか聞きにくい(走行中は無論のこと、赤信号停車時でもちょっと……)。
 正解はバス停に停車中に聞くのが良いらしい。
 が、ローカル線だと、なかなか途中で乗り降りが無い為にそのタイミングを掴みにくいというネックがある。
 こういう時、ICカードだと何千円かチャージしておけば降りる時に足りないなんてことはない(まさか高速バスじゃあるまいし、いくらローカル線とはいえ、一般道走行の路線バスで何千円も運賃を取る所なんてそうそう無いだろう)。

〔サンファンパーク、渡波駅前経由、イオンスーパーセンター石巻東店行きでございます〕

 愛原:「渡波駅前で降りて、そこから石巻線だな」
 高橋:「小牛田には行くんですか?」
 愛原:「いや、今回はもういいだろう。石巻で降りて、そこから仙石東北ラインだな」
 高橋:「そうですか……」

 私達がそんなことを話していると、再びパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。
 それはバス停の前を通り過ぎて行った。
 さっきのとは別のパトカーで、別の場所に行くみたいだ。

 愛原:「なあ。マジで何かあったみたいだな?」
 高橋:「連続空き巣事件でもありましたかね?ほら、よく田舎は玄関に鍵掛けないって言うじゃないですか」
 愛原:「あー、そうだな。でも、うちの伯父さんちも、あの民宿も鍵は一応掛かってたぞ?」

 もっとも、私達が早朝張り込みに行く際は開いたままではあったが。
 ちゃんと帰って来た時に、鍵は掛けておいた。

 発車の時間になっても、他の乗客は誰も乗ってこなかった。
 正月三が日は、あまり外に出ないのだろうか。

〔発車致します。ご注意ください〕

 バスはゆっくりとバス停を出発した。

〔ピンポーン♪ 毎度ミヤコーバスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスはサンファンパーク、渡波駅前経由、イオンスーパーセンター石巻東店行きでございます。次は鮎川大町、鮎川大町でございます〕

 バスは途中、パトカーが曲がっていった路地を通り過ぎる。
 その先には赤色灯を点滅させて停車しているパトカーがいた。
 近所の人達も何事かと見に行っている。

 愛原:「一体、何があったんだろうな?」

 いずれにせよ警察が出動している時点で、私達、民間探偵業者に出番は無い。
 だが、後であの調査は実は緊急性が高かったことを知ることになる。

[同日11:18.天候:晴 石巻市渡波町 JR渡波駅→石巻線1632D列車先頭車内]

 鮎川からここまで1時間以上掛かった。
 県道2号線をひたすら進んで来た形となる。

〔「渡波駅前です」〕

 このバス停でバスを降りる。

 愛原:「あっ、そろそろ列車が来るぞ」

 私は時計を見た。
 バスのダイヤは、列車のそれと接続しているのだろうか?
 JR石巻線は基本、Suicaには対応していない。
 その為、紙のキップを購入することになる。
 駅構内には自動券売機が1台だけある。
 元々は有人駅で、窓口もあったようだが、今では無人駅となり、窓口があった場所は封鎖されている。
 仙台駅までのキップを3枚買うと、それでホームに入った。


〔まもなく、上り列車が参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 簡素な自動放送が流れると、構内踏切の警報機が鳴った。
 この駅は石巻線の中で、最も東にある列車交換可能駅となっている。
 その為、2番線が存在する。
 その2番線へは1番線から構内踏切を渡って行く形になる。
 もっとも、私達が乗る列車は1番線から出るが。
 やってきた列車は2両編成の気動車だった。
 2両で1編成のタイプである。
 無人駅なので、先頭車の後ろの車両から乗る。
 既にキップは購入済みなので、整理券を取る必要は無い。
 そこそこ乗客は乗っていて、ボックスシートではなく、ロングシートに腰かけた。
 列車交換可能駅とはいうものの、必ずしも全列車が交換を行うわけではないらしい。
 なので、この列車はすぐに発車した。

 愛原:「仙台駅に両親が来て、最後に一緒に昼食を取ろうということだ」
 高橋:「いい御両親で羨ましいっス」
 愛原:「俺は新型コロナもあるから、あまりそういうのは止めた方がいいって言ったんだけどな……」
 高橋:「何気に、公一センセーも来てたりして?」
 愛原:「無きにしも非ずってところだな」

 昼食を取って、お土産を買って、あとは新幹線に乗るって感じか。
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“私立探偵 愛原学” 「正月仕事の探偵」

2021-01-31 15:56:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月3日04:00.天候:晴 宮城県石巻市鮎川地区 とある民宿→鮎川漁港]

 私の枕元に置いたスマホがアラームを鳴らす。

 愛原:「……よし。仕事の時間だ……」
 高橋:「うっス……」
 リサ:「うっス……」
 愛原:「リサは寝てていいよ?」
 リサ:「私も行く……」
 高橋:「遊びじゃねぇんだぞ」
 リサ:「もしもBOWが近くにいるなら、私の鼻で分かるよ?」
 高橋:「そうなのか?」
 愛原:「リサがどうしてもというなら、それでいいじゃないか。とにかく、顔を洗ってさっさと行こう」

 私達は身支度を整えると、そっと民宿を出た。
 私達の他に宿泊客はいないが、家族経営の民宿で、経営者家族の居住区が1つ屋根の下にあるので、うるさくして起こしたりしないようにする為だ。
 鍵は開けてていいらしい。
 車の鍵は予め預かっている。
 私達は冷たい風の吹く屋外に出た。
 そして、駐車場に止まっているセレナに乗り込んだ。
 運転は高橋に任せ、私とリサはリアシートに乗り込む。
 幸いフロントガラスと運転席と助手席以外の窓は、スモークガラスになっている。
 これなら良い張り込みができるだろう。
 しかも車の運転席と助手席のドアには、民宿の名前と電話番号が書かれたステッカーが貼られていた。
 傍から見れば、釣り客の送迎をする民宿の車に見えるだろう。

 高橋:「どこに着けますか?」
 愛原:「佐々木博士が証言してくれた場所に、恐らく偽遊漁船は訪れるだろう。そこが見下ろせる場所がいいな」

 もちろん、あまり近づき過ぎてはいけない。
 まずは漁港を通り過ぎてみる。
 漁港に人影は無かった。
 漁師の操船する漁船も係留されたままだ。
 漁師も正月三が日は休みなのだろう。
 そして今度は戻ってもらって、漁港に程近い牡鹿半島ビジターセンターの駐車場に車を止めた。

 愛原:「よし。エンジンを切ってくれ」
 高橋:「はい」
 愛原:「だけどいざとなったら、エンジンを掛けていつでも車を出せるようにしておいてくれ」
 高橋:「分かりました」

 私は窓を少しだけ開け、そこからデジカメを覗かせた。
 まだ外も暗いうちに写真なんか撮ったら、フラッシュの光でバレるんじゃないかって?
 もちろん、そんなことは想定済みだ。
 フラッシュなど焚かなくても、暗い中でしっかり撮影できる代物だ。
 そして、取り出したるは双眼鏡。
 折り畳み式の。
 いつでも仕事ができるように、探偵の7つ道具は常に持ち歩いているのだ。
 どうだい?凄いだろう?

 愛原:「寒いかもしれないが、ガマンしてくれ。これも仕事だ」
 高橋:「分かってますよ」
 リサ:「私は平気」

 小一時間ほどした頃だろうか。
 漁港に動きがあった。
 どこからともなく、1人また1人と漁港に集まってきたのだ。
 やはり、それぞれがこれから釣り船に乗るかのような出で立ちをしている。
 ライフジャケットを着ていたり、釣り竿を持っていたり、クーラーボックスを持っていたりだ。
 これなら、傍から見れば本当にこれから遊漁船に乗るといった感じに見えるだろう。

 愛原:「……?」

 私が不思議に思ったのは、今回のそのメンバーは佐々木博士が証言したのと若干違ったからだ。
 佐々木博士は、釣り客を装った関係者らしき者達がそこにいたと言っていた。
 しかし今回いるのは、中年男性達が中心ではあるものの、その中に子供も少し含まれていたことである。
 小学生の男子児童もいれば、中学生くらいの女子らしき者もいる。
 子供が含まれているおかげで、ますます怪しさは薄れているのだ。
 まるで本当に、これから本物の遊漁船に乗るかのようだ。
 私は写真の撮影を忘れない。
 そうこうしているうちに、沖の方から一隻の船がやってきた。
 クルーザーのような船だ。
 もちろん、それ自体は違和感は無い。
 往々にして遊漁船に使われるタイプだ。
 10人くらいは乗れそうな船だった。

 愛原:「…………」

 その船が船着き場に着岸する。
 しかし、船から降りて来たのは船長らしき者1人だけだった。
 佐々木博士の証言では、船長の他に武装した男2人が降りて来たとのことだったが……。
 もしかして、本当にただの釣り船なのだろうか?

 愛原:「ううん?」

 しかし見ている限り、乗客達は船長に何か渡し、代わりに何かを受け取って船に乗り込んでいた。
 だがあいにくと、ここからでは死角になっていて見えない。
 単なる乗船券のようなものなのかもしれない。
 あいにくと、ここからではそれが何なのかは分からない。
 乗客達が全員船に乗り込むのを確認した船長らしき男は、辺りを見渡すといそいそと船に戻って行った。
 そして、船は慌ただしく出港して行った。

 高橋:「どうします?もう帰りますか?」
 愛原:「いや。船影が見えなくなるまで待っていよう」

 私は地図を広げて、船の向かった方向を確認した。
 金華山周辺には、離島がいくつか浮かんでいる。
 その中にはちゃんと住民がいて、ここからそういった住民達の足であるフェリーも出ている。
 地図で見る限り、金華山やその周辺の離島方面に向かったようだ。

 愛原:「よし。あの船着き場に向かってみよう」
 高橋:「分かりました」

 高橋はエンジンを掛けた。
 そして、ビジターセンターを出ると、そこを大回りして漁港の道に出た。
 昨日リサ・トレヴァー『220番』が現れた、陸揚げされている捕鯨船の近くまで行く。

 愛原:「リサ。近くにBOWの気配は?」
 リサ:「無い」
 愛原:「よし」

 私達は車を降りた。
 さっきの乗客達のいた場所に、何かが落ちていないか探した。
 ここでゲームやアニメ、マンガなら都合良く何か落ちていたりするものであるが、あいにくとこの小説ではそんなことは無かった。

 愛原:「……収穫無しか」

 私もさっきの船長と同様、周囲を見渡してみる。
 さっき車を止めた駐車場が目上にあるが、船長や乗客達に気づかれた感じはしなかった。

 愛原:「よし。宿に戻ろう」

 私達は車に戻った。
 そして、民宿に戻った。
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“私立探偵 愛原学” 「民宿で過ごす」

2021-01-28 20:00:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日17:00.宮城県石巻市鮎川地区 とある民宿]

 佐々木博士の紹介で、私達は地区内にある民宿に飛び込みで泊まることができた。
 ビジネスホテルと違い、本来こういう所は飛び込み客は断られるものである。
 それがOKとなったのは、民宿の経営者が佐々木博士の知り合いということも去ることながら、私達と同じ人数の宿泊客がドタキャンしたからである。

 主人:「食材も仕入れていた後だったので、助かりましたよ。ありがとうございます、佐々木先生」
 佐々木:「いやいや、私もビックリしたよ」

 私達は港から佐々木博士の車で民宿まで送ってもらった。

 佐々木:「じゃあ私はこれで」
 愛原:「大丈夫ですか、お1人で?」
 佐々木:「大丈夫ですよ。走り慣れた県道ですから。むしろ車通りの多いうちに帰った方がいいかもしれません」
 愛原:「もし何でしたら、私の知り合いの機関に保護を依頼しておきますよ?」
 佐々木:「愛原さんこそ、優しい方ですね。さすがは公一君の甥っ子さんだ」

 佐々木博士を見送った私は、また館内に戻った。

 女将:「お食事はそちらの食堂で、18時からになりますので」
 愛原:「分かりました」

 私は一度部屋に戻ろうとしたが、再び主人を呼び止めた。

 愛原:「あっ、女将さん。1つ、お願いがあるのですが……」
 女将:「は?」
 愛原:「本来泊まるはずだった3名の方達って、どういう方達なのでしょうか?」
 女将:「どんなって……。お客さん方のように、東京から来られるはずだった方々です」
 愛原:「東京から!……その人達、どうしてキャンセルしてしまったのでしょう?」
 女将:「何でもお1人、新型コロナウィルスに感染してしまって、来られなくなったんですって。ただの病気なら、残りの2人で来ることも可能だったらしいんですけど、コロナじゃねぇ……。残りのお2人も濃厚接触者ということで、旅行を中止せざるを得なくなったとか……」
 愛原:「そうだったんですか」

 もっともらしい理由だ。
 私はこの、『東京から』というのが怪しかった。

 愛原:「その方々、家族旅行か何かで来る予定だったんですか?」
 女将:「いいえ。男性3名様ですよ。釣りに来るはずだったんですって」

 男性3人で、東京からわざわざ釣りにここへか……。
 もしかするとその3人、あの偽遊漁船の乗客だったのかもしれないな。
 キャンセルした理由がコロナ感染というのは、ウソか本当か……。
 さすがに予約表の閲覧は、個人情報保護の為、許可されなかった。
 もしかしたら、私達がここに来て、リサ・トレヴァー『220番』が倒されたと聞いて、慌ててキャンセルしたかもしれない。
 そうなると、偽遊漁船の出航は中止になるかもしれない。

 愛原:「明日、遊漁船が出る予定があるんですか?」
 女将:「正月三が日は休みですよ。ただ、申し込みがあれば船を出す所もあるので」
 愛原:「じゃあ、その遊漁船もキャンセルされて、さぞかしお困りでしょうねぇ?」
 女将:「だと思いますよ。私達からも連絡を入れておこうと思ったんですが、その方からは『自分達でキャンセルの連絡を入れるから結構』と言われまして……」
 愛原:「なるほど。因みにその港から遊漁船を出している業者の方に、私からも連絡させてもらいたいのですが……」
 女将:「どこの船だか分からないんですよ。教えてくれなかったもので……」
 愛原:「いえ。そこから出る業者の一覧を教えて頂ければ……」

 私は女将から教えてもらった地元の遊漁船業者に片っ端から連絡を入れた。
 中には正月休みで、そもそも電話が繋がらない所もあった。
 それで1つ、分かったことがある。
 そもそも明日出航予定の遊漁船は、1つも無いことを。
 元々予定していたのだが、キャンセルされた為に中止になったということではなく、元々そんな予定が無い所が全てであった。
 となると、その3人の宿泊客だった男達は何の船に乗るつもりだったのだろうか?
 やはりその男達は偽遊漁船の乗客達だったのだろう。
 しかしこれだけでは、偽遊漁船の出航も中止になったとは断言できない。
 たまたま本当にその3人だけが、コロナウィルスが理由でキャンセルせざるを得なくなっただけかもしれないのだ。
 さすがのアンブレラも、コロナ感染者も乗せようとは思わないだろう。

 愛原:「すいません。もう1つだけお願いがあるのですが……」
 女将:「何でしょう?」
 愛原:「明日の朝、こちらの車をお借りすることはできますか?いえ、ちょっと漁港に行くだけです」

 裏の裏をかいて実は出航するのであれば、その現場を押さえておきたい。
 そう思った。
 車のレンタルに関しては、女将さんも許可してくれた。
 あとは作戦会議をするだけだ。
 私は部屋に戻る為、2階の階段を登った。
 客室は2階にある。

 愛原:「ただいまァ」
 リサ:「あっ、お帰りなさい」

 部屋は8畳間の角部屋であった。
 宿泊客は私達だけらしい。
 部屋に戻ると、最初に入った時には無かった物が設置されていた。
 それは衝立。
 食堂にあったヤツだという。

 高橋:「オバちゃんが、『女の子とは分けた方がいいでしょう』と言って、持って来たんですよ」

 とのこと。

 愛原:「心のこもったサービスで良いじゃないか」

 私はうんうん頷いた。
 しかしリサは……。

 リサ:「私は別に気にしないのにね。むしろ、先生と同じ布団でいいくらい……」
 高橋:「くぉらっ!先生、御安心ください!先生は俺が護衛します!」
 愛原:「護衛にかこつけて、俺の布団に入って来るのは禁止な?」
 高橋:「ええーっ!」

 私が先に釘を刺しておくと、高橋は思いっ切り残念がった。

 愛原:「やはりか。夕食は18時からだそうだ。その前に、明日の予定について話すぞ」
 高橋:「はい。先生、お茶どうぞ」

 高橋は電気ケトルでお湯を沸かすと、それでお茶を入れた。

 愛原:「ありがとう。まずは、ここまで分かっていることをまとめたいと思う」

 こうして作戦会議が始まった。
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“私立探偵 愛原学” 「漁港で過ごす」

2021-01-28 14:30:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日16:00.天候:晴 宮城県石巻鮎川浜南 鮎川港]

 鮎川港で突如、リサ・トレヴァーに襲われた私達。
 しかし、うちのリサの活躍でそいつは倒された。

 愛原:「『何番』だ、そいつは!?」

 うちのリサがリサ・トレヴァーの仮面を剥ぐ。

 愛原:「うっ……!」

 その下は人間の顔では無かった。
 複眼が不規則にあって、開いた口の全てが牙のように尖っている。
 その歯の数も多過ぎた。
 明らかに失敗作だろう。
 リサはそいつの上着を捲り上げた。
 セーラー服の下にはキャミソールを着けている。
 そして左腋の下には、『220』と書かれていた。

 愛原:「『220』!?何だこれ!?」
 高橋:「『13番』とかじゃないんスね!?」

 リサ・トレヴァーが量産化されている!?
 しかし、その割には弱過ぎるが……。
 いや、うちのリサが強いだけか。

 愛原:「え?それなに!?『13』~『220』がいるってこと!?少なくとも!」

 そんなこと五十嵐元社長のデータには無かったぞ?
 いや、書いてなかっただけであって、全くそんなことないというわけではないのかもしれないが……。
 それにしてもなぁ……。
 私は『220』の写真を撮った。
 すると、そいつの死体が溶け出していく。
 他のクリーチャーにもまま見られる現象だ。
 生命活動を停止すると、死体すら残さずに消える。

 愛原:「これも添付しておこう」
 高橋:「善場の姉ちゃん、びっくりするでしょうね」
 愛原:「なー」
 佐々木:「愛原さん。新手が来る前に、ここを離れましょう」
 愛原:「それもそうですね」

 さっきのリサ・トレヴァーは、単なる鉄砲玉かもしれない。
 目的は恐らく、目撃者の抹殺。
 佐々木博士を抹殺する為に、送られて来たのかもしれない。

 リサ:「都合良く、リサ・トレヴァーが待ち構えてるなんてことないよ」

 と、リサが言った。

 リサ:「もちろんこいつは命令されて来たんだと思う。どうして命令されたんだと思う?」
 愛原:「そりゃあ、佐々木先生がここに来ることをどこかで掴んで、先回りして待ち伏せしてたんじゃないかと……」

 そこまで言って、いやいやと私は首を振った。

 愛原:「今夜も実は船が出るのかもしれない。露払いの為にこいつが来たとしたら?」

 私は佐々木博士に聞いた。

 愛原:「先生。あの偽遊漁船の船着き場の近くに、車が何台か止まってませんでしたか?」
 佐々木:「確か、止まってたような気がします。ただ、それは地元民の車かもしれないし、本来私が乗るはずだった本物の遊漁船に乗り合わせる他の客の車だったのかもしれません」
 愛原:「遊漁船に乗る釣り客は、車で来られます?」
 佐々木:「当たり前ですよ。この地区は、路線バスしか通っていませんし、それだってそんな朝早くから出ているわけじゃありませんからね」
 愛原:「そうですか。その止まっている車の中に、他県ナンバーはいましたか?」
 佐々木:「いやー……」

 佐々木博士は首を傾げた。

 佐々木:「まさかあんなことになるとは思ってもみなかったので、いちいち覚えてませんよ。ただ……」
 愛原:「ただ?」
 佐々木:「人間、いつもと違うものを見聞きすると、結構何年も経っても覚えていたりするでしょう?この港から出る遊漁船に乗るのは石巻市在住者、あるいはその周辺の町や村に住んでいる人達が殆どです。つまり、私の車もそうですが、宮城ナンバーが多いんですね。今ならそこに、仙台ナンバーも少し含まれるでしょうか」

 宮城ナンバーは従来からあるが、仙台ナンバーはご当地ナンバーである。

 佐々木:「つまり、普段はいない他県ナンバーが止まっていたら、印象に残ると思うのです。それが無いということは……」
 愛原:「他県ナンバーはいなかった可能性が高いということですね」

 すると、偽遊漁船に乗り込んだ乗客風の人達はどこから来たのだろう?

 佐々木:「! そうだ」

 佐々木博士が何かに気づいた。

 佐々木:「稀に遠方から来る人も確かにいるんです。そういう人は、この近くの民宿に泊まって、次の日の早朝に釣りに行くんです。そして、釣った魚をまた民宿で調理してもらって食べるという……。そういう人も中にはいます。で、そういう人達は車を漁港には留めません。民宿の駐車場に留めるのです」
 愛原:「それだ!この辺りの民宿を当たってみよう!」
 高橋:「それで思い出したんスけど、今日の泊まりはどうするんですか?」
 愛原:「えーと……。いっそのこと、民宿に泊まっちゃうか?」
 高橋:「正月からやってるんスかね?」
 佐々木:「私の知り合いの所なら、春以外は無休で営業してますよ」
 愛原:「春以外?」
 佐々木:「本業が漁師の男ですからね。海洋調査で、その知り合いの漁船に何度か乗せてもらったものです。春は漁が忙しいので、この時は休業だそうですが。何なら聞いてみましょうか」
 愛原:「は、はあ。恐れ入ります」

 佐々木博士は自分のケータイを取り出した。

 佐々木:「……つーわけで、飛び込みの客候補、3人ばかしいるんだけっどしゃ、無理だべか?」

 私達の前では標準語で話していた佐々木博士も、知り合いの電話では方言に変わる。
 佐々木博士も、どうせ無理だろうと思っていたらしい。
 いわゆる、ダメ元で掛けてみたといったところか。
 そしたら……。

 佐々木:「えっ、いいの!?いきなし3人だど!?……ほー、キャンセル出たの?……はー、んだが~……。いや、もう近くの港にいるど。……うん。んだば、これから連れて行くからや。よろしく頼むど?……はいはい。はーい」

 佐々木博士は電話を切った。
 博士自身も驚いた様子だった。

 佐々木:「いや、何かいいみたいです。むしろ大歓迎らしくて……」
 愛原:「何か、キャンセルが出たって言ってましたね?」
 佐々木:「ええ。ちょうど3人、その宿に泊まるはずだったんですが、急にキャンセルの電話が来たらしいんですわ」
 愛原:「ドタキャンか……」
 高橋:「GoToトラベルは中止になってるはずっスけどね?」

 もしやついに、新型コロナの緊急事態宣言が出されたか?
 GoToトラベルが中止になった途端、対象の宿泊施設にはキャンセルの連絡が殺到したらしい。

 愛原:「でも、とにかく助かりました。この近くなんですか?」
 佐々木:「もう車で1~2分の距離ですよ。そこまで乗せて行きますよ」
 愛原:「何から何まですいません」
 佐々木:「いやいや。もう行きますか?気掛かりなことがあるのなら、今のうちに……」
 愛原:「いえ。取りあえず、宿に行こうと思います」
 佐々木:「分かりました」

 私達は佐々木博士の車に乗り込んだ。
 そして、博士の知り合いが経営しているという民宿に向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「終焉の始まり」

2021-01-26 19:59:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月2日15:15.天候:晴 宮城県石巻市鮎川浜南 鮎川港]

 私達は佐々木博士の車で石巻市郊外の鮎川港に向かった。
 ここは宮城県の牡鹿半島の先にある港町である。
 石巻市の市街地から車で飛ばして1時間ほど掛かる場所にある。

 佐々木:「もう震災の後だから、だいぶ変わってしまいましたね」
 愛原:「それもそうですよね」

 それでも船着き場の方に行くと、多くの漁船が係留されていた。
 この辺りも東日本大震災の大津波の被害を受けた場所なのだ。

 愛原:「それで先生、だいたいどの辺りなんですか?」
 佐々木:「少し変わってしまいましたが、この辺りですよ」

 私達は“おしかホエールランド”の更に海側の道を走っている。

 佐々木:「金華山行きの船の乗り場も変わってしまいました」

 私達は車を止めて、なるべく船着き場に近い所を歩いた。
 少しでも佐々木博士の記憶を呼び戻す為だ。

 愛原:「あの船で、他に何か気づいたこととかはありませんか?」
 佐々木:「そうは言いましてもねぇ……」
 愛原:「例えば船員のこんな所がおかしかったとか、釣り客達のこんな所がおかしかったとか……」
 佐々木:「そういえば、釣り客達は会話が本当に釣り客のようでした。普通、遊漁船に乗り合わせる客というのは、顔見知りなんていないわけですが、その釣り客達は全員が顔見知りといった感じでした。それもまた、『あれ?違うのかな?』と思った次第です」
 愛原:「その釣り客達、アンブレラを匂わせるようなことは話していましたか?」
 佐々木:「いいえ。本当に釣りの話です。だから私は最後まで、アンブレラのこととは知らなかったわけです」

 その釣り客達は関係者だったのだろうか?
 それとも、知らずに集められた本当の釣り客だった者達なのだろうか。
 可能性は両方有り得る。
 前者だと、本当にアンブレラの関係者達が『出勤』する為に釣り客を装って集まっていたこと。
 もちろん、自分達の勤める施設へ通勤する為だ。
 後者だと、被験者として集められた可能性。
 アンブレラは裏で人体実験を平気で行うような組織であった。
 もちろん、新薬開発の為に、生きている人間に被験者になってもらうことは普通にある。
 そのバイトが普通に募集されているくらいだ。
 しかしアンブレラの場合は動物実験に成功した開発中の新薬を、今度は人間で試験するというものに留まらなかった。
 ナチスドイツもびっくりの非人道的な人体実験を繰り返していたのである。
 その結果としてできたのが、ここにいるリサだ。

 愛原:「ここの港の人達は、知ってるんですかね?アンブレラの船がここから出ていたことは……」
 佐々木:「恐らく知らないでしょう。漁船は数多く出ているようで、それに紛れて出港しようとしていたわけですから。実際に間違ってその船に乗ろうとした私を抹殺しようとしていたくらいですから、当然地元民にも知られてはいけないと思っていたはずです」
 愛原:「なるほど……」

 でもこれで、旧アンブレラの船がこの港から出ていたことまでは突き止められた。
 あとのことは善場主任達に託せばいいだろう。
 民間探偵業者としてできることは、ここまでだ。
 あとは報告書に纏めて、善場主任に渡せばびっくりしてくれるだろう。

 愛原:「ありがとうございました。これでまたアンブレラの悪事を暴くことができそうです」
 佐々木:「いや、何の何の。こちらこそ、年寄りの暇つぶしに付き合って頂いて、ありがとうございます」

 私達は漁港の写真を撮ってから車に戻ろうとした。

 リサ:「待って!何か来る……!」
 愛原:「なに!?」

 リサが耳を澄ませる。
 佐々木博士がいるので、第1形態以降に変化はできない。

(BGM:“終焉の始まり” https://www.youtube.com/watch?v=BayW7aXI0zI)

 

 リサ:「上っ!!」

 リサがそう叫ぶと、陸揚げされている捕鯨船の舳先から何かが飛んで来た。
 それはコンクリートブロック。

 愛原:「先生、危ない!」

 それは佐々木博士の所へ飛んで来た。
 私が咄嗟に博士を庇う。
 そして、それをリサもはじき返した。
 この時、リサは右手だけ変化していた。
 最近は随分と器用に一部だけ変化させたりということができるようになった。

 ???:「あーあ、避けられちゃったかぁ!」

 捕鯨船の上から無邪気な女の子の声が聞こえたかと思うと、そこからヒラリと飛び降りてきた。
 それはリサ・トレヴァーだった。
 もちろんアメリカのオリジナル版ではなく、日本版である。
 セーラー服を着て、白い仮面を着けていたからだ。

 愛原:「リサ・トレヴァーか!?」
 リサ・トレヴァー:「ん?あんた達、なに?」

 リサ・トレヴァーは右手に鉄パイプを持って、それを肩の後ろに回してトントン叩いていた。
 あんな華奢な体でコンクリートブロックをぶん投げ、そして何十キロもある鉄パイプを軽々と持っているのだから、やはり相手は人間ではない。

 愛原:「お前こそ、何だ?『何番』だ!?」
 リサ・トレヴァー:「ん?アタシのこと知ってるの?どこかで会った?」

 うちのリサよりは身長が高く、声の感じからしてハイティーンと思われる。
 だが、『1番』でないことは確かだ。
 その辺りはがっかりだが……。

 愛原:「いや、多分初めて会っただろう。だが、リサ・トレヴァーのことは他のどの人間よりも知っているつもりだ」
 リサ・トレヴァー:「?」
 愛原:「こっちにも本物がいるからな」
 リサ:「…………」

 リサは眉を潜めたまま、無言で鞄の中から同じ白い仮面を取り出すと、それを着けた。

 リサ・トレヴァー:「同胞!?」
 リサ(『2番』):「私もリサ・トレヴァー。ナンバリングは『2番』。あなたは?」
 リサ・トレヴァー:「どうして『2番』がここにいるの!?聞いてない!」
 『2番』:「いいから答えろ。オマエは『何番』だ?どうしてここにいる?」

 番号までは分からないが、恐らく彼女の目的は……。

 リサ・トレヴァー:「くっ!ならばせめて……!」

 リサ・トレヴァーは左手から触手を出すと、それを鎗のように佐々木博士に向かって突き出した。
 が!

 『2番』:「私の正体がばれた責任、オマエが取れよ……!」

 うちのリサもまた右手から触手を出して、相手の喉と額に突き刺していた。
 その速さ、硬さ、長さといい、うちのリサの方が上回っていた。

 リサ・トレヴァー:「かはっ……!」
 愛原:「やはり佐々木先生を狙っている!?」
 佐々木:「ば、バカな!?」

 やはりうちのリサは強かった。
 きっとここに現れたリサ・トレヴァーも、本来ならボスクラスだったのだろう。
 しかし、うちのリサの前ではザコ同然だ。
 そんなリサでも勝てるかどうか分からないという『1番』は、本当に強いのかもしれない。
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