[3月7日13:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
絵恋さんはあの後、何とか意識を取り戻し、迎えに来たパールと共に帰宅していった。
それから翌日、私と高橋が事務所にいた時だった。
愛原:「どうやら、乗客達は地元の救助隊に救助されたみたいだな」
高橋:「良かったっスねぇ」
愛原:「『政治と人命救助は別物だ』という主張はかの国には通用しないかもと思っていたけど、地元の町が動いてくれたよ」
ウラジオストクは日本人も多く居住していることもあり、広大なロシアの中では比較的親日の町と言われる。
ただ、今後はどうなるか分からないが。
『人命救助した後は、もう政治問題だけだよね?そんじゃ取りあえず、日本人全員人質でシベリア送り』なんてことにならなければ良いが。
高橋:「おや、先生?来客ですよ」
愛原:「もうボスからの電話は無いから、クライアントの事前紹介とかはもう無いんだよなぁ……」
エレベーターが到着する音が聞こえたから、来客が来たと分かった。
因みにリサは学校だし、絵恋さんはまだショックで学校を休んでいるという。
まあ、もう期末テストは終わっていて、2人とも赤点は取っていないから、実質的にもう春休みみたいなものだ。
来客:「失礼します。こちら、愛原学探偵事務所さんでよろしいでしょうか?」
愛原:「あ、はい。そうです。いらっしゃいませ。どうぞ、こちらに」
私は来客を応接室に通した。
来客は私と大して歳の変わらぬ男性で、ビシッとスーツを着ていた。
そして私は、彼のスーツに着いているバッジを見て、すぐに職業が分かった。
愛原:「弁護士の方が、探偵に何の御依頼です?」
バッジの意匠は、天秤をデザインしたものだった。
応接室のソファを勧め、高橋がお茶を持って来た後、私の方から口を切り出した。
来客改め弁護士:「私は新宿で弁護士事務所を営んでおります秤田と申します」
秤田と名乗る弁護士は、私に名刺を差し出した。
私も自分の名刺を差し出す。
愛原:「私は探偵事務所を営んでおります、愛原学です。よろしくお願いします」
弁護士改め秤田:「私は五十嵐皓貴氏の担当弁護士を務めております」
愛原:「五十嵐社長の!?……いえ、正確には元社長で今は被告人ですね」
秤田:「そうです。失礼ですが、愛原さんは五十嵐氏についてどの程度御存知ですか?」
愛原:「日本アンブレラの元社長で、政府機関から追跡されていた男ですね。警察のみならず」
秤田:「五十嵐氏が昨日、私に接見を求めてきました。そして今日の午前接見したのですが、愛原さんに話をしたいので、面会に来てもらいたいと依頼されました」
愛原:「私に話が?」
秤田:「愛原さんは五十嵐氏の事を、それだけ御存知なんですか?」
愛原:「個人的な付き合いはありませんし、宮城県で鉢合わせした時以外は全く接点はありませんでした。ただ、彼ら親子が逮捕される前までは、政府機関の依頼で彼らを追跡していたのは事実です」
秤田:「それだけですか?」
愛原:「それだけです」
秤田:「では、愛原さんは五十嵐氏がどうして面会を求めたのか、心当たりは無いと?」
愛原:「はい、ありません。もしも五十嵐被告が、私が白井伝三郎を追っていたことを知っていたのなら、その事を話してくれるのではないかと思いましたが」
秤田:「……恐らくは、知っているかもしれません」
愛原:「あ、そうなんですか?それはどうしてですか?」
秤田:「拘置所ではラジオを聴いたり、新聞や雑誌を読むことができます」
愛原:「それは知っています」
高野君が収容されていた時、未決囚は本当にやることが無くてヒマでヒマでしょうがないから、ヒマが潰せる物を差し入れしてあげると、とても喜ぶのだと言っていた。
秤田:「愛原さん達が、たまに新聞の取材を受けると、それが記事となって五十嵐氏の目に入るのですよ」
愛原:「ああ、そうか……」
白井を追い詰める為に、わざと新聞の取材を受けたことがあった。
マスコミの中には、たまにコロナ禍と絡めてバイオハザードの特集をすることがあるからだ。
秤田:「それであなたが、白井伝三郎容疑者を追う探偵だと知ったとしても、不思議ではありません」
愛原:「そうでしたか」
となると、五十嵐被告は白井のことについて何か話してくれるのかもしれないな。
……いや、待て。
まだ、控訴審の途中だぞ?
彼は、『あくまで自分はお飾りの社長であるから、白井伝三郎の犯行など知らん』的なことを主張しているわけだから、ヘタなことは言えないだろう。
と、なると……?
秤田:「どうでしょう?五十嵐氏に会ってみる気はありませんか?明日、朝一で面会できるようにしますが……」
愛原:「分かりました。そうしてみます」
私は面会を頼むことにした。
一体、五十嵐皓貴は何を話してくれるのだろう?
[3月8日08:30.天候:晴 東京都葛飾区小菅 東京拘置所]
私は高橋と一緒に、いつものバン車で東京拘置所に向かった。
電車で行っても良かったのだが、何故か今回は車で行こうと思った。
運転は高橋に任せ、私は助手席に乗る。
また、リサは学校の為、同行していない。
投稿拘置所の駐車場は広く、基本的に満車になることはない。
駐車場では、既に秤田弁護士が待っていた。
秤田:「おはようございます、愛原さん」
愛原:「秤田先生、おはようございます」
秤田:「それでは参りましょう。……申し訳ないのですが、助手の方はここで。五十嵐氏はあくまで愛原さんを御指名ですので、それ以外の人を連れて行くと不都合かもしれません」
愛原:「分かりました。高橋は、ここで待っててくれ」
高橋:「……分かりました」
私は車を降り、秤田弁護士と一緒に拘置所内に向かった。
もちろん、面会にはこの弁護士も立ち会ってくれる。
こういう時、弁護士がいると心強い。
愛原:「私の方からは質問しない方がいいですかね?」
秤田:「そうですね。五十嵐氏の方が愛原さんに話があるということなので、まずは五十嵐氏の話を聞き、その中で何か質問があった時のみするといった感じならいいと思います」
愛原:「分かりました」
一体、五十嵐被告は私に何を話してくれるのだろう?
絵恋さんはあの後、何とか意識を取り戻し、迎えに来たパールと共に帰宅していった。
それから翌日、私と高橋が事務所にいた時だった。
愛原:「どうやら、乗客達は地元の救助隊に救助されたみたいだな」
高橋:「良かったっスねぇ」
愛原:「『政治と人命救助は別物だ』という主張はかの国には通用しないかもと思っていたけど、地元の町が動いてくれたよ」
ウラジオストクは日本人も多く居住していることもあり、広大なロシアの中では比較的親日の町と言われる。
ただ、今後はどうなるか分からないが。
『人命救助した後は、もう政治問題だけだよね?そんじゃ取りあえず、日本人全員人質でシベリア送り』なんてことにならなければ良いが。
高橋:「おや、先生?来客ですよ」
愛原:「もうボスからの電話は無いから、クライアントの事前紹介とかはもう無いんだよなぁ……」
エレベーターが到着する音が聞こえたから、来客が来たと分かった。
因みにリサは学校だし、絵恋さんはまだショックで学校を休んでいるという。
まあ、もう期末テストは終わっていて、2人とも赤点は取っていないから、実質的にもう春休みみたいなものだ。
来客:「失礼します。こちら、愛原学探偵事務所さんでよろしいでしょうか?」
愛原:「あ、はい。そうです。いらっしゃいませ。どうぞ、こちらに」
私は来客を応接室に通した。
来客は私と大して歳の変わらぬ男性で、ビシッとスーツを着ていた。
そして私は、彼のスーツに着いているバッジを見て、すぐに職業が分かった。
愛原:「弁護士の方が、探偵に何の御依頼です?」
バッジの意匠は、天秤をデザインしたものだった。
応接室のソファを勧め、高橋がお茶を持って来た後、私の方から口を切り出した。
来客改め弁護士:「私は新宿で弁護士事務所を営んでおります秤田と申します」
秤田と名乗る弁護士は、私に名刺を差し出した。
私も自分の名刺を差し出す。
愛原:「私は探偵事務所を営んでおります、愛原学です。よろしくお願いします」
弁護士改め秤田:「私は五十嵐皓貴氏の担当弁護士を務めております」
愛原:「五十嵐社長の!?……いえ、正確には元社長で今は被告人ですね」
秤田:「そうです。失礼ですが、愛原さんは五十嵐氏についてどの程度御存知ですか?」
愛原:「日本アンブレラの元社長で、政府機関から追跡されていた男ですね。警察のみならず」
秤田:「五十嵐氏が昨日、私に接見を求めてきました。そして今日の午前接見したのですが、愛原さんに話をしたいので、面会に来てもらいたいと依頼されました」
愛原:「私に話が?」
秤田:「愛原さんは五十嵐氏の事を、それだけ御存知なんですか?」
愛原:「個人的な付き合いはありませんし、宮城県で鉢合わせした時以外は全く接点はありませんでした。ただ、彼ら親子が逮捕される前までは、政府機関の依頼で彼らを追跡していたのは事実です」
秤田:「それだけですか?」
愛原:「それだけです」
秤田:「では、愛原さんは五十嵐氏がどうして面会を求めたのか、心当たりは無いと?」
愛原:「はい、ありません。もしも五十嵐被告が、私が白井伝三郎を追っていたことを知っていたのなら、その事を話してくれるのではないかと思いましたが」
秤田:「……恐らくは、知っているかもしれません」
愛原:「あ、そうなんですか?それはどうしてですか?」
秤田:「拘置所ではラジオを聴いたり、新聞や雑誌を読むことができます」
愛原:「それは知っています」
高野君が収容されていた時、未決囚は本当にやることが無くてヒマでヒマでしょうがないから、ヒマが潰せる物を差し入れしてあげると、とても喜ぶのだと言っていた。
秤田:「愛原さん達が、たまに新聞の取材を受けると、それが記事となって五十嵐氏の目に入るのですよ」
愛原:「ああ、そうか……」
白井を追い詰める為に、わざと新聞の取材を受けたことがあった。
マスコミの中には、たまにコロナ禍と絡めてバイオハザードの特集をすることがあるからだ。
秤田:「それであなたが、白井伝三郎容疑者を追う探偵だと知ったとしても、不思議ではありません」
愛原:「そうでしたか」
となると、五十嵐被告は白井のことについて何か話してくれるのかもしれないな。
……いや、待て。
まだ、控訴審の途中だぞ?
彼は、『あくまで自分はお飾りの社長であるから、白井伝三郎の犯行など知らん』的なことを主張しているわけだから、ヘタなことは言えないだろう。
と、なると……?
秤田:「どうでしょう?五十嵐氏に会ってみる気はありませんか?明日、朝一で面会できるようにしますが……」
愛原:「分かりました。そうしてみます」
私は面会を頼むことにした。
一体、五十嵐皓貴は何を話してくれるのだろう?
[3月8日08:30.天候:晴 東京都葛飾区小菅 東京拘置所]
私は高橋と一緒に、いつものバン車で東京拘置所に向かった。
電車で行っても良かったのだが、何故か今回は車で行こうと思った。
運転は高橋に任せ、私は助手席に乗る。
また、リサは学校の為、同行していない。
投稿拘置所の駐車場は広く、基本的に満車になることはない。
駐車場では、既に秤田弁護士が待っていた。
秤田:「おはようございます、愛原さん」
愛原:「秤田先生、おはようございます」
秤田:「それでは参りましょう。……申し訳ないのですが、助手の方はここで。五十嵐氏はあくまで愛原さんを御指名ですので、それ以外の人を連れて行くと不都合かもしれません」
愛原:「分かりました。高橋は、ここで待っててくれ」
高橋:「……分かりました」
私は車を降り、秤田弁護士と一緒に拘置所内に向かった。
もちろん、面会にはこの弁護士も立ち会ってくれる。
こういう時、弁護士がいると心強い。
愛原:「私の方からは質問しない方がいいですかね?」
秤田:「そうですね。五十嵐氏の方が愛原さんに話があるということなので、まずは五十嵐氏の話を聞き、その中で何か質問があった時のみするといった感じならいいと思います」
愛原:「分かりました」
一体、五十嵐被告は私に何を話してくれるのだろう?