[1月5日06:23.天候:晴 長野県白馬村 白馬八方バスターミナル]
バスは順調に終点のバスターミナルに到着した。
今日は晴れているのか、まだ薄暗い時間帯なのに、雪に僅かな光が反射してそんなに暗いとは感じない。
稲生はずっとマリアと手を繋いでいたせいか、そんなによく眠れなった。
それでも何故か、眠くて気だるい感じはしない。
バスを降りて、預けていた荷物を受け取る。
稲生:「迎えの車は……」
マリア:「勇太、その前にトイレに行きたい」
稲生:「あっ、そうですね」
薄暗くも夜が明けつつある中、2人はターミナルの中に入る。
本来はインフォメーションセンターであり、あくまでその1つにバスターミナルとしての機能もあるということである。
先にトイレから出て来たのは稲生だった。
自動販売機で缶コーヒーを買っていると、迎えの車の運転手がやってきた。
まるでバスの運転手のような出で立ちで、帽子を深く被っている。
正体が、とても魔法で作り出した幻獣とは思えない。
稲生:「ああ、今マリアさんがトイレに行ってるんで、もう少し待っててください」
稲生が言うと、寡黙な運転手は大きく頷いた。
暖房がよく効いた屋内、ついついまた眠くなりそうな温度である。
しばらくしてマリアが戻って来ると、稲生は残った缶の中身を一気飲みした。
マリア:「お待たせ」
稲生:「じゃ、行きましょう。もう迎えが来てますよ」
マリア:「そう」
バスが停車している前を通り、建物の裏手に回ると黒塗りの車が止まっている。
マリアの魔力が使われている為か、ロンドンタクシー(オースチン)のような車種である。
後ろに荷物を乗せると、すぐに車に乗り込んだ。
ザザッと雪をかき分ける音が聞こえた。
マリア:「師匠はまだ寝てるだろうから、入る時は静かにね」
稲生:「あっ、そうですね」
車は夜が白み始める村内を郊外に向かって進んだ。
[同日07:00.天候:晴 マリアの屋敷]
マリアの屋敷に至る際、普通の人間が行こうとするならば、何メートルも積もった雪に阻まれることとなるだろう。
しかし稲生達が乗った車が通過する際は、まるでどこかの宗教に伝わる海が割れる現象の如く、雪が割れて車を通すのだ。
で、通った後は閉じる。サリーちゃんの家なんざ、目じゃないぜ。ヒャッハー!
マリア:「さっきも言った通り、師匠は寝てるだろうから、静かにね」
勇太:「もちろんです」
車が家の正面玄関の前に到着した。
早速、車から荷物を降ろして中に入る。
勇太:「どうします?先にマリアさんの部屋に行くと、先生が寝てらっしゃるわけですよね?」
マリア:「私の荷物はリビングに入れてくれる?」
勇太:「分かりました」
エントランスホールから左手の観音扉を開けると、大食堂がある。
昨年のクリスマスパーティは、ここがメイン会場になった。
イリーナ:「やあやあ、お帰り。よく無事に帰って来れたねぇ」
マリア:「師匠!?」
稲生:「先生!?」
イリーナ:「ん?なぁに?どうしてそんなにびっくりしてるの?」
マリア:「いや、師匠のことだから多分、寝てると思って静かにしようと思ってたのに……」
稲生:「そうですよ。でも、もしかして、起こしちゃいました?」
イリーナは目を細めたままだ。
それはつまり、別に怒っているわけではないということだ。
イリーナ:「心配無いよ。さっきからずっと起きてたから」
マリア:「そうですか。それならいいんですけど」
稲生:「あ、お土産あるんですけど、少し待ってください。後で届くと思うんで」
マリア:「エレーナのことだから、パクったりしなきゃいいけど……」
稲生:「大丈夫でしょう。それでも万が一の為に保険は掛けておきました」
マリア:「保険?」
稲生:「エレーナにもお土産を送ったのはその為です」
イリーナ:「おお〜、さすが勇太君。段々と分かってきたみたいだねぇ……」
稲生:「あれがとぅございまふ……」
稲生はお礼の言葉と欠伸が両方出た。
イリーナ:「夜行バスであんまり眠れなかったかねぇ……。少し寝ときな。修行の再開は午後……いや、明日からでもいいか」
勇太:「いえ、午後からお願いします」
イリーナ:「熱心だねぇ……。じゃ、昼まで寝ていいよ。ランチを皆で取った後、再開しましょう。その代わり、今日の修行は軽めでね」
勇太:「はい。じゃ、僕、マリアさんの荷物を置いた後、部屋に戻りますので」
イリーナ:「うんうん、ご苦労さんね」
勇太が更に奥の部屋に向かうと、マリアはイリーナと向き合った。
マリア:「師匠、取りあえずこの日誌に、今回の旅行のことが全部書いてありますので」
イリーナ:「“Tabi Diary”か。いいタイトルだね」
マリア:「あと、バスでのことなんですが、勇太がドリーム・トラップに掛かりそうになって……」
イリーナ:「ほお……。うちのコをトラップに掛けるなんて、いい度胸してるじゃない。で、どこの誰?」
イリーナは糸のように細くしていた目を半分開けた。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
マリア:「まだ確たる証拠は無いですが、恐らくアン組の誰かかと」
イリーナ:「フム。確率が1番高い所だね。勇太君が起きてきたら、話を聞いてみましょう。後で厳重に抗議してやるわよ」
マリア:「よろしくお願いします」
イリーナ:「ほんの僅かだけど、体の傷痕が消えたみたいだね。この調子だよ」
マリア:「は、はい!」
イリーナ:「他のコ達は羨ましがったり、前向きに捉えてるみたいだけど、まだまだそんなことは考えられないコ達もいるからね。気を付けるのよ」
マリア:「分かってます」
イリーナ:「じゃ、マリアも少し休んできなさい」
マリア:「師匠は?」
イリーナ:「アタシはもう十分寝たから、しばらく他の部屋にいるさねー」
マリア:「はあ……」
無事に帰り着いた稲生達であったが、他の魔道師団の存在や、本来は禁止されている『門内折伏』を行おうとする者がいるなど、まだまだ周囲の状況は予断かつ油断ならぬものであるようだ。
バスは順調に終点のバスターミナルに到着した。
今日は晴れているのか、まだ薄暗い時間帯なのに、雪に僅かな光が反射してそんなに暗いとは感じない。
稲生はずっとマリアと手を繋いでいたせいか、そんなによく眠れなった。
それでも何故か、眠くて気だるい感じはしない。
バスを降りて、預けていた荷物を受け取る。
稲生:「迎えの車は……」
マリア:「勇太、その前にトイレに行きたい」
稲生:「あっ、そうですね」
薄暗くも夜が明けつつある中、2人はターミナルの中に入る。
本来はインフォメーションセンターであり、あくまでその1つにバスターミナルとしての機能もあるということである。
先にトイレから出て来たのは稲生だった。
自動販売機で缶コーヒーを買っていると、迎えの車の運転手がやってきた。
まるでバスの運転手のような出で立ちで、帽子を深く被っている。
正体が、とても魔法で作り出した幻獣とは思えない。
稲生:「ああ、今マリアさんがトイレに行ってるんで、もう少し待っててください」
稲生が言うと、寡黙な運転手は大きく頷いた。
暖房がよく効いた屋内、ついついまた眠くなりそうな温度である。
しばらくしてマリアが戻って来ると、稲生は残った缶の中身を一気飲みした。
マリア:「お待たせ」
稲生:「じゃ、行きましょう。もう迎えが来てますよ」
マリア:「そう」
バスが停車している前を通り、建物の裏手に回ると黒塗りの車が止まっている。
マリアの魔力が使われている為か、ロンドンタクシー(オースチン)のような車種である。
後ろに荷物を乗せると、すぐに車に乗り込んだ。
ザザッと雪をかき分ける音が聞こえた。
マリア:「師匠はまだ寝てるだろうから、入る時は静かにね」
稲生:「あっ、そうですね」
車は夜が白み始める村内を郊外に向かって進んだ。
[同日07:00.天候:晴 マリアの屋敷]
マリアの屋敷に至る際、普通の人間が行こうとするならば、何メートルも積もった雪に阻まれることとなるだろう。
しかし稲生達が乗った車が通過する際は、まるでどこかの宗教に伝わる海が割れる現象の如く、雪が割れて車を通すのだ。
で、通った後は閉じる。
マリア:「さっきも言った通り、師匠は寝てるだろうから、静かにね」
勇太:「もちろんです」
車が家の正面玄関の前に到着した。
早速、車から荷物を降ろして中に入る。
勇太:「どうします?先にマリアさんの部屋に行くと、先生が寝てらっしゃるわけですよね?」
マリア:「私の荷物はリビングに入れてくれる?」
勇太:「分かりました」
エントランスホールから左手の観音扉を開けると、大食堂がある。
昨年のクリスマスパーティは、ここがメイン会場になった。
イリーナ:「やあやあ、お帰り。よく無事に帰って来れたねぇ」
マリア:「師匠!?」
稲生:「先生!?」
イリーナ:「ん?なぁに?どうしてそんなにびっくりしてるの?」
マリア:「いや、師匠のことだから多分、寝てると思って静かにしようと思ってたのに……」
稲生:「そうですよ。でも、もしかして、起こしちゃいました?」
イリーナは目を細めたままだ。
それはつまり、別に怒っているわけではないということだ。
イリーナ:「心配無いよ。さっきからずっと起きてたから」
マリア:「そうですか。それならいいんですけど」
稲生:「あ、お土産あるんですけど、少し待ってください。後で届くと思うんで」
マリア:「エレーナのことだから、パクったりしなきゃいいけど……」
稲生:「大丈夫でしょう。それでも万が一の為に保険は掛けておきました」
マリア:「保険?」
稲生:「エレーナにもお土産を送ったのはその為です」
イリーナ:「おお〜、さすが勇太君。段々と分かってきたみたいだねぇ……」
稲生:「あれがとぅございまふ……」
稲生はお礼の言葉と欠伸が両方出た。
イリーナ:「夜行バスであんまり眠れなかったかねぇ……。少し寝ときな。修行の再開は午後……いや、明日からでもいいか」
勇太:「いえ、午後からお願いします」
イリーナ:「熱心だねぇ……。じゃ、昼まで寝ていいよ。ランチを皆で取った後、再開しましょう。その代わり、今日の修行は軽めでね」
勇太:「はい。じゃ、僕、マリアさんの荷物を置いた後、部屋に戻りますので」
イリーナ:「うんうん、ご苦労さんね」
勇太が更に奥の部屋に向かうと、マリアはイリーナと向き合った。
マリア:「師匠、取りあえずこの日誌に、今回の旅行のことが全部書いてありますので」
イリーナ:「“Tabi Diary”か。いいタイトルだね」
マリア:「あと、バスでのことなんですが、勇太がドリーム・トラップに掛かりそうになって……」
イリーナ:「ほお……。うちのコをトラップに掛けるなんて、いい度胸してるじゃない。で、どこの誰?」
イリーナは糸のように細くしていた目を半分開けた。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
マリア:「まだ確たる証拠は無いですが、恐らくアン組の誰かかと」
イリーナ:「フム。確率が1番高い所だね。勇太君が起きてきたら、話を聞いてみましょう。後で厳重に抗議してやるわよ」
マリア:「よろしくお願いします」
イリーナ:「ほんの僅かだけど、体の傷痕が消えたみたいだね。この調子だよ」
マリア:「は、はい!」
イリーナ:「他のコ達は羨ましがったり、前向きに捉えてるみたいだけど、まだまだそんなことは考えられないコ達もいるからね。気を付けるのよ」
マリア:「分かってます」
イリーナ:「じゃ、マリアも少し休んできなさい」
マリア:「師匠は?」
イリーナ:「アタシはもう十分寝たから、しばらく他の部屋にいるさねー」
マリア:「はあ……」
無事に帰り着いた稲生達であったが、他の魔道師団の存在や、本来は禁止されている『門内折伏』を行おうとする者がいるなど、まだまだ周囲の状況は予断かつ油断ならぬものであるようだ。