報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「屋敷へ到着」

2017-01-31 19:12:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月5日06:23.天候:晴 長野県白馬村 白馬八方バスターミナル]

 バスは順調に終点のバスターミナルに到着した。
 今日は晴れているのか、まだ薄暗い時間帯なのに、雪に僅かな光が反射してそんなに暗いとは感じない。
 稲生はずっとマリアと手を繋いでいたせいか、そんなによく眠れなった。
 それでも何故か、眠くて気だるい感じはしない。
 バスを降りて、預けていた荷物を受け取る。

 稲生:「迎えの車は……」
 マリア:「勇太、その前にトイレに行きたい」
 稲生:「あっ、そうですね」

 薄暗くも夜が明けつつある中、2人はターミナルの中に入る。
 本来はインフォメーションセンターであり、あくまでその1つにバスターミナルとしての機能もあるということである。
 先にトイレから出て来たのは稲生だった。
 自動販売機で缶コーヒーを買っていると、迎えの車の運転手がやってきた。
 まるでバスの運転手のような出で立ちで、帽子を深く被っている。
 正体が、とても魔法で作り出した幻獣とは思えない。

 稲生:「ああ、今マリアさんがトイレに行ってるんで、もう少し待っててください」

 稲生が言うと、寡黙な運転手は大きく頷いた。
 暖房がよく効いた屋内、ついついまた眠くなりそうな温度である。
 しばらくしてマリアが戻って来ると、稲生は残った缶の中身を一気飲みした。

 マリア:「お待たせ」
 稲生:「じゃ、行きましょう。もう迎えが来てますよ」
 マリア:「そう」

 バスが停車している前を通り、建物の裏手に回ると黒塗りの車が止まっている。
 マリアの魔力が使われている為か、ロンドンタクシー(オースチン)のような車種である。
 後ろに荷物を乗せると、すぐに車に乗り込んだ。
 ザザッと雪をかき分ける音が聞こえた。

 マリア:「師匠はまだ寝てるだろうから、入る時は静かにね」
 稲生:「あっ、そうですね」

 車は夜が白み始める村内を郊外に向かって進んだ。

[同日07:00.天候:晴 マリアの屋敷]

 マリアの屋敷に至る際、普通の人間が行こうとするならば、何メートルも積もった雪に阻まれることとなるだろう。
 しかし稲生達が乗った車が通過する際は、まるでどこかの宗教に伝わる海が割れる現象の如く、雪が割れて車を通すのだ。
 で、通った後は閉じる。サリーちゃんの家なんざ、目じゃないぜ。ヒャッハー!

 マリア:「さっきも言った通り、師匠は寝てるだろうから、静かにね」
 勇太:「もちろんです」

 車が家の正面玄関の前に到着した。
 早速、車から荷物を降ろして中に入る。

 勇太:「どうします?先にマリアさんの部屋に行くと、先生が寝てらっしゃるわけですよね?」
 マリア:「私の荷物はリビングに入れてくれる?」
 勇太:「分かりました」

 エントランスホールから左手の観音扉を開けると、大食堂がある。
 昨年のクリスマスパーティは、ここがメイン会場になった。

 イリーナ:「やあやあ、お帰り。よく無事に帰って来れたねぇ」
 マリア:「師匠!?」
 稲生:「先生!?」
 イリーナ:「ん?なぁに?どうしてそんなにびっくりしてるの?」
 マリア:「いや、師匠のことだから多分、寝てると思って静かにしようと思ってたのに……」
 稲生:「そうですよ。でも、もしかして、起こしちゃいました?」

 イリーナは目を細めたままだ。
 それはつまり、別に怒っているわけではないということだ。

 イリーナ:「心配無いよ。さっきからずっと起きてたから」
 マリア:「そうですか。それならいいんですけど」
 稲生:「あ、お土産あるんですけど、少し待ってください。後で届くと思うんで」
 マリア:「エレーナのことだから、パクったりしなきゃいいけど……」
 稲生:「大丈夫でしょう。それでも万が一の為に保険は掛けておきました」
 マリア:「保険?」
 稲生:「エレーナにもお土産を送ったのはその為です」
 イリーナ:「おお〜、さすが勇太君。段々と分かってきたみたいだねぇ……」
 稲生:「あれがとぅございまふ……」

 稲生はお礼の言葉と欠伸が両方出た。

 イリーナ:「夜行バスであんまり眠れなかったかねぇ……。少し寝ときな。修行の再開は午後……いや、明日からでもいいか」
 勇太:「いえ、午後からお願いします」
 イリーナ:「熱心だねぇ……。じゃ、昼まで寝ていいよ。ランチを皆で取った後、再開しましょう。その代わり、今日の修行は軽めでね」
 勇太:「はい。じゃ、僕、マリアさんの荷物を置いた後、部屋に戻りますので」
 イリーナ:「うんうん、ご苦労さんね」

 勇太が更に奥の部屋に向かうと、マリアはイリーナと向き合った。

 マリア:「師匠、取りあえずこの日誌に、今回の旅行のことが全部書いてありますので」
 イリーナ:「“Tabi Diary”か。いいタイトルだね」
 マリア:「あと、バスでのことなんですが、勇太がドリーム・トラップに掛かりそうになって……」
 イリーナ:「ほお……。うちのコをトラップに掛けるなんて、いい度胸してるじゃない。で、どこの誰?」

 イリーナは糸のように細くしていた目を半分開けた。
 そして、不敵な笑みを浮かべる。

 マリア:「まだ確たる証拠は無いですが、恐らくアン組の誰かかと」
 イリーナ:「フム。確率が1番高い所だね。勇太君が起きてきたら、話を聞いてみましょう。後で厳重に抗議してやるわよ」
 マリア:「よろしくお願いします」
 イリーナ:「ほんの僅かだけど、体の傷痕が消えたみたいだね。この調子だよ」
 マリア:「は、はい!」
 イリーナ:「他のコ達は羨ましがったり、前向きに捉えてるみたいだけど、まだまだそんなことは考えられないコ達もいるからね。気を付けるのよ」
 マリア:「分かってます」
 イリーナ:「じゃ、マリアも少し休んできなさい」
 マリア:「師匠は?」
 イリーナ:「アタシはもう十分寝たから、しばらく他の部屋にいるさねー」
 マリア:「はあ……」

 無事に帰り着いた稲生達であったが、他の魔道師団の存在や、本来は禁止されている『門内折伏』を行おうとする者がいるなど、まだまだ周囲の状況は予断かつ油断ならぬものであるようだ。
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“大魔道師の弟子” 「帰途の魔女」

2017-01-31 12:29:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]

 稲生達を乗せた高速バスが2回目の休憩箇所に入る。
 この辺りまで来ると、さすがに積雪を見ないことはない。
 バス会社や便によっては乗務員だけの休憩で、乗客は降りれないことも多いが、このバスにおいては昼行便同様、降りて休憩することができる。

 稲生:「ん……?」

 稲生はそこでふと目を覚ました。
 まだ車内は暗く、通路を照らすランプしか点灯していない。
 しかし走行音は聞こえて来ず、聞こえてくるのは停車中のアイドリング音や暖房の風の音だけである。

 稲生:(ちょっと降りてみるか……)

 稲生は自分の魔道師のローブを羽織ると、狭い通路を進んでバスから降りた。
 バスの乗降ドアの前には、4時に出発する旨の表示がしてあった。
 最初の停留所が安曇野スイス村だから、だいぶ速く走れたのか、それともこれで定時なのか分からない。
 少なくとも、15分停車ということは今遅延しているというわけではないようだ。
 それにしても冬の朝4時前……というか、まだ夜中だから当たり前だが、外はとても暗い。
 地方のサービスエリアとはいえ、オレンジ色や白色の街路灯が煌々と照らしていてもいいはずなのに……。

 稲生:「何だ!?」

 バスを降りると、そこは辺り一面雪景色だった。
 いや、もう冬の長野県北部にいるのだから、それは当たり前だろう。
 そうじゃなくて、夜中でも多くの車が往来するサービスエリアにしては除雪が全くされていないのだ。
 それどころか……。

 稲生:「建物はどこだ!?」

 辺りを見回しても、売店やレストランのある建物が見当たらなかった。
 それどころか、他に止まっている車が見当たらない。
 ここは稲生達が乗って来た高速バスの他に、色々な高速バスが休憩するポイントとなっている。
 他のバスも全くいないし、長距離トラックの姿も見当たらない。

 稲生:「な、何だ!?」

 バスに戻ろうとした稲生だが、そのバスも無くなっていた。
 黒と白の世界に取り残されたのだ!

 稲生:「しまった!魔法の杖が無い。だ、誰か!いませんか!?」

 稲生が助けを呼んだが、返って来る答えは無かった。
 いや……。

 ???:「もし……そこの人……。何か、お困りですか……?」

 そこへ、か細い女の声が聞こえてきた。
 振り返って見ると、黒いローブを羽織って、フードを深めに被っている魔女の姿があった。
 手には魔法の杖。

 稲生:「魔道師さんですか!助かりました!僕はダンテ門流の魔道師でイリーナ組に所属している稲生勇太と申します!いきなりこの世界に閉じ込められてしまって……!助けてもらえませんか!?」
 魔女:「おやおや……。一介の人間を捕らえるつもりが、それに近い者を捕らえてしまったようねぇ……。やはり、運命というものは信じるべきかしら?」

 魔女はズイッと稲生に近づいた。
 それでもフードのせいで、顔の上半分は分からない。
 が、歪んだ笑みを浮かべているのは分かった。

 稲生:「あ、あの……」
 魔女:「出口はこっちよ。ついてきなさい」
 稲生:「は、はい!」

 稲生はホッとして魔女の後ろを付いて行こうとした。

 マリア:「ついていくな!勇太!戻れ!」
 稲生:「マリアさん!?」
 魔女:「チッ……!」

[1月5日03:45.天候:曇 長野県松本市 中央自動車道・梓川サービスエリア]

 稲生:「……!!」
 マリア:「勇太、大丈夫か?」

 稲生が目を開けると、マリアが顔を覗き込んでいた。

 稲生:「ゆ、夢……!?」
 マリア:「様子が変だと思っていたら、誰かの“ドリーム・トラップ”に入ってしまったようだな」
 稲生:「そ、そうだったんですか……。助かりました」
 マリア:「それより、バスが止まって何のアナウンスも無いんだけど、何かあったのか?」
 稲生:「えーと……」

 稲生は自分の腕時計を見た。
 時計は夢の世界と同じ時間を指している。

 稲生:「きっと……所定の休憩箇所に止まったんでしょう。降りることができますよ」
 マリア:「じゃあ、降りてみる」

 2人はバスの乗降口に向かった。
 夢の世界と同じように、全く同じ位置に全く同じ字体で休憩時間が掲示されている。
 今度はマリアも一緒のおかげか、闇の世界ということはなかった。
 積雪は相変わらずだが、ちゃんと除雪されているし、ベタな夜中のサービスエリアの法則通りだ。
 高速バスが休憩箇所に選ぶだけあって、その規模は大きいものだった。
 東北自動車道の那須高原サービスエリアみたいなものか。
 ドッグランまである。

 稲生:「ちょっとトイレに行ってきます」
 マリア:「私も」

 トイレに向かっている間、2人は夢の話をした。

 マリア:「たまたま夢の波長が、あの魔女と合ってしまったんだね。……いや、最初から勇太を狙っていたのかもな」
 稲生:「何なんですか、あれ?」
 マリア:「“ドリーム・トラップ”。本来はサキュバスなどの夢魔が使用する妖術を、魔道師用に転用したもの。あれを得意とする組は……日本にはいない」
 稲生:「え?」
 マリア:「このタイミングでたまたま日本にいた、普段は日本にいない組……」
 稲生:「アナスタシア組ですか?」
 マリア:「いや、あれはちょくちょく日本に来ている。アン組か……」
 稲生:「あ、あの、エルザさん!?」
 マリア:「……か、どうかは分からないけどね。夢の魔女、ホウキは持ってた?」
 稲生:「いや、無かったですね」
 マリア:「じゃあ、違うヤツだな」
 稲生:「おちおち寝てもいられないですねぇ……」
 マリア:「屋敷の中は師匠の魔法で守られているから、そこにいる分には心配無い。……よし、バスに戻ったら手を繋ごう。私の魔力のプラスすれば何とかなる」
 稲生:「は、はい」
 マリア:(もっとも、もう私にバレたからには、2度と来ることは無いだろうけど)

 稲生とマリアはトイレの入口で別れた。
 女子トイレに入ったマリアは、

 マリア:(油断も隙も無い奴らだ)

 魔女達に対する憤りで個室のドアを閉めてからふと気づく。

 マリア:(……私も、つい最近までそうだったっけ。とんだブーメランだった)

 魔女達の情報だが、早い者は早い。
 マリアが早くも人間時代からの呪い(トラウマや傷痕)から回復しつつあることは広まっており、中にはそれを快く思わない者もいる。
 所詮は、“七つの大罪”に捕われた魔女達なのだ。

 稲生:(マリアさんと手を……)

 一方、男子トイレに入った稲生。
 お湯の出る洗面台で、しっかり手を洗っていた。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師2人旅」

2017-01-30 22:12:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月4日21:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 湯快爽快おおみや]

 マリア:「最後はここで風呂に入るのが定番になってきたな」
 稲生:「戻りが夜行バスなもんで、すいません」
 マリア:「いや、別にこれでいいし」

 2人は食事処で夕食を取っていた。

 マリア:「心なしか、体に残った傷痕が少しずつ消えているような気がする。……気のせいかもしれないけど」
 稲生:「本当ですか?」
 マリア:「何度も温泉に入ったからかもしれない。ありがとう」
 稲生:「いえいえ、そんな……」
 マリア:「師匠達のように、グランドマスター(Grand Master)になる為の条件があって、それは『魔女』からの脱却なの。だから師匠達、体には傷痕が残っていないでしょ?」
 稲生:「そういえば……。イリーナ先生もきれいな肌ですもんね」
 マリア:「もちろん私はまだロー・マスターだから、次はミドル・マスターを目指すことになる。少しずつ人間時代の呪いを消さなくてはならない。そのスティグマが過去に受けた傷だとしたら、それが少しでも消えるのはいいことなんだ」
 稲生:「そうですよね。だけど、エレーナはともかくとして、『魔女』ではない人達も一部にはいるわけで、その人達はどうなるんでしょ?」
 マリア:「純粋に魔法を覚えたかどうかだと思うけど……」
 稲生:「あ、なるほど。……そろそろ、行く準備しましょうか。着替えもありますし」
 マリア:「そうだな」

 2人ともレンタルの作務衣を着ていた。

[同日21:30.天候:晴 湯快爽快おおみや→送迎バス車内]

 運転手:「大宮駅行き最終、発車しまーす!」

 送迎用のマイクロバスにエンジンを掛けた運転手が、建物のエントランスの方まで声を掛けに行く。
 車内には電球色の照明が灯っていた。
 稲生とマリアは2人掛け席に腰掛けている。
 運転手がバスに戻ると、すぐに自動ドアを閉めた。
 その後で駐車場の中を進み、裏手の路地側に出る。
 住宅街の中を通って、国道に出るルートである。

 マリア:「師匠が、特段何も無いから安心して帰ってきてくれとのことだ」
 稲生:「そうですか。それなら安心ですね」

 特に危険なことは占いに出なかったということか。

 稲生:「先生も大師匠様のお相手で大変でしたでしょうから」
 マリア:「それは師匠の仕事だしな。いつも寝てるんだから、たまには仕事してもらわないと」
 稲生:「ははは……」

 バスは国道に入ると、軽やかな速度で南下した。

[同日21:45.天候:晴 JR大宮駅西口→構内]

 バスは15分くらいで大宮駅西口に到着する。
 但し、路線バスではないので、バスプールの中で停車はできないし、バス停の真ん前にも止まれないので、そこから少し離れた所に止まる。
 バスを降りて、ペデストリアンデッキの上に上がる。
 大きな荷物は予め駅のコインロッカーに入れてあるので、途中で取りに行かないといけない。
 因みに、今ではもう自然に手を繋げるようになっている。

 稲生:「えーと、この辺だったかな」

 Suicaで支払いできるタイプのコインロッカー。
 タッチパネルにて荷物を取り出す選択肢を押して、自分のSuicaを当てれば開錠される。

 マリア:「やはりどうしても、来た時よりバッグが重くなってる……」
 稲生:「しょうがないですよ。お土産とかも、色々あるし」
 マリア:「大きいヤツとかは、送ったんだけどなぁ……」
 稲生:「おっ、そろそろ電車が出る時間です。急ぎましょう」

 稲生はマリアの分の荷物を取り出すと、急いで改札口に向かった。

[同日21:53.天候:晴 JR大宮駅埼京線ホーム→埼京線2184K10号車内]

〔「19番線から21時53分発、各駅停車の新宿行き、まもなく発車致します。ご利用のお客様は、お急ぎください」〕

 稲生:「よし、間に合った」
 マリア:「うん」

 りんかい線の車両が発車を待っていた。
 埼京線のシンボルカラーの緑ではなく、京浜東北線みたいなブルーのシートが目に飛び込む。
 夜の上り電車ということもあってか、あまり混んでいない。
 先頭車のドア横の座席に腰掛けた。
 それと同時に、発車メロディがホームに鳴り響く。

〔19番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ドアチャイムを3回鳴らしながらドアが閉まる。
 JRのE233系よりも、りんかい線の70-000系の方がドアの閉まるスピードが速いような気がする。
 E233系とは違うVVVFインバータの音色を響かせて、電車は地下ホームを出発した。

〔「お待たせ致しました。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。21時53分発、各駅停車の新宿行きです。途中駅での通勤快速の接続、並びに通過待ちはございません。次は北与野、北与野です」〕

 LED蛍光灯の白い光が車内を包む中、マリアは魔道書を取り出した。

 勇太:「マリアさん、勉強熱心ですね」
 マリア:「違う違う。これは、いわゆる日誌さ」
 勇太:「日誌?」
 マリア:「今日どういうことをして、何があったかを記録するもの……。『冒険の書』とも言うかな」
 勇太:「なるほど。セーブデータみたいなものですか」
 マリア:「そんな感じ」
 勇太:「じゃ、ゲームオーバーになったら、この電車の中から再スタートですか?」
 マリア:「あくまでも例えであって、本当にゲームオーバーになったら、本当に人生終了だからな?」
 勇太:「おっと、そうでした」
 マリア:「私も勇太も魔道師になった以上は、長い時を生きることになる。それこそ、勇太のダディやマミーが年老いて亡くなったとしても、勇太と私の姿は殆ど変わっていないはず」
 勇太:「歳を取らないと……いうわけですか。イリーナ先生がそうですもんね」
 マリア:「師匠の場合、実態は婆さんだよ。ただ、魔法であの姿になっているだけでね。あの体が元々きれいな人だったってことさ」
 勇太:「それは聞いています」
 マリア:「でも記憶となると別。師匠も、恐らく800年前に何があったかまではよく覚えていないと思う。ていうか、前に聞いたことがあったけど、殆ど答えられなかった。だから私は、こうしていい思い出ができたら、白紙の魔道書を日誌代わりにしてるんだ。魔道書はその魔道師の魔法が掛かっている限り、朽ち果てることはないからね」
 勇太:「なるほど……。あっ、旅日記!旅日記ですね!」
 マリア:「旅日記?……なるほど。それもいいかもね」

 マリアは本の表紙に手を翳した。
 マゼンタ色の表紙には何も書かれていなかったが、マリアが手を翳すと、『Tabi Diary』と出た。
 あえて、Tripではなく、Tabiと来たか。
 あいにくと、旅日記という単語そのものに相当する英単語は存在しない。

 マリア:「因みにこの中には、前に北海道で“魔の者”やその眷属達と戦った事も書いてあるよ」
 稲生:「おっ、そうですか。何だか、あれも随分昔にあったように感じるなぁ……」
 マリア:「魔道師として年数を重ねれば重ねるほど、時間の感覚がズレてくるそうだ。私もこうして、勇太に連れ出してもらえなかったら、とっくにそうなってたさ」
 稲生:「そうなんですか……」

[同日23:00.天候:晴 東京都渋谷区 バスタ新宿]

 JR新宿駅やバスタ新宿など、名前は新宿なのに住所は渋谷区という罠。

 マリア:「向こうに着くまで、一眠りってところか……」
 勇太:「そうですね」

〔「23時5分発、アルピコ交通、信濃大町駅経由、白馬八方バスターミナル行きはC7番乗り場から発車致します。……」〕

 バス乗り場に1号車の表示が出されたバスがやってくる。
 正月三ヶ日が過ぎたとはいえ、学生はまだまだ冬休みの時期である。
 1号車には既に満席の表示が出ていたので、2号車以降の続行便が出るのだろう。
 但し、それはこのバスタ新宿からは出発しないという罠。
 従来の新宿西口26番から出るという。
 稲生達は1号車に乗るので、ここで良い。
 スキー客を狙っての運行なので、実際にその装備でバスを待つ客が多かった。
 稲生達のように、ただ単にそこに住んでいて、戻るだけという乗客はかなり少ない。
 最近の夜行バスは3列シートが主流になっているが、こちらは4列シートのまま。
 但し、1号車はトイレが付いていて、シートピッチ等は少し広い(JRバスの楽座シートみたいなもの)。
 大きな荷物は荷物室に預け、荷棚に乗るものだけ持ち込む。
 因みに、ミク人形とハク人形は荷棚である。

 稲生:「バスに車内販売は無いからね」

 稲生が荷物を荷棚に乗せようとすると、ミク人形とハク人形が顔を覗かせた。
 4列シートであるが、稲生達のような2人連れならむしろ大歓迎である。
 但し、毛布やスリッパ等は無い。
 既にカーテンは閉まっており、外の様子を窺い知ることはできない。

 バスは2〜3分ほど遅れて出発した。
 乗り場は4階なので、公道に出る為にスロープを下りることになる。
 高速道路に入るまでは、まだ車内の照明は点いたままだ。
 マリアは欠伸をして、ローブに付いているフードを被った。

 マリア:「勇太、私はもう寝るから、着いたら起こして」
 勇太:「分かりました。おやすみなさい」

 とはいえ、このバスの終点まで乗るので、寝過ごしの心配は無いが。
 バスはバスタ新宿を出ると、夜の甲州街道を高速の入口に向かって行った。
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“大魔道師の弟子” 「ダンテ一門は世界一規模の大きい魔道師組織の為、全く顔も名前も知らない魔道師がいる」

2017-01-29 21:31:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月4日12:30.天候:晴 埼玉県さいたま市 さいたま新都心]

〔「魔法の書は、この地に置いておこう。いつかまた、必ず悪魔が蘇る。束の間の平和になるだろうが、今はそれを享受するんだ」「ええ、そうね」〕

 魔道師2人、魔道師が主人公の映画を観るの図。

 稲生:「いい作品でした」

 何故か手を合わせている稲生。

 マリア:「うーむ……。まさか、頼り無い探偵が後で助けに来るとは……」
 稲生:「前半で何かしらのフラグが立っているような気がしたんですが、終盤で見事に伏線が回収されましたね」

 2人の魔道師は外に出た。

 稲生:「しかし、マリアさんは先にパンフレット買っちゃう派だったんですねぇ……。パンフレットなんて、ネタバレの宝庫なのに」
 マリア:「前もそうだったろ?私は別にネタバレなんか気にしないし。だいいち、未来をガンガン予言する魔道師がそんなこと言ったらブーメランだろ?」
 稲生:「まあ、そうですね」
 マリア:「次はどうする?」
 稲生:「お昼食べてから、買い物に行きますか」
 マリア:「うん」

 稲生とマリアは、さいたま新都心駅の陸橋に上がった。
 東西自由通路の役割を果たしている。
 西側には超高層ビルが何棟か建っている。
 そこから時折強いビル風が吹く。

 マリア:「ん?」

 マリアはふと上を見上げた。

 稲生:「どうしました?」
 マリア:「エレーナ……?じゃないか」

 マリアが指さした先には、ホウキに跨って空を飛ぶ魔女の姿があった。

 マリア:「もっと高く飛ばないと目立つ上、乱気流に巻き込まれるぞ」

 高度が高い方が気流に巻かれやすいと思われるだろうが、別に飛行機ほど高く飛ぶわけではない。
 せいぜい、ヘリコプターくらいの高さである。
 因みにマリアはホウキで空を飛ぶ技術は持ち合わせていないが、エレーナの後ろに乗ったことはあるため、何となく分かるものはある。

 稲生:「マリアさん、失速してますよ!?」
 マリア:「誰だか知らんが、あのバカ!」

 稲生達は陸橋の向こう側に渡ると、ビルの改修工事現場に墜ちた魔女の救助に向かった。

[同日12:45.天候:晴 さいたま新都心駅西側]

 工事現場は昼休みということもあって、中に人はいなかった。
 それでもいつ誰かに見られないとは限らない。
 2人は急いで救助に当たると、近くの物陰に連れて行った。

 マリアは荷物の中から回復薬を取り出すと、それを魔女に使用した。
 スプレー式になっていて、それを見た稲生は、

 稲生:(何だか、“バイオハザード”の救急スプレーみたいだな……)

 と、思った。
 もちろん、原材料はグリーンハーブを使用したものなのだろうが。

 稲生:「マリアさん、魔法は使わないんですか?」
 マリア:「こんな所で魔法を使ったりしたら目立つだろ」
 稲生:「そうでした」
 マリア:「見たところ、同門のヤツだ」
 稲生:「そうなんですか。でも僕は知らないし、マリアさんも知らない?」
 マリア:「あまり日本に来ないヤツだろうな」
 魔女:「う……」
 マリア:「おい、大丈夫か?しっかりしろ」
 魔女:「うう……」

 マリアより赤みの入った金髪の魔女が目を開けた。

 魔女:「ここは……?」
 マリア:「日本の埼玉県だ。どこを飛んでいたのかも覚えてないのか?」
 稲生:「キミは誰?」
 魔女:「ひっ……!!」

 稲生が顔を覗き込むと、魔女は怯えた顔をして後ずさった。

 マリア:「心配するな。この男は同門の者だ。私はイリーナ組のマリアンナ・ベルフェ・スカーレット。この男は稲生勇太だ。聞いたことくらいあるだろう?」
 魔女:「はぁぁ……」

 魔女は溜め息にも近い息を吐いた。
 歳の頃は稲生達と変わらなさそうだ。

 稲生:「マリアさん、もしかしてこの人、具合が悪いんじゃ?」
 マリア:「なにっ?」

 マリアは魔女の額に触った。
 明らかに熱い。

 マリア:「おまっ……!こんなヒドい状態で飛んでたのか!何を考えてるんだ!自殺行為だぞ!!」
 稲生:「マリアさん、取りあえず僕の家に運びましょう」
 マリア:「全く。とんだ拾い物しちゃったな……」

 昼食は後にして、稲生とマリアは魔女を連れて行くことにした。
 タクシー乗り場が近いので、そこからタクシーに乗せて家まで帰った。

[同日13:15.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]

 正月三ヶ日も終わったので、家には誰もいない。
 稲生達は取りあえず、マリアが寝起きしていたベッドに魔女を寝かせた。

 マリア:「エレーナなら仕事の関係で顔が広いから、知ってるかもしれない」
 稲生:「それはいいですね」

 マリアは水晶球を取り出した。

 マリア:「エレーナ、エレーナ。聞こえる?」

 水晶球越しに、エレーナに呼び掛ける。
 だが……。

 エレーナ:「ZZZ……ZZZ……」

 寝てたw

 マリア:「起きろ、こらーっ!!」
 エレーナ:「お金がいっぱい……へへ……ZZZ……」
 稲生:「ダメだ、こりゃ。完全に爆睡してる。しょうがない。イリーナ先生に聞きましょうよ」
 魔女:「はぁぁぁぁ……」

 魔女は苦しそうに息を吐いた。

 稲生:「インフルエンザか何かかな?」
 マリア:「ええっ!?」
 稲生:「冷却シート持ってきます。マリアさんはイリーナ先生に問い合わせを」
 マリア:「分かった」

 マリアは今度はイリーナに問い合わせた。

 マリア:「師匠、師匠。こちらマリアンナです。応答願います」
 イリーナ:「ZZZ……ZZZ……」

 イリーナも爆睡してた。
 ズッコケるマリア。

 イリーナ:「へへ……さすがにそれは食べれないよ……ZZZ……」
 マリア:「ったく!どいつもこいつも!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。ま、マリアンナ先輩……こんにちは……です」
 マリア:「リリィ?リリィか……オマエに用は無いんだが」
 リリアンヌ:「フフフ……。でも、そこに寝ているヤツは知ってますです……フヒヒ……」
 マリア:「誰だ?」
 リリアンヌ:「アン組のエルザ・ベリ・アンダーセンです。ドイツ出身ですよ」
 マリア:「うーん……。聞かない名だなぁ……」
 稲生:「よくリリィは知ってるね?」
 リリアンヌ:「フヒッ、魔界で一緒でしたから」
 マリア:「魔界を拠点にしてるヤツか。それなら、話が早い。早くアン師に連絡して、引き取りに来てもらおう」
 稲生:「はい」

 こうしてエルザという名のドイツ人魔女は、所属組の者によって引き取られた。
 急な発熱が原因で、魔界の穴を潜り抜けたことに気づけなかったのだろうとのことだが、何だか信じられない事件だった。
 もっとも、稲生にはエレーナとイリーナに対するマリアのツッコミの方が怖かったが。
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“大魔道師の弟子” 「日本在住の魔道師たち」

2017-01-28 20:37:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月4日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市 さいたま新都心]

 稲生:「昨日は一転して家の手伝いやらされたから、今日は戻りまで遊びましょう」
 マリア:「別に、無理しないでいいのに……」
 稲生:「いえいえ。ここは1つ、屋敷にいてはできないことを」
 マリア:「しかし、そう上手く行くかな?」
 稲生:「どうしてです?」
 マリア:「私達が上手くやっているという話を聞きつけて、普段はヨーロッパを拠点にしている組が日本に向かっているという話を昨日聞いたんだ」
 稲生:「そんなに珍しいことですか?」
 マリア:「そもそも、ダンテ一門に男は全体の1割しかいないからなぁ……」
 稲生:「そりゃそうですけど……」
 マリア:「私も魔女の1人だった。それが勇太と仲良くやれていることがレアケースということで、噂になっているらしいんだ」
 稲生:「どうしてまた?」
 マリア:「アンナが手を引いた男、というのはかなりインパクトが強いんだよ。1度あいつに目を付けられたら、生存率は20%にも満たない」
 稲生:「何ですか、それ!?」
 マリア:「あと、リリィに襲われて、リリィは後で詫びに自分の体を差し出そうとしたけど、勇太は何もしなかっただろう?」
 稲生:「そりゃまあ……」

 魔道師のクリスマスパーティ(忘年会)での勇太の振る舞いもまた評価の対象らしい。
 あと何より、まだ見習でありながら、総師範ダンテより表彰を受けたというのも大きいようだ。

 マリア:「元々、誰かが水晶球で見ているというのもあるだろうけどね」
 稲生:「えっ?じゃあ、今でも監視されてるんですか?」
 マリア:「師匠に常に監視されているというのは、魔道師の弟子の宿命さ。それがたまたま他の魔道師からも、というだけに過ぎない」
 稲生:「そりゃそうですけど、せっかく2人きりになれたと思ったのに……」
 マリア:「いいからいいから。早く映画見よう」
 稲生:「はい」

 2人の魔道師はMOVIXへ入った。

[同日10:30.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナはフロントで宿泊客のチェックアウトの対応をしていた。
 バックパッカーの多いホテルなので、外国人の利用が多い。
 そんなホテルでは、マルチリンガルなエレーナの存在が重宝されている。
 尚、妹弟子のリリアンヌは、魔界で師匠のポーリンに直接付いていることが多い為、ここにはいない。
 ポーリンがイリーナと敵対していた頃は、自分も弟子として向こうの弟子であるマリアを叩き潰すつもりで敵対した(尚、稲生はまだ正式に弟子入りをしていなかった)。
 今では師匠同士が和解した為、弟子同士が対立するわけにも行かず、今では協力する側になっている。

 エレーナ:「オーナー、これで今日チェックアウトのお客様は全て出られました」
 オーナー:「お疲れ様。じゃあ、今日はもう上がっていいよ」
 エレーナ:「はい」
 オーナー:「今日は『宅急便』の仕事は無いの?」
 エレーナ:「明日、ありますよ。午前中指定で長野まで」
 オーナー:「大変だねぇ……」
 エレーナ:「意外と日本も広いですから」

 ウクライナ出身のエレーナ。
 ストリートチルドレンをやっていた頃は、まさか日本に来て安ホテルのフロント係をやるとは思ってもみなかった。
 弟子を探していたポーリンに、魔力の素質を認められて拾われた経緯を持つ。
 マリアの出身国であるハンガリーとは隣国同士であるが、いずれも政情不安な国家であり、そういった境遇もマリアと仲良くできた理由である。
 だから正直、故郷を政情不安に陥らせたロシアが好きにはなれない。
 ダンテ一門にロシア人が多数所属しているが、もしポーリンがイギリス人じゃなかったら、組替えを希望したかもしれない。

 エレーナは自分が寝泊まりしている地下室へ降りると、すぐに自室に入った。

 エレーナ:「ふう……。ホテルの仕事より、パン屋の店番の方が楽かもな」

 地下は本来、ボイラー室になっていて、そこの一角を改造した部屋である。
 それでも六帖間くらいの広さはあって、ベッドやらシャワールームやら設置されている。

 エレーナ:「そうだ。確かマリアンナ達がこっちに来てるんだっけ」

 エレーナは机の上に置いてある水晶球に手を翳した。
 どんなジャンルに関わらず、水晶球を使うのはダンテ一門の本科として習得する魔法なので、エレーナも使える。
 尚、無期限の免許皆伝延期はようやく有期に切り替えられ、来年度より正式にInternからLow Masterへの昇格が確約されている。

 エレーナ:「おっ、相変わらず仲良くやってるねぇ……」

 映画館で仲良く隣同士で座り、映画を観ているマリアと稲生の姿が映し出された。

 エレーナ:「てかこの中継、他に3人くらい観てるしw 絶対、映画観てんじゃないよな」

 エレーナはニヤッと笑って、画面を切り替えた。

 エレーナ:「よぉ、ナディア。なに、カップルのイチャ付きを覗き見してんの?」
 ナディア:「ち、違いますよ。ゴローが従兄弟の様子を見てくれと……」

 ナディアもまたエレーナと同様、『魔女』ではない魔道師である。
 実は日本人の彼氏がいて、一緒にウラジオストクで暮らしているはずだ。
 で、その彼氏というのが稲生の従兄弟という世間の狭さぶりだ。

 エレーナ:「まあ、アンタはいいけどさ……」

 エレーナはまた水晶球の画面を切り替える。

 エレーナ:「アンタ、『オトコなんて要らない!追い出してやる!』とか言ってなかった?」
 ゼルダ:「な、何のことだ?」
 エレーナ:「『マリアンナの裏切り者!』とか言ってたような気がするけど?」
 ゼルダ:「気のせいだ。私は今後の参考にと、こっそり……あ、いや、邪魔しないように、だな……」
 エレーナ:「ま、あんま妬み過ぎると、ジルコニアやウェンディの二の舞になるからね。気をつけなよ」
 ゼルダ:「わ、分かってるって」

 エレーナはまたチャンネルを切り替える。……って、テレビかよ。

 エレーナ:「アンタんとこのスポンサー、経営状態ヤバいみたいよ?マリアンナの覗き見してないで、そっちの対策したら?」
 ミア:「エレーナ、後で見ときな……!」
 エレーナ:「はーいはい。いつでも日本で待ってるから。じゃね」

 エレーナは水晶球の画面を消した。

 エレーナ:「ミアもヘタすりゃ、ウェンディの仲間になっていたくらいだからなぁ……。ま、ウェンディじゃなくて、マリアンナの後に続くつもりならいいんだけど……」

 マリアが魔女から脱却できたモデルケースになれれば、それはとてつもなく大きなことである。
 逆を言えば……。

 エレーナ:(もし仮に稲生氏がマリアンナを裏切るようなことがあれば……マリアンナだけじゃなく、『魔女』達全員が敵になるわけか……。はは……稲生氏は、とんでもない世界に入って来たね)

 エレーナは服を脱いでシャワールームに入った。
 マリアとは同じ金髪でも髪質は違い、ウェーブの掛かったロングである。
 そして、体中に残っている傷痕は人間時代に暴行や虐待を受けた痕ではなく、魔道師になってから“魔の者”との壮絶戦を繰り広げた後についたもの。
 さすがにマフィアからマシンガンの銃撃を食らった時には、死んだと思ったが。
 魔道師は普通の人間よりも、少しは頑丈にできているらしい。
 但し、体中に銃弾を受けた傷痕は残ってしまったが。
 おかげさまで、今ではエレーナは“魔の者”から狙われることもなくなったが、ヤツがその次に目を付けたのがマリアだったのは皮肉である。

 エレーナ:(仮眠取ったら、今度はチェックインの対応か……)

 明らかに他の魔道師と比べて働いているという自負のあるエレーナだった。
 因みに顔の広さは、マリア以上なのは間違いない。
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