報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「ロイド達の活動」

2015-05-31 21:37:55 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月31日19:00.仙台市青葉区某所 某ピアノ・バー 平賀太一、七海、エミリー]

 イブニングドレスを着た七海が小さなステージに立つ。
 その横にはグランドピアノが置いてあり、それでエミリーがピアノを弾いた。
 七海がローテンポの歌を歌う。
 シックな雰囲気のバーにはよくマッチした歌だ。
 七海はメイドロボットだが、数少ない歌唱機能を持たせた個体である。
 財団があった頃は協定で、実験以外の目的でボカロ以外に歌わせないようにというのがあったが、財団崩壊後は関係無くやっている。
 平賀がここでエミリーにピアノを弾かせ、七海に歌わせているのには、偏にボーカロイドとは違った目的がある。
 1つはかつてテロ用途だったマルチタイプにも、こういう特技があるという地道なPR。
 そしてメイドロボットが歌うことで、ただ単に家政婦ロボット以外にも可能性を秘めていることを証明するというもの。
 どういうことかというと、ヨーロッパでは子守りもメイドの仕事の1つであり、メイドロボットの普及の為にはその用途も確立させなければならない(子供の相手もできなければならない)という平賀の考えがあった。
 自分が子供を持って、初めて気づいた所もある。
 介護用途としての実験は、既に他の研究者がやっている。
 ある意味、マルチタイプが生みの親である老博士達の介護をやっていたようなものだ。

 歌い終わって、七海が観客達に深々と頭を下げる。
 観客達からは拍手が起きた。
 動画を撮っていた平賀は、
(敷島さんにも、シンディをこういうことに使うようアドバイスしないとな……)
 敷島にも考えはあろうが、今現在のシンディの用途はテロ用途だったことを生かした、テロ対策だ。
 それもいいのだが、もっとソフトな面をアピールしないと世間に受け入れられないだろうと平賀は思っている。
(今度、東京に行った時にでも打診してみよう)

[6月1日10:00.天候:晴 東京都墨田区・新大橋通りのガソリンスタンド 一海]

 別に車で乗り付けたわけではない一海。
 しかも何故か、店舗の待合室の中にいる。
 事務所入り口の横には達磨が置いてあり、
「ダルマさん、こんにちはー」
 その達磨に話し掛けるのだった。
 その時、ガラス扉が開けられ、
「お待たせしましたー!ご注文のエンジンオイルっスね!」
 と、スタンドの店員が取っ手付きのドラム缶に入ったエンジンオイルを2缶持って来た。
「ありがとうございます。じゃあ、支払いはカードで」
 よく運送会社やバス会社が法人契約しているカードを一海は出した。
「重いっスよ?大丈夫スか?」
「ええ。大丈夫です。お世話様でした」
「ま、毎度、あざっしたー!」
 支払いを終えた一海は、重さ何十キロもあるエンジンオイル入りのドラム缶を両手に持って、ガソリンスタンドを後にした。
「お、今日も来たのか。敷島エージェンシーの事務員さん」
 と、事務所の中で新聞から目を放す店長。
「マジすか!?あれ!パネェっス!人間じゃないっスね!」
「だって、人間じゃないから」
「ええっ!?」
 入って日の浅いバイトの兄ちゃんと、既に慣れている店長のギャップが凄いのだった。

[同日10:15.敷島エージェンシー 一海、シンディ、井辺翔太]

「ただいまぁ」
「お帰り。お疲れさんね」
 ドラム缶の1個をシンディが持って、地下の倉庫に持って行く。
「力仕事なら、アタシが行ったのに」
 と、シンディが言うと、
「いいえ。こういうのは、私の仕事だと思ってますから」
 と、にこやかに答える一海だった。
「いずれにせよ、本来なら車で運ぶべきものなんですが……」
 2体のガイノイドが出て行った後で突っ込みを入れる井辺。
 そこへ、電話が掛かって来る。
「はい、お電話ありがとうございます。敷島エージェンシー、プロデューサーの井辺です。……はい。大変お世話になっております。……はい。……は?と、仰いますと?……恐らくそれは、シンディのことを申されているかと思いますが、あいにくとシンディは裏方要員でして、アイドルとしての仕事は承っておりません。……ええ、確かにエミリーとは姉妹機ですが、オーナーが違いますので、オーナーの意向にもよります。……はい。真に申し訳ありませんが、シンディはタレントとしての仕事は受けておりませんので……。はい、失礼致します」
 電話を切ると、そこに、鏡音リンがやってきた。
「なになに?お仕事の電話?」
「はい。シンディさんをファッションモデルに起用したいとのオファーがあったのですが、芸能活動は用途外ですから」
「リンが代わりに受けてもいいよ!可愛い服着たい!」
「あいにくですが、身長175センチ以上の大人の女性が対象です。ちょうどシンディさんはその条件に適うのですね」
「えーっ!」
「……あ、そうだ。鏡音リンさんには、別の仕事の依頼が来ていました。それを受けてみますか?」
「なになに?何の仕事?」
「同じくファッションモデルの仕事です。雑誌社から急に欠員が出たので、是非というオファーがありました」
「おお〜!」

[同日14:00.都内某所の写真スタジオ 井辺翔太&鏡音リン]

「…………」
「はい、終了!お疲れさまでーす!」
「ありがとうございました。鏡音さん、こちらに……」
 何故か無表情のリン。
「あの、プロデューサー?」
「お疲れ様でした、鏡音さん。すぐに着替えてください」
「このロリータ・ファッションは……?」
「よくお似合いでしたよ」
「もっと大人っぽい服が良かったーっ!」
「しかし、鏡音さんはそういう用途ですので……」
 ぷくーっと頬を膨らませるリン。
 設定年齢は14歳なのだが、もっと歳が下のように見えてしまう。
 初音ミクが永遠の16歳であるのと同様、リンとレンも永遠の14歳なのである。
「では、次の仕事に参りましょう。今度もまたグラビア撮影の仕事です。後輩の方達と一緒に撮ります」
「後輩?おおっ!?」

[同日16:00.都内某所の別の撮影現場 井辺、鏡音リン、結月ゆかり、Lily]

「はい、撮りまーす!」
 女子高生らしく制服ファッションに身を包んで撮影する、ゆかりとLily。
 制服だけでなく、水着を着ての撮影もあったのだが……。
「リンだけスク水〜」
 後輩といっても事務所の後輩で、しかも設定年齢はリンより年上だった。
 ゆかりとLilyは18歳。
「はーい!」
「いいねー!その笑顔!」
 ゆかりだけ楽しそうに撮影していたのだが、
(いつになったら、CD出せるんだろう?)
 ということを考えるLily、
(もっと大人っぽい仕事したーい!)
 と、考えるリンだった。

[同日18:00.敷島エージェンシー 井辺、リン、ゆかり、Lily]

「今日はお疲れさまでした。いつものように自己診断チェック後、バッテリーの交換を行ってください」
「ねえ、プロデューサー。私達、いつCDデビューできるの?」
 Lilyが聞いた。
「企画検討中です」
「ねぇねぇ、プロデューサー。リンは、もっと大人の仕事したーい」
「鏡音リンさんは、逆にMEIKOさんや巡音ルカさんにはできないことをやっておられます。このまま、あなただけできる仕事をやってください」
「まあ、確かにリンさんにはMEIKOさんみたいに、酒造メーカーのCM契約はちょっとムリですよね」
「うー……」
 ゆかりの言葉に肩を落とすリン。
「新しい仕事の依頼が来ていますね。……鏡音リンさん、この仕事をやってみますか?」
「何の仕事ー?」
「大手学習塾のポスターのモデルですね。既にボーカロイドのお2人が決まっているようですが、中学講座の案内用に、ちょうど設定年齢が中学生のリンさんがよろしいかと」
「先生役が氷山キヨテルで、小学講座のモデルが歌愛ユキ?そのまんまじゃん!」
 ファックスの内容を見たLilyが突っ込んだ。
「あなたが適任です。このように、あなたしかできない仕事もあるんですよ?」
「はーい……」
「高校講座のモデルは無いんでしょうか?」
 ゆかりが恐る恐る手を挙げた。
「あいにくと高校講座は、別の事務所の人間のアイドルさんが受けるようです」

 新人ボーカロイドだけでなく、それまでのベテランボーカロイドのマネージメントも任されるようになった井辺。
 これだけ見れば、とてもテロリズムなど無縁のように見えた。
 だが、時折社長の敷島が霞ケ関へ直帰・直行という予定表を見ると、やはり無縁ではないのだと思い知らされるのだった。
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“新アンドロイドマスター” 「近づく真相」

2015-05-31 15:27:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月31日14:00.天候:雨 敷島エージェンシー・社長室 敷島孝夫&井辺翔太]

「……こんな感じですかねぇ……」
 社長室のテーブルに向かい合って座る敷島と井辺。
 社長室といっても大企業のそれとは違い、せいぜい8畳間くらいの広さの部屋だ。
 壁際に2人用のソファが向かい合って置かれており、その間にテーブルが置いてある。
 テーブルの上には、1枚の紙が置かれていた。
 そこに書かれているのは、人物のシルエット。
「顔とかは分からないか……」
「はい。すいません」
「身体的な特徴は……まあ、確かにエミリーやシンディに似てるな……」
 先日、デイライト・コーポレーションに現れたスナイパーのことを思い出して人物像を描いているのである。
「どこかで会ったことがあると言ったな?」
「気のせいかもしれませんが……。大学生時代、多くの欧米人留学生と会ったり、そのうちの1人と一緒にアメリカ旅行に行ってたりしたので……」
「そこで、テロリストを目撃したのかもしれんねー。確か、シカゴのビルであったイスラムのテロ事件に巻き込まれたことがあったんだって?」
「はい。幸い、救助隊が来る前にビルから脱出することができましたが……」
「そうか。同時進行で、俺なんかブラジルのサンパウロで起きた極左ゲリラのテロに遭ってたよ。いや、まさか、テロリストに女がいるとは思わなくってさぁ!危うくアリスに浮気疑惑を持たれちゃったよ。はっはっはっ!」
「……イスラムのテロと違い、思想テロにおいては男女混合であることが多いようです」
「そうみたいだ。いい教訓になったよ」
(どこをどうやったら奥様に浮気を疑われたかは、聞かない方がいいでしょう)
「空を飛んでいる、右手がライフルという時点でマルチタイプだな。こりゃついに十条の爺さん、本当にマルチタイプを作っちゃったかな」
「犯行声明とかは無かったんですよね?」
「警察やオレ達を翻弄する為に、ワザと犯行声明は出さなかった恐れがあるな」
「では、やはり十条博士が……?」
「ああ。敵対関係でマルチタイプの設計図を持っているのはあの爺さんしかいないし、実際作れるのもあの爺さんしかいない……はずだ。マルチタイプ8号機、ついに始動かな」
「8号機ですか……」

 その頃、社長室の外では……。
「何を話してるんだろうね?」
「きっと秘密の話だYo〜」
 鏡音リンとレンが聞き耳を立てており、その後ろには初音ミク、更に結月ゆかりと聞き耳を立てていた。
「みくみく!そんなに押したら、ドアが開いちゃうYo!」

「……一応、平賀先生の方に、このデザインのロイドに心当たりが無いかどうかお尋ねしてだな……」
「そうですね。お願いしま……」
 バターン!
「な、何だ!?」
 ドアが倒れた。
「あ……!」
 ドアの上に折り重なるようにして倒れ込むボーカロイド達。
「な、何やってんだ、お前ら!?」
「は、初音さん!?確か、これからグラビアの撮影では?鏡音さん達は、来週のデュエットライブの衣装合わせですよ?早く行ってください!」
「エッヘヘヘ……」
「し、失礼しましたーっ!」
 慌てて逃げ出すボーカロイド達。
「……って、せめてドア直してけーっ!」
 敷島がそこに突っ込んだ。
 既に工具箱を持って来て、修理する気満々の未夢とシンディがいた。
「未夢、そっち持って」
「はーい」
「本当に面白いコ達ですね、社長?」
「だろ?キミもプロデュース大変だけど、頑張ってくれ」
「はい。まずは新人のコ達のCDデビューを目指しています」
 井辺が言うと、
「えっ!?CDデビュー!?私達、できるんですか!?」
 ドアを押さえていた未夢が反応し、パッと手を放して井辺の方を向いた。
「こ、こらーっ!いきなり手を放すなーっ!」
 シンディが慌てて倒れかかったドアを片手で掴み、事無きを得た。

[同日15:00.天候:曇 東北工科大学・南里志郎記念館・特別講義室 平賀太一&エミリー]

「……以上で、エミリーの新型ボディの構造についての説明を終わります。質問のある方は……」

 平賀の仕事の1つに、世界各地からやってくるロボット研究者に対する特別講義が加わっていた。
 質問がある日と無い日がある。
 エミリーの構造が斬新過ぎて、そもそも何を質問したら良いか分からないそうだ。
 果敢に質問する研究者もいて、平賀はちゃんとそれに答えるのだが、質問者は後にセリフを無くすのがセオリーだ。
 それでもエミリーを見たいという希望者がいるうちは、それに応えるようにしているのが平賀の方針だ。
 既に故人となった、エミリーの生みの親がそうしていたからだ。
「やっぱり今のところ、マルチタイプを作れるのは世界に2人だけか……」
 平賀はエミリーの電源を入れながらそう呟いた。
 弟子の育成を考えてはいるのだが、なかなか人材がいないのが実情である。
「じゃあ、行くか。エミリー」
「……イエス。ドクター・平賀」
 記念館を出て、研究棟へ向かう。
 そこへ、平賀のケータイが鳴った。
 発信元を見ると、敷島になっている。
「はい、もしもし?どうしました?」
{「あー、平賀先生、お疲れさまです。今、電話大丈夫ですか?」}
「ええ、大丈夫ですよ」
{「実は先ほど、うちの井辺君が、埼玉の研究所を襲ったテロリストを思い出しましてね」}
「本当ですか!?」
{「ええ。ただ、シルエットだけなんです」}
「それで?」
{「特徴はマルチタイプによく似ているので、それだけでもファックスで送らせて頂きました。何かお心当たりがあればと思いまして……」}
「分かりました。では、すぐ研究室の方に確認します」
 平賀は電話を切った。

[同日15:15.東北工科大学・研究棟 平賀&エミリー]

「こ、これは……!」
 平賀は目を大きく見開いた。
 だが、眼鏡がズリッと下がって、
「アバウト過ぎて、よく分かんねぇ……」
 が、正直な感想だった。
 エミリーが自分のメモリーと照合するが、兄弟全員がヒットする有り様だった。
 マルチタイプはエミリーやシンディも含めて、全部で7機製造されたのが分かっている。
 そのうち現存・稼働しているのは、言わずとしれた1号機のエミリーと3号機のシンディ。
 身体的な特徴は、基本的に皆同じである。
 一応区別する為に性別を変えたり、髪型を変えたりしているが……。
「どうだ?エミリーから見て、これはお前の妹や弟だと思うか?」
 平賀が振ると、
「照合率は・52.07パーセント・です」
「ほとんどフィフティ・フィフティかよ。だけどなぁ、敷島さんの言う通り、これがマルチタイプだとして、新たに造れるのは俺と十条博士だけだ。それも、俺の場合はまだ南里先生の設計図を基にして作っただけだからな。デザインからオリジナルで造るなんて芸当まで条件に含めたら、十条博士しかいないわけだが……」
「イエス……」
「なあ?どうして十条博士は、せっかくの手持ちである『5号機のキール』を処分したんだろう?」
 平賀が師匠から相続したエミリーに聞いた。
「分かりません」
 南里はエミリーを旧ソ連崩壊に伴う混乱の最中、日本へ運び出し、ウィリーはシンディをアメリカに運び出している。
 取り締まるべき旧ソ連の治安維持機関が分解していたとはいえ、物凄い危険が伴ったことは想像に難くないが、しかしそれだけの価値があったのは間違いないだろう。
 そしてその危険を冒してくれたことで、確かに助かっている。
 無論、十条の場合はその危険を回避することができず、止む無く処分せざるを得なかったと考えるのが通常だが。
「まあいい。俺達は俺達で、できることをやろう」
「イエス」
 平賀の研究室の壁には、今夜、市内の劇場で行われる夜会コンサートのポスターが貼られていた。
 その中に、ピアノを弾くエミリーの写真が掲載されていた。

 マルチタイプは、けしてテロを行ったり、それを防いだりするだけの用途ではないことをアピールするという、平賀側の努力である。
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冨士参詣臨時便

2015-05-31 00:20:20 | 日記
小笠原で震度5強、1都9県で震度4…M8・5

 ANPさんからコメントを頂戴しているが、本記事や地震に関係の無い内容なので返信は割愛させて頂く。
 地震があった際、私は勤務先のビルにいたが、幸いにして被害は無かった。
 それは不幸中の幸い、転重軽受というべきなのだろうが、実際に対応を迫られる場面に遭遇したことから、正直ツイてない感MAXではある。
 何らかの予言、メッセージであるような気がしてならない。
 次の日曜勤行で、浅井会長が今後の災害を予言すれば大丈夫だが(浅井会長が予言すると却って大丈夫の法則。これもある意味、通力か)。
 出先で地震に遭った方におかれては御気の毒だが、落ち着いた行動を取って頂きたい。
 東京湾沿岸部を走行するJR在来線以外は、一応運転されているようだ。

 全く。
 ちょっと坊さんの批判をしたら、これだよ。
 はいはい、分かりましたよ!(逆ギレ)
 ネットでは阿部布教部長の過去の事件を取り上げて誹謗する向きがあるが、それでも変な批判をすると緒天善神が動くということだ。
 講演内容は異議ありだが、ま、私が騒いだところで、どうにもならんということだな。

 その通力で、私にも功徳があればなぁーと思った。

 あとはせめて、私の添書登山の時までに何も無いように……と、ヘタに祈念すると、余計に事態が悪化するようだから黙ってておこう。

 他に原因があれば、教えてください。
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“新アンドロイドマスター” 「Double Memory」

2015-05-29 19:21:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月27日16:00.天候:晴 DC埼玉研究所・本館2F小会議室 井辺翔太、敷島孝夫、シンディ]

 謎の狙撃テロの際、意識を失って医務室に運ばれた井辺。
 幸いどこもケガは無く、数時間後に意識を取り戻した後、シンディに案内されて小会議室に入った。
 テロの一報を聞いて駆け付けた敷島がいるとのことだった。

「失礼します」
「おう、井辺君!無事だったか!」
 敷島が中にいて、井辺の姿を見つけると椅子から立ち上がった。
「ええ。御心配をおかけしました」
「ケガは無いんだったな?」
「はい。幸い、防弾ガラスが守ってくれまして……」
「そうかそうか。じゃあ俺、身元引受人だから」
「身元引受人?」
 すると、別の入口から制服の警察官とスーツを着た刑事が入ってきた。
「テロリストを目撃した数少ない人物として、話が聞きたいってさ」
 敷島は肩を竦めた。
 すると、私服刑事が口を開いた。
 名前を名乗った後で、
「すいません。研究所の監視カメラは内外に多く設置されているようなんですが、そのどれにも映っておりません。こちらの所員さんの話によりますと、あなたがテロリストを目撃した後で意識を無くされたと伺い、どのような人物だったかをお聞きしたいと思いまして」
 と、聞いて来た。
「ほんの一瞬だけだったのでうろ覚えですが……」
「それでも構いません」
「それは……。!」
 一瞬、井辺の脳裏によぎったフラッシュバック。
「背の高い……女性で……うっ!!」
「どうしました!?」
 井辺は口元を押さえ、室内の隅にある洗面台に走って嘔吐した。
「井辺君!どうした!?」
「トラウマ……?」
 刑事がふとそんなことを口走った。
「刑事さん、申し訳無いけど、意識が戻ってすぐの聴取はちょっと……」
 敷島は眉を潜めて刑事に言った。
「何しろ、防弾ガラスが無かったら、死んでいたかもしれない状況だったんですから」
「社長は死にそうにないけどね」
 シンディは井辺を介抱しながらニヤッと笑った。
「俺だったら全部話すさ。俺と井辺君を一緒にするな」
 敷島は変な顔をしてシンディに言い返した。
「敷島社長が、あのウィリアム・フォレスト事件の英雄であることは承知しています。ただ、一歩間違えれば警視庁のご厄介になる側だったとも伺っておりますが?」
「いやー、さすがに都バスでバージョン達の包囲網に突撃したのはやり過ぎたかな?」
 バージョン達が都心のオフィス街に突如として現れ、街は大混乱に陥った。
 ドクター・ウィリーのアジトは知っていたものの、バージョン・シリーズの軍勢がそこを固めていた。
 そんな時、敷島は乗員・乗客ともに避難した後で無人の放置された都営バスをたまたま見つけたのだった。
 大型自動車免許(一種)は持っている。
 それに乗り込み、アクセルベタ踏みでバージョン達の包囲網に特攻し、隙ができた所へエミリーなどが突入していった。
「よく考えたら、近くにタンクローリーも放置されていたから、それに火ィ点けて突っ込ませた方が良かったかもしれない」
「それも困ります」
「てか、ドクター・アリスの方が知ってるんじゃないの?」
 と、シンディ。
「ダメだ。あいつ、地下に工具取りに行ってやがって、そもそも銃撃すら受けてねーよ」
「5.0は?あいつらのメモリーには残ってないの?」
「いや、ダメだ。全滅しやがったから」
「あの、役立たずどもがっ!……でもまあ、私も肝心な時に役に立てなかったから、あんまりエラそうに言えないか」
「シンディさんの場合は、しょうがないです。明らかに敵は、それを狙ってのことですから」
「今度からアタシの整備中の時は、エミリー姉さんを警備に引っ張って来た方が良さそうね」
「そう簡単に言うけど、平賀先生が都合良く貸してくれるとは思えんぞ?」
「だからぁ〜、そんな時に出番なのが社長じゃない?」
「都合良く俺を出すな!」

[同日17:00.埼玉県さいたま市西区 敷島孝夫、井辺翔太、アリス・シキシマ、シンディ]

 研究所を出た1台のステーション・ワゴン。
 敷島が運転し、助手席にアリスが座っている。
 アリスの後ろにシンディ、敷島の後ろに井辺といった感じだ。
「取りあえず、アリスを家まで送ろう」
「プロフェッサー平賀からメイドロボットをもらえて良かったわー」
「いや、あれは借り物だぞ」
 アリスの言葉に呆れる敷島。
 家に残してきた息子のトニーは、メイドロボットで子守り用途の二海が見ている。
 因みに、家の警備はバージョン5.0アリス・オリジナルバージョンのマリオとルイージが当たっている。
 研究所の5.0は量産型なので、そんなに戦闘力も強くないが、マリオとルイージはアメリカでのテロ対策を思案したもので、当然戦闘力も強い。
 それでもマルチタイプの足元にも及ばないと自覚してか、やはりその2体もエミリーやシンディの前では小さくなっている。
 敷島はハンドルを握りながら、ルームミラー越しに井辺を見て言った。
「井辺君、具合は大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。御心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「いやいや。絶対に無理はしないように」
「はい」
「井辺君は俺と違って素人なんだから、そりゃあ、目の前に銃弾飛んできたら気絶もするし、恐怖でトラウマにもなるだろうよ。最近の警察ってな、その辺デリカシーか無いっていうかさ……。あ、そうそう。この車も、防弾ガラスになってるから安心してくれていい」
「はい」
「まあ、エンジンやタンクに被弾したら、諦めてくれ」
「ええっ?」
「なーんてな!」
「出た!笑えないジャパニーズ・ジョーク!」
 大笑いする敷島夫妻。
 シンディが苦笑しながら井辺に言った。
「この夫婦は多分、それでも生き残ると思うわ。だから、あなたはアタシが守ってあげる。だから心配しないで」
「は、はい!」
 頷きながら井辺は、今のシンディのセリフをどこかで聞いた気がした。
(何だろう……?)
「どうしたの?やっぱり具合悪い?」
「い、いえ……。私は……あの女性と会ったことがあるかもしれません……」
「What?」
「それは……昼間の狙撃者のことか?」
「はい。他人の空似かもしれませんが……」
「まあ、テロリストの知り合いなんて、そうそういないだろう。詳しく思い出したら、教えてくれよ。ただ、状況的に俺は人間じゃない気がするけどな」
「銃弾は汎用みたいだけど、私も人間ワザじゃない感じはするね」

 井辺の記憶が事件の謎を解く鍵となるか。
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“新アンドロイドマスター” 「3機目のマルチタイプ?」

2015-05-29 02:35:12 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月27日12:15.天候:晴 DC埼玉研究所・本館1F社員食堂 井辺翔太&アリス・シキシマ]

 シンディの整備は一先ず休憩。
 井辺が半強制的に協力する人体実験については、午後から行われることになった。
「何だか心配ですね」
 定食を平らげた井辺は、不安を口にした。
「大丈夫だって。実は元々シンディやエミリーができることを、改めてやらせるだけだから」
「そうなんですか?」
「そう。実はエミリーで前に試してみたことがあったの。……うちのダンナで」
「社長で?……それでその……社長はどうなりました?」
「どうもしないわよ。あの通り、ピンピンしてるじゃない」
「まあ、そうですが……」
「ひょっとしたら、気持ち良過ぎて眠っちゃうかもね」
「ええっ?」
 井辺よりも大食なアリス。
「じゃあ、私はちょっと出てるから」
「あ、はい」
 アリスは下膳台に向かうと、あとは食堂を出て行った。
 郊外に位置する研究所は、近隣に飲食店が無いため社食が設けられていて、多くの所員はそこで昼食を取る。
 ビジターカードを持った外部の来訪者でも利用可能。
 それでも極少数であるものの、外へ食べに行く者もいるようだ。
 あとは弁当持参とか……。
 井辺は新人ボーカロイド達のスケジュールを確認したが、今のところはまだ週末のイベントのような小さい仕事しかない。
(せめて彼女達が本来の用途であるボーカロイドとして、CDデビューまでは最低でも行きたい所ですが……)
 開いた手帳を閉じて、小さく溜め息。
 コップの水を飲み干して、井辺もまた平らげた食器を下膳台に持って行った。
 壁のポスターには、この食堂にも試験的にウェイトレス・ロボット(メイドロボットの亜種?)を配置するとあるのを見た。
 最先端のロボット技術を開発する研究所にしては今さら感があるが、アメリカ資本なだけに、実用性100パーセントの機能美が優先で、造形美は後回しなのかもしれない。
 それでも日本では造形美が喜ばれるということで、日本法人だからこそ実行できる内容なのだろうと井辺は思った。
 それを言うならエミリーとシンディはどうなんだとなるが、マルチタイプは旧ソ連で発案・開発されたもので、当時の敵国アメリカへのスパイやテロ工作員としての用途もあった。
 旧ソ連製なのに、名前がアメリカ人っぽいのはその為。
 機能美優先の欧米で、数少ない造形美も追求された数少ない機種である。

 と、それは突然やってきた。
 廊下に出た井辺は、確かにこの耳で聞いた。
 それは銃声。
 最初はシンディが実験の一環で発砲したのかと思ったが、まだ昼休みだし、整備中で中の機械が剥き出しの状態だ。
「研究員が撃たれたぞ!」
「早く中に入れ!!」
 窓の外で血しぶきを上げ、倒れる所員が何人かいた。

[同日12:30.同場所 井辺翔太]

 外から研究所に向かって、何者かがライフルを発砲している。
 ところが研究所もある程度想定していたのか、仙台の時と違って、ガラスが割れない。
 防弾仕様になっているのだ。
 だからなのか、

〔非常事態発生!非常事態発生!現在、テロ発生中です。敷地内にいる関係者は安全の為、直ちに館内へ避難してください〕

 との放送が流れている。
 当然、警備ロボット達が動き出す。
 外にいて被弾した関係者達の救出に向かう。
 こういう時、人間以外の方が安心だと思いきや……。
 外からのスナイパーの方が上手で、頭部を撃ち抜かれ、次々と破壊されてしまうのだった。
 あれに対抗できるのはシンディしかいない。
 だがシンディは今動けない。
 明らかにそれを狙っての犯行だった。
 万事休す!
 この言葉が、井辺の頭をよぎった。
 しばらくして銃声も止んだ為、井辺はそっと頭を上げ、窓の外を見た。
「危ない!」
 近くにいた研究員が叫んだ。
 スナイパーは窓に映った井辺を狙って撃って来た。
 幸いにも防弾ガラスのおかげで、被弾せずに済んだ。
 だが、物凄い威力だ。
 割れはしなかったものの、もう既にヒビが入っていて、あと2、3発も食らえば割れてしまうのではないか。
 そんな感じだった。
「敵は銃を違法改造しているみたいだ。頭を低くして、できるだけ窓の外に……って、おい!」
 井辺に声を掛けた研究員は、彼に話し掛けていた。
 その途中で立ち上がったものだから……。
「いえ、もう恐らく大丈夫です」
「えっ!?」
 外から聞き覚えのあるジェット・エンジンの音がしたのだ。
 ジェット・エンジンの音の主は、少し遠くにいたものの、視力の良い井辺には見えた。
「マルチタイプ……」
 茶髪を後ろに束ねただけのシンプルな髪形。
 だが、明らかにエミリーやシンディのように右腕が銃に変化していて、両足からジェットエンジンが噴いている。
 井辺は立ちくらみがして、その場に倒れ込んだ。
 初めて見た気がしないのだった。

[同日同時刻 研究所上空 ???]

 右手をライフルに変化させ、両足からジェット・エンジンを吹かして飛行する女性スナイパー。
 研究所内にいる、スーツの男を発見した。
 それは彼女のメモリーには、しっかりと保存されている人物だった。
(あんな所にいたなんて……。でも、元気にやってるみたいね。良かったわ。でも、あとどれくらい生きられるかしらね。ま、せいぜい頑張ってよ?コードネーム“ショーン”
 その時、下をサイレンを鳴らしながらパトカーが数台やってきた。
(ダメ押し)
 スナイパーは先頭を走るパトカーに向けて、1発発射した。
 それは左前輪に当たり、ハンドルを取られて、電柱に激突した。
(じゃあね)
 スナイパーはジェット・エンジンを吹かして、研究所から離脱していった。

[同日16:00.研究所東館1F・医務室 井辺翔太&シンディ]

「う……!」
 井辺は目が覚めた。
「プロデューサー、大丈夫!?」
 井辺の顔を覗き込むシンディ。
「わっ!?レイ……」
「れい?」
「あ……いや、失礼しました。ここは……?」
「研究所の医務室よ。プロデューサー、あの騒ぎで気絶しちゃったから、ここの関係者の人達が運んでくれたの」
「そ、そうでしたか……」
 周りを見渡すと、学校の保健室よりは見た目に充実した設備が整っているようだった。
 病院の処置室みたいな感じだ。
 その中に数台置かれているベッドに寝かされていたのだった。
「近くにいた人の話だと頭を打った感じはしないし、ケガもしていない。気持ちが高ぶって、意識喪失したんじゃないかって言ってたよ」
「そうかも……しれませんね」
 あの騒ぎで実験は中止。
 シンディの整備だけで終わってしまったそうだ。
「こうしてはいられません。早く、社長に連絡を……」
「ああ、それなら大丈夫」
「えっ?」
「社長もこの研究所に来てるから」
「そうでしたか!」
 シンディが先に立って、敷島のいる場所へ連れて行ってくれるそうだ。
 廊下に出ると、警察や関係者などが物々しく動き回っているのが分かった。
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