報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「北陸新幹線経由」

2019-12-30 20:36:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月26日13:04.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅→北陸新幹線“あさま”613号]

 東京駅構内でイリーナ組とベイカー組は、ポーリン組と別れた。
 ポーリン組は改札口を出て、八重洲中央口へ向かった。
 そこからタクシー乗り場に行き、タクシーに乗ってワンスターホテルに向かうのだそうだ。
 稲生達は改札を出ず、むしろそこから更に新幹線改札口へと入り、新幹線コンコースに入った。
 ホームへ直行する前にトイレに寄ったりする。
 駅弁はホームでも買えるので。

 稲生:「グリーン車は11号車、僕達は10号車に乗りますから」

 稲生はイリーナとベイカーをグリーン車に案内した。

 稲生:「下車駅が近づいたら、またご案内します」
 イリーナ:「ありがとう」
 ベイカー:「よろしく頼むわね」

 ベイカーは60代くらいの女性の姿、イリーナは30代くらいの女性の姿をしている。
 ベイカーの金髪には白髪が混じっているが、イリーナの赤い髪にはそれは無い。
 まるで親子かと思うほど歳が離れているが、実際は1000年単位で歳が離れている。
 ダンテの一番弟子ではないかと思うほどなのだが、そうではないらしい。
 大ベテランなのだから、強大な悪魔と契約していると思われるが、それが何なのか、稲生は知らない。

 稲生:「先生達を案内してきましたよ」
 マリア:「ありがとう」

 稲生達は普通車。
 3人席が確保されていた。
 普通車といえども、そこはフル規格の新型車両。
 シートピッチは広めに確保されている。

〔「ご案内致します。この電車は13時04分発、北陸新幹線“あさま”613号、長野行きでございます。停車駅は上野、大宮、熊谷、本庄早稲田、高崎、軽井沢、佐久平、上田、終点長野の順に停車致します。【中略】お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 駅弁に箸を付けていると、ホームから発車ベルの音が聞こえてきた。
 東海道新幹線と違い、こちらは未だにベルである。
 そして、客扱い終了合図の甲高いブザーが聞こえてきて、それでドアが閉まった。
 インバータの音を響かせて、列車が発車する。

 マリア:「富士山に行く新幹線と比べると、だいぶ本数は少ないな」
 稲生:「そりゃ東海道新幹線と比べてはいけませんよ。ただ、この路線も、もう少し本数は多かったんですけどね」
 マリア:「ああ、11月の台風の被害ってヤツ?」
 稲生:「そうです。あれのせいですよ。あれで車両が水没して車両が足りなくなり、本数が減らされたんです」
 マリア:「……“魔の者”の揺さぶり?」
 稲生:「ええっ?先生、そんなこと仰ってませんでしたよ?」
 ルーシー:「自然災害も“魔の者”の揺さぶりとされることがあるからね。イリーナ先生は、あまり気に留めてなかったんでしょう」
 マリア:「まあ、確かにあの時……台風が直撃しても、グースカ寝ているような人だからなぁ……」
 稲生:「逆に、それだけ先生が落ち着いていらっしゃるんだから、きっと大丈夫だっていう安心感はありましたけどね」

 元々ホラーチックな洋館であるが、嵐の日はその雰囲気が倍増する。
 稲生も最初は怖かったが、さすがに今は慣れてしまった。
 本来なら稲生も、訪問者や侵入者に対し、恐怖を演出する側なのである。

 稲生:「少し怖い屋敷だけど大丈夫?」
 ルーシー:「何を今さら……。私だってスコットランドの古城を探索したことあるんだから。それと比べれば、マリアンナの屋敷なんて普通よ」
 稲生:「イギリスの古城。日本じゃ、たまにホラーゲームの舞台になったりするよ」
 マリアンナ:「日本のオールドハウス(古民家)の方が、よっぽど怖かった」
 稲生:「威吹の家のことですか、それ?」

 そりゃ妖怪の住む家なのだから、そんな雰囲気はある。
 だけど長年の付き合いがある稲生は、全く不気味さを感じたことは無かった。

[同日14:48.天候:晴 長野県長野市 JR長野駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪ まもなく終点、長野です。北陸新幹線、富山、金沢方面、信越本線、しなの鉄道北しなの線と長野電鉄長野線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 長野駅に接近し、車内に放送が鳴る。

 稲生:「ちょっと先生方達の所へ行ってきます」
 マリア:「行ってらっしゃい」

 稲生が隣のグリーン車に行くと、2人のグランドマスター達はうたた寝をしていた。
 もとい、ベイカーはうたた寝だが、イリーナは爆睡だ。

 稲生:「先生方、そろそろ降りますよ」
 ベイカー:「ん……そうかい」
 稲生:「イリーナ先生、イリーナ先生」

 ベイカーはすぐに起きたが、イリーナが起きない。

 ベイカー:「起きなさい、イリーナ」

 ベイカーはペチンとイリーナの居乳を引っ叩いた。

 イリーナ:「あたぁ!?」
 ベイカー:「もうすぐ降りる駅よ。早く準備しなさい」
 イリーナ:「はぁい」

 イリーナは欠伸をしながら応えた。
 齢1000年の大魔道師も、その2~3倍生きる大先輩には頭が上がらないようである。

 稲生:「先生達を連れて来ましたよ」
 マリア:「ご苦労さん」

 列車が副線ホームに停車してドアが開く。

〔「ご乗車ありがとうございました。長野、長野、終点です。お忘れ物、落とし物の無いようご注意ください。……」〕

 ぞろぞろと列車から降りる乗客達。
 稲生達もその中に混じっている。

 稲生:「それじゃ、ここから先はバスで白馬まで行きますので」
 イリーナ:「りょーかい」
 稲生:「バスの中にトイレは無いので、トイレを済ませてからの方がいいかもしれませんね」
 イリーナ:「ですって。ベイカーさん」
 ベイカー:「それじゃそうしようかね」

 冬なら賑わう白馬行きのバスだが、まだ雪の降らぬこの時期はそこまで混んでいないだろう。
 もちろん白馬のバスターミナルには、屋敷までの車を待たせている手筈になっている。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「成田から東京へ」

2019-12-29 11:52:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月26日11:18.天候:晴 千葉県成田市 JR空港第2ビル駅]

 展望デッキでダンテ達を乗せた飛行機を見送った稲生達は、その足で今度は地下に向かった。
 東京駅へ移動する為、JRに乗るからである。

 稲生:「大師匠様の飛行機、あまり大きくありませんでしたね」
 イリーナ:「あれならファーストクラスが無いのも頷けるわ」
 マリア:「日本〜ロシアの行き来はあまり無いということでしょうか?」
 稲生:「ウラジオストクは、日本人観光客が急増しているとテレビで観ましたよ?」

 その為、ウラジオストクへの定期便が増えるという。

 マリア:「それで勇太、もし次の『大師匠様を囲む会』がロシアで行われるのなら、今度はウラジオストクでってアナスタシア先生に言ったの?」
 稲生:「まあ、そういうことです」
 イリーナ:「多分、ロシア開催はしばらく無いと思うから心配しなくて大丈夫だよ」
 稲生:「そ、そうですか」

 永遠を生きる大魔道師の言う『しばらく』の期間がどれくらいかは、【お察しください】。

 ベイカー:「多分また日本でやると思うわ。まだダンテ先生はお分かりにならなかったみたいだもの」

 ベイカーは60代くらいの女性の姿をしている。
 もう少し魔力を解放すればもっと若返るのだが、あえてそこは節約しているのだろう。
 ポーリンなんか、もっと年上の老婆だ。
 確かダンテと一緒といた時は、かなり若い姿をしていたはずだが、それだけ肉体年齢を戻すのは大きな魔力を必要とするのだろう。

 イリーナ:「お分かりにならなかったとは……?」

 イリーナは少し目を開いて、大先輩に質問した。
 同じ1期生でも入門した時期が1000年単位で違うので、2期生以上に先輩後輩の関係が厳しいのである。
 ベイカーは目を細めたまま、魔法の杖を稲生とマリアに向けた。

 ベイカー:「その子の閉ざされた心を解放できた理由と、呪縛から解き放たれた理由よ」
 イリーナ:「うちの勇太君のおかげでは?」
 ベイカー:「だから、ただ単に『優しくしてあげた』だけで、こうも変わった理由が分からないのよ。普通、心を閉ざした人間が、『優しくしてあげた』だけでそう簡単に開くものじゃないでしょう?」
 イリーナ:「まあ、それは確かに……」
 ベイカー:「稲生君は仏教徒としての顔もある。ダンテ先生は、そこに理由があるんじゃないかと思って、しばらく注目されるみたいよ。だから、きっとまた『囲む会』は日本で行われる。私はそう思うの」
 イリーナ:「確かにうちの一門は基本、神への信仰禁止ですけど、仏への信仰は禁止されませんでしたね」
 ベイカー:「そうね」

 だが、ポーリンは不機嫌そうだ。

 ポーリン:「じゃが、うちの弟子がその仏に殺されたようなものじゃ」
 ベイカー:「あなたがイリーナとケンカしなければ良かっただけの話でしょ?」
 ポーリン:「じ、じゃが、しかし……」
 イリーナ:「ベイカーさん、今はこうして仲直りしていますから……」
 ポーリン:「ダンテ先生の手前、停戦しているだけじゃ!」

 それぞれの師匠のやり取りを見ていた弟子達は……。

 稲生:「先生同士でも色々あるんですね」
 マリア:「そりゃそうよ」
 エレーナ:「先生に命令されたら、私はまたマリアンナを殺るぜ?」
 マリア:「イブキに後ろから串刺しにされて、まだ懲りないのか」
 稲生:「そういえばここ最近、威吹と会ってないなぁ。年末までに会えるかな?」
 エレーナ:「稲生氏だけは先生に命令されても、うちのホテルの地下通路通っていいぜ?」
 ルーシー:「あのねぇ……」

 駅の改札口を通る。

 稲生:「そっちは京成のホームへ行くので、間違えないでください」
 ルーシー:「どうせ自動改札機に弾かれるでしょう」

 それからホームに降りる。
 京成線とホームが一緒なので、ここは誤乗が起きやすいという。
 一応、停止位置はそれぞれ異なっており、境目に柵を設けてホーム上はJRと京成の客がごっちゃにならないようになっているのだが……。

 稲生:「あー、来ました来ました」

 接近放送が鳴ってトンネルの向こうから、強風と轟音が近づいて来る。
 初日に都内へ移動した時は最後尾の12号車と隣の11号車に乗ったが、今度は6号車と5号車である。
 要は6両編成を2台繋いだ12両編成ということだ。
 ドアが開くが、全車両指定席で、しかも隣の駅が始発駅では降りてくる者はいない。

 稲生:「それでは先生方はグリーン車へどうぞ」
 イリーナ:「ありがとう」

 どうぞとは言いつつも、一応席まで案内する稲生。
 “成田エクスプレス”のグリーン席は革張りである。
 その後ですぐに隣の普通車に向かったので、師匠達が仲良く座席を向かい合わせにして歓談するのかどうかまでは確認しなかった。

 稲生:「先生達を案内して来ましたよ」
 マリア:「もうこれで東京駅まで直行でしょう?」
 稲生:「そうです」

 こちらは稲生が戻って来るまでの間に、向かい合わせにされていた。
 電車がインバータの音をトンネル内に響かせて走り出す。
 デッキに出る扉の上に設置されたモニタや、自動放送などでも、次の停車駅が東京駅であることを主張していた。
 列車によっては成田駅や千葉駅にも停車するダイヤがあるのだが、この列車では東京駅まで直行ということだ。
 で、車内販売は無い。

 稲生:「エレーナ達はどこまで乗ってくの?」
 エレーナ:「東京駅だぜ。先生と一緒にホテルに向かうからな、八重洲口からタクシーに乗ることになるだろうさ」
 マリア:「魔界へ行くのか」
 エレーナ:「ああ。先生がそこの宮廷魔導師だからな。ついでにリリィの様子でも見に行くさ」

[同日12:14.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔♪♪♪♪。まもなく東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、上野東京ラインと地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。……〕

 総武快速線の線路を走っている電車は、錦糸町駅を通過すると再び地下トンネルに入って行った。

 マリア:「そろそろ師匠達を呼びに行った方がいいんじゃない?」
 稲生:「そうですね」

 稲生は席を立った。

 エレーナ:「下っ端は大変だなー。こういう時、リリィとかいるとそいつらに投げれるんだけど……」
 稲生:「別にいいよ」

 本来、『ダンテを囲む会』に見習は参加できない。
 稲生だけ特別なのは、開催国の者だからだ。
 見習とはいえ、アテンド役に日本人を起用しない理由が無いからである。

 稲生:「先生方……」
 ベイカー:「ああ、分かってるよ」
 ポーリン:「起きんか、こら」
 イリーナ:「むー……」

 やはり座席は向かい合わせにされておらず、イリーナが1人で座席を倒して寝ていた。
 で、それをポーリンが胸倉を掴んで無理やり起こす。
 いくら何でも、弟子の身分でマリアでさえもそんなことはできないが、同期の先輩ならできるのだろう。

 ベイカー:「次は新幹線ね?」
 稲生:「そうです」
 ポーリン:「私はタクシーじゃ」
 稲生:「エレーナがアテンドしてくれるらしいですから」
 ポーリン:「うむ」

 列車が地下ホームに滑り込む。

〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車、ありがとうございます。……〕

 ここで下車する乗客は多い。
 12両編成の電車も、ここで分割を行うので停車時間が取られている。
 放送で、それぞれ行き先が違うので誤乗注意の喚起が行われていた。
 全車指定席になっているのも、それが理由なのだろう。

 稲生:「それでは、まずは地上へ向かいましょう。こちらへどうぞ」

 稲生が向かった先はエレベーター。
 このエレベーターで、地下改札口まで直行できるのである。
 もちろんそこから外に出るわけではないが、エスカレーターを乗り継いで行くよりも時間短縮は図れる。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「成田空港第2ターミナル」

2019-12-28 20:10:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月26日09:20.天候:晴 千葉県成田市 成田空港第2ターミナル]

 稲生達を乗せたバスが目的地に到着する。

 稲生:「平日だから少し渋滞してましたねー」

 これでも余裕を持って出発した稲生。
 因みに今は乗り物でのセキュリティチェックが無くなった為、その分のロスは無くなった。
 バスを降りて、荷物室に預けていた荷物を取り出す。
 率先して荷物降ろしをしていたのはアナスタシア組の男性魔道士達であったが、もちろんアナスタシア組が1番人数が多く、その分荷物も多い為。

 稲生:「お世話さまでした」
 運転手:「ありがとうございました」

 エレーナ、ルーシーの荷物を出してやる。

 エレーナ:「ほら、ルーシー」
 ルーシー:「Thank you.」

 ルーシーが自分の荷物を手に取るが、エレーナはすぐに渡さず、耳元で囁く。

 エレーナ:「オメ、絶対ェ言うんじゃねぇぞ?」
 ルーシー:「分かってるって」

 バスを降りて荷物を受け取る面々。

 稲生:「忘れ物は無いですかー?それでは参りますよー」

 稲生が先頭になって歩き、ターミナルの中に入る。

 稲生:「先生。今度のモスクワ行きは10時50分発だそうですが、チェックインは1時間前までですか?」
 イリーナ:「でしょうね。ていうか、『1時間前までに終わらせろ』だからね?」
 稲生:「ということは……あと30分も無いですね」
 イリーナ:「お茶会やる前に、ダンテ先生とはお別れか……」
 稲生:「す、すいません」
 イリーナ:「いや、いいんだけどね」
 マリア:「今度のモスクワ行きは、ファーストクラスが無いみたいですよ」
 稲生:「ということは、ビジネスクラスが最上級ですか。その下はプレミアムエコノミー?」
 マリア:「いや、普通のエコノミーだ」
 イリーナ:「すると、ダンテ先生とナスっちがビジネスで、ナスっちの弟子のコ達がエコノミーか」
 稲生:「先生と言えども、ファーストクラスにホイホイ乗れないわけですね」
 イリーナ:「まあね。因みに帰りの新幹線も、ビジネスクラスにしてくれたでしょうね?」
 稲生:「もちろんです」

 北陸新幹線にもグランクラスはあるのだが、イリーナ達はそれに乗ることを遠慮し(仮にダンテが乗るのであれば、随伴者として同席しただろうが)、そうでない場合は基本的にはセカンドクラス(2等車、ビジネスクラス、グリーン車)に乗ることを選んでいる。
 もちろん弟子たる稲生達はエコノミークラスだ。
 新幹線で言えば普通車。
 そんなことを話しているうちに、保安検査場の入口に到着する。
 見送りはここまでとなる。

 ダンテ:「それでは皆の衆、今回もまた大変世話になった。短い間だったがここでのビジネスもできたし、成果は上々といったところだろう。聞いた話、教会の長は午前中まで都内に滞在するという。彼が離日しても、しばらくの間、教会の者達の熱気は冷めやらぬものと思われ、本日中にあっては油断の無いようにしてもらいたい。今から国外に発つ者、国内に残る者全てにおいてそれは対象内である」

 そこまで言うとダンテは山高帽を被り、イリーナ組の所へ歩み寄った。

 ダンテ:「日本でのアテンド、ありがとう。また渡日の予定があれば、頼みたいと思ってるよ」
 イリーナ:「お褒めに預かりまして、大変光栄です」

 稲生とマリアもダンテと固く握手をした。

 ダンテ:「これからも魔法道の高みを目指しなさい」
 マリア:「はい」
 稲生:「分かりました」

 マリアは緊張した様子で頷いただけだったが、稲生はもう少し落ち着いていた。

 稲生:「僕は仏法と並行したままでよろしいのでしょうか?」
 ダンテ:「特に大きな問題はない」
 稲生:「かしこまりました」
 アナスタシア:「ダンテ先生、そろそろチェックインの時間ですので……」
 ダンテ:「分かった」

 ダンテは今度はアナスタシア組のアテンドで、保安検札場に入って行った。
 そうでない者達はダンテが見えなくなるまで見送った。
 この後は他の国へ出発する者達は他のゲートに向かったり、或いはターミナルごと移動という者達もいた。

 稲生:「先生、僕達はまだ少し時間がありますが……」
 イリーナ:「そりゃそうよ。ダンテ先生の飛行機を見送るんだから」
 稲生:「えぇっ!?」
 マリア:「そういうことですか」
 エレーナ:「えっ、マジっすか?今日は外チョイ寒いっスよ?コーヒーでも飲んで……」

 だがエレーナの頭を後ろからポコッと叩く者がいた。

 エレーナ:「いてっ!?」
 ポーリン:「エレーナや。ダンテ先生は唯一絶対の存在じゃ」
 エレーナ:「せ、先生っ!?さ、サーセン!」
 ベイカー:「稲生君、展望デッキはどこかしら?」
 稲生:「あ、はい。ご案内します」

 今、稲生達は3階にいる。
 展望デッキは4階だ。
 エスカレーターで上がる。

 稲生:「実はレストランなどもこのフロアです」
 エレーナ:「何だ、スタバやマックもあるんじゃん。ここでコーヒー、買ってこ。先生、これくらい、いいっスよね?だってまだ飛行機の離陸時間じゃないッスよ?」
 ポーリン:「……好きにせい」
 イリーナ:「因みにお昼はどうするの?」
 稲生:「新幹線旅を満喫して頂く為、東京駅で駅弁です」
 イリーナ:「あら、それはいいわね」

 エレーナが1人だけスタバでコーヒーを買ってきた。

 エレーナ:「お待たせしましたー」
 稲生:「それでは行きましょう」

 展望デッキに出ると強い風が吹いてきた。

 マリア:「!」

 マリア、慌ててスカートを押さえたが黒いストッキング越しに一瞬パンチラしてしまう。

 マリア:「……見た?」
 稲生:「……いえ、大丈夫です。見てないです」
 エレーナ:「その代わり、ルーシーのは見てたぜ」

 エレーナ、コーヒーを飲みながらブチ壊しにする。

 マリア:「!!!!!」
 稲生:「わあーっ!ごめんなさーい!」
 エレーナ:「もう体の関係なのに、随分と気にしやがるなぁ……?」
 ルーシー:「いや、そういうことじゃないから」

 ルーシーもスカートの裾を押さえながらエレーナの肩を掴んだ。

 ルーシー:「あんたも少しは気にしなさいね?」
 エレーナ:「ふえ?私ゃオーバーはいてるし」
 ルーシー:「だから、そういう問題じゃないって。……男の体を使ってたのは、ほんの短期間なんでしょう?」
 エレーナ:「いい女の体が見つかるまでの繋ぎだったんだけどな」
 ルーシー:「僅かな期間でも、感覚が男みたいになる後遺症は結構残ってるってことよ」
 エレーナ:「そうか。しょうがねーな。本当はあの世に行っても良かったんだけど、さすがにモンスター(妖怪。威吹)に殺されたままじゃ浮かばれないってんで、先生が生き返らせてくれたんだ」

 魔道士は不老不死とされるが、手段によっては死ぬこともある。

 ルーシー:「だったら命は大事にしないと」
 エレーナ:「それよりルーシー。オマエもパンツはボクサーからビキニに変えたんだな。稲生氏の希望を受けて?」
 ルーシー:「貨物機でウクライナに強制送還させてあげようか?」
 エレーナ:「そいつぁ困るぜ」

 エレーナは肩を竦めた。
 そして残ったコーヒーを飲み干すと、ダイレクトにゴミ箱に放り投げた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「浅草から成田へ、そして東京へ」 1

2019-12-28 15:09:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月26日06:30.天候:晴 東京都台東区花川戸 浅草ビューホテル26Fレストラン]

 朝食会場のビュッフェにて都内最後の朝食を取る稲生達。

 稲生:「え?なに?ケンカしたの?」
 マリア:「たまたま師匠が見つけて止めてくれたからいいようなものの、それが無かったらホテルが全壊してたかもね」
 稲生:「怖っ!」
 マリア:「あの師匠でも、ちゃんと弟子達の管理はしているってことよ」
 稲生:「うーん……」

 一応、今は静かにテーブルの前で朝食を取っている。

 マリア:「さすがの師匠も『呪い針』を放つところだったらしいから」
 稲生:「ああ、あの『電話de呪殺』ですか……」

 このダンテ一門のことを陰でコソコソその秘密を暴こうとする者もいる。
 そして核心に迫った者は、この世から消え失せることとなる。
 イリーナも普段はのほほんとしたものだが、自身のビジネスの秘密を暴こうとする者には容赦しない。
 相手の電話にコールし、出なかったら出ないで勝手に受話器が外れる(携帯電話の場合は勝手に通話ボタンが押された状態になる)。
 電話の向こうからイリーナが呪い執行の宣言をするのだが、相手によっては声色を飼えることもある。
 で、目に見えない呪い針が撃ち込まれ、それは脳に深く食い込み絶対に外れることのない針だ。

 稲生:「……ザキを電話で唱えると、そうなりません?」
 マリア:「そういえば、ヅァ・キだな。ぶっちゃけ、その魔法……」
 イリーナ:「2人とも〜、先生の秘密を知っちゃったら、呪い針を撃ち込むわよん?」
 マリア:「私達はいいじゃないですか!」
 イリーナ:「でもその魔法、真似されると困るのよね〜」
 マリア:「だったら私達の前で使わないでください。昨日もやったそうじゃないですか」
 稲生:「エレーナとルーシーに警告を与える時……」
 マリア:「いや、その前に」
 稲生:「え?」
 イリーナ:「さーて、何の事かしら?……あっと!ダンテ先生がお呼びだわ。出発は8時ね?」
 稲生:「そうです」

 イリーナは朝食会場を出て行った。

 マリア:「たまたま師匠の秘密を暴いて、脅迫してきたヤツがいたんだってよ。もちろん師匠はそいつを呪殺した。で、その時にルーシーとエレーナがケンカし始めたのに気づいたんだってよ」
 稲生:「そういうことでしたか。しかし、いきなり呪殺とは厳しい……」
 マリア:「そういうもんだよ。1人で1日に何億ドルも動かすようなグランドマスターは……」
 稲生:「大企業家なら、1日で何億ドルも動かすのは当たり前なんじゃ?」
 マリア:「単なるCEOならその下に何百、何千人もの社員がいるでしょ?1人で動かしてるわけじゃない。でも大魔道師は1人で動かしてるんだよ」
 稲生:「ふーん……」

 まだピンと来ない稲生だった。

[同日08:00.天候:晴 同ホテル1Fエントランス→東京空港交通バス車内]

 このホテルには元々成田空港行きのエアポートリムジンバスが発着する。
 しかし通常の定期便に、団体客40名が一気に乗り込むのは不可能である。
 そこで稲生は同じバス会社のバスを1台貸し切ることにした。
 既に予約はしている。

 稲生:「弟子の人達は随分と荷物多くなりましたねぇ……」

 稲生は首を傾げた。

 マリア:「私達みたいに色々と買い込んだんだろうさ。そういう私もね」
 稲生:「こういう時、観光バスだと床下に荷物置き場がありますから」

 運転手などが荷物を積んでいる。

 ルーシー:「私達もだから」

 ルーシーも運転手に荷物を預けていた。

 稲生:「約束通り、昨日買った服を着てますね」
 マリア:「せっかく買って着ても、この上にローブを着るんじゃ見えないな」
 稲生:「外を歩いている時は……ですね」

 いつもはモスグリーンのブレザーだが、今はダークグリーンのブレザーになっている。

 稲生:「これもこれで凄くいいなぁ……」
 エレーナ:「さすが『あーでもねー、こーでもねー』って1時間掛けて決めただけのことはあるってか」
 稲生:「エレーナ。荷物はいいのか?」
 エレーナ:「そこは“魔女の宅急便”だぜ。もう先に私のホテルに送っておいた」
 稲生:「キミの拠点が1番近いからね。……あ、どうぞ。荷物を預けたら、そのままバスに乗ってください」

 定期便と違うのは床の高さがそれより一段高いスーパーハイデッカーで、トイレは付いていないことである。

 イリーナ:「センセっ、後ろの広い席へどうぞ〜」
 ダンテ:「ありがとう」

 幹事役の稲生は逆に1番前だし、その隣にマリアが乗ることになるだろう。

 稲生:「これで全員ですか?」
 アナスタシア:「そう」

 アナスタシアは腕組みをしながら頷いた。

 アナスタシア:「皆して浮かれちゃって……。本当はイリーナが最終確認するんだからね」
 マリア:「体たらくな師匠で申し訳無いです。アナスタシア先生」
 アナスタシア:「次回の開催はロシアにしてもらわなきゃ」
 稲生:「あ、あの、なるべくウラジオストク辺りでお願いしますよ?」
 アナスタシア:「シベリアのど真ん中にしようかしら?」
 マリア:「一応、条件として『公共交通機関でアクセスできる所』ということになっていたかと思いますが……」

 だからここでは、電車やバスで移動していたわけである。

 稲生:「それじゃ、お願いします」
 運転手:「はい。成田空港の第2ターミナルですね?」
 稲生:「そうです」
 運転手:「かしこまりました」

 大きなエアーの音がしてドアが閉まると、バスはゆっくり発車した。
 昨夜はケンカしかかったエレーナとルーシーだが、一応はいつもの席順で座っている。
 ただ、口数は以前より少ない。
 バスがホテルから通りに出て、それから首都高に入った時、稲生が車内マイクを取った。

 稲生:「えー、皆様、おはようございます。この度の日本旅行、いかがでしたでしょうか?これより成田空港へ向かうわけですが、高速道路から流れる景色もなかなかオツだと思いますので、どうぞお楽しみください」

 稲生の挨拶を何故か訝し気な顔で聞く門下生達。
 最初は男嫌いの魔女が多いからかなと思ったのだが、そこで気づく。

 稲生:(あ、ヤベ、日本語だった……)

 ダンテ一門内の公用語は英語である。
 慌てて今の挨拶文を今度は英語で言う稲生だった。

 ダンテ:「この国では最初に日本語の案内が流れてから、英語の案内が流れる。彼はそれを真似る演出をしたのだ」

 ダンテ流魔法道創始者のダンテは、新弟子の失敗をそのようにフォローした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“魔女エレーナの日常” 「最後の夜は枕投げ?」

2019-12-26 21:10:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月25日21:45.天候:晴 東京都台東区花川戸 浅草ビューホテル]

 マリア:「じゃ、ちょっと行ってくるから!」

 マリアは荷物を置き、トイレを済ませると急いで客室を出た。
 客室には他にエレーナとルーシーがいる。

 エレーナ:「行ってらっさー」
 ルーシー:「気をつけて」

 マリアが出て行くと、エレーナとルーシーは顔を見合わせた。

 ルーシー:「随分急いでるね。イリーナ先生から急なお使いを頼まれたと言ってたけど……」

 魔道士の世界における師弟関係は、本来厳しいものである。
 お使いを頼まれるのが例え夜であろうと、弟子はそれを拒めない。
 それはいいのだが……。

 エレーナ:「ちょっと水晶球で見てみようぜ」

 エレーナは水晶球を取り出した。

 ルーシー:「やめなさいよ。てか、理由によってはまたブロック掛かってるかもよ?」
 エレーナ:「いや、大丈夫だ。今度はちゃんと映った」

 するとエレーナの水晶球に、稲生とマリアがホテル前からタクシーに乗る所が映し出された。

 エレーナ:「稲生氏も一緒だ!てことは、どこかへランデブーか?あぁ?でへへへへ……」
 ルーシー:「んなわけないでしょ。稲生さんとマリアンナの仲は半ば公認なんだから、マリアンナが稲生さんの部屋で過ごせばいいだけの話じゃない」
 エレーナ:「わざわざタクシーに乗ってんだぜ?」
 ルーシー:「だからよ。イリーナ先生にお使いを頼まれたから、タクシーで移動してるんじゃない」
 エレーナ:「ちっ、ガチか」
 ルーシー:「ガチガチよ」
 エレーナ:「それにしても、どこに行くんだ?」

 ルーシーはタクシーの車内映像を水晶球に映している。
 都内のタクシーでは、もはやカメラの無い車など珍しいくらい。
 てか、あるのかって感じだ。
 それを車外カメラ(ドライブレコーダー)に切り替える。
 しかしながら、それでもどこへ向かうのかまでは分からない。

 エレーナ:「せめてナビの映像でも映ればいいんだけどな」
 ルーシー:「そんなに難しい所じゃないんじゃない?」
 エレーナ:「どうして分かるんだぜ?」
 ルーシー:「さっきの映像、巻き戻してよ。稲生さん達がタクシーに乗り込んでから、走り出すまで」
 エレーナ:「分かったぜ」

 エレーナ、水晶球に手を翳す。
 すると映像が巻き戻された。

 エレーナ:「何か気になる点があるのか?」
 ルーシー:「気になる点というか……。ほら、見てよ。稲生さんが行き先を告げて、運転手が2つ返事で車を走らせたでしょ?もし稲生さん達の行き先が複雑で、運転手が道を知らなかったら、走り出す前に運転手が聞き返すでしょ?或いはナビを操作するとか……」
 エレーナ:「そうか。確かに東京のタクシーの殆どは、ナビが付いてるぜ」
 ルーシー:「ナビを操作している感じもない。もちろん運転手が道を知り尽くしたベテランって可能性もあるけど、やっぱり普通に考えて、簡単な行き先なんじゃないかな?」
 エレーナ:「なるほどだぜ。おっ、どうやら西へ向かってるみたいだぜ?」

 映像が今現在のものに変わり、今はドライブレコーダーになっている。
 青い道標が映り込み、『上野』という文字が見えた。

 エレーナ:「ワンスターホテルに行く感じじゃねーぜ。方向が違う」
 ルーシー:「もういいんじゃないの。マリアンナも日付が変わる前には帰るって言ってるし」
 エレーナ:「このまま稲生氏の部屋に泊まったりしてな?」
 ルーシー:「それはそれでいいじゃない。私、そろそろお風呂入るよ」
 エレーナ:「おう。私はもう少しこの2人の様子を見てるぜ」
 ルーシー:「全く……」

 ルーシーはバスルームに行き、清掃されたバスタブにお湯を入れた。
 溜まるまでの間、再びエレーナの所に行く。

 ルーシー:「エレーナ、前々から気になってたんだけど……」
 エレーナ:「何だぜ?」
 ルーシー:「あなた、何回か体を交換してるよね?」
 エレーナ:「……まあな。それがどうした?」
 ルーシー:「見た目の姿に反して、その性格と喋り方……。まるで、男みたい」

 するとエレーナは笑みを浮かべた。

 エレーナ:「おいおい。私は女だぜ?一緒に風呂入った時、私のグラマラスな体を見ただろ?」
 ルーシー:「ええ、もちろん今は名実共に女だと思う。だけど……」
 エレーナ:「前の体も女だって。これよりもブスだったけどな」
 ルーシー:「私は何もそんなことは聞いてないから」
 エレーナ:「! ルーシっ!?」
 ルーシー:「前のブス女だった頃の体は、恐らくシルバーフォックス(威吹邪甲)に殺されたのでしょう。しかし、交換する体が無かった。たまたま魂と適合した体が、よりにもよって男だったんじゃないかな?もちろんなるべく早く交換する必要があって、幸いすぐにその体を手に入れることができた。だけど、魂の性別と肉体の性別が違うと無理が生じる。後遺症として、あなたは女でありながら思考や性格が男みたいになった……って、思ってるんだけど?」
 エレーナ:「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……。いや、面白い考えだな、ルーシー。そういうヤツに知り合いがいるのか?」
 ルーシー:「ええ。目の前にいるわ」

 エレーナは水晶球の映像を消すと、スッと立ち上がった。
 そして、バッと魔法の杖を取り出す。
 ルーシーも魔法の杖を出して、構えた。

 エレーナ:「これだから魔女は嫌いなんだ。仲間同士、腹の探り合いをしやがる。男に生まれた稲生氏がガチで羨ましいぜ!」
 ルーシー:「魂が女でありながら男の体を使うのは掟違反だと思うけど?」
 エレーナ:「証拠なら隠滅したさ。いや、あと1つ。……気づいたオマエを消す!!」
 ルーシー:「やってみなさい!」

 と、そこへ部屋の電話が鳴った。

 エレーナ:「くそっ!」

 だが、2人とも電話に出ようとしない。
 もちろんそこで隙が発生し、殺されるかもしれないからだ。
 しかし、受話器が勝手に外れた。

 イリーナ:「2人とも、何やってるのかな?」
 エレーナ:「イリーナ先生か」
 ルーシー:「な、何でもありません!」
 イリーナ:「そーお?何かエキサイティングな物音が聞こえたんだけどォ?」
 エレーナ:「修学旅行名物、枕投げっス!」
 イリーナ:「それならいいけど、これ以上エキサイティングすると、あなた達の先生に報告しないといけなくなるからね?」
 エレーナ:「ちっ……」
 ルーシー:「それは困ります……」
 イリーナ:「それが嫌なら、今すぐ寝る事。分かった?……分かったら返事はどうしたの?」
 エレーナ:「……ハイ」
 ルーシー:「分かりました……」

 電話が切れたので、ルーシーは受話器を戻した。

 ルーシー:「別に秘密バラしてやる、とか言ってないじゃない」
 エレーナ:「魔女はすぐウソ付くからな」
 ルーシー:「私は気になったことを調べて真相を知りたいだけ。もしエレーナ、そういう秘密を知られたくなかったら、もう少し気をつけた方がいいよ」
 エレーナ:「お気遣い、ありがとさんだぜ」

 後にマリアが帰って来た時、室内がやけに静かだったのに首を傾げたという。

 マリア:「一体、何があった?」

 と。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする