報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「深夜帯の帰宅」

2022-05-31 20:20:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日21:23.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、宇都宮線、京浜東北線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 郡山以南から先、列車は“やまびこ”号最高速度の時速275キロで走行した。
 その為か、暫定ダイヤの上では定刻通りに運転できた。
 自由席はゴールデンウィーク期間中ということもあってか、満席状態である。
 仙台始発の列車に乗って良かったと、勇太は改めて思った。
 これがイリーナと一緒だと、グリーン車に乗れるのだが。

〔「まもなく大宮、大宮です。14番線に到着致します。お出口は、左側です。東北地方雨の為、本日、車内での傘の忘れ物が多く発生しております。大宮でお降りのお客様、お忘れ物の無いよう、ご注意ください。大宮からのお乗り換えをご案内致します。上越新幹線下り……」〕

 東北地方では雨に降られたが、関東に入るとウソみたいに晴れていた。
 車窓からは月が見えるくらいだ。
 車窓から『カニトップ』の看板が見えてくる頃、下車の準備をすると良い。
 勇太もそうした。

 勇太:「降りようか」
 マリア:「うん」

 人形達は分かっているように、バッグの中へと入って行く。
 そして、列車は新幹線上り本線ホームに入線した。

〔ドアが開きます〕

 閉扉の時はガチャンと賑やかに閉まるのに対し、開扉の時はゆっくり開く。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。14番線の電車は、“やまびこ”“つばさ”190号、東京行きです。次は、上野に止まります」〕

 列車を降りる。
 案外、あまり大宮駅で降りる乗客はいなかった。
 なので、自由席はまだまだ乗客が多い。
 2人がエスカレーターを下りている間、ホームからは発車ベルが鳴り響いた。
 今や大宮駅で唯一の発車ベルが流れるのが新幹線ホームである。

 駅員:「前から乗車券が出てきまーす!乗車券のお取り忘れにご注意くださーい!」

 だいぶチケットレスが進んだと思われるが、多客期はまだ紙のキップで乗る客が多いのだろう。
 普段は大糸線以外、Suicaで乗る勇太とマリアもそうだった。
 もちろん、この2人は取り忘れることはない。
 在来線コンコースに移ると、今度は京浜東北線ホームに向かう。
 西側にある新幹線乗り場から、東側の京浜東北線乗り場に行くのは大変だ。

 勇太:「因みに、ここにも本屋がある」

 改札内コンコース上にも、書店がある。
 改札内コンコースには書店が3つあるが、そのうち南側コンコースの京浜東北線乗り場近くの店舗が最も規模が大きい。

 マリア:「閉まってる」
 勇太:「日曜・祝日は閉店時間が早いみたいだね」

 試しにマリアが水晶玉で占うと、ここにもマリアが気になる本が置いてあることが分かった。

 マリア:「なるほど。こういう所にもある時はあるのか」
 勇太:「明日、また来てみる?」
 マリア:「いや、また今度でいい」
 勇太:「そう」

〔まもなく2番線に、当駅止まりの電車が到着致します。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、さいたま新都心に止まります〕

 階段を下りると、次の電車が入線してくるところだった。

 勇太:「ちょうどいい。これに乗ろう」

 パァァァンと電子警笛を鳴らして、電車が入線してきた。

〔「終点、大宮、終点、大宮です。ご乗車ありがとうございました。2番線は21時42分発、各駅停車の大船行きです」〕

 到着した電車の先頭車、1号車に乗り込む。
 平日よりは空いている時間なのは間違いない。

〔この電車は京浜東北線、各駅停車、大船行きです〕
〔This is the Keihin-Tohoku line train for Ofna.〕

 勇太:「21時42分か。これに乗ったって、母さんに連絡しておこう」
 マリア:「さすがに遅いって言われるか?」
 勇太:「終電だったり、そもそも終電ですらなかったりしたら言われるだろうね。でもまあ、これは終電じゃないし」

 京浜東北線の南端部である大船に行く、最終電車というわけではない。
 大船行きは、この後もまだ何本かある(そもそも大船に行く乗客は、基本京浜東北線には乗らない)。
 ここでもマリアは、ブルーの座席に腰かけると、またあの本を広げた。
 発車時間前に母親の佳子から返信があったが、その内容が……。

 佳子:「それじゃ、22時過ぎるわね。気を付けて帰って来て。マリアちゃん、高校生に見えるからお巡りさんに職質されないように」

 という内容だった。
 それを見た勇太は、マリアを見た。
 ローブは着ているが、その下が制服ファッションな所なのを見て……。

 勇太:(そろそろこの恰好、やめてもらった方がいいかな……)

 確かに時間帯によっては職質されやすいし、飲食店などでアルコールを注文しにくいというデメリットはあるが、魔女狩りの目は誤魔化しやすい(魔女狩りも、まさか魔女がJKの制服を着ているとは思わない為)。

[同日21:58.天候:晴 埼玉県蕨市 JR蕨駅→同県川口市 稲生家]

〔まもなく蕨、蕨。お出口は、右側です〕
〔The next station is warabi.JK41.The doors on the right side will open.〕

 

 勇太達はようやく実家の最寄り駅に到着した。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕

 この辺りでは、電車は1号車寄りほど混んでいる。
 1つ手前の南浦和駅では、南側にしか階段・エスカレーターが無いからである。
 実際、空いている時間帯なのにも関わらず、先頭車は満席になるほど乗客が多かった。
 そして出て行く電車を見ると、後ろの車両は空いていた。

 勇太:「危ないから、表通りを通って帰ろう」

 試しに駅前の交番の前を通ってみたが、特にマリアが警察官から職質されるようなことはなかった。
 もっとも、警察官は別の訪問者の応対(道案内か落とし物)をしていたからというのもあるだろうが。

 勇太:「うん。こっちは晴れてていいね」
 マリア:「だけど、少し湿っぽい」
 勇太:「まあ、確かに。5月くらいから雨が多くなる年なのかな」
 マリア:「日本の雨期はジメジメしていて、そこだけは苦手だね。夏は屋敷にいた方がいいかも」
 勇太:「そりゃそうだ。今はまだ涼しいから、マシな方だね」

 あとは、明日のことを話しながら家に帰った。
 明日は平日だが、魔道士達は今週末までここにいる予定である。
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“大魔道師の弟子” 「“やまびこ”190号」

2022-05-31 15:24:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日19:17.天候:雨 宮城県仙台市青葉区中央 JR東北新幹線190B列車1号車内]

〔14番線から、“やまびこ”190号、東京行きが発車致します。次は、福島に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 雷交じりの雨が降る中、仙台駅新幹線ホームに発車メロディが鳴り響く。
 地元の管弦楽団が演奏したものを録音し、発車メロディとして使用している。
 曲名は“青葉城恋唄”。

〔「14番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 発車メロディが鳴り終わると、甲高い客扱い終了のブザーが鳴り響く。
 それを合図に車掌は、列車のドアを閉める。
 仙台駅には様々な編成の列車が来るせいか、ホームドアが設置されておらず、車両のドアが閉まり切ると列車は発車する。
 途中で山形新幹線を連結する為か、車両は古参のE2系。
 独特のインバータの音を響かせて発車する。
 仙台駅構内を出ると、窓ガラスに雨粒が当たった。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。途中の福島で後ろに7両、11号車から17号車を連結致します。次は、福島に止まります。……〕

 マリアは窓側の席に座り、先ほど買った本を読んでいる。
 日本語で書かれているからか、赤い縁の眼鏡を掛けていた。

 勇太:(マリア、眼鏡も似合うなぁ……)

〔「本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。19時17分発、“やまびこ”190号、東京行きです。これから先、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。【中略】大宮には21時23分、上野には21時42分、終点東京には21時48分の到着です。尚、東北新幹線では3月16日に起きました地震の影響で、現在、一ノ関~郡山間で徐行運転を行っております。その為、現在特別ダイヤでの運転となってございます。お急ぎのお客様におかれましては、大変ご迷惑をお掛け致しまして、申し訳ございません。……」〕

 マリア:「ねえ、勇太?」
 勇太:「なに?」
 マリア:「明日、新しい人形達の為の生地を買いに行きたいんだけど……」
 勇太:「うん。検索して、何件かヒットしたよ」
 マリア:「その中の1つ、よろしくね」
 勇太:「分かった」

 勇太は大きく頷くと、マリアにそっと耳打ちした。

 勇太:「僕の買い物にも付き合ってくれる?マリアが痛くないようにするヤツ、色々と見繕うから」
 マリア:「わ、私も行っていいの?」
 勇太:「マリアが良ければ案内するよ」
 マリア:「う、うん……。というか、どうして勇太がそういう店知ってるの?」
 勇太:「一度、鈴木君に連れて行かれましたw」
 マリア:「あのヘンタイ野郎……!」
 勇太:「それに少なからず影響されてしまった僕は一体……」
 マリア:「ま、まあ、勇太はその……仕方ない……かな」
 勇太:「何しろ『男のロマンの店』とはよく言ったものだと思う」
 マリア:「だから、そういう所に私も行って大丈夫なの?」
 勇太:「それがね、僕が鈴木君に連れ回されている時、案外女性客もいたんだ。まあ、カップルだったけどね」
 マリア:「……男性同伴ならOKか」
 勇太:「まあ、別に女性単独でもいいんだろうけど、さすがにそれはいなかったね」
 マリア:「! ちょっと待て」
 勇太:「何だい?」
 マリア:「それ、あれじゃないの?メイドカフェの店員がアフターか何かで一緒に来てただけじゃ?」
 勇太:「マリアも詳しいね!?……いや、そんな感じはしなかったけどねぇ」
 マリア:「そう……。でも、私の買い物が先ね?何か、集中が無くなりそう」
 勇太:「わ、分かってるよ」
 マリア:「他に何か変わったことは?」
 勇太:「このコロナ禍だからマスクをしているのは当たり前として……」

 実際勇太は白の不織布マスク。
 マリアも、緑色のマスクをしている。

 勇太:「帽子にサングラスをした怪しいオジさんがハァハァ言いながら、SMグッズを物色してたんだ」
 マリア:「何それ?気持ち悪い」
 勇太:「まあ、『男のロマン』の楽しみ方は人それぞれだから。そういう店だし。でね、その怪しいオジさんなんだけど、どう見ても横田理事にそっくりだったんだ。変装していてもバレるなんてねぇ……」
 マリア:「ボコしたのか?」
 勇太:「折伏でもしようかと思ったんだけど、場所が場所だし、僕達も僕達だったから、声は掛けれなかった」
 マリア:「なーんだ」
 勇太:「まあ、お金と時間は一杯ある人なんだろうね。カゴ一杯にエロDVDやSMグッズなど大量に購入していたよ」
 マリア:「使う相手がいるのか?」
 勇太:「うん、まあ、あんな人でも一応理事だからいるみたいだよ。『クフフフフ……。魔界には、こういう便利はお店はありませんからねぇ……』なんて呟いてた」
 マリア:「魔界で使う気か。おおかた、捕まえた亜人に使うつもりか」

 亜人、英語ではデミ・ヒューマンという。
 要は人間によく似た容姿をした別の種族のこと。
 西洋ではエルフとかドワーフとか、東洋では鬼とか。

 勇太:「人間相手に使うつもりなら、安倍総理にチクるつもりだったんだけど……」

 人間ではないので人権は保障されておらず、非人道的な扱いでも非合法ではないとされるが……。
 人魔一体となっているアルカディア王国では、違法だったような……?
 まあ、あれでも一党独裁を保っている魔界共和党の理事だから、法の抜け道を駆使して捕まらないようにしているのだろう。
 もちろん安倍総理というのは、日本の自民党の安倍元総理のことではなく、アルカディア王国の首相のことである。
 但し、どうも縁戚関係にはあるようだが……?

 マリア:「ま、私と鉢合わせになるようならボコす」
 勇太:「は、はい。そうしてください」

 尚この間、魔界で亜人相手に変態行為を働いていた横田は、何度もくしゃみをしていたという。
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“大魔道師の弟子” 「魔道士2人旅」 2

2022-05-29 21:00:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日16:30.天候:晴 宮城県仙台市泉区紫山 宮城県図書館3F]

 

 閉館時間30分前、勇太のスマホが震える。
 一応、30分前に震えるようにタイマーをセットしたのだ。
 図書館内なので、アラームは鳴動させず、バイブだけ作動するように設定している。

 勇太:(もうこんな時間か。確かに、読書に集中すると時間が経つのが早いなァ……)

 勇太は読んでいた本を閉じて、それを本棚に戻す。
 マリアを呼びに行く前に、先にトイレに行っておこうと思った。
 因みにこの広い図書館で、どうやってマリアを探すのかというと……。

 勇太:(これで……)

 トイレを済ませた後、勇太はスマホのアプリを立ち上げた。
 魔道士の持つ水晶玉からは、微弱な電波が発せられていることを知った勇太は、それで居場所検索に使えないかと思った。
 試しにアプリを作ってみたら、これが大成功。
 水晶玉要らずとなってしまった。
 だが、この技術力もまた、勇太のマスター昇格に寄与したことは間違いない。

 勇太:「いたいた。マリア、そろそろ行くよ」

 勇太は後ろからマリアの肩をポンと叩いた。

 マリア:「おっ?!……あー、ビックリした」
 勇太:「ご、ゴメン」

 マリアが読んでいたのは、洋裁に関するものだった。
 人形作りの知識を深めていたのだろうか。

 マリア:「もうそんな時間か……」

 マリアも名残惜しそうだ。

 マリア:「ちょっと、トイレ行ってきていい?」
 勇太:「いいよ」

 トイレに行くのも忘れるほど、読書に集中していたというわけだ。
 それは勇太も同じであったが。

[同日17:00.天候:晴 同区内 宮城県図書館前バス停→宮城交通バス車内]

 

 1つ手前のバス停が始発ということもあり、バスは定刻通りにやってきた。
 休日だからか、1つ手前の大学前から乗っている乗客は数えるほどしかいなかった。
 勇太とマリアはバスに乗り込むと、2人席に腰かけた。

〔発車致します。ご注意ください〕

 バスは閉館時間に合わせて乗車した乗客達を乗せ、出発した。

〔ピンポーン♪ 次は寺岡六丁目・泉アウトレット、寺岡六丁目・泉アウトレットでございます。仙台ロイヤルパークホテルへおいでの方は、こちらが御便利です。次は、寺岡六丁目・泉アウトレットでございます〕

 マリア:「勇太、このバスを降りた後、時間ある?」
 勇太:「うん。少しあるけど……」
 マリア:「そうか。実は、本を買いたい」
 勇太:「買いたい本があるの?」
 マリア:「そう。さっき図書館で色々読んでて、これは是非手元に置いておきたいものがあった。古い本ではないから、多分本屋でも売ってると思う」
 勇太:「そうなんだ。じゃあ、大きい本屋の方がいいかな」
 マリア:「是非ともよろしく」

 勇太はスマホで、仙台駅周辺の大型書店を検索した。

[同日17:45.天候:曇 宮城県仙台市青葉区中央 仙台駅前(仙台駅西口)→丸善仙台アエル店]

 バスは市街地周辺の道路混雑に巻き込まれたせいで、定刻より遅着してしまった。
 まあ、路線バスなら仕方ないところではある。
 バスを降りた2人は、近くの大型書店へ向かった。
 実は仙台駅周辺の大型書店は何軒かある。
 勇太がそれを検索し、マリアが水晶玉で占った。
 なるべく自分が欲しい本が揃っている本屋を絞り込んだ結果、1軒の本屋がヒットした。
 そこへ向かう。

 マリア:「あった!これだ!これが欲しかったんだ」

 マリアが手にしたのは、手芸に関する本だった。
 それも、人形に着せる服に特化したものだった。
 これは確か、マリアが図書館で最後に読んでいた本である。

 勇太:「大丈夫?お金足りる?」

 なかなかに厚い本だったので、値段もいい所するだろうと思った。

 マリア:「カードが使えるなら大丈夫」

 マリアは自分のアメックスのグリーンカードを取り出した。

 勇太:「それは大丈夫だよ」
 マリア:「ちょっと買ってくるね」
 勇太:「うん」
 マリア:「勇太はいいの?」
 勇太:「うん、僕はいいかな」

 マリアがレジに行っている間、勇太は夕食をどこで食べるか検索した。

 勇太:(そもそも、マリアが何を食べたいかにもよるか……)

 あいにくとこのアエルでは、飲食店はカフェしかない。

 マリア:「お待たせ。行こう」

 マリアは買った本を手に、意気揚々と戻って来た。

 勇太:「うん。夕食は何がいい?」
 マリア:「うーん……。最後に、また牛タン食べて帰る?」
 勇太:「仙台最後の夕食だからね、そうしようか」

 2人は仙台駅構内に入り、3階の牛タン通りに向かった。

[同日19:00.天候:雨 JR仙台駅・牛タン通り→東北新幹線ホーム]

 前回は牛タン定食を食べたので、趣向を変えて牛タンシチューや牛タンカレーを頼んでみた。

 勇太:「確かに、あれもなかなか食べれないよね」
 マリア:「いや、全く」

 因みにこういった牛タン店では、土産物の販売を行っている店舗もある。

 勇太:「僕達だけ食べるのは申し訳ないから、先生にも買って行ってあげようか」
 マリア:「いくら冷凍でも、いつ師匠が帰って来るか分からないからなぁ……」
 勇太:「いや、牛タンそのそものじゃないよ」
 マリア:「Huh?」

 勇太が選んだのは、レトルトの牛タンカレー、牛タンシチュー、そしてテールスープだった。
 レトルトパウチされたものなら、日持ちもする。

 勇太:「いや、ホント、これの賞味期限が切れる前に帰って来て頂きたいなぁ……」
 マリア:「師匠のことだから、ヒョッコリ帰って来そうな感じはするけどね」

 食事を終え、イリーナへの手土産も購入した後、2人は新幹線ホームに向かった。
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“大魔道師の弟子” 「魔道士2人旅」

2022-05-28 20:30:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日10:05.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 仙台駅西口バスプール→宮城交通バス車内]

 勇太の両親は先に新幹線で帰宅した。
 残された勇太とマリアは、別の場所に向かう。
 それは仙台駅西口バスプールから出発する路線バスで行ける場所だった。

 勇太:「片道30分以上掛かるけど、乗り換え無しで行けるからいいよね?」
 マリア:「うん。勇太がそれでいいなら、私もいいよ」
 勇太:「景色を見ながら行くのがいいよね」

 ワンステップバスの2人席に腰かける。
 因みに土産物などの大きな荷物は、ホテルから宅配便で送っている。

〔「お待たせ致しました。10時5分発、宮城学院前経由、宮城大学・仙台保健福祉専門学校前行き、発車致します」〕

 バスは定刻通りに発車した。
 車内は休日のせいか、学生の姿は見られない。
 その為か、あまり乗客は乗っていなかった。

〔ピンポーン♪ お待たせ致しました。このバスは錦町一丁目、双葉ヶ丘入口、宮城学院前経由、宮城大学・仙台保健福祉専門学校前行きです。次は本町二丁目、本町二丁目でございます〕

 合成音声による、イントネーションのややおかしい自動放送が耳につく。
 これは仙台市営バスも同じだ。
 声優を起用した地下鉄の車内放送と比べると【お察しください】。

 勇太:「ここで間違い無いんだね?」

 勇太は自分のスマホの画面をマリアに見せた。
 そこには宮城県立図書館の公式サイトが出ている。

 マリア:「そう。そこ」
 勇太:「それなら大丈夫だよ」

 ただ、路線バスの哀しさで、多少遠回りしていくようである。
 集客性を確保する為に、仕方のないことではあるが。

 勇太:「本、読みたいの?」
 マリア:「屋敷にあるのはラテン語やロシア語の魔導書ばかりだからね。たまには、普通の本も読みたい。日本語の勉強にもなるし」
 勇太:「なるほどね」
 マリア:「久しぶりに、この眼鏡も使いたい」

 マリアはローブの中から、赤縁の眼鏡を取り出して掛けた。
 これで文字を読むと、自分の母国語に自動で翻訳してくれる便利な魔法具だ。

 勇太:「似合うよ」
 マリア:「Thanks.」

[同日10:40.天候:晴 仙台市泉区紫山 宮城県図書館]

〔「ご乗車ありがとうございました。宮城県図書館前です」〕

 バスは無事に図書館前のバス停に到着した。
 バスを降りると、柔らかな春の風が2人の魔道士を出迎える。

 勇太:「ここが図書館?随分、近代的ぃ~」
 マリア:「面白そう!早く入ろう!」
 勇太:「う、うん」

 何故か心躍らせるマリア。
 中に入ると、吹き抜けのホールが現れる。

 勇太:「うーん……」
 マリア:「どうしたの?」
 勇太:「いや、何か初めて来る場所のはずなんだけど、どこかで見たことのある構造だなぁと思って……」
 マリア:「そう?私も普通に初めてだけど」
 勇太:「まあ、そうだろうね。えーと……本が沢山あるのは、3階みたい」

 勇太はホール内の案内を見て言った。

 勇太:「そこのエスカレーターで上がって行けるみたい」
 マリア:「よし、行こう」

 土地がいっぱいあったのか、図書館は横に広い構造となっている。
 横長の円筒形の形をしていた。
 エスカレーターで2階に上がると、また目の前にエスカレーターがある。
 それで3階に上がる。

 マリア:「ありがとう。私は適当に本を読むから、勇太も読みたい本を探したら?」
 勇太:「分かった。じゃあ、12時に、ここのエスカレーター前で待ち合わせようか」
 マリア:「了解。それじゃ……」

 マリアは外国図書のコーナーへと向かった。
 恐らく、英語で書かれている本でも探しに行ったのだろう。
 日本語の勉強云々はいいのだろうか?

 勇太:(僕も鉄道関係の本でも探してみるか)

 勇太は勇太で、別のコーナーに向かった。

[同日12:30.天候:晴 同地区内 宮城県図書館内“パノラ”]

 お昼時になり、2人は館内のカフェで昼食を取ることにした。
 館内というよりは、別館といった感じの建物にある。

 マリア:「あっと言う間だった。ミカエラが教えてくれなかったら、私は待ち合わせに遅刻してたよ」
 勇太:「そういえばプロフィールに『趣味:人形作り・読書』とあったね?」
 マリア:「人形作りが好きなのはもちろんだけど、こういう出先では当然作れないからね。そういう時は本を読むんだ」
 勇太:「移動中に魔導書を読んだりとかね」
 マリア:「あれも修行の一環だから。でも、今日は違う。読みたい本を読ませてもらうよ」
 勇太:「いいことだよ」
 マリア:「この図書館、何時まで開いてるの?」
 勇太:「休日は17時までらしいね」

 平日なら19時までである。

 マリア:「バスの本数って、どのくらいあるの?」
 勇太:「ちょっと待って。今、調べるから」

 勇太は自分のスマホで検索した。

 勇太:「……えーと、仙台駅前行きは1時間に1本だね」
 マリア:「ここの閉館時間に合わせて行こうとすると?」
 勇太:「あっ、ちょうど17時発がある。閉館前にここを出て、バス停に行けば間に合うね」
 マリア:「なるほど。それでいい?」
 勇太:「いいよ。よっぽど気に入った本があったの?」
 マリア:「まだ全部探してない。でも、見つかりそうなんだ」

 マリアは笑みを浮かべた。

 勇太:(かわいい……)

 魔女としての嗜虐的な笑みを『美しい』と思い、今は本が大好きな少女としての笑みを『可愛い』と思った勇太だった。

 マリア:「そういう勇太は?面白い本見つかった?」
 勇太:「いくつかね。何しろあれだけ本が多いから、次々目移りしちゃって。午後はむしろ、震災関係の本を見ようと思うんだ」

 この図書館も東日本大震災では、建物にも被害があった。
 高台の内陸部にあることで、津波の被害は全く無かったのだが……。

 マリア:「分かった。帰り際、どこで待ち合わせる?」
 勇太:「僕が呼びに行くよ。もし入れ違いになるようだったら、1階のホールで待ち合わせってことで」
 マリア:「分かった。そうしよう」
 勇太:(そうか。何も、遊びに行くだけが目的じゃないんだ)

 どちらかというと、静かに本を読んだり、人形を作るのが好きな女性であったことを勇太は改めて知った。
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“大魔道師の弟子” 「家族旅行2日目の夜から最終日の朝にかけて」

2022-05-28 16:33:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日23:30.天候:雷雨 宮城県仙台市青葉区本町 仙台市地下鉄勾当台公園駅→南北線電車(列番不明)先頭車内]

 雷鳴が轟く中、2人の魔道士は歓楽街にあるラブホを出て、最寄りの地下鉄駅に向かった。
 2人とも雨除けの為、ローブを着込んでフードを深く被っている。

 勇太:「凄い雨だ……」
 マリア:「私の予知では、夜半過ぎに雨は止むことになってる」

 しかし雨が止むまで待っていたら、宗一郎に定められた門限に間に合わない為、強行してきた次第。
 幸い魔法のローブは、雨の時は完全防水となる。
 駅への階段を下りて、ローブを脱ぎ、バサッバサッと付着した水滴をはらうと、あら不思議。
 ズブ濡れになっていたローブがたちまち乾くという優れものだ。
 その為、魔道士は傘を差すことはない。
 これもまた、魔女狩りが魔女を狩る時の目安になっていたりする。

 勇太:「はい、キップ」
 マリア:「ありがとう」

 券売機で勇太は、マリアに乗車券を購入した。
 勇太自身はSuicaで乗車する。

 マリア:「勇太、少しゆっくり歩いて」
 勇太:「えっ?」
 マリア:「……勇太が激しかったせいで、下半身が痛いの」
 勇太:「ご、ゴメン……」

 マリアの最近の性の悩みはこれ。
 欧米人女性にしては体が小さいせいか、性器も小さく、勇太の名前の通り『勇ましくて太い』ナニを受け入れるのが大変になっている。
 最近というのは、どうも勇太のナニが更に『勇ましくて太く』なったのか、はたまた自分の性器が更に小さくなったのかは分からないが、とにかくサイズが合わなくなったのである。
 ヤっている最中は、『痛気持ちいい』感じなので、決してヤるのも嫌になったというわけではないのだが……。
 終わった後で、毎回下半身に力が入らなくなる痛みというのが気になり出したということだ。

 マリア:(師匠が帰って来たら、ちょっと相談に乗ってもらおう……)

 エスカレーターを下りて、ホームに辿り着く。
 さすがにホームに、人影は少なかった。

〔1番線に、富沢行き電車が到着します〕

 勇太:「この電車で帰れば、門限に間に合うよ」
 マリア:「そうだな……」
 勇太:「まだ痛む?」
 マリア:「何で毎回、ロストバージンみたいな痛みを……」
 勇太:「こ、今度は優しくするから……」

 電車が入線してくる。
 さすがに車内はガラガラだった。
 乗り込んで、ツツジの模様が入った座席に腰かける。

 

 内装が更新された車両なのだが、座席はバケットシートではない。

〔1番線から、富沢行き電車が発車します。ドアが閉まります〕

 短い発車サイン音がホームに鳴り響く。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 車両のドアとホームドアが閉まる。
 駆け込み乗車もなく、電車はスムーズに発車した。

〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通りはこちらです〕
〔The next stop is Hirose-dori station.N09.〕
〔日蓮正宗仏眼寺へは、愛宕橋でお降りください。冨士大石寺顕正会仙台会館へは、終点富沢でお降りください〕

 勇太:「ローションとか使った方がいいかなぁ……」
 マリア:「使っても同じだろう?」
 勇太:「いや、分かんないよ。実家に帰ったら、東京に行って探してみるよ。秋葉原には、そういう専門店とかあるから」
 マリア:「そうなのか……」

 マリアは少し俯いた。

 マリア:(私も変わったな……。いつ……変わったのかな。“魔の者”との戦いの後か?)

 マリアも何故か、勇太の考えている店に一緒に行きたいと思ったのだ。
 『男のロマン』の店なのだから、本当には一緒に行くべきではないはずなのだが……。

 勇太:「どうしたの?まだ痛む?」
 マリア:「いや……何でもない」

 仙台駅までは5分足らずで着いてしまうが、仙台駅に着いてもまだ外は雷雨だった。

[5月5日07:00.天候:晴 仙台市青葉区中央 ホテルモントレ仙台・客室→朝食会場]

 家族が朝の支度をしている最中、勇太は朝の勤行。
 それから一緒に朝食会場へ行く。
 ここでもベタな法則通り、ビュッフェスタイルの朝食であった。

 宗一郎:「今日で帰るんだけど、勇太達はもう少し残ってるかい?」
 勇太:「えっ?」
 宗一郎:「昨夜、勇太達がいない間、思ったんだけどね。そういえば、勇太とマリアさん、2人っきりの時間も必要なんじゃないかと思ったんだよ」
 勇太:「なるほど。それはそうだね」
 宗一郎:「朝食が終わったら父さんと母さん、先に帰るけど、今日中に帰ってくるなら、もう少しここにいてもいいよ?」
 勇太:「でも、帰りの新幹線は?指定席じゃないの?」
 宗一郎:「いや、帰りは特に指定は取っていない。これがキップね」

 宗一郎は2人分のキップを渡した。
 自由席特急券であるが、追加料金を払えば指定席やグリーン車に乗れる。
 しかも、帰りの乗車券は蕨駅までであった。

 勇太:「そうなんだ。じゃあ、そうしようかな。マリア、行きたい所ある?」
 マリア:「うん。実はある」
 宗一郎:「ちょうど良かった。それじゃ勇太、マリアさんを連れていってあげて」
 勇太:「分かったよ。どこへ行きたい?」

 勇太はついてっきり、マリアがどこか遊びに行きたいものだと思っていた。
 だが、意外な行き先を言ったのである。
 勇太はすぐにそこへの行き先をスマホで検索した。

 勇太:「しかしよくマリア、こういうのを見つけたね」
 マリア:「私も本はよく読むんだ。だけど、図書館に行く機会は無い。だから、屋敷から出る機会があったら、是非行ってみたいと思った」
 勇太:「まあ、行き方も分かったから、あとは任せて」
 マリア:「ありがとう。よろしく」
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