報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔道士達の上京紀行 ~白馬村~」

2021-12-29 20:01:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月31日14:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 昼になっても雪は降り止まなかった。
 稲生勇太は自室で、スマホの天気予報を見ていた。

 勇太:「まあ、東京や埼玉は晴れてるみたいだし、雪も積もってないみたいだな。中央本線まで出られれば大丈夫かな……」

 その時、部屋がノックされる。

 勇太:「はい」
 ダニエラ:「稲生様。出発のお時間でございます」

 勇太専属のマリアのメイド人形がやってきた。
 メイドながらその表情はポーカーフェイスであり、おおよそ接客を担当するパーラーメイドはできそうにない。
 しかし稲生に対する忠誠心は本物のようで、ロシア料理やイギリス料理がメインのこの屋敷で、夜食にお握りや味噌汁を作って来てくれたりと、その甲斐性は素晴らしいものがある。

 勇太:「分かった」

 勇太はスマホをジャンパーのポケットにしまった。
 荷物はダニエラがエントランスまで持って行ってくれる。

 勇太:「お待たせしました」

 エントランスホールまで行くと、既にマリアが待っていた。

 マリア:「あとは師匠か」
 勇太:「まさか、またまだ寝てるなんてことは……」
 マリア:「いや、それは大丈夫。私の人形が総出で起こして、今、手取り足取り出発の準備をさせている」
 勇太:「そ、そうか。てっきり、『あと5分』を1時間以上繰り返すものだと……」
 マリア:「ランチの後で昼寝させるとそうなるから、師匠には『覚醒のハーブティー』を飲ませておいた」
 勇太:「す、すごい……」

 一瞬、マリアが不気味な『魔女の笑み』を浮かべた。
 しかし、勇太はそれで心が揺さぶられた。
 恐怖ではなく、恋愛である。
 勇太はマリアの『魔女の笑み』に一目惚れして、何度も彼女になってくれるよう頼み込んだのだ。
 もちろん、『魔女の笑み』は別に魔法でも何でも無く、ただ単にマリアの嗜虐的な笑みである。
 別にMではないと思っている勇太であるが(もちろんSだとも思っていない)、何故かマリアの嗜虐的な『魔女の笑み』には惚れてしまったのである。
 後にイリーナが勇太を入門させる為、マリアに何かしたのではないかという疑惑が持ち上がっているが、イリーナは肯定も否定もしていない。
 しかし後に、マリアも勇太と打ち解けていくうちに残虐な魔女の性格はナリを潜め、却って『魔女の笑み』を浮かべる機会が減ってしまったのは皮肉である。

 マリア:「先に荷物積んでおいたら?師匠が乗れば、すぐに出発するから」
 勇太:「分かった」
 マリア:「どうせここまで来ても、車に乗るのにまた一苦労するだろうからな」
 勇太:「え?」

 勇太はマリアの言ったことの意味が分からず、首を傾げた。
 屋敷の外に出ると、辺り一面銀世界であった。
 確かに屋敷の周りは除雪されているが、屋敷の外まで道があるのかどうかは怪しい。
 物言わぬ運転手が待機していて、勇太の荷物を受け取ると、ハッチを開けて中に積んだ。
 イリーナの要望通り、黒塗りのベンツGクラスである。
 一部の国家では軍用ジープにも使われるほどである為、確かにこういう悪路では持って来いの車だろう。
 その為、Sクラスなどと比べると高級感は無いはずなのだが、やはりベンツというだけで高級感を感じるのは日本人だからだろうか。
 勇太が先に助手席に乗ろうとした時だった。

 マリア:「はいはい、師匠。雪道ですからね、転ばないように気をつけるんですよ」

 屋敷からイリーナが出て来た。
 薄紫色のローブを羽織り、フードを被っている。
 運転手がすぐに助手席後ろのドアを開けた。

 マリア:「車高の高い車ですよ?大丈夫ですかぁ?」

 マリアがまた『魔女の笑み』を浮かべている。
 見た目はアラフォーの姿をしているイリーナであるが、齢1000年以上の老魔女に乗れるかどうかを楽しんでいるかのようだ。

 イリーナ:「もちろん、想定済みさね」

 一瞬、イリーナの姿が雪煙に消えたように見えた。

 イリーナ:「何してるの?早いとこ乗りな」

 次の瞬間、運転席の後ろに座っているイリーナが、勇太達の方を向いて言った。

 勇太:「て、テレポーテーション!?」
 マリア:「く……!」

 齢1000年強の大魔道師は、いわゆる超能力にも精通しているようである。
 とにかく、残りの弟子2人も車に乗り込んだ。
 そして、車が出発する。
 一応、車内は暖房が効いている。

 勇太:「凄い雪だ。本当に大丈夫ですか?」

 助手席に座っている勇太が、運転席に座っている運転手に言った。
 運転手はコクコクと頷いている。
 普通の車なら、雪にはまって動けなくなってもおかしくない有り様だった。
 いくらジープタイプの車とはいえ、除雪車の代わりにはなれないはずだが……。
 雪をザザザ、ボボボと掻き分けるようにして車は進む。
 そして、何とかいつものトンネルに入った。
 トンネルの入口付近には雪が吹き溜まっていたが、それも掻き分けるようにしてスッポリと中に入る。
 さすがにトンネルの中に雪は無く、そこは安定したスピードで進む。

 勇太:「車自体が魔法みたいなものだからなぁ……」

 勇太は呟いた。

[同日14:45.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 村内も雪景色ではあったが、山の中と比べれば除雪がよくされている。
 今はスキーシーズンである為、スキー客を出迎えるべく、除雪車がフル稼働しているようだった。
 そして、車は駅前のロータリーに止まる。
 心なしか雪が弱まり、空の雪雲も薄くなったような気がする。
 屋敷の周りは昼間でも薄暗かったのに、村の中心部は明るかった。.

 イリーナ:「ありがとう。気をつけて帰るんだよ」

 車を降りて、荷物を下ろす勇太。

 勇太:「先生。まだ時間があるので、足湯に入って行かれませんか?」

 勇太は駅前の足湯を指さした。

 イリーナ:「おお、それもそうだね。あれかい?キミ達が今ハマっている足湯というのは……」
 勇太:「まあ、この時期ですから、足を温めるだけでも違うというのが分かりますよ」
 イリーナ:「フム。どうせ列車内で寝て足がむくむ思いをするくらいだったら、今のうちに入っておくのがトレンドかもね」
 勇太:「そういうことです」

 3人の魔道士は足湯に入った。
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“大魔道師の弟子” 「帰省前日」

2021-12-29 16:04:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月30日18:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷1F西側大食堂]

〔「……年末は全国的に寒波が襲い、太平洋側でも平野部で雪が降る見込みです。年末の帰省ラッシュが始まっていますが、影響が出るもようです」〕

 食堂内に設置された大型テレビでニュースを観る魔道師達。
 かつてはラジオが設置されていたらしいが……。

 稲生勇太:「いよいよ明日ですけど、大丈夫ですかね?」
 イリーナ:「こっちはね。アタシの予知でも、何とかなるってなってるよ」
 勇太:「先生がそう仰るのでしたら……」

 今日の夕食はビーフシチューが出た。

 勇太:「大糸線は冬は雪の中を走ることを想定していますから、除雪はガッツリやってくれるはずです」
 マリア:「いざとなれば、師匠のルゥ・ラがあるし」

 マリアはワインを口に運びながら言った。

 イリーナ:「マリア、そう簡単に魔法に頼ってはダメなのよ」
 マリア:「でも、日本では、『伝家の宝刀も抜かなきゃ錆びる』って言いますよ?ねぇ、勇太?」
 勇太:「そういう意味の諺だったっけ???」

 魔法の中には日常使いするものもあるし、『伝家の宝刀』的に、普段は使わないものもある。

 イリーナ:「そんなに楽したいんだったら、マリアがやってみれば?」
 マリア:「私はまだ、魔法陣を使わないとできないんですよねぇ……」
 イリーナ:「魔法陣、描けばいいじゃん」
 マリア:「外は雪が積もってるから無理です。屋内だと、天井に頭ぶつけちゃうし」
 勇太:(ドラクエ……洞窟……ルーラ?)
 イリーナ:「それじゃ、勇太君のルート、『電車でGo!』を使うのね」
 マリア:「まあ、この雪の中、ちゃんと列車が走れるというのなら、それでもいいですけど」
 勇太:「それで先生に占ってもらったんだ。そしたら、大丈夫だって……」
 イリーナ:「私達の乗る列車は大丈夫よ。勇太君の普段の行いのおかげね」
 勇太:「そ、そうですか!普段から勤行と唱題を作者以上に一応、やってるもんでぇ……!」(*´∀`*)

 勇太、照れ笑い。
 で……。

 勇太:「あ、もし良かったら、マリアも仏法……」
 マリア:「ざいうー。それより師匠、本当に大丈夫なんですか?」
 イリーナ:「マリア、私の話聞いてた?」
 マリア:「鉄道のことじゃなくて、そもそもこの屋敷から駅までのルートですよ。これについても、対策しておいた方が……」
 イリーナ:「む、それもそうか。屋敷回りはマリアの人形達が総出で雪掻きしてくれるでしょう?」
 マリア:「屋敷の周りはそうです。しかし、道の方は……」
 イリーナ:「心配しなさんな。アタシはアタシで、ちゃんと除雪要員用意しといたから」

 すると、外からズシンズシンという音が聞こえる。

 勇太:「な、何だ?」

 勇太が窓の外を見ると、身の丈3メートルはある巨人が何人も雪を掻き分けて道を作っていた。
 外は雪なのに、それを全く気にする様子は無い。

 勇太:「あれは何ですか!?何だか、妖怪ぬりかべを、もう少し人間っぽくしたような……」
 イリーナ:「あれはゴーレムよ。知り合いの錬金術師から借りて来た」
 マリア:「あれがゴーレムですか。実用主義100%なだけあって、見た目はブサイクですね」
 イリーナ:「ブルドーザーが、ポルシェみたいなワケないでしょ。そういうことよ」
 勇太:「そりゃそうだw あれも先生の魔法なんですか?」
 イリーナ:「動力1つにつき、MP10使用」
 マリア:「安いのか高いのか……」
 イリーナ:「要は、車が通れる道ができればいいのよ」
 マリア:「それは確かに」
 勇太:「あと、車をどうするかですね。いくら除雪はできても、今までみたいにタクシーみたいな車で走れるかどうか……」
 マリア:「ミスター藤谷の車みたいなヤツだったら、大丈夫かもな」
 勇太:「藤谷班長の車、ベンツGクラスですもんね」
 イリーナ:「お、そうか。あの車か。よし。明日はあの車で、駅まで行きましょう」
 勇太:「そういうのはすぐに用意できるのが、先生の凄い所ですね」
 イリーナ:「もっと褒めなさい。差し当たり……」
 勇太:「はい?」
 イリーナ:「肩と腰が痛いから揉んで?」
 勇太:「はいはい!」
 イリーナ:「魔法を使い過ぎるとね、あっちこっち体が痛むんよ」
 マリア:「確かに、どっかの老魔女が出てくる映画で、そんなセリフがありましたねぇ……」
 イリーナ:「あ、それ、アタシのセリフ。アタシがスッピーにセリフ提供してあげた」
 勇太:「スッピーって誰ですか!?」
 マリア:(あれ?でも、腰が痛い師匠じゃあ、車高の高いGクラス、乗れなくね?)

 それに気づいたマリアだったが……。

 イリーナ:「あー、勇太君、もっと右ィ……」
 稲生:「ここですか、はいはい!」

 師匠の肩を揉む弟子。
 言葉にすると、何ら不自然は無いのだが……。

 イリーナ:「あぁン!そこそこォ!いいわぁ~!」
 マリア:「いちいちエロい声出さないでください!」

[同日22:00.天候:雪 マリアの屋敷1F西側プレイルーム]

 ちょっとしたカジノバーみたいな部屋がある屋敷だが、今は勇太とマリア、テレビゲームをしている。

〔「高橋、右注意しろ。ゾンビがいる」「分かりました、愛原先生」〕

 愛原:「出た出た」

〔パンパンパンパーン!パンパーン!「アァア……!」〕

 マリア:「勇太、リロード、リロード!」
 勇太:「分かってる」

〔「これで全部のゾンビは倒せたか!?」「そのようです!」「リサ、そこにいるんだろ!?」「ふふふ……」〕

 勇太:「愛原リサが、ここで愛原に対して、一発、攻撃してくるんで。ムービーシーンに入る前に。ここでダメージを食らってしまうと、ボス戦で苦労するので、あえて物陰に隠れておく」

〔「どうしてこんなことをするんだ!?」「先生が結婚してくれないからだよ」「オマエが人間に戻れたら考えるって言っただろうが!」〕

 勇太:「僕もマリアが結婚してくれないから、暴れようかな……」
 マリア:「勇太がマスター(一人前)になったら、改めてプロポーズしてって言ってるじゃん。……ほら、ボス戦!」

〔「先生!今のリサには、何を言ってもムダです!ここは直接、躾けてやりましょう!」「まさか、禁断の第3形態まで変化するとはな」〕

 勇太:「勝利フラグが、まずはリサにロケランぶっ放すんだよ。そうするとリサ、ロケランの弾を素手で弾き返すので……」

〔「ウソでしょ!?」「ロケランを弾き返しやがった!」「先生……言ったでしょ……。今の私には、対戦車ロケット砲すら効かないって。先生が悪いんだよ。結婚してくれないから。このままだと、東京中がゾンビだらけになるよ?」「それは何としてでも防止しなくては!」〕

 勇太:「……先ほど立てたフラグが、ここで役に立つ……」

 すると、バーカウンターの上の電話機がジリジリ鳴る。
 洋風の黒電話である。

 マリア:「何だよ、いい所なのに!」

 マリア、ゲームで手が離せない勇太に代わり、電話に出る。

 マリア:「はい、もしもし?」
 イリーナ:「2人とも、そろそろ寝る準備をしなさい。夜更かしはダメよ」
 マリア:「まだ22時過ぎたばっかりですけど?」
 イリーナ:「日本では22時から深夜割増なのよ?」
 マリア:「タクシーの深夜料金じゃないんですから!」

 地域によっては23時からという所もある。
 マリア、電話を切る。

 マリア:「だいたい、電気代は深夜の方が安いだろうが」
 勇太:「何の話?」
 マリア:「師匠が早く寝ろだって」
 勇太:「ゲームの音、うるさかったかな?この上、先生の部屋だよね?」
 マリア:「時々この屋敷の間取りのおかしさに首を傾げる……」
 勇太:「ホラーの洋館なんて、そんなもんだよ。いいや。取りあえずセーブして、また今度やろう」
 マリア:「どうせ午後出発なんだから、朝はゆっくりでもいいのにね」
 勇太:「まあ、色々と準備があるんだろう」
 マリア:「片付けよろしく」
 ミカエラ:「かしこまりました」

 2人の弟子はプレイルームを出て、それぞれの部屋に戻って行った。
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“私立探偵 愛原学” 「受験生のBOW」

2021-12-27 19:56:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月27日11:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 まもなく、仕事納めを迎えようとしているが、私はある場所に電話を掛けていた。

 女将:「はい、ホテル天長園でございます」
 愛原:「あ、もしもし。私、以前お世話になりました愛原と申しますが……」
 女将:「愛原様……ああ!その節はどうもありがとうございました」
 愛原:「いえいえ。お元気そうで何よりです」
 女将:「おかげさまで……。ですが残念なことに、白井伝三郎は未だにここには来ていないのですよ」
 愛原:「いや、いいですよ。恐らく白井は……私達、民間の探偵では探せない所にいるかもしれませんから。それより、うちのリサ……つまり、あなたの姉から聞いた情報なんですが……」

 宗教法人天長会が運営する、那須塩原のホテル天長園。
 見た目は普通の温泉ホテルだが、館内には天長会に関する展示コーナーがあったり、信者達の保養施設や祈祷施設として運営されている。
 大きな行事があったりすると、ホテル全体が貸切状態となる為、一般客の宿泊はできないが、そうでない場合は一般客も宿泊できる。
 これもまた、天長会の布教活動の1つなのだそうだ。
 白井伝三郎が天長会の信者だということは分かった。
 但し、信者の中では比較的地位は高いが、聖職者側ではない。
 あくまで、信者だ。

 女将:「何でしょう?」
 愛原:「女将さんの娘さん、東京中央学園を受験されるんですって?」
 女将:「あ、はい。そういう話になりまして……」
 愛原:「どういう経緯なんですか?」
 女将:「デイライトの人達がやってきまして、娘を東京で預かりたいと……」

 やはり、デイライトはBOWとその血を引く者を管理しやすいように都内に置いておきたいらしい。
 女将さんは純血のBOW(それでもリサと同じく、元人間ではある)であるが、立場上、母娘で東京に呼ぶことはしないようだ。
 もっとも、そうなると、女将さんにも仕事を紹介しなければならなくなるし、女将さんが今更逃亡したり、人を襲うことはないと私は思っている。
 そしてそれは、善場主任達もそう判断したらしい。
 だが、年若いリサや上野凛さんは別だ。
 先日のリサと同様、ふとした拍子に感情を爆発させ、暴走してしまう恐れがある。
 純血のリサと混血の凛さんを同様に扱っていいものか首を傾げるところだが、デイライトはそうするつもりらしい。

 愛原:「そうですか。まあ、東京中央学園の偏差値は中の上または上の下といったところのようです」

 国立大学への進学者もいれば、高卒での就職者もいる。
 入学後の進路は、本人次第ということだ。
 リサは私との結婚を望んでいるが、善場主任は自身も大卒だからか、大学に進学してほしいと思っているらしい。
 それにしても、善場主任はどこの大学に行ったのだろうか?
 まあ、あの仕事をしているくらいだから、国立だとは思うが……。

 女将:「うちの娘はどちらかというと、勉強よりは運動の方が好きなコでして……。成績の方は、本当に推薦入試を受けられるかどうかって所なんですよ」
 愛原:「あ、そうなんですか」

 リサは凛さんの学校の成績は良いと言っていたが、全体的にという意味では無かったのだろうか。
 体育とか、そういう特定の科目の成績が良いという意味で言ったのかな。
 まあ、それにしてもだ。
 話してみた限り、そんなに頭の悪そうなコでもなかったから、例え推薦入試はダメでも、一般入試なら合格できるのではないかと勝手に思っている。

 女将:「今のところ一応、受験勉強は頑張っているみたいですけど……。何しろ、塾へやることはできなくて……」
 愛原:「独学で勉強ですか。それは大変ですね」
 女将:「いえ、うちの信者さん達で、ボランティアで家庭教師をやってくれる人達がいますので、その人達が教えてくれてます」
 愛原:「な、なるほど」

 宗教団体のネットワーク!
 しかし、顕正会や日蓮正宗では有り得ないだろう。
 創価学会は【お察しください】。

 女将:「それで、御用件は……?」
 愛原:「あー……えーっと……」

 私は迷ってしまった。
 今、受験勉強を頑張っている凛さんに話を聞こうと思っていたのだが、却って邪魔になるだけだろうか。

 女将:「御宿泊して頂けるんですか?」
 愛原:「実はそのつもりだったんです。凛さんと、その受験のことについてお話ししたくて……」
 女将:「まあ。そうだったのですか」
 愛原:「ただ……あれですよね?今のこのこ行ったところで、却って受験勉強の邪魔になるだけですよね?」
 女将:「いらっしゃるのは愛原様だけですか?」
 愛原:「いえ。この前行った、高橋という金髪のチャラ男と、あとうちのリサも連れて行こうとは思っているのですが……」
 高橋:「俺、チャラ男っスか!?」

 チャラ男だよ!
 私の向かいの机に座る高橋が、何だか心外そうに言ってきたので、顔で反論してやった。

 女将:「姉さ……リサさんも来てくださるのですか!」
 愛原:「ええ。どうせリサは今冬休みでヒマですし、まだ1年生じゃ、大学受験のことはまだ考えなくていいですから」

 普通は2年生に入ってからだろうな。
 栗原蓮華さんは障がい者スポーツとしての剣道の実績を買われ、既に体育大学から目を付けられているそうである。
 スポーツ特待生とかの枠で受験できるのではないかと聞いたことがある。

 女将:「是非、お待ちしております!」
 愛原:「それで、部屋は空いてるんですか?宗教団体は年末年始は行事で忙しかったりするでしょう?」

 キリスト教はクリスマスを過ぎれば後はヒマなものだろうが、どちらかというと神道系に近い新興宗教の天長会は年末年始は忙しいのではなかろうか。

 女将:「そうですね。大晦日から元旦に掛けては、『年末年越大祈祷会』がございますので、その時は貸切となっております」
 愛原:「やっぱり」
 女将:「ですが、元旦を過ぎれば天長園での行事はございませんので、一般の方の宿泊も受け付けております」
 愛原:「そうですか。三が日ずっと忙しいわけではないんですね」
 女将:「さようでございます。因みに1月2日は都内の信濃町という所で抗議デモ行進、翌3日は教祖様の御誕生日会が総本山で行われますので、当施設は一般のお客様のみが宿泊されます」
 愛原:「そ、そうですか」

 何か、場所がピンポイント過ぎて、んっ?さんに怒られそうなことをするつもりなのか?天長会は……。

 愛原:「それでは、1月2日から宿泊でお願いします」
 女将:「かしこまりました。良いお部屋が空いておりますので、そちらを御用意させて頂きます」
 愛原:「あ、ありがとうございます」
 女将:「娘もきっと喜びますわ。姉さ……いえ、リサさんは『鬼』の先輩として尊敬しているみたいですから」

 鬼じゃなくて、BOWなんだがな。

 愛原:「それは良かった。まあ、それだけじゃなく、東京中央学園の先輩として、何かアドバイスするように言っておきますので」
 女将:「大変光栄でございます。それでは、お待ち申し上げてございます」
 愛原:「ええ。それでは、失礼致します」

 これで年始の予定は決まった。
 後でリサにも教えてあげよう。
 リサは家で留守番というか、冬休みの宿題に取り掛かっている。
 リサの頭なら、さっさと終わらせてしまいそうな勢いだ。
 もっとも、高校でも書き初めの宿題はあるようだが、それはさすがに元旦にやるように言っておいた。
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“私立探偵 愛原学” 「愛原家のクリスマス」 4

2021-12-26 20:02:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月25日13:09.天候:晴 東京都港区新橋 都営バス新橋停留所→業10系統車内]

 政府機関の隠れ蓑NPO法人デイライト東京事務所をあとにした私達。
 本来ならすぐにでも帰るところだが、ちょうどお昼時ということもあり、またリサの機嫌を損ねる前に昼食を取ってから帰ることにした。
 駅近くにラーメン屋があったので、そこでラーメンを食べることにした。
 さすがは、サラリーマンの町と言われるだけのことはある。
 もっとも、今日は土曜日で、サラリーマンの姿は少なかったが。
 カウンターだけの店に横並びになったが、やっぱりリサはトッピングの具材を全部乗せしていた。

 愛原:「久しぶりラーメン食ったな」
 高橋:「そうっスね。ごっそさんです」
 愛原:「いやいや。寒い時にはラーメンだからね」

 都内の昼は、晴れればまだ暖かい。
 だが、それ以外の時はやっぱり寒くてしょうがなかった。
 リサは別として。
 ジャージの上着の更に上には、何も着ていない。
 しかし、平気な顔をしている。
 別に、ラーメンを食べたばかりだからというわけではないだろう。
 それから新橋バス停に向かう。
 『新橋駅前』ではないのは、駅から少し離れているが、しかし新橋地区にあるからだろう。
 『新橋駅入口』ではダメだったようだ。
 本数は多いので、それ相応の利用客がある。
 しかし、前の方に並んでいたので、1番後ろの席に並んで座った。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは、ほぼ満席の状態で発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは勝どき橋南詰、豊洲駅前、木場駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きです。次は銀座六丁目、銀座六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りください。次は、銀座六丁目でございます〕

 高橋:「先生。さすがに今日も晩飯は外食しないですよね?」
 愛原:「そうだな。悪いけど、用意してくれるか?」
 高橋:「任せてください。それじゃ、ちょっと買い物に行きませんと」
 愛原:「分かった。俺達は先に帰るから、買い出し頼むよ」
 高橋:「分かりました」
 愛原:「ケーキは宅配で届くみたいだし」
 高橋:「その方がいいですね」
 リサ:「お兄ちゃん!骨付きチキン!骨付きチキン買って来て!大きいヤツ!」

 リサは自分のスマホで、七面鳥の画像を出しながら行った。

 高橋:「いや、ターキーって無理だろ~」
 愛原:「これって日本のスーパーで売ってるもんなの?」
 高橋:「見た事無いっスよ?」
 愛原:「ワンチャン、コストコとか成城石井みたいな高級スーパーで売ってる……かな?」
 高橋:「鶏のヤツなら余裕で売ってますけどね」
 リサ:「フライドチキンじゃなくて……」
 愛原:「KFCのフライドチキンも美味いもんだよ。だけどまあ、要はチキン丸ごと一羽焼いたヤツをリサは食べたいって言ってるんだよ。多分、スーパーで売ってるだろ」
 高橋:「ローストチキンっすね。まあ、そうっスね」
 愛原:「それでよろしく頼むわ」
 高橋:「了解しました」

[同日14:15.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 菊川駅前でバスを降りた私達。
 高橋はそのままスーパーへ行き、私とリサは先に家に帰った。

 リサ:「やっと帰ってゲームできる」
 愛原:「冬休みの宿題もあるんだろ?それもちゃんとやれよ」
 リサ:「分かってるよ」

 帰ってからベランダに出て、向かいのマンションを見てみる。
 7階の部屋は見た感じ、何とも無い。
 だが、室内は相当荒らされているという。
 帰って来た時、片付けが大変だろうと思った。

 リサ:「さて、ゲームゲーム」

 ジャージから私服に着替えたリサは、冷蔵庫からジュースを取り出した。
 私服といっても、半袖のシャツに黒い短パンである。
 まだ部屋は暖房を入れたばかりで寒いのに、BOWの体温は本当に違うのだと分かる。

 リサ:「あ、でも、お兄ちゃん帰ってきたら、私も料理手伝う~」
 愛原:「そうなのか」
 リサ:「家庭科の調理実習もやったし、お兄ちゃんばっかりに作ってもらうのもね」
 愛原:「いい心掛けだ。だけど、生肉調理とする時、そのまま食うなよ?」
 リサ:「う……。だ、大丈夫」
 愛原:「本当かい?」
 リサ:「大丈夫だから」
 愛原:「まあ、信じるよ」

[同日18:00.天候:晴 愛原のマンション]

 配達員:「ありがとうございましたー!」
 愛原:「どうも。お世話さまでした」

 このタイミングで届くのか。
 高橋とリサは調理中で忙しいので、私が代わりにケーキを受け取った。
 配達員も大忙しだろう。
 因みに玄関に出て対応してみて気づいたのだが、結構外は風が出ている。
 当然それは冷たい。
 もう冬本番だな。

 愛原:「善場主任からケーキが届いたぞー」
 リサ:「おー!」
 高橋:「バカ!包丁振り上げるんじゃねぇ!」

 リサは喜ぶ時、両手を挙げる癖があるので。

 愛原:「ローストターキー、ガスバーナーで焼くのか?」
 高橋:「いや、さすがにここでそれは無理なんで、もう既に焼かれてるヤツ、買って来ましたよ」
 愛原:「本当か」

 こうして、夕食の準備は整った。
 やっぱりメインディッシュは、ローストターキーか。

 高橋:「先生!まずは一杯!」
 愛原:「おー、ありがとう」

 私は高橋からグラスにビールを注がれた。

 高橋:「それでは皆様、お手を拝借!」
 リサ:「お手……お手!?」
 愛原:「高橋!それ、忘年会の後!」
 高橋:「あっ、サーセン」
 愛原:「俺が音頭を取ろう。それでは、メリークリスマース!」
 リサ:「メリークルシミマース!」
 高橋:「メリクリっス!」
 リサ:「ケーキは!?ケーキ!」
 愛原:「ケーキは食後だ。スイーツだからデザートだろ」
 高橋:「先生の言う通りだぞ!」

 因みにリサは……。

 リサ:「チキン美味しー!」

 と、言いながら、バリボリバリボリ骨まで食べていた。

 愛原:「骨まで食べるんじゃない」

 まあ、予想していたことではあるが。
 何とか今年も、無事にクリスマスを過ごすことができた。
 あとは、年末年始か。
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“私立探偵 愛原学” 「愛原家のクリスマス」 3

2021-12-26 15:52:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月25日09:00.天候:晴 東京都中央区日本橋大伝馬町 東横イン東京日本橋]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 いや、参った。
 昨夜は大変だった。
 楽しみにしていたクリスマスケーキを踏み潰された上、足蹴にされたリサがブチギレ。
 一気に第2形態まで変化して、侵入者2人を追いかけた。
 エレベーター内で戦闘になるものの、たかが泥棒が持っていたハンドガン程度でリサが倒れるはずがなく、泥棒達は血みどろの意識不明の重体に追い込まれた。
 さすがにそれがやり過ぎだということで、今、ホテルに隔離されているのである。
 警察権は及ばない。
 もはや、BSAAとか政府機関直轄法人デイライトの管轄になり、私や高橋も責任取らされてついでに隔離されているわけである。

 愛原:「あーあ……。このまま東京湾に沈められるのかなぁ……」
 高橋:「ええっ!?」

 朝食はデイライトの人と思われる黒スーツのいかつい人達が、部屋食として持ってきてくれたが……。

 愛原:「!?」

 と、その時、部屋がノックされた。

 愛原:「は、はい!?」

 私が部屋のドアを開けると、いかつい黒服の人がいた。

 黒服A:「出発の時間です」
 愛原:「出発!?どこに!?」
 高橋:「東京湾?それとも、甲州の山まで片道ドライブ……」
 黒服A:「デイライトの事務所です。もう車を用意してあるので、速やかにお願いします」
 リサ:「ヤダヤダ!行きたくない!」
 黒服B:「こら!暴れるな!!」

 リサは第2形態まで変化して服が破れたので、代わりに黒いジャージを着ていた。

 愛原:「リサ、いいから。一緒に行こう」
 リサ:「うぅう……。先生とお別れしたくない……」
 高橋:「オメェが暴れたからだろうが!先生のことは俺に任せて、オメェはとっとと死刑にでもなりやがれ!」
 愛原:「高橋、静かにしろ。ホテルの中だぞ」

 私は高橋を黙らせた。
 取りあえず、手荷物を持ち、エレベーターに乗って1階のロビーへ向かう。
 そして、1階に着くと、ロビーには善場主任がいた。

 善場:「おはようございます。愛原所長」
 愛原:「お、おはようございます」

 無表情でポーカーフェイスの善場主任からは、その真意が読みかねた。

 善場:「では、事務所に向かいましょう」

 ホテルの真ん前には、黒塗りのミニバンが止まっていた。
 素直にそれに乗り込む。

 善場:「事務所まで」
 部下:「はっ」

 運転席には、既に他の黒服と同じ黒スーツを着た運転手がいた。
 黒服Aが助手席に座り、黒服Bが助手席の後ろに座る。
 善場主任は運転席の後ろに座り、私達は1番後ろの席に3人並んで乗る形となった。
 車が走り出してから、主任は言った。

 善場:「取りあえず、リサの殺処分は無くなりました」
 愛原:「ほ、本当ですか!?」
 善場:「はい。幸い被疑者2人の意識が戻ったそうですので、今後、死亡することはないでしょう。ただ、ケガの状態が酷く、それ故弁護士の反対もあって、逮捕状は請求できても、まだ逮捕できない状態ではありますが……」
 愛原:「すると、これからは……」
 善場:「今後の事をお話しする為に、事務所へ向かうわけです」
 愛原:「良かったな、リサ。殺処分は無いってよ」
 リサ:「おー!」
 善場:「因みに斉藤社長からは、侵入者への厳しい撃退に対し、感謝の言葉と、弁護士の紹介が打診されています」

 オートロックが施されているマンションに、どうやって侵入したのかは不明だが、どうやらどこかでカードキーを偽造したらしい。
 侵入者2人の所持品からは、偽造されたカードキーが出て来たそうだ。
 侵入者2人の確定容疑は住居侵入、窃盗と銃刀法違反である。
 あいにくとリサは人間ではない為、殺人未遂罪は成立できないだろうとのこと。
 どうしてもというのであれば、動物愛護法違反などは問えるかもとのことだが……。

 愛原:「そうですか」

 尚、リサが壊したエレベーターについては、侵入者2人の拳銃の暴発によるものとされた。
 それにしては、もうカゴやドアごと交換しなければならないほどの壊れ具合だったが……。

[同日12:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 善場:「……今後は分別の付いた行動をするように。分かった?」
 リサ:「はい。すいませんでした」

 最後に再び主任からキツく注意されて、取りあえず話は終わった。
 リサのやり過ぎはともかく、窃盗犯を捕まえたことに対しては、褒められるものだっただろう。

 善場:「私からのクリスマスプレゼントがまだだったね。本当はそれはスルーしようと思ってたんだけど、まあ、犯罪者を捕まえたという功績は認めましょう。その御褒美に、ダメになったケーキをプレゼントするから、後で先生達と食べなさい」
 リサ:「! おー!」
 善場:「私も同じこと(クリスマスケーキを踏み潰された上、足蹴にされた)をされたら、確かに拳銃1発撃つかもしれないからね」
 愛原:「おい、高橋、聞いたか?善場主任がケーキを持っている時は要注意だぞ?頭が無くなるぞ?」
 高橋:「うス!気をつけます!」
 善場:「私は人間に戻れましたが、まだリサ・トレヴァーだった頃の名残があるもので……」

 ケーキは夕食に合わせ、届くようにしてくれるという。
 イブには食べれなかったが、そもそも今日がクリスマス本番なのだから、この方が良い。

 愛原:「じゃあ皆、取りあえず帰ろうか」
 高橋:「はい」
 リサ:「はーい!」

 私達が事務所を出ようとした時だった。

 善場:「愛原所長は、この冬休みに、どこかお出かけされる予定はあるんですか?」

 主任が、そう話し掛けて来た。

 愛原:「ええ。何でも来年度、リサの高校に上野凛さんが入学するかもしれないそうじゃないですか」
 善場:「さすが所長。情報が早いのですね」
 愛原:「一度、また天長園に泊まってみたいと思います。宗教団体は、年末年始の行事で忙しいかもしれませんが」
 善場:「入信だけはしないようにお願いしますよ」
 愛原:「分かってますって」

 私はそう言って、事務所をあとにした。
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