[12月31日14:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷]
昼になっても雪は降り止まなかった。
稲生勇太は自室で、スマホの天気予報を見ていた。
勇太:「まあ、東京や埼玉は晴れてるみたいだし、雪も積もってないみたいだな。中央本線まで出られれば大丈夫かな……」
その時、部屋がノックされる。
勇太:「はい」
ダニエラ:「稲生様。出発のお時間でございます」
勇太専属のマリアのメイド人形がやってきた。
メイドながらその表情はポーカーフェイスであり、おおよそ接客を担当するパーラーメイドはできそうにない。
しかし稲生に対する忠誠心は本物のようで、ロシア料理やイギリス料理がメインのこの屋敷で、夜食にお握りや味噌汁を作って来てくれたりと、その甲斐性は素晴らしいものがある。
勇太:「分かった」
勇太はスマホをジャンパーのポケットにしまった。
荷物はダニエラがエントランスまで持って行ってくれる。
勇太:「お待たせしました」
エントランスホールまで行くと、既にマリアが待っていた。
マリア:「あとは師匠か」
勇太:「まさか、またまだ寝てるなんてことは……」
マリア:「いや、それは大丈夫。私の人形が総出で起こして、今、手取り足取り出発の準備をさせている」
勇太:「そ、そうか。てっきり、『あと5分』を1時間以上繰り返すものだと……」
マリア:「ランチの後で昼寝させるとそうなるから、師匠には『覚醒のハーブティー』を飲ませておいた」
勇太:「す、すごい……」
一瞬、マリアが不気味な『魔女の笑み』を浮かべた。
しかし、勇太はそれで心が揺さぶられた。
恐怖ではなく、恋愛である。
勇太はマリアの『魔女の笑み』に一目惚れして、何度も彼女になってくれるよう頼み込んだのだ。
もちろん、『魔女の笑み』は別に魔法でも何でも無く、ただ単にマリアの嗜虐的な笑みである。
別にMではないと思っている勇太であるが(もちろんSだとも思っていない)、何故かマリアの嗜虐的な『魔女の笑み』には惚れてしまったのである。
後にイリーナが勇太を入門させる為、マリアに何かしたのではないかという疑惑が持ち上がっているが、イリーナは肯定も否定もしていない。
しかし後に、マリアも勇太と打ち解けていくうちに残虐な魔女の性格はナリを潜め、却って『魔女の笑み』を浮かべる機会が減ってしまったのは皮肉である。
マリア:「先に荷物積んでおいたら?師匠が乗れば、すぐに出発するから」
勇太:「分かった」
マリア:「どうせここまで来ても、車に乗るのにまた一苦労するだろうからな」
勇太:「え?」
勇太はマリアの言ったことの意味が分からず、首を傾げた。
屋敷の外に出ると、辺り一面銀世界であった。
確かに屋敷の周りは除雪されているが、屋敷の外まで道があるのかどうかは怪しい。
物言わぬ運転手が待機していて、勇太の荷物を受け取ると、ハッチを開けて中に積んだ。
イリーナの要望通り、黒塗りのベンツGクラスである。
一部の国家では軍用ジープにも使われるほどである為、確かにこういう悪路では持って来いの車だろう。
その為、Sクラスなどと比べると高級感は無いはずなのだが、やはりベンツというだけで高級感を感じるのは日本人だからだろうか。
勇太が先に助手席に乗ろうとした時だった。
マリア:「はいはい、師匠。雪道ですからね、転ばないように気をつけるんですよ」
屋敷からイリーナが出て来た。
薄紫色のローブを羽織り、フードを被っている。
運転手がすぐに助手席後ろのドアを開けた。
マリア:「車高の高い車ですよ?大丈夫ですかぁ?」
マリアがまた『魔女の笑み』を浮かべている。
見た目はアラフォーの姿をしているイリーナであるが、齢1000年以上の老魔女に乗れるかどうかを楽しんでいるかのようだ。
イリーナ:「もちろん、想定済みさね」
一瞬、イリーナの姿が雪煙に消えたように見えた。
イリーナ:「何してるの?早いとこ乗りな」
次の瞬間、運転席の後ろに座っているイリーナが、勇太達の方を向いて言った。
勇太:「て、テレポーテーション!?」
マリア:「く……!」
齢1000年強の大魔道師は、いわゆる超能力にも精通しているようである。
とにかく、残りの弟子2人も車に乗り込んだ。
そして、車が出発する。
一応、車内は暖房が効いている。
勇太:「凄い雪だ。本当に大丈夫ですか?」
助手席に座っている勇太が、運転席に座っている運転手に言った。
運転手はコクコクと頷いている。
普通の車なら、雪にはまって動けなくなってもおかしくない有り様だった。
いくらジープタイプの車とはいえ、除雪車の代わりにはなれないはずだが……。
雪をザザザ、ボボボと掻き分けるようにして車は進む。
そして、何とかいつものトンネルに入った。
トンネルの入口付近には雪が吹き溜まっていたが、それも掻き分けるようにしてスッポリと中に入る。
さすがにトンネルの中に雪は無く、そこは安定したスピードで進む。
勇太:「車自体が魔法みたいなものだからなぁ……」
勇太は呟いた。
[同日14:45.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]
村内も雪景色ではあったが、山の中と比べれば除雪がよくされている。
今はスキーシーズンである為、スキー客を出迎えるべく、除雪車がフル稼働しているようだった。
そして、車は駅前のロータリーに止まる。
心なしか雪が弱まり、空の雪雲も薄くなったような気がする。
屋敷の周りは昼間でも薄暗かったのに、村の中心部は明るかった。.
イリーナ:「ありがとう。気をつけて帰るんだよ」
車を降りて、荷物を下ろす勇太。
勇太:「先生。まだ時間があるので、足湯に入って行かれませんか?」
勇太は駅前の足湯を指さした。
イリーナ:「おお、それもそうだね。あれかい?キミ達が今ハマっている足湯というのは……」
勇太:「まあ、この時期ですから、足を温めるだけでも違うというのが分かりますよ」
イリーナ:「フム。どうせ列車内で寝て足がむくむ思いをするくらいだったら、今のうちに入っておくのがトレンドかもね」
勇太:「そういうことです」
3人の魔道士は足湯に入った。
昼になっても雪は降り止まなかった。
稲生勇太は自室で、スマホの天気予報を見ていた。
勇太:「まあ、東京や埼玉は晴れてるみたいだし、雪も積もってないみたいだな。中央本線まで出られれば大丈夫かな……」
その時、部屋がノックされる。
勇太:「はい」
ダニエラ:「稲生様。出発のお時間でございます」
勇太専属のマリアのメイド人形がやってきた。
メイドながらその表情はポーカーフェイスであり、おおよそ接客を担当するパーラーメイドはできそうにない。
しかし稲生に対する忠誠心は本物のようで、ロシア料理やイギリス料理がメインのこの屋敷で、夜食にお握りや味噌汁を作って来てくれたりと、その甲斐性は素晴らしいものがある。
勇太:「分かった」
勇太はスマホをジャンパーのポケットにしまった。
荷物はダニエラがエントランスまで持って行ってくれる。
勇太:「お待たせしました」
エントランスホールまで行くと、既にマリアが待っていた。
マリア:「あとは師匠か」
勇太:「まさか、またまだ寝てるなんてことは……」
マリア:「いや、それは大丈夫。私の人形が総出で起こして、今、手取り足取り出発の準備をさせている」
勇太:「そ、そうか。てっきり、『あと5分』を1時間以上繰り返すものだと……」
マリア:「ランチの後で昼寝させるとそうなるから、師匠には『覚醒のハーブティー』を飲ませておいた」
勇太:「す、すごい……」
一瞬、マリアが不気味な『魔女の笑み』を浮かべた。
しかし、勇太はそれで心が揺さぶられた。
恐怖ではなく、恋愛である。
勇太はマリアの『魔女の笑み』に一目惚れして、何度も彼女になってくれるよう頼み込んだのだ。
もちろん、『魔女の笑み』は別に魔法でも何でも無く、ただ単にマリアの嗜虐的な笑みである。
別にMではないと思っている勇太であるが(もちろんSだとも思っていない)、何故かマリアの嗜虐的な『魔女の笑み』には惚れてしまったのである。
後にイリーナが勇太を入門させる為、マリアに何かしたのではないかという疑惑が持ち上がっているが、イリーナは肯定も否定もしていない。
しかし後に、マリアも勇太と打ち解けていくうちに残虐な魔女の性格はナリを潜め、却って『魔女の笑み』を浮かべる機会が減ってしまったのは皮肉である。
マリア:「先に荷物積んでおいたら?師匠が乗れば、すぐに出発するから」
勇太:「分かった」
マリア:「どうせここまで来ても、車に乗るのにまた一苦労するだろうからな」
勇太:「え?」
勇太はマリアの言ったことの意味が分からず、首を傾げた。
屋敷の外に出ると、辺り一面銀世界であった。
確かに屋敷の周りは除雪されているが、屋敷の外まで道があるのかどうかは怪しい。
物言わぬ運転手が待機していて、勇太の荷物を受け取ると、ハッチを開けて中に積んだ。
イリーナの要望通り、黒塗りのベンツGクラスである。
一部の国家では軍用ジープにも使われるほどである為、確かにこういう悪路では持って来いの車だろう。
その為、Sクラスなどと比べると高級感は無いはずなのだが、やはりベンツというだけで高級感を感じるのは日本人だからだろうか。
勇太が先に助手席に乗ろうとした時だった。
マリア:「はいはい、師匠。雪道ですからね、転ばないように気をつけるんですよ」
屋敷からイリーナが出て来た。
薄紫色のローブを羽織り、フードを被っている。
運転手がすぐに助手席後ろのドアを開けた。
マリア:「車高の高い車ですよ?大丈夫ですかぁ?」
マリアがまた『魔女の笑み』を浮かべている。
見た目はアラフォーの姿をしているイリーナであるが、齢1000年以上の老魔女に乗れるかどうかを楽しんでいるかのようだ。
イリーナ:「もちろん、想定済みさね」
一瞬、イリーナの姿が雪煙に消えたように見えた。
イリーナ:「何してるの?早いとこ乗りな」
次の瞬間、運転席の後ろに座っているイリーナが、勇太達の方を向いて言った。
勇太:「て、テレポーテーション!?」
マリア:「く……!」
齢1000年強の大魔道師は、いわゆる超能力にも精通しているようである。
とにかく、残りの弟子2人も車に乗り込んだ。
そして、車が出発する。
一応、車内は暖房が効いている。
勇太:「凄い雪だ。本当に大丈夫ですか?」
助手席に座っている勇太が、運転席に座っている運転手に言った。
運転手はコクコクと頷いている。
普通の車なら、雪にはまって動けなくなってもおかしくない有り様だった。
いくらジープタイプの車とはいえ、除雪車の代わりにはなれないはずだが……。
雪をザザザ、ボボボと掻き分けるようにして車は進む。
そして、何とかいつものトンネルに入った。
トンネルの入口付近には雪が吹き溜まっていたが、それも掻き分けるようにしてスッポリと中に入る。
さすがにトンネルの中に雪は無く、そこは安定したスピードで進む。
勇太:「車自体が魔法みたいなものだからなぁ……」
勇太は呟いた。
[同日14:45.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]
村内も雪景色ではあったが、山の中と比べれば除雪がよくされている。
今はスキーシーズンである為、スキー客を出迎えるべく、除雪車がフル稼働しているようだった。
そして、車は駅前のロータリーに止まる。
心なしか雪が弱まり、空の雪雲も薄くなったような気がする。
屋敷の周りは昼間でも薄暗かったのに、村の中心部は明るかった。.
イリーナ:「ありがとう。気をつけて帰るんだよ」
車を降りて、荷物を下ろす勇太。
勇太:「先生。まだ時間があるので、足湯に入って行かれませんか?」
勇太は駅前の足湯を指さした。
イリーナ:「おお、それもそうだね。あれかい?キミ達が今ハマっている足湯というのは……」
勇太:「まあ、この時期ですから、足を温めるだけでも違うというのが分かりますよ」
イリーナ:「フム。どうせ列車内で寝て足がむくむ思いをするくらいだったら、今のうちに入っておくのがトレンドかもね」
勇太:「そういうことです」
3人の魔道士は足湯に入った。