[5月16日03:00.天候:晴 アーカンソー研究所・正面エントランス前]
屋上でシンディとルディが間合いを取った銃撃戦をしていたのに対し、こらちは取っ組み合いの戦いであった。
時々離れてはエミリーがショットガンを放ち、ジャニスがマシンガンを撃ったりした。
「まずいな……」
互角に戦っているように見えて、平賀はエミリーの不利を実感していた。
いや、何も旧型が新型に劣るからではない。
そもそもマルチタイプが21世紀前半の……というか、20世紀に造られたことが信じられないくらいのオーバーテクノロジーだ。
平賀は一応、日本で初のメイドロイドを製造したことで、ロボット工学におけるブレイクスルー達成者と称賛を浴びはしたが、本来のブレイクスルー者である南里志郎に師事していなければ、エミリーの後期型ボディを作れなかったことを考えると、実はマルチタイプに新旧の差は無いような気がした。
師である亡き南里なら、もっと違う意見を述べただろうか。
で、平賀がどうしてエミリーが不利だと思ったのかというと……。
「エミリーのバッテリーがヤバい」
動力の差であった。
いずれはエミリーやシンディも、動力をバッテリーや油圧だけでなく、最新型機のような燃料電池を動力に改造できないかと考えてはいた。
ジャニスがピンピンしているのに対し、エミリーはバッテリー低下によるセーフティが働き、動きが鈍くなっていた。
「マジで?」
アリスが口元を歪めた。
「……ってことは、シンディも!?」
「くそっ。こんな長期戦になるんだったら、一旦呼び戻せば良かった。失敗した!」
ジャニスもそれは気付いたらしい。
「アっはははははははっ!どーしたの、お姉ちゃん!?何かバテてない!?」
「……黙れ」
「旧型は不便だねー!アタシとルディは燃料電池だから、何もしなくても3日は元気に稼働できるもんねー!」
それに対して旧型のエミリーとシンディは、毎日バッテリーを交換・充電しなくてはならない。
それでも人間そっくりのロイドが、1日1回の充電だけであれだけ稼働できるのだから、本来十分と言えば十分だが。
「すぐに・カタを・つける」
エミリーは右手をショットガンに変形させ、ガチャガチャとリロードの音を立てた。
だが、エミリーの目、自動照準機能が使えなくなった。
『バッテリーが10%以下です。直ちにバッテリーを交換するか、充電してください』
平賀の手持ちのタブレットは、エミリーを遠隔監視する為の物である。
消音にしてはいるが、実はさっきからバッテリー低下のアラーム音が鳴りっぱなしであった。
もちろん、充電済みの予備バッテリーは『走る司令室』の中に積み込んである。
だが、ジャニスのことだから、バッテリーを交換させてはくれないだろう。
(せめて、シンディがルディを倒して戻ってきてくれたら……!)
平賀は祈念するように天井、つまり屋上の方を見上げた。
[同日03:30.天候:晴 同場所・屋上]
クエントはまず、アルバート所長のコピーロボットに撃たれたアルバート常務の容態を見た。
だが、常務は意識も呼吸も無く、脈も止まっていた。
「……残念だが、死んでしまった」
因みに自在スパナでクエントが殴り付けたアルバート所長の方は、殴られたこめかみから出血はしていたものの、こちらは意識が無いだけだった。
「コピーロボットとはいえ、常務を射殺したんだから、殺人の現行犯だな」
取りあえずクエントは、ヘリコプターの中にあったワイヤーでアルバート所長の手足を縛っておいた。
「え?僕?アルバート所長への傷害じゃないかって?いやいや、これはれっきした正当防衛だよ」
「……さっきから、何をブツブツ言ってるの?」
シンディが“具合が悪そうに”言った。
「そういうキミこそ、少しは手伝ってくれよ」
「ゴメン。もう、バッテリーが残り少なくなって……」
「それを早く言ってよ!あとどのくらい!?」
「もう……10%切っちゃった……」
「ええーっ!?」
「もう……動けない……」
「えーと、予備のバッテリーは……ああっ!『走る司令室』の中だ!……直接、充電できるよね?あー、でも、電源が……」
その時、クエントは頭部から火花を散らしているルディに注目した。
「そうだ!こいつの燃料電池から、電源もらっちゃおう!」
クエントは手持ちの工具で、ルディの体内をこじ開けると、
「あった!燃料電池!」
小型の動力を発見した。
「こいつとコードを繋いで……」
こうして、クエントは器用にルディの燃料電池から電源を取り、シンディのバッテリーに電気を送り込んだ。
「姉さんを……」
「ん?」
「姉さんが……エミリーが……危ない。私と同じ……。バッテリーが……」
「ああっ!?」
クエントは急いで屋上の柵から、地上を見下ろした。
見ると、ちょうどエミリーがジャニスに倒されたところだった。
「くっ、こうなったら!」
クエントはヘリからケガしたパイロットや、連れ込まれたリンとレンを降ろすと、自分が操縦席に座った。
[同日同時刻 天候:晴 同場所・正面エントランス前]
「え、エミリーっ!!」
『バッテリー切れです。バッテリーが0%です。直ちにバッテリーを交換するか、充電してください』
「よくもルディを壊してくれたね!!オマエも頭をフッ飛ばしてやるよ!!」
ジャニスは交信が途絶えたことで、ルディのブレイクダウン(機能停止)を知ったようである。
「や、やめろ、ジャニス!!」
ジャニスもまたマシンガンだけでなく、レーザービームを放つことができるようだ。
「最大重圧、行くよ!!」
と、その時!
「!!!」
屋上からヘリコプターが墜落してきた。
厳密には、クエントが『特攻』してきた。
「こなくそーっ!!」
「!!!」
レーザービームを最大重圧に充電していたジャニス。
その間は全く他の攻撃ができない。
ヘリの特攻をもろに受けた。
「クエント!」
「くっ、くくくく!!」
クエントはジャニスの上に、無理やり着陸しようとした。
人間なら簡単に押し潰されたことだろう。
だが、身動きが取れないとはいえ、そこはマルチタイプ。
かなり負荷を掛けてやってるとはいえ、そう簡単に潰れるものではない。
「キース、バスの修理は終わった!?」
そこへ敷島と鳥柴が屋上から戻ってきた。
「敷島さん!?」
「キース、申し訳無い!後でまた修理よろしく!」
敷島はそう言って、『走る司令室』に改造されたベンツ製のバスに乗り込んだ。
しかも、運転席に座る。
「し、敷島さん!?ま、まさか、もしかして!?」
平賀は、ある予感がした。
敷島がエンジンを掛ける。
「もしかすると!?」
アリスも同じことを考えたらしい。
敷島はバスをバックさせた。
「もしかするよ!」
広場に出ると急旋回して、一気にアクセルを踏み込んだ。
「クエント!どいくてれ!!」
敷島がバスのクラクションを鳴らし、ライトをハイビームにした。
「OK!」
クエントはヘリを離陸させた。
直後、
「!!!」
バスがジャニスに体当たりする!
「あ……こ……の、アタシが……に……人間なんかに……」
体中から火花や煙を噴き出すジャニス。
「人間ナメんじゃねぇっ!!」
更に敷島、バスを引き返して、もう1度特攻!
跳ね飛ばされたジャニスは、研究所の壁に叩き付けられた。
「今よ!頭と胴体を切り離してやるわ!!」
アリスが手持ちの電動ドライバーを手に、もはや動けなくなっていたジャニスに駆け寄った。
「さすがのマルチタイプも、首を刎ねられたら動けないでしょ!」
「アリス!メモリーとデータだけは残しておけよ!」
平賀も一緒に駆けつけて、アリスに言った。
「分かってるわよ!」
「……また『バス特攻』やっちまったな。これで3回目だ」
敷島は運転席に座って、照れ笑いにも似た笑みを浮かべていた。
こうして、アーカンソー研究所における戦いは終了したのである。
屋上でシンディとルディが間合いを取った銃撃戦をしていたのに対し、こらちは取っ組み合いの戦いであった。
時々離れてはエミリーがショットガンを放ち、ジャニスがマシンガンを撃ったりした。
「まずいな……」
互角に戦っているように見えて、平賀はエミリーの不利を実感していた。
いや、何も旧型が新型に劣るからではない。
そもそもマルチタイプが21世紀前半の……というか、20世紀に造られたことが信じられないくらいのオーバーテクノロジーだ。
平賀は一応、日本で初のメイドロイドを製造したことで、ロボット工学におけるブレイクスルー達成者と称賛を浴びはしたが、本来のブレイクスルー者である南里志郎に師事していなければ、エミリーの後期型ボディを作れなかったことを考えると、実はマルチタイプに新旧の差は無いような気がした。
師である亡き南里なら、もっと違う意見を述べただろうか。
で、平賀がどうしてエミリーが不利だと思ったのかというと……。
「エミリーのバッテリーがヤバい」
動力の差であった。
いずれはエミリーやシンディも、動力をバッテリーや油圧だけでなく、最新型機のような燃料電池を動力に改造できないかと考えてはいた。
ジャニスがピンピンしているのに対し、エミリーはバッテリー低下によるセーフティが働き、動きが鈍くなっていた。
「マジで?」
アリスが口元を歪めた。
「……ってことは、シンディも!?」
「くそっ。こんな長期戦になるんだったら、一旦呼び戻せば良かった。失敗した!」
ジャニスもそれは気付いたらしい。
「アっはははははははっ!どーしたの、お姉ちゃん!?何かバテてない!?」
「……黙れ」
「旧型は不便だねー!アタシとルディは燃料電池だから、何もしなくても3日は元気に稼働できるもんねー!」
それに対して旧型のエミリーとシンディは、毎日バッテリーを交換・充電しなくてはならない。
それでも人間そっくりのロイドが、1日1回の充電だけであれだけ稼働できるのだから、本来十分と言えば十分だが。
「すぐに・カタを・つける」
エミリーは右手をショットガンに変形させ、ガチャガチャとリロードの音を立てた。
だが、エミリーの目、自動照準機能が使えなくなった。
『バッテリーが10%以下です。直ちにバッテリーを交換するか、充電してください』
平賀の手持ちのタブレットは、エミリーを遠隔監視する為の物である。
消音にしてはいるが、実はさっきからバッテリー低下のアラーム音が鳴りっぱなしであった。
もちろん、充電済みの予備バッテリーは『走る司令室』の中に積み込んである。
だが、ジャニスのことだから、バッテリーを交換させてはくれないだろう。
(せめて、シンディがルディを倒して戻ってきてくれたら……!)
平賀は祈念するように天井、つまり屋上の方を見上げた。
[同日03:30.天候:晴 同場所・屋上]
クエントはまず、アルバート所長のコピーロボットに撃たれたアルバート常務の容態を見た。
だが、常務は意識も呼吸も無く、脈も止まっていた。
「……残念だが、死んでしまった」
因みに自在スパナでクエントが殴り付けたアルバート所長の方は、殴られたこめかみから出血はしていたものの、こちらは意識が無いだけだった。
「コピーロボットとはいえ、常務を射殺したんだから、殺人の現行犯だな」
取りあえずクエントは、ヘリコプターの中にあったワイヤーでアルバート所長の手足を縛っておいた。
「え?僕?アルバート所長への傷害じゃないかって?いやいや、これはれっきした正当防衛だよ」
「……さっきから、何をブツブツ言ってるの?」
シンディが“具合が悪そうに”言った。
「そういうキミこそ、少しは手伝ってくれよ」
「ゴメン。もう、バッテリーが残り少なくなって……」
「それを早く言ってよ!あとどのくらい!?」
「もう……10%切っちゃった……」
「ええーっ!?」
「もう……動けない……」
「えーと、予備のバッテリーは……ああっ!『走る司令室』の中だ!……直接、充電できるよね?あー、でも、電源が……」
その時、クエントは頭部から火花を散らしているルディに注目した。
「そうだ!こいつの燃料電池から、電源もらっちゃおう!」
クエントは手持ちの工具で、ルディの体内をこじ開けると、
「あった!燃料電池!」
小型の動力を発見した。
「こいつとコードを繋いで……」
こうして、クエントは器用にルディの燃料電池から電源を取り、シンディのバッテリーに電気を送り込んだ。
「姉さんを……」
「ん?」
「姉さんが……エミリーが……危ない。私と同じ……。バッテリーが……」
「ああっ!?」
クエントは急いで屋上の柵から、地上を見下ろした。
見ると、ちょうどエミリーがジャニスに倒されたところだった。
「くっ、こうなったら!」
クエントはヘリからケガしたパイロットや、連れ込まれたリンとレンを降ろすと、自分が操縦席に座った。
[同日同時刻 天候:晴 同場所・正面エントランス前]
「え、エミリーっ!!」
『バッテリー切れです。バッテリーが0%です。直ちにバッテリーを交換するか、充電してください』
「よくもルディを壊してくれたね!!オマエも頭をフッ飛ばしてやるよ!!」
ジャニスは交信が途絶えたことで、ルディのブレイクダウン(機能停止)を知ったようである。
「や、やめろ、ジャニス!!」
ジャニスもまたマシンガンだけでなく、レーザービームを放つことができるようだ。
「最大重圧、行くよ!!」
と、その時!
「!!!」
屋上からヘリコプターが墜落してきた。
厳密には、クエントが『特攻』してきた。
「こなくそーっ!!」
「!!!」
レーザービームを最大重圧に充電していたジャニス。
その間は全く他の攻撃ができない。
ヘリの特攻をもろに受けた。
「クエント!」
「くっ、くくくく!!」
クエントはジャニスの上に、無理やり着陸しようとした。
人間なら簡単に押し潰されたことだろう。
だが、身動きが取れないとはいえ、そこはマルチタイプ。
かなり負荷を掛けてやってるとはいえ、そう簡単に潰れるものではない。
「キース、バスの修理は終わった!?」
そこへ敷島と鳥柴が屋上から戻ってきた。
「敷島さん!?」
「キース、申し訳無い!後でまた修理よろしく!」
敷島はそう言って、『走る司令室』に改造されたベンツ製のバスに乗り込んだ。
しかも、運転席に座る。
「し、敷島さん!?ま、まさか、もしかして!?」
平賀は、ある予感がした。
敷島がエンジンを掛ける。
「もしかすると!?」
アリスも同じことを考えたらしい。
敷島はバスをバックさせた。
「もしかするよ!」
広場に出ると急旋回して、一気にアクセルを踏み込んだ。
「クエント!どいくてれ!!」
敷島がバスのクラクションを鳴らし、ライトをハイビームにした。
「OK!」
クエントはヘリを離陸させた。
直後、
「!!!」
バスがジャニスに体当たりする!
「あ……こ……の、アタシが……に……人間なんかに……」
体中から火花や煙を噴き出すジャニス。
「人間ナメんじゃねぇっ!!」
更に敷島、バスを引き返して、もう1度特攻!
跳ね飛ばされたジャニスは、研究所の壁に叩き付けられた。
「今よ!頭と胴体を切り離してやるわ!!」
アリスが手持ちの電動ドライバーを手に、もはや動けなくなっていたジャニスに駆け寄った。
「さすがのマルチタイプも、首を刎ねられたら動けないでしょ!」
「アリス!メモリーとデータだけは残しておけよ!」
平賀も一緒に駆けつけて、アリスに言った。
「分かってるわよ!」
「……また『バス特攻』やっちまったな。これで3回目だ」
敷島は運転席に座って、照れ笑いにも似た笑みを浮かべていた。
こうして、アーカンソー研究所における戦いは終了したのである。