報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「特急“あずさ”26号」

2018-12-30 20:06:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月29日14:37.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 駅前のロータリーに1台の高級車が止まる。
 それは黒塗りのメルセデス・ベンツSクラスに酷似していた。

 稲生:「先生が御一緒ですと心強いです」
 イリーナ:「ありがとね」

 イリーナが関わっているらしい。
 お抱え運転手がトランクを開けて、イリーナ組の面々が持つ荷物を降ろしている。
 稲生が魔法を使うと、魔力の関係で日本のタクシーのような車(トヨタ・クラウンコンフォートまたは日産・セドリックのいずれか。トヨタ・ジャパンタクシーや日産・バネットNVは未経験の為、不可)が迎えに来るし、マリアに至ってはロンドンタクシーである。

 稲生:「早く中に入りましょうよ」
 イリーナ:「そうね。こんな大雪で電車は走ってる?」
 稲生:「運行情報には何も出てないので大丈夫だと思います」
 イリーナ:「それは最高ね」
 マリア:「誰かが魔法でも使いました?この降り方は少し違いますね」
 イリーナ:「そうかもしれないわね。ちょっと修羅道の臭いがするわ」

 そんなことを話しながら駅構内に入る。
 駅構内は暖房が効いて暖かい上、スキー客で賑わっていた。

〔「まもなく1番線に14時37分発、特急“あずさ”26号、新宿行きが参ります。ご利用のお客様は、改札口へお越しください」〕

 稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」
 イリーナ:「ありがとう」
 稲生:「先生はグリーン車で、僕達は普通車に乗りますから」
 イリーナ:「あら?別に皆で同じ車室で良かったのよ?」
 稲生:「車両は同じですけどね」
 イリーナ:「ん?」

 南小谷方向から雪煙を上げて、特急“あずさ”が接近してきた。

 稲生:「あのE257系がもうすぐで撤退するので、今のうちに乗り納めです」

 稲生の鉄ヲタ根性丸出しの行程なのであった。

〔「1番線に到着の列車は14時37分発、特急“あずさ”26号、新宿行きです。自由席は3号車から5号車、グリーン車は8号車の後ろ半分です。停車時間僅かとなっております。……」〕

 稲生:「8号車です。先生の席はこちらです」

 グリーン車はガラガラだったが、それでも予約は一杯で満席扱いになっている。
 8号車だけは乗降ドアが中央にあり、そこを境に普通席とグリーン席に分けられている。
 稲生とマリアはデッキを挟んで普通席の方に向かった。
 そこは指定席である。

 稲生:「僕達の席はここですね」
 マリア:「分かった」

 マリアはキャリーケースを上げようとした。

 稲生:「僕が上げますよ」
 マリア:「Thanks.」

 本当はキャリーケースなど無くても旅ができるのが魔道師なのであるが、年始の初売りで爆買いしたものを入れて帰る用とのこと。
 エレーナに輸送を頼むと吹っ掛けられるので。
 座席の質は東北新幹線E2系の普通車とほぼ同じ。
 違うのはシートピッチがそれよりは狭くなっていることくらい。
 もっとも、新幹線と在来線を比べるのもどうかとは思うが。
 そんなことをしているうちに、電車が発車した。

〔「白馬からご乗車のお客様、お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は中央本線に参ります特急“あずさ”26号、新宿行きでございます。次の停車駅は、信濃大町です。信濃大町、穂高、豊科、松本、塩尻、岡谷、下諏訪、上諏訪、茅野、小淵沢、韮崎、甲府、八王子、立川、終点新宿の順に止まります。電車は只今、9両編成で運転致しております。1番前が3号車、1番後ろが11号車です。途中の松本で前に2両、1号車と2号車を連結致します。……」〕

 マリア:「この電車、車内販売はある?」
 稲生:「あるはずですよ。どうしてですか?……ハッ!」
 マリア:「お察しの通り、あのコ達が物凄く気にしてる」

 マリア手作りのメイド人形、ハク人形とミク人形である。
 今は人形形態になっていて、マリアの荷物の中に入っているのだが、時折勝手に出て来ることがある。
 そして飛行機内ではハットラックの中、電車やバスの中では網棚の上で寛ぐのである。
 この2体の人形、飛行機では機内販売、電車では車内販売に熱を上げている。
 彼女らの目当てはアイスクリーム。

 稲生:「全区間、乗車しているのかなぁ?」

〔「……尚、この電車には車内販売員が乗車しております。お食事とお飲み物を御用意致しまして、皆様のお席までお伺い致します。お近くを通りの際、是非ご利用ください。……」〕

 稲生:「……この分ですと全区間っぽいですね」
 マリア:「やってるってさ」

 マリアは網棚の上に向かって言った。

 ミク人形:「♪」
 ハク人形:「♪」
 稲生:「意外だったな。こういう場合、大糸線内では乗っていなくて、中央本線に入ってからだと思ってたのに……」

 恐らく今はスキーシーズンで乗客も多く、大糸線内で営業しても採算が取れると見込んだのかもしれない。
 なので、いつも全区間営業しているとは限らないと思われる。

 マリア:「新宿駅の1つ手前は何駅?」
 稲生:「この電車でですか?立川ですね」
 マリア:「立川から新宿まで何分くらい?」
 稲生:「だいたい20分強だと思います。どうしてですか?」
 マリア:「どうせまた師匠が爆睡しているだろうから、起こすのに時間を掛ける必要があると思って」
 稲生:「立川駅を出たら、ちょっと様子を見に行きますよ」
 マリア:「そうしてくれると助かる」
 稲生:「はい」

 と、そこへ……。

 車販嬢:「車内販売でございます。お弁当にお飲み物、お土産品……」
 稲生:「あ、すいません。こっちにアイスクリーム2つ……と、コーヒーと……」
 マリア:「紅茶」
 稲生:「……紅茶ください」
 車販嬢:「ありがとうございます」

 稲生がSuicaで払うと……。

 稲生:(このコ達の機嫌を損ねると、電車のダイヤが乱れるからなぁ……。これで一応、大丈夫だ。うん)

 心底ホッとした顔で商品を受け取った。

 稲生:「先生にも何か購入した方がいいですかね?」
 イリーナ:「いいよ。どうせもう寝てるだろうし、欲しけりゃ自分で買うさ」
 稲生:「はあ……」

 辛辣な弟子のマリアである。
 電車は雪煙を上げながら、単線のローカル線の上を突き進んだ。
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“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブとクリスマス」

2018-12-29 20:15:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日20:30.天候:晴 東京都千代田区神田岩本町 都営地下鉄岩本町駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの親友で埼玉に実家のある斉藤絵恋さんと一緒にクリスマスパーティーをやった。
 その帰り道である。

 愛原:「うー!外は寒すぎ!」
 リサ:「もっと体温上げる?」
 愛原:「あ、いや、いいよ!これ以上上げたらアレだろ?人間形態じゃなくなるだろ?」
 リサ:「まあね」
 高橋:「軽い気持ちで答えるんじゃねぇ」

 何とか逃げ込むように私達は駅構内へと入って行った。
 岩本町駅もなかなか深い。

 高橋:「霧生電鉄の霞台団地駅とかを思い出しますね、先生?」
 愛原:「そうだな。あれは地下鉄じゃねぇだろ」
 高橋:「階段を下りて行く感じが、そんなイメージってことですよ。JRには無いですよ」
 愛原:「まあな」

 階段やエスカレーターを下りて行き、改札口を通ってコンコースに入る。

 高橋:「ここがバイオハザードになったら、絶対武器が必要ですよ」
 愛原:「東京でバイオハザードが起きたら、日本は終わりだぞ」

 巨大都市をいくつも抱えている中国なら大丈夫だろうがな。
 あそこは5年くらい前、香港でバイオテロが起きたからな(“バイオハザード6”)。
 アメリカの政府高官が香港バイオテロの黒幕だったというので、米中関係が悪化したんだっけ。
 大統領も暗殺され、こちらも被害者だみたいな対応をアメリカ政府はしていたけど……。

 愛原:「ちょうど電車来た?」
 高橋:「あー、残念ですね。反対方向ですよ」
 愛原:「何だ」

 ホームからぞろぞろと階段やエスカレーターを上がって来る乗客達がいたので、私は一瞬走り出し掛けた。
 で、ホームに下りてみると、確かに反対側のホームに電車が止まっていた。

〔「1番線から京王線直通、快速の大沢……失礼しました。橋本行き、すぐの発車となります」〕

 都営新宿線の緑色をした電車が発車していった。

 高橋:「何だか遅れてるみたいですね」
 愛原:「マジか!?」
 高橋:「ほんの2〜3分ってところですけど」
 愛原:「ふーん……」

 こういう場合、乗り入れ先で何かあったとかが考えられるかな。

 愛原:「ん?どうした、リサ?」

 リサは先ほどの電車が出て行った方向をジッと見ていた。

 リサ:「ううん。何でも無い」

〔まもなく4番線に、各駅停車、本八幡行きが短い8両編成で到着します。黄色い線の内側で、お待ちください〕

 愛原:「ありゃ、短いヤツか。混んでるかなぁ?」
 高橋:「いい加減、都営新宿線も全部10両にするべきですよね」

 雲羽:「そうそう。いちいちこいつらの乗る電車が何両編成か調べないといけない」

 リサ:(私と同じ感じの気配がしたような気がするけど……気のせいだよね)

 電車がトンネルの向こうから轟音を立てて接近してきた。
 リサのセミロングの髪が風に靡く。

 愛原:「そんなに混んでなかった」

 3連休最終日の夜だからかな。

〔4番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。いわもとちょう、岩本町〕

 私達は先頭車に乗り込んだ。
 電車の中は暖房が効いて温かい。
 都営地下鉄の車両だが、内装がどこかJRに似ているのは最近流行りの標準化というヤツか。

〔4番線、ドアが閉まります〕

 ドアチャイムも往路で乗った京王電車とは違い、先ほど乗った京浜東北線の電車とほぼ同じ。
 オリジナリティと言えば、長さが不ぞろいの吊り革か。
 長身の高橋なら余裕で掴まれるドア上の吊り革もあれば、明らかに子供用と言えるほど低い位置の吊り革もある。
 その位置の低い吊り革をリサが掴まり、私は標準の高さの吊り革に掴まり、高橋がドア上の高い吊り革に掴まればちょうど良い。

〔次は馬喰横山、馬喰横山。都営浅草線、JR総武快速線はお乗り換えです。お出口は、左側です〕
〔The next station is Bakuroyokoyama.Please change here for the Toei Asakusa line and the JR Sobu line.〕

 乗客A:「さっきの電車見た?」
 乗客B:「え?何が?」

 私達のすぐ近くにはヲタクっぽい男2人がドアの前に立って、何やらゲームの話をしている。

 乗客A:「バイオ7のエヴリンみたいなのがいたよ」
 乗客B:「オメーもついにロリコンか?そっちの方がヤベーって」
 リサ:(エヴリン……!?)
 乗客A:「違う違う。婆さん形態の方。車椅子スペースに、車椅子で乗ってたの」
 乗客B:「気のせいだろ?」
 乗客A:「いや、気のせいだとは思うんだけどね。バイオのプレイヤーとしては、ちょっと気になったわけよ」
 乗客B:「気にし過ぎだって。それより、お台場の例大祭どうする?」
 乗客A:「どうすっぺ?」
 リサ:(あのお婆さん、エヴリンなの?)
 愛原:「どうした、リサ?ボーッとしちゃって」
 リサ:「ううん、何でもない。パーティーではしゃぎ過ぎちゃって、ちょっと疲れたのかなぁって……」
 高橋:「おいおい、化け物も疲れるのかよ。ま、そうでないと無理ゲーになっちまうけどな」
 愛原:「お前、あの人達の話に混じって来たらどうだ?」

 こうして私達のクリスマス・イブは無事に終わった。

[12月25日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 某居酒屋]

 愛原:「じゃ、今年1年お疲れさまでした。仕事納めまでには、まだあと数日ありますけど、クリスマスパーティーも兼ねて今日忘年会をやらせて頂きます」

 私がビールの入ったグラスを手に取ると、高橋と高野君、そしてリサもグラスを手に取った。
 私達はビールだが、リサはもちろんジュースである。

 愛原:「それじゃ、カンパーイ!」
 高橋:「カンパーイ!」
 リサ:「カンパーイ!」
 高野:「お疲れさまでしたー!」

 居酒屋の座敷で飲み明かすことになる。
 高野君は相変わらずパンツスーツだが、今日のリサはスカートだ。
 生足でも全然寒くないそうだが、高野君にストッキングをはかされていた。

 愛原:「飲み放題だからな、好きなだけ飲んでいいぞ」
 高野:「先生。明日は普通に仕事なんですから、飲み過ぎはいけませんよ?」
 愛原:「つったって、キミの方がガンガン飲むじゃないか」
 高橋:「先生!俺はジョッキの一気飲みができます!見ててください!」
 愛原:「危ないからやめなさい。……あ、後でクリスマス限定のケーキも頼んであるから、またリサにローソク消してもらおう」
 リサ:「ううん。今度は先生に消してもらいたい」
 愛原:「俺が?」
 リサ:「うん」
 高橋:「俺からもお願いします。先生の息の吹き掛かったケーキを食べたいです」
 愛原:「またオマエはさらっと気持ち悪いこと言う……」

 私は高橋にツッコミを入れたが、リサは高橋の言葉にうんうんと頷いていた。

 高野:「弟子と娘に慕われて、実に羨ましい限りですわね、先生?」
 愛原:「娘って、だから俺はまだそんな歳じゃないって」

 でもリサの学校では、一応そのように通した方がラクなんだよなぁ……。
 何だか複雑な気持ちだ。
 こんな感じで、今年は終わりそうだな。
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“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」

2018-12-28 19:40:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は埼玉県さいたま市にある斉藤社長の御宅で行われるクリスマスパーティーにお呼ばれした。
 それも無事に終了し、私達はそろそろお暇することにした。

 斉藤秀樹:「うちの運転手に大宮駅まで送らせますので、どうぞ乗ってください」
 愛原:「どうもすいません」

 家の中からガレージに出れるのだが、玄関に靴があるので、外から回ることにした。

 秀樹:「今夜もまた冷えますなぁ」
 愛原:「全くです」

 車は光岡自動車のガリュー。
 主に絵恋さんが乗る車らしい。
 フォルムはまるでロールスロイスのようだが、ベースは日産・ティアナで、ロールスロイスよりも手頃な値段で購入できる。

 
(そもそも光岡自動車自体、なかなか見かけない。作者の祖父は死後、これの霊柩車に遺体として乗車した)

 絵恋:「風邪引いたりしないでね。今度は私が遊びに行くから」
 リサ:「分かった。待ってる」
 秀樹:「愛原さんも風邪など引かれませんよう……」
 愛原:「ありがとうございます」
 秀樹:「あ、こちら、もしよろしければつまらないものですが、お返しです」

 私は斉藤社長から紙袋を受け取った。

 愛原:「これは……」
 秀樹:「私共で製造している入浴剤と風邪薬です」
 愛原:「あ、これはどうもわざわざ……」

 製薬会社ならではの餞別だな。
 私はありがたく受け取ることにした。
 風邪薬を寄越してくる辺り、何ともまあ……。
 私が車に乗り込むと、後でリサも乗った。

 リサ:「また明日、連絡する」
 絵恋:「はーい、待ってまーす」

 リサが車の窓を開け、ギュッと絵恋の手を握ると、

 絵恋:「萌ぇぇぇぇっ!」

 悶絶した。

 秀樹:「それでは良い御年を」
 愛原:「良いお年を」

 車が斉藤家を発車する。

 愛原:「本当に絵恋さん、リサがお気に入りだなー?」
 リサ:「うん。私もサイトー大好き。友達」
 新庄運転手:「御嬢様も初めて御親友ができて、大変お喜びでございます。どうかこれからも末永くお付き合いのほど、私からもお願い申し上げます」
 リサ:「うん」

[同日20:15.天候:晴 JR大宮駅西口→京浜東北線ホーム]

 車で15分ほどで大宮駅に到着する。
 本当はもう少し早く着けるそうなのだが、意外なほどに道路が混雑していた。
 これはさいたまスーパーアリーナのイベントによる影響と、3連休最終日による行楽客によるものらしい。

 新庄:「お疲れさまでした」
 愛原:「ありがとうございます」
 新庄:「今回はお迎えに行けなくて申し訳ありませんでした」
 愛原:「いえ、いいですよ」

 元より電車で行くつもりだったし。

 新庄:「もしまた御来訪の際は、お電話頂けばお迎えに上がります」
 愛原:「ありがとうございます」

 多分私は無いな。
 恐らくリサなら、遊びに行く関係でまたこの車に乗る機会があるかもしれない。
 もっとも、その場合は漏れなく絵恋さんの同乗付きか。
 私達は大宮駅西口の乗降場で車を降りると、すぐに駅構内に入った。

 愛原:「やっぱり寒いねぇ……」
 リサ:「はいっ!」

 私が手を擦ると、リサが手を握って来た。
 BOWならではの高い体温のおかげで、握られた手だけは温まる。

 愛原:「ははは、ありがとう。せっかく餞別にもらった風邪薬だけど、本来はこういうものの世話になりたくはないものだね」
 高橋:「先生、よく見ると包装紙の下にうっすらと『試供品』の文字が見えますよ?」
 愛原:「マジか!」

 もちろん、医薬品たる風邪薬の方ではない。
 医薬品を試供品で渡すと、さすがに薬事法違反だろう。
 医薬部外品の入浴剤の方だ。

 高橋:「きっと営業マンのカレンダー配りのついでに渡していたヤツの余りですよ。全く!」
 愛原:「まあまあ。タダでもらったものなんだから。中身は市販品と一緒だよ」

 それでも箱に入っているものなんだからな。
 場合によっては営業先に、この箱ごと渡していたのかもしれないな。
 いや、もしかしたらスーパーの歳末福引の景品の余りとか???
 まあいいや。
 入浴剤も風邪薬も、箱買いすればそれなりにいい値段がするからな。
 ありがたくお持ち帰りさせて頂くとしよう。

 私達はエスカレーターで2階に上がると、改札口からコンコース内に入った。
 新幹線乗り場は賑わっていたが、私達が向かうのは今度は埼京線ではない。

 高橋:「今度は岩本町回りですか?」
 愛原:「ああ。せっかく体の温まる物をもらったんだからな、アキバから岩本町までの移動も怖くないよ」
 高橋:「大丈夫です。ヲタク狩りでもオヤジ狩りでも援交狩りでも、この俺がボコしてやりますよ」
 愛原:「寒さのことを言ってるんだよ。昭和通りはそこまで危険地帯なのかい?」

 京浜東北線ホームは他のホームと比べて比較的空いていた。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の電車は、20時29分発、各駅停車、磯子行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 高橋:「1番前っスか?後ろっスか?」
 愛原:「いやいや。少し後ろの方に行って……」

 途中の車両で、優先席ではない連結器横の3人席がある。
 そこが丸々空いている所を狙うと……。

 愛原:「ほれ、ちょうど3人」
 高橋:「おお〜、さすが先生」
 愛原:「始発駅ならではだな。都営新宿線だと、なかなかこうは行かないよ」

 高橋の話だと、夕方以降は新宿駅始発の本八幡行きが無いらしい。
 橋本だの笹塚だのから来る電車ばかりだ。
 だったらもう岩本町駅から乗った方が良い。
 さすがにもう寒さに慣れた気になっているからな。

〔この電車は京浜東北線、各駅停車、磯子行きです〕
〔This is the Keihin-Tohoku line train for Isogo.〕

 愛原:「あ、リサ。さすがにここは暖房が入ってるから、もう手繋ぎはいいよ」

 冬の電車はお尻の下からジンジン温まるのが良い。

 リサ:「やー」

 リサはそう言って、今度は腕に手を絡めてきた。

 高橋:「おい、クソガキ。テメこのやろ、本来は俺のポジだぞ?あぁ?」
 愛原:「何でオマエのポジなんだよ?」
 高橋:「弟子として師匠のお体を温めるのもまた務めかと……」
 愛原:「無いわ!“大魔道師の弟子”ですら、そんなの無いわ!」

 今年は昨年末からの記憶喪失に悩まされ、高橋のゲイぶりに悩まされる年であったようだ。
 リサがロリ心をくすぐる……もとい、愛嬌を向けてくれることが幸いだったくらいかな。
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“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」 3

2018-12-28 10:19:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日18:15.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの同級生の斉藤絵恋さんが、実家でクリスマスパーティーをやるというのでお呼ばれした。
 もっとも、私を招待したのは絵恋さんの父親で製薬会社経営の斉藤秀樹社長であるようだ。

 斉藤絵恋:「これ、リサさんに……」

 クリスマスパーティーと言えばプレゼント交換。
 絵恋さんもまたリサにプレゼントを用意していたようだ。

 リサ:「ありがとう。これは私から」
 絵恋:「も、萌えぇぇぇっ!!」

 リビングとダイニングは繋がっている。
 リビングでプレゼント交換の様子を私達は微笑ましく見ていた。

 斉藤秀樹:「ささ、愛原さん。もう一杯どうぞ」
 愛原:「あ、こりゃどうも」
 秀樹:「あのコの面倒見は、上手く行ってらっしゃるようですな」
 愛原:「ええ。……え?」
 秀樹:「業界では裏話として有名ですよ。アメリカのは暴走して結局は施設ごと処分されたわけですが、こちらのはあのようにほぼ完璧であると」
 愛原:「社長……!」
 秀樹:「もちろん国家機密であることは承知しています。だからこそ、ここだけの話です。日本は非核三原則があるせいで、核兵器を持つことはできない。しかもウィルスなどの生物兵器もまた御法度である。しかし同じ生物兵器でも、それがウィルスではなく、本当の生物であればどうでしょう?……という考え方なのだろうと思いますね」
 愛原:「そんな映画みたいな話……」
 秀樹:「実際にあったのが、あの霧生市じゃありませんか」
 愛原:「まあ、そうですね……」
 秀樹:「あの町は福島の原発事故と同様、立入禁止区域に指定されていますが、愛原さんなら特別に立ち入りが許可されるかもしれませんよ?」
 高橋:「なにしれっと先生を危険地域に行かそうとしてるんだ、アンタは!」

 ビールのグラスを持った高橋が斉藤社長を睨みつけた。

 秀樹:「あ、いや、これは失礼。そんなつもりじゃないんだ」
 愛原:「まあ、私も今更行こうと思いませんがね」

 あれから2年くらいは経ったのかな?
 アメリカのラクーンシティやトールオークス市と違って、核爆弾で強制滅菌ということは無かった。
 そこが核保有国と非核保有国との違いだろう。
 今でも町は廃墟として残っているわけだが、福島と違うのは、区域を警備しているのが自衛隊であるということ。
 民間の警備会社にやらせている福島の原発事故とはワケが違うことを暗示している。
 2年経った今でも、生き残ったゾンビが徘徊しているかもしれないということだ。
 聞く所によると、今でもたまに発砲音が聞こえるのだとか。
 あそこは熊が出るほどの山奥の町であったが、熊の方がゾンビに食われる始末だ。

 秀樹:「愛原さんなら、またバイオハザード地帯でも生き残れそうですけどね」
 愛原:「いやー、もうお腹一杯ですよ。顕正号の時ですらいっぱいいっぱいで、記憶障害になってしまったくらいですから。所詮は私も一般人なんです。国連軍BSAAの猛者達のようには行きませんよ」

 正確に言えば国連軍ではないのだが、世間的には国連軍の一部門と説明されることがある。
 国連直轄組織であることに変わりは無い。

 高橋:「先生、この鶏肉美味いっスよ」
 愛原:「本当に七面鳥の丸焼きですね。私は初めてですよ」
 秀樹:「ハハハ、どうぞどうぞ。遠慮なさらず、召し上がってください。……絵恋、そっちにいないでお前も食べなさい!」
 絵恋:「はーい」

 絵恋さんとリサが来ると、彼女らも切り分けられた七面鳥を取った。

 絵恋:「お父さん、ケーキは!?」
 秀樹:「待ちなさい。ケーキは甘い物だから、デザートとして食べる。……とはいえ、そろそろ頃合いかな」
 愛原:「ですね」

 出前で取った寿司もあり、私は中トロを取りながら頷いた。

 秀樹:「そろそろケーキを持ってきてくれ」
 メイド:「はい、かしこまりました」

 それにしても、ふと思ったことなんだが……。
 斉藤家のクリスマスバーティーにしては、少し寂しいような気がした。
 何しろ、斉藤家は秀樹社長と絵恋さんしかいない。

 愛原:「あの、失礼ですが……」
 秀樹:「何でしょうか?」
 愛原:「できればリサの保護者として、奥様にも御挨拶したいのですが……」
 秀樹:「ああ。家内は仕事先の忘年会で、今日は遅くなります。向こうも向こうで、クリスマスパーティーという名の忘年会があるようでして」
 愛原:「そうなんですか」
 秀樹:「大丈夫です。今日は娘たっての希望で行われた臨時のクリスマスパーティーです。我が家のメインパーティーは明日ですよ」

 あ、なんだ。
 それは良かった。
 よくセレブの家にありがちな、両親は多忙でいつも家におらず、クリスマスも本当の意味でクリぼっちという話ではなかったか。

 秀樹:「愛原さん達はもう忘年会は済ませたのですか?」
 愛原:「逆に私達は明日やろうかと。うちの事務所の人間で」
 秀樹:「ああ、なるほど」

 高野君も誘って忘年会だな。
 取りあえず、店は予約しておいた。
 高橋君と高野君はウワバミだから、当然ながらアルコール飲み放題にしておかないとな。

 メイド:「お待たせ致しました」

 メイドさんがケーキを持って来る。
 ケーキ屋で買えそうな、普通のショートケーキのホールだ。
 恐らく明日は、もっと豪華なものが出て来るのだろうな。

 絵恋:「リサさん、リサさん!リサさん、ローソク消して」
 リサ:「いいの?」
 絵恋:「うんうん。私は明日もあるから」
 リサ:「なるほど」

 メイドさんがローソクに火を灯す。
 別に誕生日祝いではないので部屋の明かりを暗くする必要は無いのだが、何故かそういう演出がされた。

 愛原:「!」

 マズイな。
 暗闇の中でリサの目が赤くボウッと光っている。
 だがリサは、すぐにケーキの前に立ってローソクの明かりで誤魔化した。

 リサ:「フッ!」

 で、一息でローソクを消した。

 絵恋:「メリークリスマース!」

 粗方ご馳走を食べた後で、その掛け声は何か違和感がするのだが、何も水を差す必要もあるまい。

 高橋:「粗方ご馳走片付けた後で、その掛け声は違和感マックスだぜ?……ぎゃん!」
 愛原:「お前、ちょっと黙ってろ!」

 私の気遣いを高橋が台無しにしやがったので、丸めた新聞紙で後ろから引っ叩いてやった。

 秀樹:「どうです、愛原さん?ホールケーキはお久しぶりなのでは?」
 愛原:「そうですねぇ。なかなか1人でケーキは食べる機会が無いですからね。せいぜい、コンビニで1人分のヤツを買うくらいでしょうか」
 高橋:「俺は少年院以来……」
 愛原:「しゃらぁーっ!」

 スパーン!

 高橋:「ぶっ!」

 今こいつ、何か言ったよな。
 少年院でホールケーキが出るだと?
 全くもう!本当に日本は『加害者の人権が第一』だな!
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“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」 2

2018-12-27 19:28:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日17:27.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの友人の斉藤絵恋さんから、クリスマスパーティーにお呼ばれした。
 今は電車で現地に向かっているところである。

 高橋:「先生。もうそろそろですよ」
 愛原:「お……そうか」

 電車内では何もすることが無いので、ついボーッとしてしまった。
 電車がホームに滑り込む。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 ここで電車を降りた。
 で、ホームを吹き荒ぶ風に襲われる。

 愛原:「埼玉は寒いなぁ……」
 高橋:「先生。俺が温めてあげますよ」

 高橋がサラッと気持ちの悪いことを言って来たが、リサが私の手を握ってきた。

 リサ:「センセー、温かい?」

 BOWたるリサの体温は高く、まるでカイロを握っているかのようだ。

 愛原:「おおっ、温かい。温かいぞ、リサ」
 リサ:「ヘヘヘ……」
 高橋:「クソガキが……!」

 因みに当たり前のことだが、今のリサは完全に人間形態をしている。

 愛原:「それにしても、ウィルスの不活性化くらい俺にも分かるのに、善場さんも気を使ってくれるな」
 高橋:「先生をナメてるんですよ。ここは1つ、俺が……」
 愛原:「余計なことはするなよ?善場さんは国家権力の代行者だから、国家を敵に回すぞ?」
 高橋:「ちっ、サツの犬か……」
 愛原:「国家公務員だから、地方公務員の警察より怖いんだって」

 階段を下りて改札口を出る。
 各駅停車しか止まらない小さな駅の割に賑わっているのは、近くにさいたまスーパーアリーナがあるからだろう。
 何かクリスマスイベントが行われていても不思議ではない。
 しかし、私達の行き先はそれとは反対方向である。

 高橋:「先生、こっちですよ」
 愛原:「ああ」

 高橋はスマホを見ていた。
 ここから先はスマホの地図を頼りに行くしか無い。
 何故ならリサはこの前、車で行ったからだ。
 電車で行くのは初めてになる。
 ま、近くまで行けば分かるだろうが。

 愛原:「迷子にならないよう頼むよ?何しろ、東京より寒いからな」
 高橋:「任せてください」

 高橋はダウンジャケット、私はダウンコートを羽織っている。
 私は一応スーツを着て来たのだが、高橋は相変わらずラフな格好だ。
 誰かに“相棒”の右京さんと亀山みたいだと言われたことがある。
 私達は私立探偵であって、警察関係者ではないのだが。

 愛原:「リサは寒くないのか?」
 リサ:「ううん。全然。大丈夫」
 愛原:「そうか」

 リサも一応、ジャンパーを羽織ってはいるが、下半身はデニムのショートパンツに黒いソックスをはいているだけだ。
 つまり、ほとんど生足だということ。
 体温が高い為に、寒さを感じにくいのかもしれない。
 BOWの中には倒されると発火して消えてしまう者がいるが、総じて通常時の体温が高い者が多いという。
 倒されるということは、致命傷を食らうということだから、それで何か身体に体内のウィルスが作用して発火するのだろうな。
 すまないが、この辺は私にも分からない。
 善場氏に聞けば研究所に問い合わせてくれるのだろうが、何かまた分かりやすく説明する為に、誤解を受ける表現をされそうだ。
 ただ、その法則からすれば、リサももし倒されるようなことがあるとすれば、そういう死に様となる可能性は高いということだ。

 リサ:「もう少しくっつく?この方が温かいよ?」
 愛原:「そ、そうだな。ありがたいけど、怖いお兄さんが睨んでるから、このくらいでいいよ」
 高橋:「……!!」

 着く前にバッドエンドを迎えてしまう。

[同日17:45.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 さいたま市でも屈指の高級住宅街に、斉藤絵恋さんの実家はあった。

 リサ:「あっ、このお家だよ!」
 愛原:「ほお、凄いな。3階建てか」

 茶色のレンガの外壁が特徴だった。

 愛原:「高橋、ピンポンやってくれ」
 高橋:「ハイ」

 高橋は背負っていたリュックの中に手を入れると、中からラケットと……。

 愛原:「誰が卓球やれっつったよ!?」
 高橋:「えっ?ですが……」
 愛原:「そのピンポンじゃねーよ!」
 リサ:「お兄ちゃん、大ボケ」
 高橋:「あぁっ!?」

 リサが代わりにインターホンを押した。

 リサ:「愛原リサでーす!」

 インターホンのスピーカー越しにリサが言った。
 すると、中からバタバタという音が聞こえたかと思うと、ズデーンという何か転ぶ音が聞こえた。

 愛原:「んんっ!?」
 高橋:「これ、NGですか?」

 雲羽:『続けて!』(←カンペ)

 で、やっと玄関のドアが開く。

 メイド:「愛原様ですね?お待ちしておりました」
 愛原:「ど、どうも、こんばんは。あ、あの……さっき何か、大きな音が聞こえて来たんですけど、大丈夫ですか?」
 高橋:「事件でしたら、先生が解決しますよ?」
 メイド:「申し訳ございません。御嬢様が喜びのあまり、急いで玄関に向かわれたのですが、途中、滑って転んでしまわれまして……」
 斉藤絵恋:「ちょっと!廊下のワックス掛け過ぎよ!どうなってるのよ!?」
 執事:「申し訳ございません、御嬢様。どうか、御機嫌を……」

 ちょっとドジっ子な御嬢様なのかな???

 リサ:「サイトー、大丈夫?」
 絵恋:「な、なんのそのこれしき……ハハハ……!」

 ワックスでピカピカに磨かれた廊下と同様、ピカピカのおでこに絆創膏を絵恋さんは貼っていた。

 斉藤秀樹:「やあ、どうも。東京からわざわざ御苦労様です」
 愛原:「お招き頂いて、ありがとうございます。あ、こちらつまらないものですが……」

 私は手土産を渡した。

 秀樹:「銀座の風月堂ですか。あそこのお菓子は美味しいですよ。さすが愛原さん、目の付け所が違いますねぇ」
 愛原:「私のクライアントの国家公務員さん達も御用達にしているものらしいんですよ。すいません、この程度のセンスしか思いつかなくて……」
 秀樹:「いえいえ、とんでもない。ありがたく頂戴します。ささ、どうぞ。外は寒かったでしょう。もう間もなくパーティーの準備ができますから、どうぞあちらでお待ちください」

 私達は応接間へ案内された。

 秀樹:「あの球技大会以降、何か動きはありましたか?」
 愛原:「特に無いですね。多分、クライアントさん達で動いてはいるんでしょうけど。調査終了後については関知しないのが、探偵というものでして」
 秀樹:「それもそうですね」
 愛原:「それよりも大丈夫ですか?何か、御嬢さんが派手に転んだみたいですけど……」
 秀樹:「ああ、大丈夫です。娘のおでこは頑丈ですから」
 愛原:「はあ……」
コメント (2)
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