[8月30日07:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテルB1F エレーナの部屋]
ジリリリリリと枕元の目覚まし時計が鳴る。
クロ:「ニャ」
エレーナと一緒に布団に入っていた使い魔の黒猫、クロが前足を伸ばして目覚ましのアラームを止めた。
まだ起きない主人のエレーナの耳元でニャーニャー鳴く。
エレーナ:「うーん……。何よォ、クロ……。まだ7時じゃない」
クロ:「今日は宅急便の仕事があるニャ」
エレーナ:「今日は閉店……」
クロ:「ニャ!?」
再び布団を被って二度寝を決め込もうとする主人に対し、クロは……。
クロ:「
」
2段ベッドよりもっと上の位置にある通気口のダクトの上に上がる。
地下1階は機械室やボイラー室になっている為、その管理室でもあったエレーナの部屋の天井にはそういったパイプが張り巡らされている。
今は管理も自動化されている為、専門の技師の常駐は必要なくなり、空き室になっていた。
そこをエレーナの下宿先に転用したのである。
クロ:「フニャーッ!」
クロはダクトの上からエレーナの顔目掛けてダイブ!
エレーナ:「んぶっ!?」
それでびっくりして飛び起きた。
エレーナ:「あーもうっ!」
クロ:「ズル休みはダメニャ」
エレーナ:「生理休暇だっ、この!」
リリアンヌ:「……エレーナ先輩……それ、わらひ……」
エレーナ:「オマエは黙ってろ!」
リリアンヌ:「フヒッ!?は、はいっ!」
エレーナ:「しょうがない。起きるかー……」
下段に寝ているリリアンヌも、今の騒ぎで起きてしまったようだ。
リリアンヌ:「え、エレーナ先輩、今日は、わわ、私も……た、たた宅急便の仕事……」
エレーナ:「あー……。しょうがない。ついてきな」
リリアンヌ:「は、はい!」
[同日08:00.天候:晴 東京都江東区森下 ホテル近所のカフェ]
女将:「おや、エレーナちゃん。いらっしゃい」
エレーナ:「おはざーっす!」
リリアンヌ:「フヒヒ……。おはようございます……」
エレーナとリリアンヌはテーブル席に座った。
エレーナ:「私は目玉焼きのセットね」
リリアンヌ:「す、すすスクランブルエッグのセットで……」
女将:「はい、毎度。エレーナちゃんのお友達?」
女将がお冷やとおしぼりを持って来た。
で、ついでに注文するエレーナ達。
エレーナ:「後輩です」
リリアンヌ:「・・・・。・・・・・・・、・・・・・・・」
リリアンヌ、他人と話すことはとても苦手である。
そこはエレーナとは対照的。
緊張感のあまり、自動通訳魔法具の効能が止まり、フランス語が地で出てしまった。
エレーナ:「リリアンヌ。……すいません、通訳します。『おはようございます。私の名前はリリアンヌ。フランスのブルターニュ出身です』」
女将:「フランスから来たの?あのホテルも随分と国際的になったわねぇ……」
エレーナ:「日本政府のインバウンド政策の影響です(ということにしておこう)」
女将:「それじゃ、ちょっと待っててね」
女将がカウンターの向こうに行く。
エレーナ:「リリアンヌ。別に男じゃないんだから、そこまで緊張しない」
リリアンヌ:「ご、ごめんなさい……」
エレーナ:「宅急便の仕事は、顧客が男であることが多いのよ」
リリアンヌ:「フヒッ!?」
エレーナ:「何しろ、こちとら普通の宅急便が運ばないものを運んでいるからねぇ……」
リリアンヌ:「き、きき、今日はどこに行くですか?」
エレーナ:「まずは魔界。そこから荷物を受け取りに行く。それから人間界だな。ま、今日は私に付いてくればいい」
リリアンヌ:「は、はいーっ!」
[同日09:00.天候:晴 再びワンスターホテル]
エレーナ:「オーナー、今日はこのまま魔界に行ってきますんで」
オーナー:「そう?鈴木君に挨拶はいいのかい?」
エレーナ:「あいつのことだから、また来るでしょう」
チーン!
エレーナ:「ん?」
チーン!チーン!チーン!
リリアンヌ:「フヒッ!?な、何の音ですか?」
オーナー:「エレベーターから聞こえるぞ!?」
すると、エレベーターのドアが開いた。
鈴木:「このエレベーター、喋らせるよりベル鳴らした方がいいですよ」
Ω\ζ°)チーン
エレーナ:「アンタ、何やってんの!」
鈴木は鈴(りん)を持ち、それをチンチン叩いて鳴らしていた。
鈴木:「いやあ、勤行が思いの外盛り上がっちゃって……」
エレーナ:「そんなもの持ち込んで!」
Ω\ζ°)チーン
鈴木:「顕正会員はこんなもの持ってるの殆どいなかったから、もう珍しくて……」
オーナー:「ダメですよ。仏具をオモチャにしちゃ」
エレーナ:「そうよ。どうせなら、これをオモチャにしなさい」
エレーナはローブの中から落書きされた十字架を取り出した。
鈴木:「いや〜、そんなもの触りたくないなぁ。謗法、罪障……」
鈴木は汚物を見るような目で十字架を見た。
オーナー:「良かったじゃないか、エレーナ。少なくとも鈴木さんは、キリスト教会側に回ることはない」
エレーナ:「まあ、そうですね」
鈴木:「あ、オーナー。そろそろチェックアウトを……」
オーナー:「ありがとうございます。それでは御精算の方を……」
オーナーはフロントの上のPCのキーボードを叩いた。
オーナー:「それでは有料チャンネルご利用のようですので、こちらの料金が……」
エレーナ:「え?なに?エロいの見たの?JK?人妻?ブルマ?スク水?青姦?」
鈴木:「ち、違うよ!……強いて言えばロリかな?」
鈴木はリリアンヌを見た。
リリアンヌ:「フヒッ!?」
背筋に寒気を感じたリリアンヌ、慌ててエレーナの後ろに隠れる。
オーナー:「あー、劇場版アニメを御覧になったんですね。ありがとうございます」
鈴木:「『魔女っ娘全員集合!』」
ガッツポーズを取る鈴木。
エレーナ:(リリィにプリキュアのコスプレさせてコイツの前に出したら、さぞ悶絶するだろうなぁ……)