[6月22日17:45.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
運転手:「こちらでよろしいですか?」
稲生:「はい、お願いします」
東京駅からタクシーでワンスターホテルに向かった稲生とマリア。
都内のタクシーは、殆どがクレカが使えるようになっている。
稲生:「カードで払います」
運転手:「はい、ありがとうございます。では、暗証番号をお願いします」
稲生がイリーナのカードでタクシー料金を払っている間、マリアが先に降りる。
マリア:「エレーナのヤツ、どういうつもりだ……」
運転手:「ありがとうございました」
稲生:「どうも」
後から領収証と控えを手にした稲生が降りて来る。
稲生:「じゃあ、行きましょうか」
マリア:「うん」
2人はホテルの中に入った。
女将:「いらっしゃいませー。2名様ですね。どうぞ、こちらに」
フロントにはビジネスホテルには似つかわしくない、着物を着た40代の女性がいた。
旅館の女将としてなら、何の違和感も無いのだが。
女将:「本日はどのような御予約でございましょう?」
稲生:「あ、あの、今日から一泊で予約している稲生です。こちらが先日、エレーナが送ってくれた宿泊券で……」
作者より年上ながら美人女将と言って差し支えない容姿の女将は、手に京扇子を持っている。
稲生はそんな美人女将に緊張しながら、宿泊券を差し出した。
もちろん、そんな稲生の心境をマリアはしっかり見抜いている。
女将:「あーら!エレーナのお知り合いでしたか!」
稲生:「そうなんです。あの……」
女将:「私、このホテルのオーナーの妻です。オーナーは今、所用で出掛けておりまして……。それで私が今、代理を務めさせて頂いております」
稲生:「そ、そうでしたか」
女将:「本日は、どういったお部屋に致しましょう?」
稲生:「シングル2部屋で予約していたと思いますが……」
女将:「この券ですと、スタンダードシングル2部屋のみでございますのよ?今でしたら、一部屋につき、プラス550円ずつでデラックスシングルにグレードアップすることができます。如何でございましょう?」
稲生:「あ、はい。それでお願いします」
女将:「ありがとうございます」
稲生が自分の財布の中から、マリアの分の追加料金も払っておいた。
稲生:(さすがに追加料金分は、先生に請求が行かないようにしないと……)
女将:「それでは、こちらがお部屋の鍵でございます」
稲生:「ありがとうございます。因みにエレーナはいますか?」
女将:「エレーナは今、『魔女の宅急便』の仕事をしておりますのよ。戻り次第、お伝えしましょうか?」
稲生:「そうですね。そうして頂けますか」
女将:「かしこまりました」
稲生:「レストランは開いてますか?」
女将:「はい。ただ、時短営業を行っておりまして、店内ご利用は20時までとなっております。お時間にご注意くださいね」
稲生:「分かりました。朝食はどうですか?」
女将:「朝食は通常通りでございます」
稲生:「分かりました。それじゃマリア、先に荷物置いてこよう」
マリア:「荷物があるのは勇太だけだろう?」
稲生:「それもそうか。取りあえず、一旦部屋に行こう」
マリア:「それはそうだ」
稲生達はエレベーターに向かった。
小さなホテルなので、エレベーターも6人乗りの小さな物が1基あるだけである。
インジゲーターとボタンには地下1階もあるのだが、そこは表向きには機械室になっていて、その一画にはエレーナの部屋がある。
エレベーターを呼んだ時、インジゲーターの表示は地下1階になっていた。
尚、当然ながら地下は関係者以外立入禁止になっているので、客がボタンを押しても反応しないようになっている。
稲生:「5階ですね」
マリア:「うん」
エレベーターのドアが閉まり、上に向かって動き出す。
稲生:「オーナーの奥さん、初めて見たような気がする」
マリア:「夫婦経営だとは聞いているから、いること自体はおかしくは無いけどね」
稲生:「普段は事務とか掃除とか、そういう裏方の仕事をしているって聞いたからね」
オーナーは不在ということだし、エレーナも魔女宅の仕事をしているとあらば、女将が接客をしなければならないということか。
稲生:「それじゃ、荷物を置いたらすぐに行こう」
マリア:「確かにお腹空いたね」
エレベーターを降りて少し廊下を行った先の部屋が割り当てられていた。
部屋は隣同士である。
稲生:「それじゃまた」
マリア:「行く時、また連絡して」
稲生:「分かった」
今度はカードキーではなく、普通の鍵である。
オートロック式のドアを開けると、部屋の造りはオーソドックスだった。
部屋の広さは、東横インと大して変わらない。
ベッドの広さは東横インがシングルの部屋ながらダブルだったのに対し、こちらはセミダブルだった。
稲生:「よしよし。それじゃ、行こうかな」
稲生は室内の電話で、隣の部屋に掛けた。
そしてマリアと合流すると、レストランに向かった。
[同日18:30.天候:晴 同場所 レストラン“マジックスター”]
レストランはホテルに隣接したテナントである。
ホテルとは建物が1階で繋がっていて、宿泊客はそこから出入りできる。
名前の通り、ダンテ一門の魔道師が経営するレストランだった。
表向きには創作料理店であるが、実際は魔法薬を使用した薬膳である。
魔法薬にも使われるハーブなどの薬草をふんだんに使った料理が特徴だった。
キャサリン:「ああ、女将さんね。最近、華道とか茶道を始めたみたいで、それで着物着て接客するようになったみたいよ」
経営者でエレーナの先輩でもあるキャサリンが、ホテルの女将のことについて話した。
店員は漆黒の髪に浅黒い肌をした、一見して中東系アラブ人女性のように見えるが、正体はキャサリンの使い魔であるカラスが擬人化したものである。
稲生:「なるほど」
尚、キャサリンにアメリカ人形メリーがマリアに見せた画像を見せたが、やっぱり2階建て木造校舎がどこの学校だかは分からないという。
キャサリン:「私よりも、宅急便の仕事で全国を飛び回っているエレーナの方が詳しいんじゃない?」
稲生:「やっぱりですか……」
マリア:「ったく、あの野郎、どこをほっつき歩いてるんだか!」
稲生:「あ、あの、読者の皆さん、マリアは日本語表記だと少し口が悪いですけど、英語では至って普通ですから」
マリア:「誰に向かって言ってるの?」
キャサリン:「普通、逆なんだけどね。英語の方が実際は口が悪いんだけど、日本語訳する時はあえてマイルドにするとか……。映画やゲームでは」
稲生:「1927年頃、木造2階建て校舎の学校に寄贈されたジェシー人形か……」
稲生の記憶に、何か靄が掛かっている感じがした。
今のフレーズに何か聞き覚えがある。
しかし、記憶がはっきりしない。
稲生:「せめてエレーナが知っていてくれるといいんだけど……」
運転手:「こちらでよろしいですか?」
稲生:「はい、お願いします」
東京駅からタクシーでワンスターホテルに向かった稲生とマリア。
都内のタクシーは、殆どがクレカが使えるようになっている。
稲生:「カードで払います」
運転手:「はい、ありがとうございます。では、暗証番号をお願いします」
稲生がイリーナのカードでタクシー料金を払っている間、マリアが先に降りる。
マリア:「エレーナのヤツ、どういうつもりだ……」
運転手:「ありがとうございました」
稲生:「どうも」
後から領収証と控えを手にした稲生が降りて来る。
稲生:「じゃあ、行きましょうか」
マリア:「うん」
2人はホテルの中に入った。
女将:「いらっしゃいませー。2名様ですね。どうぞ、こちらに」
フロントにはビジネスホテルには似つかわしくない、着物を着た40代の女性がいた。
旅館の女将としてなら、何の違和感も無いのだが。
女将:「本日はどのような御予約でございましょう?」
稲生:「あ、あの、今日から一泊で予約している稲生です。こちらが先日、エレーナが送ってくれた宿泊券で……」
稲生はそんな美人女将に緊張しながら、宿泊券を差し出した。
もちろん、そんな稲生の心境をマリアはしっかり見抜いている。
女将:「あーら!エレーナのお知り合いでしたか!」
稲生:「そうなんです。あの……」
女将:「私、このホテルのオーナーの妻です。オーナーは今、所用で出掛けておりまして……。それで私が今、代理を務めさせて頂いております」
稲生:「そ、そうでしたか」
女将:「本日は、どういったお部屋に致しましょう?」
稲生:「シングル2部屋で予約していたと思いますが……」
女将:「この券ですと、スタンダードシングル2部屋のみでございますのよ?今でしたら、一部屋につき、プラス550円ずつでデラックスシングルにグレードアップすることができます。如何でございましょう?」
稲生:「あ、はい。それでお願いします」
女将:「ありがとうございます」
稲生が自分の財布の中から、マリアの分の追加料金も払っておいた。
稲生:(さすがに追加料金分は、先生に請求が行かないようにしないと……)
女将:「それでは、こちらがお部屋の鍵でございます」
稲生:「ありがとうございます。因みにエレーナはいますか?」
女将:「エレーナは今、『魔女の宅急便』の仕事をしておりますのよ。戻り次第、お伝えしましょうか?」
稲生:「そうですね。そうして頂けますか」
女将:「かしこまりました」
稲生:「レストランは開いてますか?」
女将:「はい。ただ、時短営業を行っておりまして、店内ご利用は20時までとなっております。お時間にご注意くださいね」
稲生:「分かりました。朝食はどうですか?」
女将:「朝食は通常通りでございます」
稲生:「分かりました。それじゃマリア、先に荷物置いてこよう」
マリア:「荷物があるのは勇太だけだろう?」
稲生:「それもそうか。取りあえず、一旦部屋に行こう」
マリア:「それはそうだ」
稲生達はエレベーターに向かった。
小さなホテルなので、エレベーターも6人乗りの小さな物が1基あるだけである。
インジゲーターとボタンには地下1階もあるのだが、そこは表向きには機械室になっていて、その一画にはエレーナの部屋がある。
エレベーターを呼んだ時、インジゲーターの表示は地下1階になっていた。
尚、当然ながら地下は関係者以外立入禁止になっているので、客がボタンを押しても反応しないようになっている。
稲生:「5階ですね」
マリア:「うん」
エレベーターのドアが閉まり、上に向かって動き出す。
稲生:「オーナーの奥さん、初めて見たような気がする」
マリア:「夫婦経営だとは聞いているから、いること自体はおかしくは無いけどね」
稲生:「普段は事務とか掃除とか、そういう裏方の仕事をしているって聞いたからね」
オーナーは不在ということだし、エレーナも魔女宅の仕事をしているとあらば、女将が接客をしなければならないということか。
稲生:「それじゃ、荷物を置いたらすぐに行こう」
マリア:「確かにお腹空いたね」
エレベーターを降りて少し廊下を行った先の部屋が割り当てられていた。
部屋は隣同士である。
稲生:「それじゃまた」
マリア:「行く時、また連絡して」
稲生:「分かった」
今度はカードキーではなく、普通の鍵である。
オートロック式のドアを開けると、部屋の造りはオーソドックスだった。
部屋の広さは、東横インと大して変わらない。
ベッドの広さは東横インがシングルの部屋ながらダブルだったのに対し、こちらはセミダブルだった。
稲生:「よしよし。それじゃ、行こうかな」
稲生は室内の電話で、隣の部屋に掛けた。
そしてマリアと合流すると、レストランに向かった。
[同日18:30.天候:晴 同場所 レストラン“マジックスター”]
レストランはホテルに隣接したテナントである。
ホテルとは建物が1階で繋がっていて、宿泊客はそこから出入りできる。
名前の通り、ダンテ一門の魔道師が経営するレストランだった。
表向きには創作料理店であるが、実際は魔法薬を使用した薬膳である。
魔法薬にも使われるハーブなどの薬草をふんだんに使った料理が特徴だった。
キャサリン:「ああ、女将さんね。最近、華道とか茶道を始めたみたいで、それで着物着て接客するようになったみたいよ」
経営者でエレーナの先輩でもあるキャサリンが、ホテルの女将のことについて話した。
店員は漆黒の髪に浅黒い肌をした、一見して中東系アラブ人女性のように見えるが、正体はキャサリンの使い魔であるカラスが擬人化したものである。
稲生:「なるほど」
尚、キャサリンにアメリカ人形メリーがマリアに見せた画像を見せたが、やっぱり2階建て木造校舎がどこの学校だかは分からないという。
キャサリン:「私よりも、宅急便の仕事で全国を飛び回っているエレーナの方が詳しいんじゃない?」
稲生:「やっぱりですか……」
マリア:「ったく、あの野郎、どこをほっつき歩いてるんだか!」
稲生:「あ、あの、読者の皆さん、マリアは日本語表記だと少し口が悪いですけど、英語では至って普通ですから」
マリア:「誰に向かって言ってるの?」
キャサリン:「普通、逆なんだけどね。英語の方が実際は口が悪いんだけど、日本語訳する時はあえてマイルドにするとか……。映画やゲームでは」
稲生:「1927年頃、木造2階建て校舎の学校に寄贈されたジェシー人形か……」
稲生の記憶に、何か靄が掛かっている感じがした。
今のフレーズに何か聞き覚えがある。
しかし、記憶がはっきりしない。
稲生:「せめてエレーナが知っていてくれるといいんだけど……」